北米市場で絶大な人気を誇るホンダ「アコード」(172万7000円~233万2000円)。2024年3月8日に発売された11代目モデルは
そんな歴代モデルの良さを引き継ぎつつ、新しい息吹を感じさせる一台となっているようです。岡崎五朗さんの試乗レポートをお届けしましょう。
今やメルセデス・ベンツEクラスとほぼ同じサイズ
アコードといえばホンダのビッグネーム。昨今の日本では存在感が薄いけれど、世界、とりわけ北米市場にフォーカスすれば「過去50年でもっとも売れたクルマ」だという。当然ながらクルマ作りの方向性はメインマーケットを強く意識することになり、モデルチェンジをする度にボディサイズは大型化。11代目となる新型では全長4975㎜、全幅1860㎜、全高1450㎜に達した。メルセデス・ベンツEクラスとほぼ同じサイズ、と言えばわかりやすいだろう。
セダンの王道を突き詰めた端正なルックスだが
いまの日本に、このサイズのセダンを求めている人がどれだけいるのかと問われたら、正直なところウーン・・・と唸るしかない。キャラのたった高級輸入車ブランドなら話は別だが、国産の高級セダンが苦戦を強いられているのはいまに始まったことではなく、だからこそトヨタはクラウンを大変身させてきた。それに対し、アコードのルックスはとても端正だ。奇をてらわず、セダンの本道を突き詰めた姿は個人的には嫌いじゃない、というより好感すら抱いたが、王道のセダンルックに興味をもつ人はいまや少数派という現実を変えるだけのインパクトには欠けるといった印象だ。
「いいクルマに乗ってるなぁ」という満足感を十分に味わえる
のっけからネガな部分を書いたが、ディーラーにいって試乗すれば新型アコードに対する印象は大きく変わる可能性が高い。ひと言でいえば、退屈とか保守的とは正反対のクルマに仕上がっているからだ。まずいいなと思ったのがインテリアだ。直線基調のデザインはシビックに通じるモダンですっきりしたものだが、各部に使っている素材はより上質であり、「いいクルマに乗ってるなぁ」という満足感を十分に味わえる。
Googleが提供するサービスや賢い音声認識を車両に統合した「Googleビルトイン」の使い勝手も最高だ。クルマと深い部分まで統合されているため、スマホをメインシステムとして用いるAndroid AutoやAppleCarPlayではできない、エアコンの温度設定なども音声認識で操作できる。現在、自動車メーカー各社はより賢くて使いやすいインフォテインメントシステムの開発にしのぎを削っているが、新型アコードのGoogleビルトインは、いまもっとも先進的なソリューションである。
トヨタよりも電動駆動フィールが強く、日産よりも燃費がいい
それ以上に魅力を感じたのが走りだ。新型アコードのパワートレーンは2L直4ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドのみ。基本的な構造は先代と同じだが、今回はエンジン、モーター、バッテリー、インバーター、2つのモーターを内蔵した電気式CVTなど、主要部分をほぼ刷新してきた。そして、これらが生みだす走りが実に爽快なのだ。燃費低減効果が小さいマイルドハイブリッドは横に置き、フルハイブリッドに限定しても、メーカーによって考え方が違う。トヨタのハイブリッドはとにかく燃費ベスト狙い。それに対し日産は電動駆動フィールを重視している。そして両者のいいとこ取りを狙ったのがホンダ方式だ。具体的に言えば、トヨタよりも電動駆動フィールが強く、日産よりも燃費(とくに高速領域)がいい。まあ一歩間違えると両者の悪いとこ取りになってしまうリスクもあるが、そこはさすがのホンダ。素晴らしい回答を引き出すことに成功している。
ドライブフィールは譲れないよね、というホンダの考え方に共感
街中を流れに乗って走っているようなケースでの主要動力源はモーター。静かに、滑らかに走る。もちろん、バッテリー容量の限られたハイブリッドなので必要に応じてエンジンを始動し充電しながら走るが、いきなりエンジンがゴーッと回るような無作法な真似はしない。このあたりは日産のe-POWERとよく似ている。一方、アクセルを深めに踏み込むと即座にエンジンがかかりエンジン+モーターで力強い加速が始まる。トヨタのハイブリッドとの違いをいちばん感じるのがこのシーンだ。エンジン回転数と車速の伸びが一致しないCVTフィールが強いトヨタ式に対し、アコードは車速の伸びにつれエンジン回転数が高まり、回転数が一定に達すると(疑似)シフトアップが起こる。加えて、エンジンの回転フィールやサウンドも爽快なので、ちょっとスポーティーなエンジンを積んだAT車のような感覚で乗れるのだ。この部分はトヨタや日産のハイブリッドでは味わえないホンダ独自の魅力である。もともと燃費を改善するために登場したハイブリッドだが、だからといってドライブフィールは譲れないよね、というホンダの考え方には大いに共感できる。
脱オヤジセダン、乗るとかなり楽しいクルマ
スポーティーなパワートレーンと歩調を合わせるように、ハンドリングも大柄なボディサイズを意識させない軽快な仕上がりだ。荒れた路面ではコツコツした突き上げが気になるケースもあるが、クイック気味のステアリング特性や、ロールを抑えた切れ味のいいコーナリングからは、脱オヤジセダンという狙いがはっきりと伝わってくる。要するに、乗るとかなり楽しいクルマということだ。
そう考えると、かえずがえすも綺麗にまとまってはいるがインパクトに欠けるデザインがもったいないなと、話題は冒頭に戻る。タイプRまでは必要ないが、以前あったユーロRのようなちょっとスポーティーに振った仕様があれば、新型アコードのコンセプトはより理解されやすくなり、注目してくれる人も増えると思う。
※記事の内容は2024年3月時点の情報で制作しています。