世界的な半導体不足やコロナ禍による部品供給の遅れなどで新車の生産が滞っています。そしてその影響は中古車市場にも飛び火し、流通台数の減少や価格の高騰も取り沙汰されています。しかもウィズコロナ時代の新しい潮流がその傾向に拍車をかけているようです。自身で中古車販売店も営んでいる自動車ライター、桑野将二郎さんからの現場レポートをお届けしましょう。
コロナ禍が招いた新車不足=中古車不足のスパイラル
もう散々あちこちで報道されているので皆さんご存じかと思われますが、このコロナ禍の影響で世界的な半導体不足が起こり、様々な弊害が出ています。とくに機械関係の生産・流通は、いかんともしがたい状況であることは間違いありません。
実際、私が大阪で営んでいる自動車販売店でも、この2年ほどの間で次々と過去に例を見ない事が起こっています。例えば、カーナビやドライブレコーダーなどは最新機種を取り付けたくても、なかなか商品が入荷してきませんし、自動車部品の一部は発注をかけても半年待ちなんてザラです。こういった影響がエンドユーザーにまで及んでいるわけですから、当然ながら自動車メーカーやそれにまつわる企業のダメージは計り知れないレベルなのです。
中古車の品不足は1年以上続いている
そんな現象がコロナ禍とどういう因果関係にあるのかと言いますと、大きくは2つありまして、1つは半導体不足によってあらゆる機器の生産が停滞してしまうこと、もう1つは海外サプライヤーからの部品納入の遅れ、これはコンテナ不足などロジスティクスの面も影響していますが、とにかく海外輸入に頼らざるを得ない今の日本にとっては、相当しんどい現状となっています。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための政策で、工場がストップしたり、流通が滞ったり、私たちの目に見えないいろいろなところで影響があり、結果として自動車産業においては新車がラインオフされない状況が続き、新車納期は通常より大幅に長くなっています。こうなってくると、新車と表裏一体にある中古車も呼応するように不足してきます。とくに人気車種や需要の高い軽自動車、時流にのっているSUVやアウトドア指向のモデルは、買いたくても買えない、お店側も売りたくても売れない、そんな負のスパイラルが1年以上続いているのが実情なのです。
過去最高に売買が活発な中古車市場、若者が高いクルマを買っている
あるオートオークション運営会社のデータによりますと、今年上半期の中古車成約車両単価は、前年比で20%以上アップしているそうです。また、某中古車メディアの実態調査によりますと、2021年度の中古車市場規模を費用総額で表すと、前年比およそ22%増の約4兆1,700億円と推計されています。
実は昨年2020年は、コロナ禍の影響がマイナス傾向に働き、中古車の市場規模も減少傾向にありましたが、2021年は公共交通機関に代わる日常の安全な移動手段として、100万円未満の中古車のニーズが急激に高まり、後半ではさらに200万円以上の価格帯の中古車販売数が伸びました。
ボディタイプ別では、軽自動車の割合が少しずつ落ち着き、クロカンSUVのジャンルが増加傾向にあり、購入単価の引き上げも伴っています。これは、ウィズコロナの新しい時代を象徴するもので、昨年のひっ迫した中古車購入とは違い、より趣味・嗜好に沿った中古車選びが進んでいることを表しているのだと思われます。
また、ここ数年は若者のクルマ離れというワードが多く聞かれましたが、実はこのコロナ禍で中古車を購入した年齢層を調べると、20歳代が最も多く、30歳代がこれに続きます。そして、購入単価においても20歳代や30歳代の若者が、40歳代以降の年代よりも高い傾向にあり、購入したクルマを所有する期間は短く、早めの買替えを行っているというデータもあります。単価高めの中古車を早いサイクルで買い替えているという実情を知ると、けっして若者のクルマ離れが進んでいるとは言えなくなっているのも、コロナ禍における市場変化だと言えるでしょう。
