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コンパクトなボディにホットなエンジンを搭載することで、かつて一世を風靡したスポーツハッチ。今や希少となったこのジャンルの代名詞がホンダシビックタイプRです。その5代目モデルに岡崎五朗さんが試乗しました。
尋常ではないそのハードウェア性能
初代登場から50年。11代目となるシビックが2021年にデビューした現行モデルだ。1.5L直4ターボを搭載した標準グレードの走りは想像以上の出来映えで、とくに強靱なボディ剛性としなやかな足回りが生みだすフットワークには上質感すら漂っていた。とはいえ、よくできたクルマ以上のインパクトがなかったのも事実。
ところが、2022年に追加されたe:HEV(ハイブリッド)と、超高性能モデルであるタイプRは違った。実際に試乗し、尋常ではないそのハードウェア性能に思わず腰を抜かしそうになったほどだ。
素晴らしいハイブリッドモデルの陰にタイプRあり!
今回はタイプRをメインにレポートしていくが、その前に簡単にe:HEVについても触れておこう。e:HEVとはホンダ独自のハイブリッドシステムで、エンジンは基本的に発電用として作動し、駆動は電気モーターで行う。日産のe-POWERに近い仕組みだ。しかしe-POWERが電動駆動オンリーなのに対し、e:HEVはエンジン直結モードももっている。これにより、フル加速時の力強さと、高速巡航時の燃費性能を引き上げることができた。燃費は15Lターボの16.3km/Lに対し、e:HEVは24.2km/Lをマークする。
しかしシビックe:HEVの魅力は燃費だけじゃない。常用域ではモーターメインの静かでスムースな走りが気持ちいいが、アクセルを深く踏み込むとエンジンとモーターがタッグを組んでビビッドな加速を演じる。加えてエンジンをブン回したときのフィーリングが素晴らしいのだ。最近のホンダエンジンはちょっとラフなものが多かったが、昔のホンダエンジンは4気筒でも他社の6気筒に勝るとも劣らない上質な回転フィールをもっていた。シビックe:HEVの2L直4エンジンにはそんな感覚が戻ってきている。エンジニアに聞くと、嬉しそうに「クランクシャフトやエンジンブロックの剛性を高めたのが効いているんです」と答えてくれた。燃費やコストだけにこだわっていたことを反省し、フィーリングにもしっかり手を入れてきたということだ。標準モデルよりもさらに上質さを増したフットワークも魅力ポイント。ハイブリッド車=燃費オンリーという常識を覆し、速くて快適で気持ちよく、なおかつ燃費のいいクルマに仕上がっている。
e:HEVが素晴らしいクルマに仕上がった背景にタイプRの存在がある。e:HEVにはタイプRの開発ノウハウが反映されているのだ。もちろん、タイプRは生粋のスポーツモデルなので味付けは異なる。だが、パワーステアリングの特性やボディ剛性向上対策といったエッセンスを採り入れ、それをスポーツ方向ではなく上質方向に寄せた結果、標準車とは別モノといっていい乗り味が実現できたのである。
クラッチは軽いし、低速トルクもしっかり出ている
話をシビックタイプRに戻そう。搭載するエンジンは4代目タイプRから使っている2L直4ターボだが、最高出力は4代目の310ps、5代目の320psを経て今回330psまで上げてきた。また、ターボチャージャーや吸排気系、冷却系の改善、フライホイールの軽量化といった対策により、レスポンスのさらなる改善とサーキット連続走行時のパワー維持性能を向上している。トランスミッションは6速MTのみだ。ということを書くと、さぞかし扱いにくいエンジンだろうなと思うかもしれない。しかし印象は真逆。クラッチは軽いし、低速トルクもしっかり出ているので街中でもポンポン6速に入る。一度ATに乗ってしまうとMTに戻るのが億劫になるものだが、よほどの長い渋滞にでも遭遇しなければストレスを感じることはないだろう。それどころか、カチカチと小気味よく決まるMTを駆使して走ることの楽しさを再発見できるはずだ。
盛大なロードノイズを除けば乗り心地もよい
乗り心地のよさも新型タイプRの持ち味だ。もっともスポーティーな+Rモードを選ぶとさすがに上下の揺すられ感が強くなるが、ドライブモードをコンフォートにセットしておけば足はしなやかに動くし、突き上げも最小限。気になったのはザラ路での盛大なロードノイズぐらいだ。高速道路ではアダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストをオンにして楽ちん走行もできる。ただしMTだから車速が一定以下になるとキャンセルされるが。
なによりサーキットでの安心感の高さがスゴい!
サーキットでも試乗した。速さもさることながら、なによりスゴいなと感じたのが安心感の高さだ。高いグリップ、グリップ限界を超えたときの挙動の安定感と挙動変化のわかりやすさ、アクセルオフ時のタックインも腰砕け的な流れではなく、ドライバーの意図したタイミングで意図しただけの動きを作り出せるため、アクセルペダルに載せた右足で姿勢をコントロールする楽しさも満喫できる。そんな安心感があるからこそ、サーキットでも冷や汗ではなく気持ちのいい汗をかける。タイトロープを渡るような危うい緊張感ではなく、人車一体となってドライビングに集中できるのがタイプRの真髄だ。
ワインディングロードを走るのも悪くないが、もしこいつを手に入れたらたまにはサーキットに持ち込んで思い切りスポーツ走行を楽しんで欲しい。そんな使い方をしてこそ、シビックタイプRは最高に輝く。
※この記事は、2022年11月時点での情報で執筆しています。