3列シートとスライドドアを持ちながら5ナンバーサイズのコンパクトさで人気のトヨタシエンタがフルモデルチェンジを受けました。フィアットやシトロエンぽさを漂わせる素敵な外観が話題の新型シエンタ、その走りや使い勝手を岡崎五朗さんの試乗レポートでお届けしましょう。
3列シートのコンパクトミニバンであることが魅力
全長4,260mm、全幅1,695mm、全高1,695mmというコンパクトなボディに、2列5人乗りもしくは3列7人乗りの2種類のシートレイアウトとスライドドアを備えたミニバンがシエンタだ。弟分のルーミーと比べると、560mm長く、25mmワイドで、40mm低くなる。全長の違いが大きいのは3列シートの有無のせい。3列シートを選べるシエンタに対し、ルーミーは2列シートしか選べない。エンジンもルーミーが1.0L3気筒であるのに対し、シエンタは3気筒ながら排気量は1.5Lを確保。加えて1.5Lハイブリッドも用意する。さらにわかりやすく言うなら、ルーミーはパッソベース、シエンタはアクアベースということになる。当然、価格も違い、エントリーグレードはルーミーの156万円に対し、シエンタは195万円となる。
となると、価格は別として、ルーミーではなくシエンタを選ぶ最大のポイントは3列シートを選べるか選べないかになりそうだ。実際、シエンタを買う人の6割から7割は3列シートを選んでいるという。たしかに3列目シートの存在は便利だ。子供の友人家族を乗せたり、帰省したときにおじーちゃん、おばーちゃんと一緒に出かけたり、そういったシーンで3列目シートは大いに役に立つ。そういったフレキシビリティを備えつつ、扱いやすいコンパクトなボディを実現しているのは間違いなくシエンタの魅力だ。
3列目のために2列目シートのスライド機構がつかないのは本末転倒
その一方で、僕だったら2列シート仕様を選ぶ。子供がとっくに独立しているというライフステージ事情は抜きにして、たとえ小さな子供がいたとしても2列シートを選んでいただろう。3列目の出し入れが面倒だとか、スペース的にもシートの座り心地的にも長時間使用には向いていないという理由もあるが、3列シート仕様の最大の弱点は2列目シートスライド機構がつかない点だ。2列シート仕様なら後席を後端にスライドすると広々した空間が現れるが、3列シート仕様はそれができない。そこを納得した上で選ぶのなら問題ないが、どうせなら3列がいいかなという気持ちで選ぶのは避けたほうがいい。
たまにしか使わない3列目のために、いつも使う2列目が犠牲になるのは本末転倒だと僕は思う。3列シート車の魅力をフルに味わいたいならノアのようなもうひと回り大きいミニバンをオススメしたい。
ラテン系のクルマのような雰囲気の外観
新型シエンタでいいなと思ったのはデザインだ。イタリアとかフランスといったラテン系のクルマのような雰囲気がある。開発者に話を聞くと、「クルマを買うのではなく、ペットを飼うような感覚で乗っていただきたい」とのこと。なるほど、たしかにルノーカングーやシトロエンベルランゴのオーナーたちは、家族の一員のような感覚でクルマと付き合っている。そういうクルマが日本から出てきたのはとても嬉しいことだ。
1.5L車の走りも意外によかった
ハイブリッドは優れた燃費だけでなく、モーターアシストによる動力性能の余裕や、常用域での静粛性に優れている。予算に余裕があるならハイブリッドを選べば間違いない。けれど、1.5L車の走りも意外によかったと報告しておこう。アクセルを深く踏み込みビュンビュン飛ばすような運転をすればエンジンは唸るしパワー不足も感じるが、新型シエンタに乗っていると飛ばそうという気にならない。足回りはキビキビ感をあえて抑え込み、ミニバンらしいゆったりした味付け。高速道路を含め、周囲の流れに合わせてノンビリ走っているかぎり、1.5Lでも「これで十分」と思えてくる。
素敵なデザインに似合う走りのキャラクター分けが欲しい
と、誉めたところで、でもラテン系を想わせる素敵なデザインを考えると、回して楽しいエンジンとか、もうちょっとキビキビしたハンドリングとか、そういう要素が欲しくなってくるのもたしか。GR仕様とまではいかなくてもいいから、たとえば3列シート仕様は現状のゆったり感、2列シートはラテン系ハッチバックのような溌剌感というようなキャラクター分けができたら、シエンタのユーザー層はさらに厚みを増すのではないだろうか。
※記事の内容は2022年9月時点の情報で制作しています。