タフなSUVとして人気のスバルフォレスターに追加されたSTIスポーツ。スバルのワークスブランド「STI」が手がけた走りのモデルです。オフロード性能がウリのフォレスターですが、STIはどのようなチューニングを施したのでしょうか。その試乗インプレッションを萩原文博さんが紹介します。
オートサロンでも存在感のあるメーカー直系のワークスブランド
クルマ好きにとって初詣のような年初のイベントが、カスタムカーの祭典“東京オートサロン”です。2023年も1月13~15日の3日間、千葉の幕張メッセで開催され17万9,434名が来場しました。昔のオートサロンと違うのは会場で自動車メーカーが大きなブースを展開していることです。自動車メーカーといってもモーターショーのように新車やこれから登場するコンセプトカーを展示するわけではありません。各社のワークスブランドが手掛けたカスタムカーを展示しているのです。
ワークスブランドというのは、トヨタならばGR(トヨタ・ガズー・レーシング)、日産はNISMO(ニスモ)やAUTECH(オーテック)、ホンダは無限やホンダアクセス、スバルはSTI(スバルテクニカインターナショナル)などが該当します。ワークスブランドの多くは、自動車会社の子会社でスーパーGTをはじめとしたレースに参戦しています。そのレースで培った技術を市販車にフィードバックすることで、より走行性能を高めたモデルを製造することができるということなのです。こういったワークスブランドが手掛けたモデルは人気が高いことが多く,その数が少ないこともあって中古車で手放すときに値落ちしにくいという特徴もあります。今回、インプレッションを紹介するのは、STIがプロデュースした様々なパーツを装着したスバルフォレスターSTI Sportです。
スバルのSUVの中では最もオフロード寄りのフォレスター
ミドルサイズSUVのフォレスターは、国内だけでなく海外でもスバル車の中で最も販売台数が多いモデルとなっています。スバルにはいくつかのSUVがありますが、フォレスターはその中で最もオフロードを意識した車です。日本市場では5人乗り仕様だけですが、販売の中心である北米では3列シート仕様のアテントや、より高い悪路走破性を実現したフォレスターウィルダネスという派生モデルも販売されています。
現行モデルである5代目のフォレスターは2018年6月に発表され、7月から販売開始されました。現行型フォレスターは、乗る人全員が楽しく快適な空間を共有できるよう、取り回しの良さと室内の広さを両立したパッケージングや使い勝手の良い装備を採用。デザインはスバル車共通のフィロソフィーである“DYNAMIC×SOLID”をベースにSUVらしいたくましさや機能的で使いやすさを表現しています。
また現行型フォレスターは、ボディの骨格にスバルグローバルプラットフォーム(以下SGP)を採用し、クラストップレベルの衝突安全性能と危険回避性能、さらにスバル初となる乗員認識技術「ドライバーモニタリングシステム」を採用し、安全性能を向上させているのが特徴です。もちろんドライバーの意志に忠実なハンドリングや快適な乗り心地など高いレベルの走りも実現しています。
現行型フォレスターに搭載されているパワートレインは、デビュー当初は2.5L水平対向4気筒エンジン+CVTとe-BOXERと呼ばれる2L水平対向4気筒エンジンにモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムの2種類でした。駆動方式はリアルタイム制御で4つのタイヤに最適なトルク配分を行うアクティブトルクスプリットAWDを採用、滑りやすい路面などでエンジン、トランスミッション、ブレーキなどをコントロールし悪路走破性を向上させるX-MODEも全車に標準装備していました。
2020年の一部改良で、2.5L自然吸気エンジンが廃止され、1.8L水平対向4気筒直噴ターボエンジンが搭載されました。続く2021年に現行フォレスターは大幅改良を実施します。内外装の変更に加えて、全グレードで足回りを改良し、しなやかさとスポーティーさを高い次元で両立。また、e-BOXER搭載車には、アダプティブ変速制御のe-アクティブシフトコントロールを採用。安全性能では、広角化したステレオカメラやソフトウェアを改良した新世代アイサイトを採用。従来以上に幅広いシーンで安全運転を支援するよう進化を遂げています。
追加されたSTI Sportは専用装備の多さを考えるとむしろ割安感がある
