三菱から登場したピックアップトラックの「トライトン」(498万800円〜540万1000円)。2024年2月15日に発売され、好調なセールスが伝えられています。ピックアップトラック不毛の地・日本でトライトンが受け入れられた理由とは?岡崎五朗さんがリポートします。
世界で累計570万台以上を販売した、知られざる三菱のベストセラー
多くの方にとって、トライトンというネーミングもピックアップというとジャンルもあまり馴染みがないだろう。しかしそれは日本でのことであり、トライトンは三菱の世界戦略車として、またベストセラーカーとして非常に重要な地位を占めるモデルだ。
今回登場したのは3代目となるトライトンだが、その流れはフォルテ(1978年〜1986年)と、ストラーダ(1986年〜2008年)に遡ることができる。ネーミングは変わったものの、一連の小型トラックの系譜として捉えれば半世紀近い歴史の持ち主ということになる。その間、世界150の国と地域で累計570万台以上が生産・販売された。
日本はピックアップトラック不毛の地
先代トライトンは一時期日本でも販売されていたが、冒頭で書いたように日本でのピックアップトラック人気は低く、2011年にカタログ落ちの憂き目に遭っている。アメリカでは販売のトップ3をピックアップトラックが占めるほどの人気だし、アジアやアフリカ、ヨーロッパといった地域でもピックアップトラック人気は高い。しかし、軽トラックという超経済的なモデルや、さらに多くの荷物を積み込めるエルフのような中型トラックが人気の日本では、このサイズのピックアップトラックは中途半端な存在だと思われたのだろう。加えて乗用車ユーザーの多くも、コンパクトカーやミニバンを選ぶ傾向が強い。その結果、日本はピックアップトラック不毛の地となったわけだ。
そんな状況のなか、三菱は3代目へのモデルチェンジを機に再びトライトンを日本市場に提案してきた。果たしてピックアップトラック不毛の地で成功することができるのだろうか?ボディサイズは全長5360㎜×全幅1930㎜×全高1815㎜。ウェイトは2140㎏に達する。正直、日本には少々大きすぎる。価格も498万円〜540万円と決して安くはない。
北海道はわかるが大都会でも売れている理由とは
しかし、蓋を開けてみると三菱の予想を遙かに上回る注文が舞い込んだ。1位の北海道はなんとなく理解できるが、2位は愛知県、3位は東京都だという。これはどう解釈すればいいのだろうか。僕の仮説だが、トライトンは「新種のSUV」と捉えられているのではないだろうか。いま街には数多くのSUVが走っている。となるとSUVであるだけでは物足りなくなり特別感を求める人が増えてくる。その結果、ジムニーやジープ・ラングラー、ランドクルーザー、Gクラスといった本格的なクロカン4WDが高い人気を獲得した。そしてその延長線上に浮かび上がってきたのがピックアップトラックなのではないか。実際、試乗中の注目度はハンパなく高かった。なかには、わざわざ立ち止まって穴のあくほど見つめていた人もいたほどだ。
ある種のライフスタイルカーとして選ばれている
そんな仮説を強化するのが東京でよく売れていること、購入者の平均年齢が低めなこと、そして、より迫力のある外観をもつ上級グレードが販売の80%以上を占めているというデータだ。純粋にモノを運ぶためのクルマではなく、ある種のライフスタイルカーとして選ばれているからこそ、都会に住む若い人が上級グレードを買っているのである。
トライトンはタイで生産される輸入車であり、現地では1列シート車もあるが、日本に導入されるのはダブルキャブと呼ばれる2列シートの4ドアタイプ。乗り込むと後席は予想以上にゆったりしていて、大人4人が楽に過ごせる。当然、荷物はほぼ積み放題。雨が振ると荷物が濡れてしまうという弱点はあるが、オプションの荷室カバーを取り付ければ心配は無用だ。
厚みとか懐の深さとか豊かさとか信頼感とか
2.4Lガソリンターボと6速ATの組み合わせは2トンをゆうに超えるボディを余裕で走らせる。スポーツカーのような軽快感はないし、高級車のような優れた静粛性を示すわけでもないが、いかにもタフなクルマであることを伝えてくる重厚感や、良路と荒れた路面での乗り心地の差が小さい点は、強固なラダーフレームをベースに悪路の多い地域での走行性能に磨きをかけたメリットだ。
厚みとか懐の深さとか豊かさとか信頼感とか、そんな言葉で表現できるドライブフィールは、乗用車テイストを重視したSUVでは決して得られないものである。
税金は大幅に安いが、車検は1年ごとで高速料金も2割増しの1ナンバー
なお、トライトンは1ナンバー登録となる。同じ重量&排気量の3ナンバー車(カッコ内)と比較すると、自動車税は16,000円(43,500円)、重量税は9,900円(20,500円)と大幅に安いが、自賠責保険20,370円(13,410円)や任意保険、高速料金(約2割増し)は高くなる。車検も1年毎だ。どちらが得かは使い方によって変わってくるが、高速道路を多用しないのならメリットが生まれる可能性はある。
(写真:三菱自動車)
※記事の内容は2024年6月時点の情報で制作しています。