2025年1月に発表されるや否や5万台もの注文が殺到し、わずか4日間で受注停止状態(2026年1月30日から再開見込み)となったスズキ「ジムニーノマド」。予定されていたであろうメディア試乗会や広報車の用意もなくなり、その実態(?)は謎に包まれたままでした。あれから半年、オートナビガイドでも活躍しているフリーエディター・高橋 満さんのノマドが納車されたという一報が入りました。軽のジムニーから買い替えた高橋さんの緊急試乗レポートをお届けしましょう。
軽のジムニーからノマドへ、どちらもMT

1年半待って納車された最初のジムニー(写真:高橋 満)
「子供もだいぶ手がかからなくなったし、遊べる車が欲しいな」。そんなことを考えて私は2022年4月に軽自動車のスズキ「ジムニー」のMT車をオーダー。2023年10月に晴れて納車となった。この時、それまで乗っていたフィアット 500Cは手放さずにいたのだが、1年ほど2台持ち生活を送って「そろそろ車を1台に減らしてもいいかな」と考えていた。
発表に先駆けて2024年12月にメディア向けのジムニーノマド事前撮影会が行われた。この時点でスズキの関係者はノマドがこれほどのヒットになるとは予想していなかったようだと編集長の馬弓は証言する(写真:スズキ)
*編集部が参加したジムニーノマドの事前撮影会の様子はこちらのYouTubeから
その矢先に届いた「ジムニーノマド」発売のニュース(2025年1月30日発表)。「これだ!」と思い、発表と同時に販売店に直行し「シズリングレッドメタリック ブラック2トーンルーフ」のMT車をオーダー。そして10ヶ月近く経った11月中旬にようやく納車と相成った。

本稿執筆時点ではまだ納車されてから10日ほどしか経っていないが、軽自動車のジムニーとジムニーシエラのホイールベースを340mm伸長したジムニーノマドでは、後席の居住性以外にもさまざまな違いがあることがわかってきた。その部分を紐解いていこう。
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前に出なくて真っ直ぐ走らなかった軽のジムニー、それも良さ?

浜松のスズキ本社を表敬訪問(?)した際の1枚。80km/h以上での直進性のモンダイもあって高速道路ではもっぱら左車線を走っていた(写真:高橋 満)
ジムニーは軽自動車でありながら、世界の名だたるクロカンSUVに負けない悪路走破性が与えられたモデル。これを実現するために一般的な乗用車とは異なる機構が与えられている。有名なところではラダーフレーム、FRベースのパートタイム式4WDと機械式副変速機、3リンクリジッドアクスル式サスペンションがあるが、ほかにも1速と2速が超ローギヤードなトランスミッションやボールナット式のステアリング機構などがある。
そのため、乗り味はかなり独特だ。軽のジムニーが納車されてまず驚いたのは発進時にとくにかく前に出ないこと。クラッチをつないでアクセルを踏み込んでも1速だと10〜20km/h程度しか出ず、とにかく3速までパパパっと変速していかないと道の流れに乗ることができない。だからジムニーのMT車に乗っている人は街中では2速発進をしている人も多い。
パートタイム式4WDにリジットのサスペンションという悪路を走るためのメカニズムがジムニーらしさを生んでいた
ボールナット式ステアリングは凹凸が激しい悪路を走った際のキックバックが伝わりにくいというメリットがあるが、ステアリングの中立性や操舵感は主流のラックアンドピニオン式に比べるとどうしても劣ってしまう。ジムニーで高速道路を走ると80km/hくらいまでは普通に走れるものの、それ以上のスピードになると常に細かい修正を行なうことになる。これがなかなかしんどくて、高速走行時は基本的に一番左の車線をゆっくり走っていた。
シフトチェンジや走行中にプロペラシャフトが回る音も独特で、ジムニーに乗るたびに「悪路を走るための機械」を動かしていることを実感していた。
ノマドは自然に周囲の加速に合わせられる!