今回試乗したフォレスターSTI Sportは2022年8月に追加されました。フォレスターSTI Sportは、STIコンプリートカーの開発やモータースポーツなどで培ってきた走りの技術を基に、日常のドライブ領域でドライバーとクルマの一体感を目指して開発されたモデル。重心の高いSUVに合わせて専用チューンニングを施すことにより、スポーツセダンのような操縦安定性と上質な乗り心地を両立させているのが特徴です。
フォレスターSTI Sportは、外観では専用のつやのあるブラックパーツを採用し、上質感と大人のスポーティーさを表現しています。アルミホイールには特別な光輝感を備えたスーパーブラックハイスター塗装を施しています。一方、インテリアにも外観同様にブラックパーツをあしらうことで、引き締まった大人のスポーティーテイストを表現しています。またSTI Sportのアイコンとなっているボルド&ブラックの専用レザーシートにより、快適かつ上質な空間を創出。タフギア感の強いフォレスターの特徴を最大限に際立たせながら、STI Sportらしい上質でスポーティーな走りを視覚的にも表現しています。
スポーツセダンのような操縦安定性と上質な乗り心地を両立させるため、フォレスターSTI Sportのフロントサスペンションには、STIがチューニングした日立アステモ製のSFRD(周波数応答型)ダンパーを採用。コーナリング時など車体に大きな入力が加わったときには、高い減衰力を発生させてロールを抑制し、タイヤの接地性を向上させます。一方、通常走行時は低い減衰力でロードノイズなどの車両に伝わる微振動を軽減させています。リアサスペンションもフロントサスペンションの特性に合わせて、専用のチューニングを施し、車体全体のバランスを最適化し、リアのスタビリティを高めています。
フォレスターSTI Sportは、最高出力177ps、最大トルク300Nmを発生する1.8L水平対向4気筒直噴ターボ+CVTというパワートレインを搭載した「スポーツ」をベースとしています。車両本体価格はベースのスポーツが335万5,000円に対して、STI Sportは363万3,000円と27万8,000円高です。専用の外観デザインそしてナッパレザーの本革シート。そして専用チューニングされたサスペンションというメニューを考えるとこの価格はむしろ割安感さえ感じます。
フォレスターSTI Sportのボディサイズは、全長4,640mm×全幅1,815mm×全高1,715mm。そして最低地上高が220mmとベースのスポーツと同じ数値。サイズ的にはトヨタRAV4、日産エクストレイル、三菱アウトランダーPHEVなどがライバルでしょう。
SUVに乗っていることを忘れてしまいそうなハンドリング性能が印象的
前述のようにフォレスターSTI Sportには、専用のブラック加飾のパーツや専用塗装されたアルミホイールが装着されていますが、これまでのSTI Sportモデルと比べると、おとなしい雰囲気に仕上げています。フロントグリルとリアハッチに貼られたSTIのバッジがなければ、このクルマがSTIの手掛けたモデルとは多くの人は気がつかないでしょう。これは、フォレスターがスバルのコアモデルであるため、外観を派手にしたくないという意思も感じます。
また、専用チューニングを施されたサスペンションを装着していますが、車高、最低地上高ともに下がっていません。ココにも高い悪路走破性が魅力のフォレスターをスポイルしないようなチューニングという意思を感じます。
実際に乗ってみると、SUVに乗っていることを忘れてしまいそうなくらいのハンドリング性能が印象的です。特に背の高いSUVながらコーナリング時のクルマの傾きが少ないので、ドライバーはスポーティーに感じますし、乗員は揺れの少ない快適さを感じることができるでしょう。専用装備や安定感抜群の走行性能は+27万8,000円の価値はあると思います。
将来のスバルの姿もそろそろ見せないと、オーナーが限られてしまう
ただし、ほかのライバル車と比べると、WLTCモードで13.6km/Lの1.8Lターボエンジンやアナログメーターなど古さを感じます。ライバルはフルハイブリッドをはじめ、PHEV(プラグインハイブリッド)など電動化が進んでいます。フォレスターに搭載されている2Lエンジンのe-BOXERはマイルドハイブリッドですし、1.8Lターボはまったく電動化が進んでいません。運転する楽しさの表現も大切ですが、将来のスバルの姿もそろそろ見せないと、オーナーが限られてしまうのではないかという憂いもよぎりました 。
※記事の内容は2023年5月時点の情報で制作しています。