2021年10月24日、軽井沢プリンスホテルスキー場にてマツダ ロードスターのファンミーティングが開催されました。毎年5月頃に開催されるこのイベント、今回はコロナの影響で中止かと思われましたが、5ヶ月遅れで無事開催となりました。
このファンミーティングのトークセッションでは「ロードスターの商品改良と、改良を受けた特別仕様車『990S』の正式発表をするよ!」という発表がサプライズで行われました。
正式発表・発売は、年内の予定でデリバリーは来年1月以降という、世界的な半導体不足の影響を受けてのスケジュール。
「正式発表をするよ、という事前公式発表」というあまり例をみない(過去にはロードスターのフルモデルチェンジを正式発表するよ、という発表をファンミーティングでしていたとか)ケースで、会場には多くのメディアが取材に来ていました。
ロードスターファンミーティングの様子と、取材に行くまでのちょっとした裏話
特別仕様車「990S」とは?
「990S」の“990”とは、車両重量のことで“S”は、エントリーグレードの「S」のことです。
Sは、カタログでは最も車両価格が安いため、エントリーグレードと認識されるのが一般的。マツダの開発陣はそれをちょっと否定していました。
開発陣によるとSは、NA型(初代)ロードスターに最も近い走りを見せる軽量モデルとのこと。Sを信奉するスタッフが多いといいます。
Sは、上級グレードに装備されているリアスタビライザー、LSD、インシュレーター(遮音材)が省略されたピュアな走りのモデル。また、カーナビやマツダコネクトも省略してラジオのみというストイックな装備です。
Sの車両重量は990kgで、990Sも同じ990kg。カタログに記載する車両重量は届け出上10kg刻みになるため、1kgの単位が丸められます。なお、990Sはバネ下重量の軽減で、Sより3kg強の軽量化を達成。ロードスターの最軽量モデルとなりました。
ブレンボのブレーキシステム
「990S」は、ブレンボの大容量ブレーキシステムを採用しています。ブレーキをブレンボに換装するとローター径を大きくする必要があり、ローターの重量が増加しますが、キャリパーが軽いため、ブレーキシステムでは1輪あたり約700gの軽量化を達成しています。
RAYSのアルミホイール
「990S」のアルミホイールは、ロードスターファンにはおなじみ「RAYS(レイズ)」を履いています。これにより、1輪あたり約800gの軽量化を達成しています。
足回りやエンジンの専用チューニング
ダンパーとスプリング
「990S」のダンパーは「S」より“限界まで”柔らかく下げてスプリングもチューニングしています。
これは乗り心地の良さを追求したセッティング。「リアスタビライザーがない足回りはワインディングで心配」と思われた方、ご安心ください。後述する世界初の新技術がしっかりとワインディング走行をサポートします。
電動パワステ
ブレーキシステムとアルミホイールで軽くなったバネ下重量により、ハンドルが重たくなる現象をキャンセルするセッティングにチューニングしています。電動パワステは、アシストの入れ方を990S専用にチューニングしているとのことです。
PCMユニット
「990S」はPSMユニットをチューニング、アクセル応答性を高めています。
幌やインテリアやキャリパーの差し色にネイビー
「990S」の幌はネイビーを採用。ロードスターとしては、ネイビーの幌は初採用とのことです。
他のグレードは黒が標準。990Sはロードスター最軽量モデルらしく、軽快感を演出するためネイビーにしたとのことです。
(ファン向けのちょっとこぼれ話)ロードスターファンミーティングで990Sのお披露目を企画したマツダ広報担当の田中さんは「M2」の開発に全面的に携わっていた方。当時、専用ボディカラーにホワイトとネイビーがあったことを語り、990Sのホワイトとネイビーの組み合わせを感慨深く語っていました。
改良モデルに世界初の車両姿勢安定化制御「KPS」を採用!
車両姿勢安定化制御「KPS」は、コーナリング時に0.3Gの荷重がかかると、後輪内輪のブレーキをちょっとつまむという仕組みとのこと。
ロードスターの後輪は「アンチノーズジオメトリサスペンション」を採用しており、ブレーキをかけると後輪側が沈みこむ特性をもっています。
この特性を利用して、コーナリング時は後輪内輪に荷重がかかり、接地性を大きく向上したといいます。
「990S」や「S」グレードのようにリアスタビライザーのないクルマは、街乗りでは乗り心地が良い反面、コーナリング時に後輪内輪が少し浮くような状態(ハードに走ると完全に浮く)になります。しかし、KPSが作動すると、あたかもリアスタビライザーが効いているかのように接地します。
また、990SとSにはLSDが省略されていることも、マツダの提唱する「人馬一体」の走りをプラスしています。
LSDは、常に駆動輪の左右の回転数を合わせようとする特性があり、コーナーに進入するとき、内輪が少しひっかかるような感覚を引き起こします。990SとSはLSDのない「オープンデフ」のため、とても自然なフィーリングでコーナリングできます。
990Sの足回りを極限まで柔らかくできたのは、KPSが実装できたから。普段の街乗りでは、柔らかくしなやかな乗り心地の良さを確保。しかしいざ山道に持ち込むと、スポーティーな走行を堪能できる「1粒で2度おいしい」クルマに仕上がったそうです。
なお、KPSは990Sだけでなく、全モデルに標準装備されるとのこと。これが、改良型ロードスターのポイントです。
リアスタビライザーやLSDが付いた上級グレードでは、KPSの採用でより安定したスポーティーな走行ができます。ただ、運転に自信がある方でピュアな走りを求めるなら、990Sは最もおすすめのモデルとなるでしょう。
(ファン向けのちょっとこぼれ話)990SとKPSの全車採用を正式発表すること事前に伝えたファンミーティングのトークセッション。広報担当の事前の打ち合わせでは「KPS」という名称は明らかにしない方針だったそうです。しかし、開発主査の斎藤氏のリップサービス(?)で公になってしまいました。また、「KPSをOFFにするには“ここだけの話”、推奨しないがDSCを切ると連動して切れる」とのこと。司会者から「メディアもたくさんいるこの場で“ここだけ”はないでしょうね」と軽くツッコミを入れる一幕も。
正式発表は年内。価格は……
世界初の車両姿勢安定化制御「KPS」を採用した改良型ロードスターと、最軽量モデルとなった特別仕様車「990S」の正式発表は年内、デリバリーは年明け以降順次とのアナウンスでした。
990Sの価格はアナウンスされませんでした。しかし、マツダの担当者は「ディーラーに行けば、教えてもらえます」と“ここだけの話”としてアナウンス。
“ここだけの話”やリップサービスがたっぷりのロードスターファンミーティングでのトークセッションでした。これは、マツダがファンを大切にするがゆえの出来事。
本来なら、990Sは開催が中止された東京モーターショーでお披露目されていたとのこと。ロードスターの改良と最軽量モデル特別仕様車の初披露を、ファンミーティングで実施したというのも、心あたたまるエピソードとなりました。
撮影・取材:宇野 智