マツダが2021年12月16日に、オープンスポーツカー『ロードスター』の改良と2タイプの特別仕様車と1つの新グレードを発表しました。筆者は、この発表に伴う試乗会に参加してきましたのでレポートをお届けします。
改良点はたった1つ!しかし、これはデカい!
2015年にフルモデルチェンジを受け、4代目『ND』ロードスターは、改良が重ねられた熟成モデルに仕上がっています。しかし、マツダはさらなる改良を加えてきました。今回の改良点は、なんとたった1つ。『KPC』と呼ばれる新技術を全車に採用しただけでした。
『KPC』とは?
KPCとは『KINEMATIC POSTURE CONTROL (キネマティック・ポスチャー・コントロール)』の頭文字をとったもので、KINEMATICは「運動学」、POSTURE「車体姿勢」、CONTROLは「制御技術」を意味します。和訳しますと、「運動学に基づいた車体姿勢制御技術」となります。
【KPCの特徴①】新たなデバイスを追加していない
ピュアスポーツカーは「軽いは正義」。特にバネ下重量(サスペンションより下)は1gでも軽くしたいものです。クルマ業界では一般的に、バネ下重量はバネ上重量の10倍に相当し、例えばバネ下重量を1kg軽量化すると、バネ上重量10kgの軽量化に相当することになります。人間に例えていうと、1L=1kgの水が入ったペットボトルを手に持って走るのと、そのペットボトルを足首あたりにくくり付けて走るのと、どっちが速く機敏に走れるのか、と同じです。スポーツでも靴は軽いほうがいいですよね(この点は、後で紹介する特別仕様車『990S』に通じるお話です)。
KPCは、既存のブレーキシステムの制御のみを変えたもので、新たなデバイスの追加=重量増はありません。
【KPCの特徴②】ロードスターがそもそも持っている姿勢安定構造を活用
ロードスターのリアサスペンションは、マルチリンク式ですが構造は仮想的なトレーリングアームを備えており、コーナリング中にブレーキをかけると車体を引き下げる「アンチリフト」効果を元々もっています。バイクに乗っている方ならおわかりいただけると思いますが、走行中に後輪だけにブレーキをかけると車体後部が沈み込む仕組みと同じです。
KPCは、一定の横Gがコーナリング中に車体にかかると、後輪内輪のブレーキをごく弱くかけ(クルマ業界ではこれを「ブレーキをつまむ」と言っています)て、アンチリフト効果を発生させ、コーナリング中に車体後部が外側にめくれあがる(クルマ業界ではこれを「ヒーブ」と呼びます)のを防ぐという仕組みです。
【KPCの特徴③】KPC作動によるブレーキパッドの摩耗やブレーキ熱害はない
マツダはKPCの開発にあたって、ニュルブルクリンクで耐久性を検証、ブレーキ熱害やブレーキパッドの消耗がないことを確認したとのことです。
【KPCの特徴④】アフターパーツを装着しても弊害がない
多くのロードスターオーナーは、タイヤやブレーキシステムのカスタマイズをしています。サードパーティは豊富なアフターパーツを開発、販売していますので、カスタマイズはロードスターの醍醐味のひとつでもあります。KPCは、ブレーキ、タイヤ、サスペンションをアフターパーツに換装したときでも弊害がないとのことです。
【KPCの特徴⑤】LSD、リアスタビライザーの有無に左右されない
ロードスターの軽量化グレード『S』と今回の商品改良と同時に発表された特別仕様車『990S』は、LSDとリアスタビライザーが装備されていません(詳しくは後述)。KPCは、LSD、リアスタビライザーの有無に左右されずに安定したコーナリング性能を発揮するとのことです。
KPCありとなしの比較試乗した結果は?