中古車不足の傾向は中長期が予想される
こういった状況下で、商品不足にあえぐ中古車業界は経営面で死活問題に直面しています。需要と供給のバランスで需要がまさっている今、仕入れ値が高いことに加えて、商品在庫を揃える難しさもあります。とくに展示場を広く構える大型店舗は、隙間だらけの店頭をなんとか繕うために、成約済みの車両もできるだけ長く展示したり、下取り車両を急いで店頭に並べるなど苦労が絶えませんでした。
この傾向はまだしばらくは続くと見られますが、それはコロナ禍の影響で収入が減ったり、転職を余儀なくされた人が増えることにより、新車を買っていた購入層が中古車狙いに移行してきたことも大きく影響しています。日本全体の実質的な経済状況が改善されない限り、深刻な中古車不足の傾向は中長期的に続くでしょう。
オマケに旧車の値上がりもジワジワと…
ただでさえ、「中古車が足りない=高値」という昨今の傾向に、さらに拍車をかけているのが旧車ブームです。このコロナ禍でも活況なのは、アメリカの中古車市場における「25年ルール」が影響していると見られます。アメリカでは基本的に右ハンドル車の輸入はできませんが、発売から25年を経過するとクラシックカーとして輸入することが可能となり、これが近年のネオクラシックカーブームと相まって、人気の高騰に拍車をかけているのです。
海外では映画で登場する日本車が注目され、例えば日産スカイラインGT-Rや、スバルインプレッサ、三菱ランサーエボリューションなどハイパフォーマンスモデルのほか、トヨタスープラやホンダシビックなど絶版車も高値で取引きされています。こういった車種は国内でも盗難の危険にさらされ、海外へ流出しているケースも多く、社会問題となっています。それでもなお、旧車を手に入れたいユーザーが絶えないのは、コロナショックに対する各国の金融緩和政策や財政出動策が関係しているのだと思われます。つまり、金融緩和で恩恵を受けているのは、すでに資産や資金を潤沢に備えている富裕層なわけで、日本やアメリカ、ヨーロッパにはそういった層が多く、ひいては世界的なカネ余り現象が見られることも確かなのです。日本でフェラーリやランボルギーニ、マクラーレンなど高級車の販売台数が衰えないことも、その証明になるでしょうし、同様にハイエンドモデルも新車がデリバリーされにくくなっている今、旧車のスーパーカーが人気となり市場で取り合いになるのは、自然な流れなのでしょう。
挙げ句、旧車の市場相場は年々右肩上がりとなり、投機目的のユーザーも参入してきました。実際、私が運営する旧車メインのショップでは、車種によっては10年前に比べると3倍程度の相場で取引きされ、最近は海外からの来店客が増えました。世界中で見ても、日本ほど中古車が良質かつローマイレージな国は他になく、海外のカーマニアにとっては宝の山なのです。日本に現存する貴重なクラシックカーが海外流出の危機にさらされているのも、我々クルマ好きにとっては深刻な問題であり、早く適正価格での流通に戻って国内のファンが無理せず購入できて維持できる、そんな世の中になって欲しいと願うばかりです。
2022年はカーライフ大変革の過渡期へ突入?!
2022年の自動車市場は果たしてどうなるのか?興味は尽きないところですが、トヨタがEVジャンルの強化を発表したり、これから電気自動車の普及に向けて中古車の市場相場にも変化が出てくるかもしれません。ただ、それは専門家でも予測が難しく、めまぐるしく変わる社会情勢と新しいウィズコロナの時代に、カーライフそのものの考え方にさえも大きな変革が起こる可能性があります。
だからこそ、本当に欲しいクルマ、乗ってみたいクルマには、今乗っておかないと先々後悔する時が来るかもしれません。それは、10年前だったら300万円そこそこで買えていた空冷ポルシェが、今や1,000万円近く出さないと買えなくなってしまったと嘆いている私自身が、心の底から痛感しているわけですから、本当に間違いないと思いますよ。
※記事の内容は2021年12月時点の情報で制作しています。