ジムニーノマドも車体構造は基本的にジムニーと同じだ。しかし、ジムニーの「機械を動かしている」という感覚はかなり抑えられていることに驚いた。発進時は停止状態からシフトを動かすたびにスムーズに加速。自然に周囲の車の加速スピードに合わせていける。車重は約120kg増えているものの、エンジンが1.5Lになったことでパワーが64PSから102PSへアップ、トルクも96Nmから130Nmへと太くなっていることが走りの余裕に貢献している。
1.5Lエンジンの余裕はやはり大きかった
そしてギア比の違いも大きい。MTの変速比はジムニーが1速5.809、2速3.433なのに対し、ジムニーノマドは1速4.425、2速2.304。5速は双方とも1.000なので、ノマドは1~4速のギアがハイギヤードかつクロスした設定となっている(ジムニーが一般のクルマに比べて著しくローギヤードでギア間が離れていると表現した方がいいかもしれない)。
副変速機をHi側にした場合、最終減速比やタイヤ外径差も加味して計算するとジムニーは1速4000回転で約19km/hに過ぎないのに対して、ノマドは約29km/hとなる。2速4000回転でもジムニー35km/h、ノマド55km/hとその差は非常に大きい。ジムニーが前に出ないはずである。高速道路での余裕につながる100km/hのエンジン回転数を計算するとジムニーが5速3895回転に対してノマドは3131回転(これでも一般的には高いが)にとどまっている。なおノマドの数値は最終減速比が少し高い(=ローギヤード)こと以外はシエラと同じだ。参考までにシエラの100km/hのエンジン回転数は5速約2850回転となる。

レバー式に戻った副変速機は悪路走行で威力を発揮する。MT車はシフトレバーから伝わる振動にも機械感がある(写真:高橋 満)
ちなみに副変速機を悪路走行用のLow側にした場合、ジムニーは1速4000回転で約9.4km/h、ノマドは14.4km/hとなる。ジムニーほどではないがノマドも副変速機のおかげで十分な悪路走破性を持っていることがわかる。ただ、最大トルクを発揮するジムニー3500回転、ノマド4000回転時の速度はLow1速でジムニー8.3 km/h、ノマド14.4 km/hである。Low2速でもジムニー15.4 km/h、ノマド27.7 km/hと絶対値ではそれなりに差があるので、やはり未舗装路などでの走破性を重視するなら、後述する最小回転半径の件もあるのでジムニーが合っているだろう。
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100km/hの巡航が苦にならないノマドの直進性

80km/h以上で走るとかなり疲れていた高速道路の走行も、ステアリングの中立性が格段に高くなっているので周囲の車に合わせて100km/h巡航するのが苦にならない。この部分はジムニーシエラ以上に良くなっている。ジムニーシエラよりもホイールベースが延長され、80kg重くなった車体に合わせてセッティングされたサスペンションが効いているのだろう。私は車を毎日運転する訳ではないが、運転時は比較的長距離を走らせることが多いので、この進化はとてもありがたい。
クロスオーバーSUVに劣る部分はあるけれど

タフギア感溢れるインパネ周りは共通(写真:高橋 満)
勘違いしてほしくないのは、この評価はあくまで「軽自動車のジムニーと比べて」ということだ。特に高速走行時の安定性はジムニーノマドでも常にステアリングの修正が必要。それがジムニーよりも小さくて済むという感じであることは添えておきたい。走行時の静粛性もジムニーより静かではあるが、ジムニーらしい音は聞こえてくる。快適性が向上しているとはいえ、「悪路を走るための機械」を動かしているという感覚は残っている。

ファミリーでも楽しめるジムニーがノマド(写真:高橋 満)
5ドアになったことでジムニーやジムニーシエラを選ぶことができなかった多くのファミリーユーザーがジムニーノマドに注目しているのは明らかだが、もし家族で超快適にロングドライブを楽しめるコンパクトSUVを探しているのであれば、同じスズキの「クロスビー」やトヨタ「ヤリスクロス」などのクロスオーバーSUVを勧めたい。逆に本格的な性能を持ちつつファミリーでも楽しめるクルマが欲しいという人には、ジムニーノマドは最良の選択肢になるはずだ。
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ジムニーで多くのユーザーが不満に思っていた部分が解消?

