売れに売れているホンダN-BOXには2種類のボディと2種類のエンジンが用意されている。ボディの違いは対象ユーザの違いなので迷う人は少ないが、エンジンは高額なターボ車か普通のエンジンなのか、なかなか悩ましいところ。今回はN-BOXにターボは必要かどうか、実際に乗り比べてズバリ結論を出します。
カスタムは迷わない。迷うのはターボか否か
2017年8月に2代目に切り替わったホンダN-BOXの快進撃が止まりません。2018年3月にはなんと2万7000台以上を販売するなど、軽自動車のみならず日本で一番売れているクルマとして君臨し続けています。
その人気の理由はいくつでも挙げることができます。コンパクトミニバン並みに広い室内空間、便利なスライドドア、優れた燃費性能、最先端の安全装備、軽自動車とは思えない安定感のある走り、そしてホンダのブランド力。
そんなN-BOXを購入候補として検討されている方は多いかと思います。N-BOXにはノーマルとエアロパーツを装着したカスタムの2種類のボディがありますが、見た目も内装のテイストも大きく異なりますので、この点で迷う人は少ないでしょう。
N-BOXを選ぶにあたって悩みどころは、やはりエンジンのチョイスではないでしょうか。ベースとなる自然吸気エンジン(以下NAエンジン)は58馬力のパワーで27.0km/Lの燃費、ターボエンジンは64馬力、25.6km/L(カスタムは25.0km/L)。同じグレードでもターボ車は両側電動スライドドアだったり微妙に装備が良かったりするので単純な比較はできませんが、お値段はノーマルボディだとベースグレードのG同士で20万円、上級グレードのG・EXだと15万円ほど違います。カスタムはいずれも約20万円の差があります。
ただでさえ軽自動車としては高額な部類に入るN-BOX、果たしてその値段に見合う価値がターボ車にあるのでしょうか。今回はNAエンジンとターボエンジンの2台のN-BOXを借り出して、乗り比べてみましょう。
試乗したのはNAエンジン車が白いノーマルボディのG・EX Honda SENSING、ターボエンジン車が茶色のカスタムのG・EXターボ Honda SENSING。いずれもご自慢の助手席スーパースライドシートを装備する最上級グレードです。
白い、と書きましたが正式カラー名は「プレミアムホワイト・パールⅡ」、茶色は「プレミアムグラマラスブロンズパール」という立派な名前が付いています。お値段もフロアマットなどのディーラーオプション抜きでNA車が168万2640円(税込)、ターボ車が198万1800円(税込)となかなか立派です。
同じエンジンであればノーマルボディとカスタムで走りに大きな違いはありませんが、カスタムのターボ車だけタイヤが15インチとなる点が異なります。せっかく両方借りられたので、万が一ノーマルかカスタムかで迷われている方は以下の写真たちで雰囲気の違いを見極めてみてください。
<あわせて読みたい>
エンジンもオートマも果てしなくスムーズなNA車
最初に走らせたのはNAエンジン車の方です。パワーに違いのあるクルマを比較試乗する場合は低い方から乗った方が違いがわかりやすい、というのはこの業界の鉄則です。
NA車はノーマルボディ、パッと見ると旧型に似ているなと感じますが、よく見ると角が取れたデザインになっていて洗練を増しています。大ヒット作品の二代目として順当な進化ではないでしょうか。内装もベージュとブラウンで品の良いデザインです。
走り始めてすぐに気づくのは刷新されたNAエンジンのスムーズさと静かさです。軽自動車で主流の3気筒エンジンは、一般的な4気筒エンジンに比べて音も振動も出やすいのですが、このクルマは非常にそれが抑えられています。筆者の世代だと「さすがエンジンのホンダ」という言葉が思い浮かびます。二輪車にルーツを持つホンダのエンジンは、やはりいまだに他の国産メーカーのエンジンよりスムーズに回るものが多いと感じます。
発進から停止まで滑らかなCVTの制御にも感心しました。高速道路の合流や追い越しなどでアクセルペダルを半分以上踏み込むと、エンジン回転数が4000回転くらいまで先に上昇し、スピードが後から上がってくるというCVTの悪癖が顔を出す場面もあります。しかし日常の使い方の中ではエンジンパワーの出方とスピードの上がり方がとても自然で、ターボ車でないのにコンパクトカーに乗っているような余裕すら感じます。これで十分、というか十二分です。ターボは必要ないのではないか、という結論をターボ車に乗る前に出してしまいそうになる自分がいます。
乗るたび思うN-BOXの乗り味の良さ
今回の記事はエンジンが主役とはいえ、やはり触れたくなるのはN-BOXの乗り心地の良さです。しっかり地面を掴み、穏やかに揺れを収束させる乗り味はフランス車のような心地よさを感じます。軽自動車離れしているどころか国産コンパクトカーに混じっても、この乗り味の良さは特筆できるレベルです。
明確にパワフル、不満なしのターボ車だが
ターボ不要論が頭の中で渦巻く中、茶色、いやプレミアムグラマラスブロンズパールのカスタムターボに乗り換えます。カスタムの見た目は新型になってグッとモダンになりました。アルファード・ヴェルファイアを頂点に日本車に広がる「押し出しの強いフロントマスク」一族の系譜に連なる一台としては、大丈夫ですか?と心配になるほどスマートです。
一方、ブラックを基調にブラウンが差し色としてあしらわれた内装は、グッとオトコ臭さを感じます。このジャンルの始祖・タントカスタムに比べるとメーターがセンターになく運転者の前のあるべき位置(?)にあるので、その点でも気分が盛り上がる男性は多いでしょう。
走り始めると明確にターボエンジンの力強さを感じます。街中ならそれほどアクセルを踏み込まなくても十分に加速します。NA車で少々不満だった高速道路の合流や追い越し加速でも、むやみにエンジン回転が上がることはありません。またエンジン回転数が低いところからターボによるパワーアップが十分発揮される点も大人びていて好感が持てます。ただNAエンジンの印象が良すぎたので、感動はそれほどなかったというのが正直なところです。
カスタムのターボ車は少し乗り心地が・・・
そしてカスタムのターボ車に乗って気になったのは、本題とは外れますが15インチの大きなタイヤによる乗り心地の悪化です。見た目を重視するためカスタムのターボのみ15インチになりますが、細かな振動や段差を乗り越えた時の衝撃は14インチを履く他のN-BOXに比べて大きめです。全体的な乗り味はカスタムのターボ車も良好ですが、NA車、というより14インチタイヤを装着したモデルの乗り味の良さが光りすぎているのかもしれません。
気になる燃費については厳密に測ったわけではないのですが、燃費計を見ている限りややNAがいいかなという程度の違いでした。ただ別の取材でNAのN-BOXを走らせた時、アップダウンの激しい道で予想以上に燃費が悪化したことを考えると、山道や高速道路を使う場合は、もしかしたらターボモデルとの燃費差はより縮まるかもしれません。
光るNAの乗り味の良さ、パワーもこれで十分!
業界の鉄則に反して、念のためターボ車に乗り終えた後、NA車に乗り直しました。ああ、やはりこれで十分、十二分だと思いました。少し前のエンジン回転ばかり上がってスピードの付いてこない軽自動車をイメージして乗ると驚くほど余裕があります。そしてNA、ターボ問わずN-BOXはよくできたクルマだと改めて感じました。
「売れているクルマ」が必ずしも「いいクルマ」とは限らないのですが、N-BOXについてはNAもターボも「いいクルマ」だと太鼓判を押してもいいでしょう。
※記事の内容は2018年6月時点の情報で執筆しています。