試乗の順番の都合で、一番最初に乗ったのはKPCありの特別仕様車『990S』でした。軽く横Gがかかる最初のコーナリングで、KPCの効果を感じることができました。KPCが作動した状態のコーナリングでは、トランクリッドを大きな手のひらで優しく上から押さえてくれているような感覚です。
比較試乗すると、KPCなしよりありのモデルはリアが安定するので、コーナリング中にアクセルをより踏めることがわかりました。コーナリングスピードアップの効果もあります。
ロードスター最軽量モデル『990S』はイイ!
今回の商品改良と同時にデビューした『990S(キュー・キュー・マル・エス)』は、ロードスターの最軽量モデル『S』をベースに、さらにバネ下重量を軽量化した特別仕様車です。
『S』は、ベーシックグレードですが、単に装備が簡略化された最安価グレードという認識は誤りとなるでしょう。マツダは、『S』を最軽量モデルと位置付け、街なかを走るような普段使いでも楽しんで運転できるよう、LSDをはずし(「オープンデフ」といいます)、リアスタビライザーをはずしナチュラルな乗り味に仕上げています。初代『NA』ロードスターの乗り味に近いことから、マツダの開発陣にも「S信奉者」が多いといいます。ちなみに、この仕様は、日本市場のみの特権だそうです。
『990S』の特徴
990Sは、バネ下重量軽量化と運動性能向上のため次のような特徴をもっています。
➢ RAYS(レイズ)の鍛造ホイールを装着
➢ ブレンボの対向4ピストンキャリパーブレーキシステムを採用
➢ ダンパー、コイルスプリング、電動パワーステアリング、エンジン制御を990S専用に変更
これによりバネ下重量は1輪あたり約800g、合計約3.2kgの軽量化を達成しています。
内外装では次の差別化が図られています。
➢ ネイビーブルーの幌
➢ ブレンボのブレーキキャリパーのロゴはブルー(珍しい!)
➢ エアコンルーバーリングにブルーの差し色
➢ フロアマットの「Roadster」のロゴはブルーの刺繍
990Sは軽量化のイメージでブルーを採用したとのことです。お金をかけない差別化ですが、とても効果的でかっこいい!良きセンスです。
また、車両価格も軽量化されており、300万円を切る289万3,000円。クルマ業界の方も何人か飛びついてオーダーしています。
990Sの乗り味は?
乗って100mも走らないうちに「軽いは正義」を感じます。オープンデフですので、交差点をゆっくり曲がるときにもナチュラルな挙動(LSDありだと、左右の車輪回転を合わせるので、低速域で加速しながら曲がると後輪内側は引っかかる感じがする)で、リアスタビライザーがない分、乗り心地も良くなります。
リアスタビライザーなしとKPCの相性もバッチリ!リアスタビライザーがないとコーナリング時の車体後部のロールは大きくなりますが、連続したコーナーを駆け抜けるときの「ヒラリヒラリ」といった乗り味は最高に気持ちがいいものでした。
LSD・リアスタビライザーありありのモデルに乗ると、高い旋回スピードでの安定感がより顕著に感じられます。ロングドライブでの疲労軽減にも貢献してくれそうです。
また、電動ハードトップで車重が重たくなる『ロードスターRF』のKPSありモデル(リアスタビライザーあり)に乗ると、そもそも幌のロードスターより大人の乗り味のRFがさらに、上品な大人の乗り味に感じられます。
さまざまなモデルに比較試乗しましたが、筆者的には『990S』が一番好印象でした。990Sは(「S」もですが)、幌のインシュレーターがコストと軽量化の両面により省略されています。しかし、これにより、幌を閉めたときのエンジン音が室内に大きく入ってくるため、静粛性が削がれますが、よりダイレクトな運転感覚になり、気分がアガリますね。
ロードスター『990S』は、300万円を切る車両価格で、オープンカーに乗りたい初心者から、往年のロードスターのファンまでおすすめの1台。オープンカーに興味なくてもスポーツカーには乗ってみたいという方にもおすすめです。
※記事の内容は2021年3月時点の情報で制作しています。