トヨタのベストセラー・コンパクト「ヤリス」(209万8800円〜248万9300円)が2024年1月にマイナーチェンジを受けました。売れているクルマだけに変更点は少なめというプレスリリースの内容とは裏腹に、その走りは別物だったという岡崎五朗さんの試乗記をお届けしましょう。
4年から6年、8年へとモデルライフは長くなってきている
かつて日本車のモデルライフは基本4年だった。それが現在では6年、車種によっては8年以上と、海外メーカーと同等になってきている。背景にあるのは2回目車検が4年目から5年目に伸びたこと、ユーザーの買い換えサイクルが長くなっていること、燃費基準や衝突安全基準など年々厳しくなる法規をクリアするために巨額の開発コストがかかること、モデル数の増加に開発エンジニアの手が回らなくなってきていることなど、様々な理由がある。
クルマ好きとしては、4年ごとのモデルチェンジも楽しかったなぁとも感じるが、モデルライフの長期化は思わぬ利点も生みだした。かつて4年サイクルだったときのマイナーチェンジは、新色の追加やシート地の変更といった化粧直しが中心だった。ところが最近は走りにまつわる部分にまでメスを入れるマイナーチェンジが増えてきている。モデルライフが長くなった分、スクラップ&ビルと的なクルマ作りではなく、時間をかけて大切に育てていこうという考え方にシフトしたのである。
控えめな変更内容、いちばん目立つのはラジエターグリル?
今回紹介するのはマイナーチェンジを受けたヤリス。2020年のデビューから4年目での改良となる。そこから逆算すると、ヤリスのモデルライフは8年になるのだろう。逆に言えば、あと8年にわたって商品力を保ち続けられるようにすることがマイナーチェンジの狙いということになる。
では、どんな部分が変わったのだろうか。われわれ自動車メディアは、実車を見ることで細かい改良箇所を把握するわけじゃない。メーカーが出すプレスリリースという「あんちょこ」を見て、あそこがこう変わったとか、スペックがこうなったという記事をつくる。昔はメディアにしか公開されていなかったが、現在では一般の方も見られるようになっている。ヤリスのマイナーチェンジに関するプレスリリースはこちら。
プレスリリースによると、変わったのは内外装とディスプレイオーディオ、あとは安全装備の進化といったところ。なかでもいちばん目立つのはラジエターグリルの形状が変わった点だろう。書かれているのは以上。
ん??4年ぶりのマイナーチェンジだというのに、いくらなんでもあっさりしすぎじゃない?たしかにデザインはまったく古臭くなってないし、リッター36kmというハイブリッド車の燃費は依然としてクラストップレベル。日産ノートがそこそこ健闘しているものの、かつて最大のライバルだったフィットが低迷中ということもありあまり気合いが入らなかったのかもしれないな・・・と思いつつ試乗を始めると、ぜんぜん違うクルマになっていたのだった。
ハイブリッドの乗り味に変化はないが
試乗したのはハイブリッドZのFFモデル。1.5L3気筒にモーターを組み合わせたハイブリッドのパワーフィールにフィーリング上の変化はない。トヨタのハイブリッドは電気式CVTとも呼ばれるタイプであり、加速時のエンジン回転数変化にはメリハリがないものの、交通の流れに沿って走っている程度ならエンジン回転数は低く抑えられ、3気筒エンジン特有のうなり音が車内を満たすことはない。
アクセルを深く踏み込んだ際の加速も必要にして十分だ。同じ1.5Lハイブリッドでも、バイポーラ型ニッケル水素バッテリーを積むアクアの方が強力なモーターアシストを感じるが、それでも自然吸気のヤリスと乗り比べればエンジンがラクをしている感覚は明らかに強く、燃費だけでなく、静粛性や加速性能面にもハイブリッドが効いていることが体感できる。
高速道路での安心感が大幅に進化した
進化に驚いたのはフットワークだ。走り始めた直後から足がスムースに動いている感覚が伝わってきて、ステアリングを切り込むと、とくに切り始めの部分でのノーズの動きがよりダイレクトになり、同時にステアリングを通して掌に伝わってくる情報も濃くなった。先代オーナーが乗ったら、違いにすぐに気付くであろうレベルだ。しかしもっとも大きな進化を果たしたのが高速道路での安心感だ。まず、直進安定性が上がった。さらに、ステアリング中立付近にグッと締まりが出て、そこから指1〜2本分切り込んだときのノーズの動きもスムースになった。結果として安心感が高まり、ロングドライブをしたときの快適性が高まった。
クルマは実際に乗ってみなきゃわからない
となると不思議なのが走りにまつわる変更点に一切触れていないプレスリリースだ。そこで開発責任者に直接聞いてみた。すると、①スポット溶接箇所を増やしてボディ剛性を高め、②それに合わせてダンパーを再チューニングし、③電動パワーステアリングの制御特性も再チューニングした、とのこと。なるほどそこまで手を加えていれば走行フィールの大幅改善も納得である。やはりクルマは実際に乗ってみなきゃわからない。
※記事の内容は2024年5月時点の情報で制作しています。