ヤリスの名前はついているもののボディ、エンジン、4WDシステム、そして工場まで専用品で揃えたトヨタGRヤリス。トヨタ80点主義に完全に別れを告げる、本物のスポーツカーだという岡崎五郎さんの試乗レポートです。
ダートの腕前はトヨタで1番!豊田章男社長みずからが開発責任者
GRヤリスにはいくつものサプライズがある。まずは豊田章男社長が開発責任者であること。売り上げ30兆円を超える大企業のトップが開発責任者を務めるなんていまだかつて聞いたことがない。章男社長はクルマ好き、レース好き、ラリー好きとして知られているが、まさかここまで入れ込んでくるとは誰も想像していなかったはずだ。しかもダート走行の腕前は辣腕揃いのトヨタテストドライバー陣のなかでもトップだという。
エンジンも4WDも工場すらも専用品!
もちろん、クルマを買う側にとって、そんなことはどうでもいいことかもしれない。しかし社長が開発責任者だからできることはたくさんある。1.6L3気筒ターボエンジンは完全な専用設計。空力をとことん重視した2ドアボディも4WDシステムも専用設計だ。
さらには生産する工場(GRファクトリー)もGRヤリスのために建設された。GRファクトリーでは腕利きの職人がベルトコンベア式では不可能な手作りならではの高精度組み立てをしている。
結果、GRヤリスには量産車に付きものの製品バラツキがほとんどない。繊細な感覚が自慢のレーシングドライバーが完成した複数のGRヤリスを乗り比べても違いがまったくわからなかったそうだ。
これは大バーゲン価格だ!
ここまでやったら値段は跳ね上がるのが普通。しかしGRヤリスの価格はトップモデルで456万円。大人しいエンジンを積むエントリーグレードなら256万円で買える。これはもう大バーゲン価格と言っていい。
このように、GRヤリスはサプライズのオンパレードである。もちろん、そこはしたたかなトヨタ。社長案件だからといって損をしてもいいなどとは微塵も考えてない。GRファクトリーで得たノウハウはすでに他の量産車にフィードバックされ始めているし、GRヤリスの登場とラリー参戦によるヤリスファミリーのブランドイメージ向上=販売拡大も計算済みだ。
ポルシェ911のように飛ばさなくても楽しい本物のスポーツカー
試乗したのは、トップグレートにして最量販グレードにもなっているRZハイパフォーマンス。サーキットでは抜群の速さを、ダートでは抜群のコントロール性を体験済みだったが、一般公道でもすばらしい走りを見せてくれた。1.6Lで272psを発生するハイパフォーマンスエンジンでありながら、低回転域からよく粘るため街中での扱いやすさは上々。トランスミッションは6速MTのみだが、クラッチペダルの軽さも手伝ってまったく苦にならなかった。
足は硬めのセットアップだが、強靱なボディとスムースに動くサスペンションによって粗さのない気持ちのいい硬さに仕上がっている。ポルシェ911のように、飛ばさなくても実力がオーラとして伝わりドライバーを楽しませてくれるのが本物のスポーツカーだというのが僕の考えだが、GRヤリスにも間違いなくそういう魅力が備わっている。
トヨタ=80点主義の時代は終わった
いやはやすごいクルマが出てきたものだ。数年前までは真っ直ぐ走ることすら不得手の頼りないクルマばかり出していたトヨタだが、カローラといいRAV4といいハリアーといい、ここ最近の進化は目覚ましいばかり。トヨタ=80点主義のつまらないクルマを作るメーカーという認識はそろそろ改めた方がよさそうだ。
(写真:トヨタ)
※記事の内容は2020年12月時点の情報で制作しています。