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MaaSの定義と世界での事例。そして、日本が目指すべきMaaSのあり方について

MaaSの定義と世界での事例。そして、日本が目指すべきMaaSのあり方について
MaaSの定義と世界での事例。そして、日本が目指すべきMaaSのあり方について

MaaSのそもそもの概念は、移動の手段をマイカーに頼らずに、各種の交通手段を組み合わせ最適なルートをシームレスなひとつのアプリケーションで提供しようというもの。自動車に限らずさまざまな交通手段を統合し、交通から都市の在り方を問うていくような試みまで生まれています。現在、欧米では、Uber(ウーバー)などの移動サービスにより、自動車やタクシー業界の市場が大きく変化しつつあります。

MaaSの登場によって、20年後、30年後の私たちの生活はどう変わるでしょうか?
今回は、そもそもMaaSとはどのような概念なのか、世界でいまどのようなサービスが実用化されているのか、詳しく見ていきたいと思います。

狭義のMaaSと広義のMaaS

MaaSには現在、さまざまな解釈があり、その定義は多様化しています。例えば、総務省のWebサイトにおいて、MaaSは次のように説明されています。

電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらをまたいだ移動ルートは検索可能となりましたが、予約や運賃の支払いは、各事業者に対して個別に行う必要があります。
このようなしくみを、手元のスマートフォン等から検索~予約~支払いを一度に行えるように改めて、ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです。

また、国土交通省の国土交通政策研究所が2019年1月に発表した資料において、MaaSは次のように説明されています。

MaaSとは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。
※参照:国土交通省 国土交通政策研究所 機関誌「PRI Review」 第71号 パースペクティブ

このように、「複数の交通サービスの統合」をMaaSと定義する考え方がある一方で、自動運転やカーシェア、配車サービスなど「新しい柔軟な交通サービス」をMaaSと定義する考え方もあります。
前者のみの考え方を「狭義のMaaS」とするならば、後者も含む考え方は「広義のMaaS」と呼ぶことができるでしょう。

MaaSはビジネス的な価値の高い概念であり、今後は交通サービスの改善にとどまらず、さまざまな産業に波及することが予想されます。
貨物輸送サービスの統合が進めば、物流事業の利便性や効率性の向上につながるでしょう。また、最寄り駅までのバスやタクシーなどの乗り放題利用が、家賃や分譲価格に含まれた「MaaS付き住宅」など、これまでになかった不動産サービスが現れる可能性も考えられます。

MaaSのコンセプトはどのようにして生まれた?

『MaaSモビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP社/2018)によれば、MaaSという言葉が世界で使われ始めたのは、2014年のこと。
そのきっかけとなったのは、ヘルシンキのアールト大学に在籍していたソンジャ・ヘイッキラ氏が、同年4月に発表した修士論文です。「MaaS論文」と呼ばれるこの論文は、都市の交通システムに課題を抱えていたフィンランド政府の取組みを後押しし、世界中にMaaSのコンセプトを広める役割も果たしました。

ヘイッキラ氏が考案したのは、移動者のニーズに合わせて交通手段の最適な組み合わせを作り、ひとつのサービスパッケージとして提供する「モビリティオペレーター」の存在。このアイディアは、実はヘイッキラ氏が独自に生み出したものではありません。アイディアの基となったのは、現在プラットフォームサービス「Whim」(※後述)を提供する、MaaS グローバルのサンポ・ヒータネン(Sampo Hietanen)CEOの構想でした。ヒータネン氏は、2006年頃から、最終的には交通情報だけでなく、予約や決済までできる「MaaS」のビジネスが生まれ、産業の変革が起こると考え始めていたといいます。

MaaS論文が発表された2ヵ月後の2014年6月、産官学コンソーシアム「ITS(Intelligent Transport Systems)ヨーロッパ会議」で、ヒータネン氏がMaaSのコンセプトを発表。同氏は、2015年にMaaSグローバルの前身となるMaaSフィンランドを設立し、MaaSアプリ「Whim」の試験運用を行った上で、2016年9月から本格的なサービス提供を開始しました。

このように、フィンランドは世界で最も先進的な移動サービスを実現し、それに伴い、世界中でビジネスとしてのMaaS実現に向けた動きが加速していくことになります。

狭義のMaaS、5段階のレベル定義

先にも述べたとおり、現在、MaaSの解釈は多様化しています。しかし、一般的には、自動車や自転車、バス、電車などあらゆる交通手段をひとつのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指すことが多いようです(狭義のMaaS)。

スウェーデンのチャルマース工科大学の研究チームは、モビリティサービスの統合や機能面に応じて、MaaSを0から4までの5段階にレベル分けしています。

狭義のMaaS、5段階のレベル定義出典:Jana Sochor他(2017)”A Topological Approach to Mobility as a Service”