まだ短い時間だが、ジムニーノマドに乗って「おっ!」と思ったことがある。それは半ドアになりにくいこと。ジムニーはエンジンを縦置きにしたFRベースなので、どうしてもボンネットが長くなる。しかしサイズは軽自動車枠に収めなければならないから必然的に車内空間が狭くなってしまう。一方で気密性は歴代のジムニーよりも向上していて、しかも3ドアなので他の軽自動車よりもドアが大きいため、ドアを普通に閉めると半ドアになってしまうことがあるのだ。もちろんドアを思い切り閉めれば問題ないのだが、半ドア問題をストレスに感じているユーザーが少なからずいる。この現象はボディが軽自動車と同じジムニーシエラにも現れる。
ジムニーノマドは室内空間が広く、しかも5ドア化によりフロンドドアがジムニーよりも小さくなっているため今のところ半ドア問題が気になっておらず、ストレスがかなり軽減されている。
小回りの効かなさ具合と段差のある荷室はやや不便

逆にまだ慣れないのがジムニーノマドの小回り性能。ジムニーの最小回転半径は4.8mとかなり小さく、裏路地を走っている際にステアリングを切ると時に途中でステアリングを戻さなければいけないほどよく曲がっていく。一方でジムニーノマドの最小回転半径は5.7m。同じタイヤを履くシエラが4.9mだからホイールベースを伸ばしたことで相当悪化している。数値自体はトヨタ 「RAV4」のアドベンチャーや「ハリアー」のZと同じ。街中で困るほど小回りが利かないわけではないのだが、全長3890mm、全幅1645mmとボディがかなり小さいので、ギャップに戸惑うことがあった。
私は街中で不便さを感じたが、林道などに入っていく人は、山中の急カーブで困ることがあるかもしれない。これは慣れの問題だと思うが、思ったよりも小回りができないことは事前に頭に入れておいたほうがいいだろう。

最小限の拡大にとどめたとするリアシートは十分実用的だ(写真:高橋 満)

リアシートのみならず荷室スペースも拡大された(写真:高橋 満)

ゴルフバッグも縦積みならすんなり収まる(写真:高橋 満)

リアシートの快適性とのバーターで格納時の段差は大きい(写真:高橋 満)

3ドアのジムニーは後席格納時に荷室がフラットになる(写真:スズキ)
もうひとつ不便さを感じているのが荷室。ジムニーは後席を格納するとフラットな荷室が現れるが、ジムニーノマドは後席の快適性を高めるために座面や背もたれを厚くしているため、後席格納時に荷室がフラットにならず結構大きな段差ができてしまう。これは注文時からわかっていたことだが、実際に使ってみると思っていた以上に段差が邪魔になることが多い。スズキはディーラーオプションでこの段差を解消するラゲッジボックス(2万9700円)を用意している。実際に車を使って不便だったらラゲッジボックスを導入しようと思っていたが、導入は案外早いかもしれない。
長い付き合いができそうなノマド

写真:高橋 満
私はジムニーノマドを注文した際、軽自動車のジムニーを手放した。理由はちょうどオーダーしたタイミングが1年でもっとも買取価格が上がる時期だったから。ジムニーノマドの納車が11月中旬なので、9ヵ月半ほどジムニーが手元になかったことになる。屈強なオフローダーであるジムニーは乗っていて楽しいモデルだが、その性能ゆえに大変な部分もある。一方でジムニーノマドはジムニーならではのタフさ、そして機械を操っているという楽しさがありながら、その部分がマイルドになっていることで日常使いでの楽さも持ち合わせている。そのバランスをとても心地よく、長い付き合いができそうなモデルだと感じている。
(特記以外の写真:編集部)
※記事の内容は2025年11月時点の情報で制作しています。
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