2019年のワールドプレミアから2年半、日産期待の電動SUV「アリア」がついに発売される。リーフに続く日産BEV(バッテリーEV)第二の矢の実力やいかに。岡崎五朗さんのレポートでお届けしよう。
都市部でも使いやすいサイズ
2019年10月の東京モーターショーでアリアコンセプトとして発表されてから2年半。アリアがようやく街を走り出した。日産としてはリーフに続くBEV(バッテリーEV)の第2弾となる。全長4,595×全幅1,850×全高1,655mmというボディサイズは現行型エクストレイルとほぼ同じ。ライバルとなるトヨタbZ4X&ソルテラ(4,690×1,860×1,650mm)よりわずかにコンパクトだ。都市部でも使いやすいサイズに抑えてきたのはまずは朗報である。
グレードは大まかに分けてB6とB9の2種類。B6のバッテリーは66kWhで、一充電あたりの航続距離は470km。B9には99kWhという大容量バッテリーが奢られ、航続距離もプラス140kmの610kmを確保する。さらに、それぞれのグレードにはフロントのみにモーターを搭載する前輪駆動と、前後にモーターを搭載する4WDを用意した。
実質400万円!バッテリー価格上昇を打ち消す大盤振る舞いの補助金
価格は、もっとも安いB6の前輪駆動が539万円。もっとも高いB9の4WDが790万円。そこから浮かび上がるのは、BEVが抱える大きな課題である価格問題はまだクリアされていないということ。ひと昔前は、大量生産することでリチウムインバッテリーのコストは劇的に下がると言われていた。しかし現実は逆で、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンといった稀少金属の高騰によってバッテリー製造コストは上昇傾向にある。それを受け、テスラなどは車両価格の大幅な値上げを繰り返している。とはいえ、BEVの普及を掲げる政府は大盤振る舞いの補助金を用意している。アリアB6のプロパイロット2.0搭載車の場合、国から92万円、東京都から45万円、エコカー減税を足せば総額141万8,500円が引かれるので、前輪駆動車なら実質約400万円で購入可能だ。
クリーンでモダンな外観デザイン、未来的なインテリア
今回試乗したのはまさにそのグレード。4年保有という縛りはあるものの、この先進感と車格感が400万円で手に入ると考えるとお買い得感は相当高い。まずは外観だが、クリーンでモダンでありながら、個性や上質感も伝えてくる仕立てはかなりの力作。「アリアを横目で眺めながらデザインした」というノートe-powerが大ヒットしたように、アリアのデザインも多くの人から支持されるだろう。
インテリアも気に入った。大型液晶を横に2つ並べた未来的なダッシュボードの下部には木目調パネルを配置。実はこのパネルは空調コントロールを兼ねていて、タッチすると指先に振動でフィードバックを伝えてくる。北欧家具によくあるような、もう少し明るい色調だとさらにいいのになと思ったが、視認性を考慮して暗めにしているそうだ。
B6の前輪駆動でも不足感はまったくない
前輪を駆動するモーターのパワースペックは160kW(218ps)/300Nm。シリーズのなかではもっとも控えめなスペックだが、一般道と高速道路を走ってみて感じたのは、これで十分だな、ということ。もちろん、驚くような加速が欲しければ290kW(394ps)/600Nmというスペックを誇るB9の4WD仕様を選ぶのが正解だが、なかなかどうしてB6の前輪駆動でも不足感はまったくない。それどころか、発進加速は力強いし、高速道路の本線への流入や追い越しでも胸のすくような加速を楽しめた。
驚くべきレベルの静粛性、要改善な高速道路での乗り心地
特筆したいのは静粛性だ。エンジン音が聞こえてこないのは他のBEVと同じだが、風音、外部騒音、タイヤ音など、ありとあらゆるノイズ対策を入念に施しているようで、アリアの静粛性は驚くべきレベルに達している。巧みなモーター制御による自然な加速フィールや、低速域での滑らかな乗り心地といった、地味だがドライブの快適性を大きく左右する部分の煮詰めも上々だ。
唯一気になったのは高速道路での乗り心地。リアサスの動きが渋く、ピッチングを伴った「揺すられ感」が発生しやすい。このあたりは今後の熟成に期待したい。
※記事の内容は2022年4月時点の情報で制作しています。