アメリカではここ数年で、日本の中古軽トラック人気が上昇中。ホンダアクティやスバルサンバーなどがアメリカで引っ張りだこなのだとか。日本独自の基準である軽自動車枠から生み出された、世界に誇れるジャパニーズ・ピックアップトラック“軽トラ”の第二の人生を追う!
25年ルールをきっかけに多くの日本車がアメリカに渡った
「日本の軽トラックが最近アメリカで人気あるみたいだよ」なんていう話を最近、中古車販売業者同士の話でちょくちょく聞きます。そういえば書店に並ぶ自動車雑誌にも、軽トラックを特集した記事が増えたような気もしますし、その記事の風景が海外の街中だった記憶もあります。その背景には、昨今の旧車ブームの要因と同様にアメリカ独自の25年ルールと呼ばれる法律が影響しているようです。
「Importing classic or antique vehicles / cars for personal use」と呼ばれるクラシックカー登録制度は、アメリカ合衆国運輸省の国家道路交通安全局(NHTSA)が定めているもので、本来は右ハンドル車の走行を法律で禁止しているところを、初年度登録から25年以上経過したクルマであれば輸入を認めるという特別ルール、まさにクラシックカーのための登録制度なのです。
アメリカは世界の中でも最も厳しい安全規制が設定されており、衝突安全性能の試験や排ガスを検査するスモッグテストなど様々な厳しい条件をクリアしなければ車を輸入することすらできません。ところが、製造から25年が経過していればクラシックカーとして認定されることで、右ハンドル車であっても厳しい安全規制は免除され、さらにはアメリカ国内での走行も可能になります。この25年ルールをきっかけに、この数年で多くの日本車がアメリカに渡り、JDMファンを魅了しているわけです。
日本仕様のカスタムを施すJDMがアメリカのカーマニアを熱狂させる
JDMという言葉を語るうえで、アメリカにおけるUSDMという言葉の意味を知ることが必要でしょう。これは、1970年代以降にアメリカで多くの日本車が販売されるようになるとともに自然発生的に根付いたカルチャーで、日本車をアメリカ独自の販売仕様に改造したりカスタムする手法を“USDM”(ユナイテッドステイツ・ドメスティック・マーケット)と呼んでいます。例えば右ハンドルから左ハンドルへ変更したり、スピードメーターのキロ表記をマイル表記へ変更したり、といった感じで、日本国内でもこのUSDMを模した仮想USDMというのが流行ったりもしました。その一方で現在は、アメリカの若者を中心に“JDM”が流行しています。これは、ジャパニーズ・ドメスティック・マーケットの頭文字を取ったもので、アメリカ仕様に変更するUSDMに対して、JDMは日本仕様をそのまんま所有したり、日本仕様のカスタムを施す手法となります。
25年ルールのおかげでアメリカでの走行が解禁となった日本車を、日本仕様のままアメリカで所有・維持するカルチャーに火がつき、特にジャパニーズ・スポーツカーに注目が集まっていることは、最近のネットニュースでも頻繁に見掛けることがあるはずです。こうしたジャパニーズ・スポーツカーがもてはやされるようになったキッカケは、カーアクション映画「ワイルド・スピード」(https://wildspeed-official.jp/)の影響が大きく、劇中に登場する多くの日本製スポーツカー、トヨタスープラやホンダシビック、日産GT-Rなどが海外でも高く評価されることにつながっています。また、日本のクルマが海外で人気なのは、日本車の高い技術力によって故障が少ないことや、メンテナンス性に優れているという面も大きく影響しています。内外装のデザインやパーツひとつをとっても、そのクオリティは世界が認めるものばかりで、旧車であってもカスタマイズのパーツや情報が豊富なことや、比較的手頃な価格で買えることも魅力となって、アメリカのカーマニアを熱狂させるに至ったわけです。
日本では車検が2年に1度の実施であるため、優良な中古車両が豊富に見つかることもあり、また世界中でもクルマを丁寧に扱う国として知られる日本の中古車が、人気となるのはうなずけます。安全性や利便性などを求めた場合でも、日本車はアメリカの多くの若者を中心に受け入れられている実情がある中での、軽トラ人気。さて、その実態とは?