・レベル0:統合なし
それぞれの事業者が個別にサービスを提供する旧来の形式。既存の交通事業者が提供している独自の交通サービスやカーシェアリング、レンタカー予約サービス、配車サービス、駐車場予約などが該当する。

・レベル1:情報の統合
異なる交通手段の情報を統合して提供するサービス。ユーザーには、料金や時間、距離など各移動サービスに関するさまざまな情報が提供される。グーグルマップによるルート検索や所要時間の案内など、マルチモーダルなルート検索サービスが該当する。

・レベル2:予約・支払いの統合
マルチモーダルなルート検索に加え、ワンストップで予約や支払い、発券ができる統合型のプラットフォームによるサービス。ユーザーは、スマートフォンなどのアプリケーションで目的地までの移動手段を一括比較し、複数の交通サービスを組み合わせて予約や支払いができるようになる。

・レベル3:提供するサービスの統合
専用の料金体系を持つなど、モビリティサービスのパッケージ化や定額制が実現される段階。一定区間内ならば、どの交通手段を使っても一律料金が適用されたり、月定額料金で一定区域内の移動サービスが乗り放題になったりするプラットフォームがこれに該当する。

・レベル4:社会全体目標の統合
国や自治体、事業者が、都市計画や政策レベルで交通の在り方について協調していく段階。国家プロジェクトの形で推進される、MaaSの最終形態。

日本のMaaSのレベルは、まだ0〜1レベルとされています。しかし、自動車メーカーや鉄道会社を中心に、MaaSの実現に向けた議論は盛り上がりつつあります。

各国・地域におけるMaaSの事例

MaaSに先進的に取り組んでいる国や地域では、これまで独立して運営管理されてきた交通サービスの連携・統合に向けて、2000年頃から試行錯誤が繰り返されてきました。現在では、順次、商用サービスとしての本格的な運用が始まっています。
ここからは、各国・地域におけるMaaSの代表的な取組みを見ていきましょう。

フィンランド「Whim」

フィンランド「Whim」画像引用:MaaS Global

Whimは、フィンランドのスタートアップ「MaaSグローバル」社が提供するプラットフォームサービスです。行政主導として世界で最も進んだ取組みであり、ヘルシンキ市内すべての公共交通機関に加えて、カーシェアリングやレンタカー、タクシーがひとつのサービスとして統合。スマートフォンアプリを通じて、マルチモーダルなルート検索や予約、支払いが可能です。

Whimは、2016年にヘルシンキで試験運用を行った後、正式にサービスを開始。都度払いのスタンダードプランのほか、月額制と一部月額制の3つの運賃体系でサービスが提供されています。

サービス開始後、ヘルシンキの公共交通の利用割合は48%から74%へ増加し、マイカーの利用率は40%から20%へ減少したそうです。2018年4月には、イギリスのウェストミッドランドにおいても、サービスを展開し始めました。

ドイツ「moovel」

ドイツ「moovel」出典:moovel Group

ドイツの大手自動車メーカーDaimler(ダイムラー)は、子会社である「moovel(ムーベル)」を通じて、公共交通機関やタクシー、カーシェア、レンタサイクルなどを統合し、都市交通をシームレスにネットワーク化するサービスの開発に2015年から取り組んでいます。

同社ではおもに、以下のサービスを提供しています。

・moovel(ムーベル)
ルート検索やリアルタイムの運行情報が得られるマルチモーダルなアプリ。ヨーロッパでは、アムステルダム、バルセロナ、ウィーンなど8都市、アメリカではボストンほか3都市、アジア・オセアニアではシドニーでサービスを展開中。予約・決済もアプリで一括して行うことができる。

・moovel transit(ムーベル・トランジット)
世界中で展開している、公共交通のキャッシュレスサービス。各国のさまざまな決済システムを、ムーベルのプラットフォーム上で処理できる。

・moovel on-demand(ムーベル・オンデマンド)
都市部でのオンデマンド型乗り合いサービス。アプリ上で乗車と降車を指定することで予約から決済まで行うことができる。ダイムラー本社のあるドイツ・シュツットガルトで公共交通と共同でサービスを提供。

ロサンゼルス市「GoLA」

ロサンゼルス市「GoLA」出典:City of Los Angeles

「GoLA(ゴーエルエー)」は、ロス市役所がゼロックスと共同開発したルート検索アプリ。公共交通26社のほか、タクシーや空港シャトルバス(FlitWays)、配車サービス(Lyft)、カーシェアリング(Zipcar)、自転車シェアリングなど、さまざまな交通手段が指定できます。
電気自動車やSUVなど車両の好みや、徒歩や乗り継ぎにかかる時間の限界値が細かく指定でき、一部の移動手段は、このアプリを通じて予約や決済まで行うことが可能です。

中国「滴滴出行」

中国「滴滴出行」出典:DiDi

滴滴出行(Didi Chuxing/ディディチューシン)は、北京市に本社を置く、中国の大手ライドシェア(相乗り)企業。スマートフォンを通じて、ライドシェアを含む、以下の5つのタクシーサービスを提供しています。

