スズキの軽クロスオーバーSUV「ハスラー」に新たに追加された「タフワイルド」（176万円〜197万2300円）。2024年上半期ランキング3位に輝く人気モデルの新しい個性を、岡崎五朗さんはどのように評価したのでしょうか。

「可愛らしさ」成分が薄くなり、「カッコよさ」成分が増えた

タフワイルドは、人気モデルのハスラーに加わった新しい個性だ。標準ハスラーと違うのは主に内外装。ワイド化されたフロントグリルは横方向にグッと伸び左右ヘッドライトを結ぶ形状に。ブラックアウトしたヘッドライトガーニッシュとあいまってキリッと引き締まった表情を作りだしている。その他、スクエア形状のフォグランプ、ブラックのドアミラー＆ドアハンドル、前後メッキガーニッシュ、ガンメタ塗装のホイール、ルーフレールもタフワイルド専用アイテムだ。インテリアではアウトドアテイストを高める撥水シートやマットカーキ色が専用アイテムとなる。

ここまで手間をかけると、印象はずいぶん違ってくる。標準モデルにはSUVらしい力強さと可愛らしさが同居しているが、タフワイルドは「可愛らしさ」成分が薄くなり、その分、カッコよさ成分が増えた。おそらく男性にはこちらの方が好まれるだろうし、スウィートさを好まない女性からも支持されそうだ。

前後バンパーのメッキ仕上げに感じるベストセラーの「巧みさ」

面白いなと思ったのは、タフワイルドというネーミングを与えながらも、オフロードテイスト一辺倒にはせず、前後バンパーガーニッシュをメッキ仕上げにしている点だ。メッキパーツと言えばカスタム系のお約束。そう、タフでワイルドな演出によりジムニーに憧れる人たちにアピールしつつ、実はカスタム系を好む人の気持ちにも寄り添っているあたり、実に巧みな商品作りだと思う。

もちろん、多くの専用パーツを起こし、新たな個性をつくるのは手間もコストもかかる作業だ。にもかかわらずスズキがそれをやってきたのには理由がある。販売台数ではN-BOXやスペーシアに及ばないものの、全軽自動車で3位（24年上半期）、後席ヒンジ式ドア部門では文句なしの１位と大健闘している。タフワイルドによって、そんなハスラー人気をさらに確固たるものにするのがスズキの狙いだ。

価格差はたった8万円、選ぶならターボ

タフワイルドの仕様は大きく４種類。駆動方式としてFFと4WDが用意され、それぞれで自然吸気とターボが選択できる。駆動方式は自分の使用環境に合わせて選べばいいが、エンジンに関して言うとオススメはターボだ。街中メインで使うのなら自然吸気エンジンも悪くないが、ターボとの価格差は約８万円。この程度の価格差であれば、高速道路を使ったロングドライブはもちろん、発進時や登坂時の余裕の大きさという点でターボのアドバンテージは大きい。

軽のなかでもっともクルマらしく、もっともちょうどいい空間設計

ドライブフィールで特徴的なのは、いい意味で軽自動車に乗ってる感が希薄だという点だ。シートサイズは軽自動車としては大きめだし、横方向のスペースや頭周りの空間もゆったりしている。加えて高すぎず低すぎずちょうどいいレベルの着座位置、ドシッと落ち着いたクルマの動き、自然なドライビングポジションなどがそう感じさせているのだろう。

セダンタイプのような小さな空間に収まっている感はないし、スーパーハイト系のような大きな箱の中にちょこんと座っている感もない。軽自動車という枠組みで考えると、もっともクルマらしいし、もっともちょうどいい空間設計だと感じた。

スーパーハイト系ほどのスペースは要らないけれど、ジムニーほどの本格的オフロード性能も要らない。使いやすくて、とにかくカッコいい軽自動車が欲しい。そんな人たちから支持されているハスラーの魅力をさらに拡げたタフワイルド。人気モデルになるのは間違いなさそうだ。

※記事の内容は2024年8月時点の情報で制作しています。