2025年9月に発売された新型ホンダ「プレリュード」(617万9800円)の公道試乗会が静岡県の御殿場をベースに開催されました。24年の時を経て復活した6代目プレリュードの走りの実力を自動車評論家の島﨑七生人さんが試します。
今どきBEVでもSUVでもなくスポーツクーペ
開発責任者の山上さん(左)とチーフエンジニアの齋藤智史さん
試乗会場でせっかく開発責任者の山上智行さんにお目にかかっておきながら、「当然タイプRもあるのですよね?」と向けて、氏の表情が何mmくらい変化するか確かめてこなかったのは迂闊だった。とはいえホンダが24年ぶりにプレリュードを復活させたこと自体に“熱量”を感じないわけにはいかない。今どきBEVでもSUVでもなく、ハイブリッドを手段に使いながらも登場させたのはスポーツクーペなのである。レポーターの僕個人は決して手に汗を握り限界を攻めるタイプではなく、どちらかというとマイルド系(!?)ドライバーだと自覚している。ところが新型プレリュードに晴れて公道で試乗でき、クルマから降りると、爽快な走りの後味を振り返って、きわめて好意的な視線をプレリュードに向けている自分がいた。
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どのハイブリッド系のモデルとも一線を画す、手応えの大きい走り
聞こえがよくないが「騙された」と思った。新型プレリュードのパワートレインとして搭載するのは、2ℓ・直列4気筒エンジン(104kW/182N・m)に2モーター(135kW/315N・m)+CVTとバッテリーパックを組み合わせた、基本はシビックでも使われるホンダ独自のe:HEV。つまり走りのほとんどをモーターでやっていることになる。が、これまでに経験したどのハイブリッド系のモデルとも一線を画す、手応えの大きい走りを実現している点が何といっても最大の魅力だ。
とにかくいいのは、まるでパワーコントロールが自在なICE(インターナル・コンバッション・エンジン=内燃機関)車を走らせているような実感を味わわせてくれる点。
実は今回の試乗では、素直に案内された推奨試乗ルートを走った(通常は自分で細々とした撮影もするため、時間が押すので、たいていルートは端折る)。そのルートは新東名、国道1号線、芦ノ湖スカイラインと、グルッと1周してくればひととおりの走行パターンが試せる設定になっており、なるほどそこを1周にてくると、新型プレリュードの実力が全方位的に理解できる……という仕掛けなのだった。
巧みなシフトアップやシフトダウンには舌を巻く
要となっているのはe:HEVに組み合わせられた新技術の“Honda S+ Shift”。これは走行中の加減速時に仮想の8段変速のエンジン回転制御を加え、“あたかも有段変速機があるかのようなダイレクトな駆動レスポンスと鋭いシフトフィールを実現(以上、ホンダのニュースリリースより)”するというもの。前段のほうで「騙された」と書いたのはまさにそこで、ワインディング路をアクセルワークだけで走っていてもシフトアップやシフトダウン(中吹かしまで披露してくれる)を、ドライバーよりもずっと巧みに(!)やってくれるのには舌を巻く。
ドライブモードにはSPORT/GT/COMFORTの3パターンが用意され、コンソールの“S+”ボタンを押すと、それぞれの特性が一層際立つ走りに切り替わる。ちなみにパワートレイン、ステアリング、サスペンションの特性のみならず、演出として入るエンジンサウンド、メーターなどもモードごとに切り替わるところも心憎いというべきか。以前インタビューさせていただいた開発者の1人、齋藤智史さんがご自身で乗るなら6〜7割はGT、奥様を乗せているときはCOMFORTと話をされていたが、確かにエンジン回転が抑えられたCOMFORTの快適性は捨てがたくもあるが、GTのまま、時にはS+ Shiftボタンを押しても、腕の立つドライバーのスムースな走りの世界観が保たれている……と思う。走行中の静粛性もまったく問題なく、高速道路でアクセルを踏み込みさらに加速しようとすると、直結となったエンジンのメカニカルな音と振動が微かに増して伝わるのがわかる。
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常にクルマの挙動、姿勢変化に安定感がある
スムースといえば、足回り、ハンドリングも同様。今回、箱根のワインディング路を巡って実感したのは、場面を問わず4輪の接地バランスが優れていて、常にクルマの挙動、姿勢変化に安定感があるところがよかった。これは基本となるボディを始め、サスペンション各部の剛性がしっかりしていることのおかげ。加えて、アジャイルハンドリングアシスト(旋回中ブレーキでも制御が作動する)、ストローク感のあるアダプティブダンパーといった各機能の働きがさり気なく効力を発揮しているためでもある。
パワーコントロール同様、走行中のライントレース性が優れているのは安心感が高く、ロールの抑え方も自然で、それでいてしなやかで粗さのまったくない乗り心地も、あえて言えば素晴らしい。忘れかけていたクルマを操る楽しさ、気持ちのいい走りを思い出させてくれるもので、いかにもホンダらしいと思わせられる。
2人分の旅行バッグを載せてどこか遠くまでドライブを
それとスリークで伸びやかなスタイリングもなかなかの魅力を放っている。いかにもなキャラクター線を廃し、ボディパネル面の張りで形を見せているところがよく、細かなところではルーフモールの廃止、ガラスプリントアンテナの採用、フラッシュサーフェス化されたドアハンドルも全体のシンプルでスッキリした佇まいに一役買っている。
伸びやかな傾斜のキャビン後方の造形、とボリューム感のあるリヤフェンダーとの組み合わせ、高い位置に置かれた真一文字のリヤガーニッシュと切れ上がったリアバンパー下部の黒塗りのディヒューザー部分が織りなす造形も小気味いい。個人的にはリア7:3〜6:4あたりの角度を、立った目線の高さで眺めるのがいいと思った。
歴代プレリュードの中で初採用のリアハッチは、開けてみると天を仰ぐような広大な開口部が現れ、日常的なスーパーへの買い物に使うのもいいけれど、たまにはここに2人分の旅行バッグを載せてどこか遠くまでドライブを楽しみなさい……とプレリュードに言われているような気もした。
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電動パワーシートもぜひ!
運転席に収まって見渡すと、フロントフェンダーの左右の盛り上がりがほどよく目に入り、着座位置は低いがアコードなどと同様の取り回しのいい視覚的情報が手に入る。ハイバックシートも圧迫感がなく、それでいて走行中に身体をしっかりとホールドしてくれる。
直線基調のインパネは、試乗時に同乗の馬弓編集長には少し味気なく感じる印象もあったようだが、僕には、ありがちな左右席で世界観を違えたような凝った非対称デザインなどではない分、すっきりと心地よく思えた。ひとつだけ注文があるとすれば、プレリュードほどのクルマだから、左右席ともぜひ電動パワーシート(ヒーターは備わるのでもうひと息、ベンチレーションも!)も欲しいということくらいか。
(写真:編集部)
※記事の内容は2025年10月時点の情報で制作しています。
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