クロスオーバー、スポーツ、セダンに続く4番目のモデルとして、2025年3月13日に発売されたトヨタ「クラウンエステート」(635万〜810万円)。1999年12月登場の10代目以来となるクラウンの新型ステーションワゴンモデルの実力を、歴代クラウンワゴンモデルの魅力とともに島崎七生人さんが紹介します。
自分や家族の生活スタイルの中で余暇を愉しむために生まれたクルマ
自動車用語辞典風に言うと“ステーションワゴン(ワゴン)”は、人と荷物を乗せる(載せる)乗用車のことを指す、アメリカ流の呼称。イギリス流だと“エステート”、フランス流だと“ブレーク”、ドイツ流だと“コンビ(VWならヴェアリアント、アウディならアバント)”などと言う。いずれにしても、人が自分や家族の生活スタイルの中で余暇を愉しむために生まれたクルマ……そんなイメージが滲み出る。
翻って日本では、今でこそSUVが一般的に広まって、生活の中でクルマを使いこなす文化が根付いたが、それ以前、90年代にはワゴンがムーブメントのひとつとなり、国産メーカーからも多くのステーションワゴンが登場した。当時はワゴン専門誌も誕生したほどで、筆者も“仕事の”取材や試乗の機会で、各社のクルマに接したもの。いつかはこういうクルマに乗って優雅に時間を過ごしてみたいものだ……などと思いを抱きながら(その願望は未だ実現できていないが……)、メジャーでラゲッジスペースのサイズを測ったり、タイダウンフックが何個だとか、試乗車の後席に座り頭上にコブシ2個を乗せているところをカメラマンに撮ってもらったり、走らせて100km/h時のエンジン回転は5速で2000rpmなどと記録をとったりしていたものだ。
時流に流されることのなかったクラウンワゴン

ステーションワゴンモデルの「エステート」の登場で4つのボディタイプを揃えたクラウン(写真:トヨタ)
ところでそんなワゴンブームの頃、思い返せば“クラウンのワゴン”は、どちらかというと時流に流されることなく、いつもそこにある車種だった。ひとつにはブームがスバルのレガシィ・ツーリングワゴンに端を発したものだったことや、ボルボやメルセデス・ベンツといった輸入車勢に目を向けるユーザーが増え、国産の最上級ワゴンでいえば……、と輸入車の引き合いに登場する、そんな位置づけだった。僕も当時、アルファロメオ156にスポーツワゴンが追加された際、何度か食指を動かしそうになったが、試乗してみると走行中にリヤゲート付近からギシギシと音が立つ個体が新車の広報車の中で少なくなかったので、自分で乗っていた156のV6・6速MTセダンからの乗り換えは断念した覚えがある。
最初のワゴンモデルから豪華&高性能だった(2代目1962年)

2代目クラウンに初めて設定されたワゴンモデル
歴史を振り返ると、クラウンのステーションワゴンは2代目(1962年)で初めて登場した。“クラウン・カスタム”の名をもち、前後ベンチシートの6人乗りで、下ヒンジで開くリアゲートにはパワーウインドゥも備え、リアシートを畳むと荷室長1925mmのスペースも生まれた。当時のカタログには「ゴルフやキャンプ、魚釣り、狩猟など携行品の多い長距離ドライブに」などの表記も。当時のセダン相当の1900cc/90psエンジンを搭載、トヨグライドと呼ばれたATも設定、最高速度140km/hなども謳われ、豪華で高性能なクルマであることをアピールしていた。
時代に先んじた装備を次々と採用(3代目1967年、4代目1971年、5代目1974年。6代目1979年)

3代目クラウンのワゴンは横開きリアゲート、折り畳み式サードシートなど意欲的な装備を持っていた

独特なデザインでクジラと呼ばれた4代目。リアのデザインは現行クロスオーバー以上に(?)個性的

セールス的は不振だった4代目の反省から直線基調となった5代目のワゴンモデル。その後のクラウンのデザインの礎となった

5代目の路線を引き継いだ6代目クラウンのワゴンモデル。リアの木目調パネルに米国車の影響が見られる
次いでペリメーターフレーム新採用の3代目(1967年)では、横開きのリアゲートや、折り畳み式のサードシート(8名乗り)を採用。“クジラクラウン”などと呼ばれた4代目のカスタムでは、リアシート、サードシートを倒して大型荷室として使えたり、内気循環/外気導入の切り換えができる快適な室内空間などを特徴とした。1974年登場の5代目も折り畳み式サードシートを備えた8人乗り(前席セパレートシートは7人乗り)としている。さらに6代目(1979年)のワゴンでは2ℓガソリンエンジンのほかに2.2ℓディーゼル搭載車も設定。上級仕様の“スーパーカスタム”ではチルトステアリング、ワンタッチパワーウインドゥ、後席センターアームレストなどを装備していた。
クラウンらしい高級路線が加速した80年代(7代目1983年、8代目1987年、9代目1991年)