ピックアップトラックと軽トラは似ている?
アメリカでは元来ピックアップトラックの人気が高く、かつての日本におけるセダンのごとく、多くのドライバーがトラックを駆っている姿が見られます。しかし高騰する燃料やインフレの影響もあり、より経済的でなおかつ壊れにくい優秀な日本の軽トラに注目が集まったのは、当たり前のようにも思えます。ピックアップトラックが「国民車」というお国柄なので軽トラのカタチがホビーっぽく見えるということもあるでしょう。
日本国内では販売台数だけ見るとスズキとダイハツが圧倒的ではありますが、少し古い軽トラならリアエンジン・リアドライブの駆動方式で“農道のポルシェ”と呼ばれるスバルサンバーや、ウルトラローギア&リアでフロックなど4WD性能を余すことなく使いきれる「ぬかるみ最強伝説」と持つホンダアクティアタックなど、ウンチクのあるモデルも多数見つけることができます。
広い私有地での移動用、農場やゴルフ場のメンテナンス用として活躍
海外では日本の軽自動車「K-car」の呼称と同じく、「K-truck」や「mini truck」の愛称で親しまれているようですが、実際現地ではどういう使い方や遊び方をされているでしょうか?
アメリカで生活する人の話や、クルマ好きのブログなどに記載されている内容をまとめると、日本で見られるような一般道路を走り回る姿よりも、広い私有地での移動用とか、農場やゴルフ場のメンテナンス用、そして工事現場などで見掛けられるようです。
これにも理由があり、アメリカで軽トラを登録するには、レジストレーションやVINナンバー取得、セーフティーチェックなど障壁がいくつかあり、州によっては公道を走れないケースもあるようで、web上にもアメリカで軽トラを登録・走行するためのhowtoネタのスレッドも散見されます。
いろいろ調べていくと、日本から輸入した中古車の登録代行業者も見つけることができますが、そこに記載されている内容には、21の州においてはATV(All Terrain Vehicle)=全地形対応車や、オフロードカーとして登録すると、25年ルールの範囲外であっても輸入・使用ができるとあります。また、LSV(Low Speed Vehicle) =(ハイウェイやフリーウェイを除く、時速50マイル以下に限る)、日本でいうところのミニバイクや原付バイクのような使い方の登録なら支障がないようにみられます。
つまり、アメリカへ渡った日本の軽トラは、JDMなお仕事グルマとして活用されているということが理解できます。しかしそこは遊び上手なアメリカ人ですから、カスタマイズも堪能してるのでは?ということで、アメリカにおける軽トラのカスタム事情も調べてみました。
アゲトラからキッチンカーまで、遊び好きなアメリカ人は見逃さない!
日本ではこの10年のあいだで、過去に一世を風靡したローダウンのレーシーなカスタムから、リフトアップでSUVっぽく仕立てるスタイルが流行り、その進化形とされる「アゲトラ」というカスタムがひとつのJDMカルチャーとして確立されました。アゲトラとは、サスペンションやタイヤサイズを変更することでリフトアップする手法で、このスタイルはアメリカの遊び好きにも受け入れられ、広大な農場で作業車としてフル稼働するアゲトラの写真などもweb上で見ることができます。
また最近のアウトドアブームやキッチンカーブームの影響から、荷台をキャンパー仕様に改造したり、キッチンカーBOXをパーソナルユース用にモディファイしたり、様々な軽トラが登場しています。こういったJDMの産物を、遊び好きなアメリカ人が見逃すわけはありません。2022年初頭からは、こういった軽トラもコンテナでまとめて輸出されているようです。
円安が加速する中、様々な日本のモノがどんどん海外に流出している昨今。私たちはもっと日本の製品や日本の文化を大切に見直し、愛でることが求められているのかも?しれませんね。
(写真:https://usminitrucks.com/、https://www.nipponimports.net/、AdobeStock)
※記事の内容は2022年6月時点の情報で制作しています。