国産ステーションワゴンの雄、スバルレヴォーグをベースとしたSUVモデルのレヴォーグ レイバックが登場しました。背の高いSUV全盛の中で投入された低重心なSUV、その詳細情報と試乗インプレッションを自動車評論家の萩原文博さんのリポートでお届けしましょう。
日本人のためのステーションワゴン、それがレヴォーグ
低重心による高い走行性能と積載性を両立したステーションワゴンは、1990年代の日本市場において大きなシェアを占めていました。そのステーションワゴンブームの立役者が1989年に登場したスバルレガシィです。それまで日本ではライトバンと呼ばれるビジネスモデルが主流で、走行性能よりも取り回しの良いコンパクトなボディ+積載性の高さといった実用面が重視されていました。
しかし初代レガシィの登場以降、広いラゲッジルームによる高い積載性に加えて、ロングドライブをこなす走行性能を実現した欧州テイストのステーションワゴンが日本でも主流となっていきます。レガシィはハイパワーエンジンを搭載したスポーツモデルを用意し、ステーションワゴンブームを牽引。打倒レガシィを目指して、各社ステーションワゴンを次々と市場へ投入しましたが、いずれもレガシィの牙城を崩すことはできませんでした。
しかし、ミニバンやSUVなど様々なボディタイプが登場するようになって状況は変わります。積載性能ではミニバンに、悪路走破性や目新しさの点ではSUVに敵わず、ステーションワゴン人気は低迷。レガシィのライバルたちは次々と生産中止に追い込まれました。
一方、レガシィも北米の人気を反映してモデルチェンジを重ねるごとにグローバルモデルに相応しいボディサイズへと拡大されていきます。同時にレガシィらしいスポーティな走りがやや影を潜めてしまったこともあって、日本でのレガシィ人気にも翳りが見えるようになってきたのです。
そんな状況のもとでレガシィに代わって日本市場に投入されたのが初代レヴォーグです。日本の道路事情にあったボディにターボエンジン+4WDが組み合わされたレヴォーグは、走り好きなステーションワゴンユーザーから歓迎されスマッシュヒットとなりました。
先進安全、スポーティ、そしてワゴンらしさを進化させた2代目レヴォーグ
2020年10月に登場した2代目となる現行型レヴォーグも、スバル車に脈々と受け継がれる「より遠くまで、より早く、より快適に、より安全に」というグランドツーリングのDNAを継承しています。スバルの最新技術を結集し、「先進安全」、「スポーティ」、「ワゴン価値」の3つの価値を革新的に進化させたパフォーマンスワゴンなのです。
レイバックの紹介の前にそのベースとなった2代目レヴォーグの魅力をもう少し掘り下げてみましょう。
「先進安全」では、360 °センシングを実現し、リアルワールドにおける安全性を進化させた「新世代アイサイト」を全車標準装備しています。さらに、3D 高精度地図データと、GPS や準天頂衛星「みちびき」などの情報を活用した高度運転支援システム「アイサイト X」を搭載したグレードを新たに設定し、新次元のストレスフリーなセイフティドライビングを実現しています。
「スポーティ」では、新開発 1.8L 直噴ターボ“DIT”エンジンやスバルグローバルプラットフォーム×フルインナーフレーム構造により、走りの質感を飛躍的に高めているのが特徴です。また新デザインコンセプト「BOLDER」をスバル量産車で初めて採用し、スポーティさを大胆に表現しました。
「ワゴン価値」では、快適性や積載性を実現するワゴン機能やインテリアに磨きをかけました。11.6インチの大型センターインフォメーションディスプレイや、アイサイト X 搭載グレードに採用のフル液晶メーターで構成された先進的なデジタルコクピットは、運転に必要な情報の認知から操作を、よりスマートにサポートします。
2021年11月には、従来の1.8L直噴ターボエンジンに加えて、最高出力275ps、最大トルク375Nmを発生する2.4L水平対向4気筒ターボエンジン+スバルパフォーマンスミッションというパワートレインを搭載したSTI Sport Rを追加しバリエーションを充実させています。
都市型SUV、上質さがレイバックのキーワード
そして2023年9月、レヴォーグにレイバックという派生モデルが追加されました。今回はクローズドコースで試乗もできましたので、車種紹介に加えてインプレッションも紹介します。
レヴォーグ レイバックのレイバックは、「くつろぐ」「ゆったり」「リラックスできる」という意味の「laid back」が語源で、「都市型SUV」がもつゆとりある豊かな時間や空間を大切にするという思いが込められています。レヴォーグが走りの良さやスポーティさを前面に押し出したモデルであるとすると、レヴォーグ レイバックは「上質さ」を追求したモデルと言えるでしょう。
専用サスと大径タイヤで最低地上高200mmを確保