クラウンらしい高級路線が加速した80年代(7代目1983年、8代目1987年、9代目1991年)
7代目(1983年)では、Bピラーから後方をハイルーフ化し、前端にガラスをはめ込んだスカイライトウインドゥが登場。オールフラットシート、2ℓターボディーゼルなども登場している。ちなみにこの7代目クラウンは「いつかはクラウンに」のキャッチコピーが生まれた世代で、4ドアハードトップはクリスタルピラーを特徴としていた。

8代目と9代目クラウンのワゴンモデルは基本的には共通(写真は9代目)
続く1987年に登場した8代目と1991年の9代目は基本的に共通。というのも1991年のクラウンのモデルチェンジが主力の4ドアハードトップのみ行われたため。とはいえ9代目では2.5ℓガソリンエンジンおよび2.4ℓターボディーゼル搭載の3ナンバーボディが登場。運転席とステアリングのポジションを記憶させておけるマルチアジャスタブルパワーシート&マイコンプリセットステアリングほか、チルトアップスカイライトウインドゥといった装備面でも一層充実が図られ、クラウンならではの設えにも魅力を持たせたモデルとなっていた。
12年ぶりの刷新でアスリート・シリーズも登場(10代目1999年)

10代目クラウンのワゴンモデルにはスポーティなグレード「アスリート」も設定された
そして1999年12月に登場したのが10代目。9代目でフルモデルチェンジがスキップされたことから、8代目(1987年)からおよそ12年振りの一新でもあった。この世代から車名を“エステート”とし、セダンに準じてロイヤル・シリーズのほかアスリート・シリーズも設定、搭載エンジンには3ℓのほか2.5ℓターボ、2.5ℓのNAを設定。さらに電子制御フルタイム4WDの“Four”も用意されていた。
最新のクラウンエステートは「今風」、走りはクロスオーバーより上質
さて、駆け足でクラウンのステーションワゴンの系譜を辿ってきたが、先日のこと、最新型クラウンに設定されたエステートの試乗が叶った。クロスオーバー、スポーツ、セダンの3車型についてはご報告済みだが、果たして4番目に登場の新しいエステートは果たしてどんなクルマに仕上げられてきたのか?
ザックリとだが実感したのは「なるほど今風のエステートだな」ということ。とくにクロスオーバー(←車名)と同等と思われる、やや高めの着座位置と車高は、今どきのクロスオーバー(←分類名)で、アクティブなクルマのイメージ。
だが走らせてみると重厚感、スムースさは十分で、ひと足先に登場済みの3車型のうちのクロスオーバー以上の上質感を実感。試乗車はPHEVでE-Four(電気式4輪駆動方式)を採用する仕様だったが、とにかくパワーフィールは場面を問わず自然でスムース、かつ常に余裕が感じられるもので、ゆったりとした気持ちで乗っていられた。“EV走行比率100%”の表示を見ながら100km近く走り切る実力も確認した。
ワゴンらしい前後長2mのラゲッジルーム、クラウンらしい気配り
もちろん後席を畳み、さらにエクステンションを使うとラゲッジスペースの前後長が2mに達する広さは実用的。後席はシートバックが僅かに寝た角度ながら、座面前後長はたっぷりしており、足元、頭上の空間は大人でもかなりの余裕を感じる。
このあたりのキャパシティの大きさは、さすがクラウンといったところ。ドア下部にはサイドシルの垂直面を覆うカバーが付けられ乗員の着衣の裾を汚さない配慮があったりする気配りも見逃せない。
歴代モデルと同じく、心を豊かにしてくれそうなクルマ
全長×全幅×全高=4930×1880×1625mm、税込みの車両本体価格810万円と、ボディサイズも価格もますます高級車ではあるが、相応のドライブ体験を味わわせてくれるクルマであるのは確か……そんな印象をもった。なおフロントマスクを始め、ボディサイドなどアウタースキンはすべて、他のクラウンと似て非なる専用デザインになっていて、そこにも最新クラウンのこだわりの一端が感じられる。

写真:トヨタ
ユーザーのアクティブライフに寄り添うクルマということで、我が家でも試乗車で思わずWebカタログの写真を真似してみたが、歴代モデルがそうだったように、確かに、心を豊かにしてくれそうなクルマなのかもしれない……と改めて思ったのだった。
非なる専用デザインになっていて、そこにも最新クラウンのこだわりの一端が感じられる。
(特記以外の写真:島崎七生人)
※記事の内容は2025年4月時点の情報で制作しています。