レヴォーグ レイバックのボディサイズは、全長4,770mm×全幅1,820mm×全高1,570mmで、最低地上高は200mmとなっています。ベースのレヴォーグに比べて全長は+15mm、全幅は+25mm、全高は+70mm。そして最低地上高は+55mmとなっています。SUVに求められる最低地上高をアップさせるために、レヴォーグ レイバックは、専用チューニングを施されたサスペンションと225/55R18という大径タイヤを装着しています。それと引き換えに全高は立体駐車場の目安となる1,550mmをわずか20mm超えてしまいましたが、走破性を左右する最低地上高を優先したようです。
「土の香りがしない」ように仕立てた外観デザイン
レヴォーグ レイバックのデザインコンセプトは“凜”と“包”です。外観デザインは、押し出し感の強いレヴォーグと比べると、シルバー加飾を控えめにしています。またグリルやバンパーというパーツを要素ごとではなく、緩やかな曲線の中に取り入れることにより一つの大きな立体として構成しています。さらにレヴォーグ レイバックの特徴であるサイドクラッディングやホイールも“凜”と“包”で表現し、土の香りがしないように仕立てたとしています。
インテリアは、リラックスした時間を過ごせる空間を演出するために、暖色系の基本構成にブルーをアクセントカラーに使用。さらにアッシュ×カッパーステッチのコントラストにより、空間を彩っています。リラックスできる室内空間で、最高の音質で音楽を楽しめるハーマンカードンサウンドシステムも標準装備しています。
1.8Lターボ+4WDのみの設定、アイサイトXは最新バージョンに
搭載されているパワートレインは、最高出力177ps、最大トルク300Nmを発生する1.8L水平対向4気筒直噴ターボエンジン+リニアトロニックと呼ばれるCVTの1種類です。駆動方式は4WDのみとなっています。
レヴォーグ レイバックはスバル独自の先進安全運転システム、アイサイトXを標準装備しているだけでなく、アイサイトに広角単眼カメラを追加しました。さらにドライバー異常時対応システムやマルチビューモニターシステム、そして車載ナビゲーションシステムには位置情報サービス“what3words”を採用。フル液晶メーターにCarPlay地図表示を可能とするなど新機能が追加されています。
それでは、レヴォーグ・レイバックのインプレッションを紹介しましょう。
数値ほど腰高に見えない
専用サスペンションと18インチの大径タイヤを採用し、最低地上高を200mmまで高めたレヴォーグ レイバックですが、サイドクラッディングやサイドスカートによって数値ほど腰高に見えないのが印象的です。また、クロームパーツの使用を抑えてフロントバンパーに曲線を多用することで、レヴォーグより押し出し感は控えめ、落ち着いた感じを受けます。
インテリアは、基本的な部分はレヴォーグと共通ですが、アッシュ×カッパーステッチのコントラストにより、質感の高さを演出しています。また高級オーディオのハーマンカードンを標準装備していますが、ステーションワゴンの命ともいえるラゲッジスペースを全くスポイルしていないのは専用設計のおかげと言えるでしょう。
荒れた路面でも揺れが少なく過度なシャープさもない
試乗はワインディングで行われました。路面状況はかなり荒れており、さらにヘアピンが続くかなりタイトなコース。スポーティさを強調したノーマルのレヴォーグだったら、かなり乗り心地的に厳しそうな条件です。しかし、ダンパーとスプリングが専用設計されたレヴォーグ レイバックの足回りは荒れた道でもしっかりと仕事をし、路面をガッチリと捉えてくれます。路面からの入力はしっかりといなし、サスペンションが伸び縮みした際でも乗員の揺れをかなり抑えてくれるので安心感は十分。
レイバックに標準の225/55R18というサイズのオールシーズンタイヤは、ハンドル操作に対して穏やかなクルマの挙動変化をもたらします。ハンドルを切った分だけクルマはしっかりと曲がりますが、その動きは過度にシャープでないため安心してペダル操作が行えます。そのせいかレヴォーグと同じ1.8Lターボですが、アクセルを早く踏み出せるのでパワーアップしたようにすら感じました。
レヴォーグ レイバックは乗り心地を重視した足回りながらボディとシャシーに一体感があります。スポーティな走りと揺れの少ない質の高い乗り心地を両立したと言えるでしょう。
ステーションワゴンベースのSUVならではの大きな魅力
最近は背の高いSUVがブームですが、そのような車の場合、車高が高い分重心も高くなり、前後左右の揺れが乗員にも伝わることで不安や疲れやすさにつながる場合もあります。レイバックのような低重心なステーションワゴンベースのSUVには、揺れの少ないフラットな乗り味という大きな魅力があることを再認識しました。
かつてBP型のレガシィアウトバックを所有していた筆者からすると、サイズ感や価格面でレヴォーグ レイバックはまさに後継車と言える存在です。輸入車ではレイバックと同じようなコンセプトのアウディオールロードやメルセデス・ベンツオールテレインなどがラインナップされていますが、このレヴォーグ レイバックによってステーションワゴンベースのSUVブームの再燃もあるかもしれませんね。
※記事の内容は2023年9月時点の情報で制作しています。