・順風車(乗り合い)
ライドシェアサービス。サラリーマンが副業として運転手をすることもあり、最も安い価格で利用できる。

・出租車(タクシー)
一般のタクシーをアプリ経由で呼び出し利用できるサービス。料金体系はタクシー会社のメーターに基づく。

・快車(専属タクシー)
専属タクシーの配車サービス。通常快車と優良快車があり、優良の料金はやや割高となる。

・礼燈専車(高級タクシー)
セダンや6人乗りなど高級タクシーの配車サービス。料金は通常快車の1.5倍程度であり、座席にはペットボトルの水が用意されている。

・豪華車(超高級タクシー)
ベンツなど、超高級タクシーの配車サービス。料金は、通常快車の9~10倍と最も高い。座席にはペットボトルの水とお菓子が用意されている。

配車サービスの支払いは、アプリを通じて行うため、現金でのやりとりは発生しません。また、運転手の評価を手元で確認でき、評価の悪い運転手は淘汰されていきます。現在、中国400都市で、4億人以上のユーザーがこのアプリを利用しているそうです。

日本におけるMaaSの実現プロセスとは

以上のように、狭義の意味合いとしてはマルチモーダルな交通アプリケーションとしての言葉、広義の意味合いとしてはさまざまなモビリティサービスとしての言葉を担う「MaaS」ですが、日本においてはどのような発展プロセスをたどっていくのでしょうか。下記に私の考えを記します。

日本特有の背景

交通という観点から日本を見た際、私たちが当たり前と思っていることは世界的に見ると当たり前ではないということが多くあります。こうした背景抜きに、「全世界的に同じ時間軸でこうなります」とは言えないのがMaaSというテーマなので、まずは日本特有の背景について私の考えをお伝えします。

●背景1:マイカー中心の都市設計
こうした前提にたつと、仮にさまざまな交通手段を統合するマルチモーダルなアプリケーションがあったところで、結局はマイカーしか利用しないので意味がない、という考え方があると思います。これを覆すには都市設計そのものを変える必要がありますが、後述するように地方部は都市部への流出超過が続いており、あえて多額の資金を投下してまで都市設計を変えていくインセンティブは誰にもありません。こうした状況を踏まえると、マイカー中心の都市設計に起因するマイカー社会という構図は、少なくても地方部においては向こう十数年以上続くことが予想されます。

●背景2:自動車産業は日本の基幹産業
トヨタをはじめとした世界トップクラスの自動車メーカーを抱える日本において、自動車産業は国の基幹産業です。全就業人口の9%近くが自動車関連産業で働いており、そんな日本において「クルマが売れなくなること」は国全体の経済戦略からはネガティブな事象でしかありません。

一方で、交通のマルチモーダル化を提唱する元祖MaaS概念(狭義のMaaS)を提唱したスウェーデンにおいては、自動車産業が国の重要産業でないという背景があり、かの国においては、クルマが売れなくなること=自国の貿易赤字が縮小することを指すという前提があったりもします。

もちろん、人々の生活が便利になっていくことが最も重要なことではありますが、国が推進すべき重要な施策としてクルマが売れなくなっていく方向性を推進するかというと、可能性は低いのではないか、というのが私の考えです。

●背景3:地方部―都市部への人口流出
日本では地方から都市への人口流出が継続しています。これは地方から人がいなくなり、東京をはじめとした都市の周縁が拡大するということを指します。これが続くとどうなるかというと、おもに地方での移動ニーズを満たすものであるマイカーは徐々に売れなくなるのは確実です。2028年時点で、マイカーの年間販売台数は450万台程度まで落ち込むという予測があります。

こうした観点からも、地方部における都市設計が見直される可能性は低いです。よって現在の都市設計を前提として、どのようなモビリティサービスが出現してくるのかというのが地方部における注目ポイントであると予想されます。

●背景4:高齢化
日本全体で重要なテーマとなってくるのが高齢化です。日本は世界一の超高齢社会です。高齢者は交通事故を引き起こす確率が高く、アクセルとブレーキの踏み間違いなどに起因する事故が後を絶ちません。では、免許返納を義務化すればいいかというと、そういうわけにもいきません。上述したように、地方においてはマイカー前提の都市設計となっており、高齢者が免許返納を義務付けられたとしたら、移動の足がなくなってしまうのです。

日本におけるMaaSは自動車をテーマに発展していく可能性が高い

以上の背景を踏まえ、私は日本におけるMaaS発展にとって自動車産業の変化がとても重要なものになると考えています。地方部においては、マイカー中心の都市設計が揺るがない前提として存在し続ける以上、自動車についての多様な考え方、とらえ方が出現してくると思います。

例えば、ライドシェアは日本で解禁されていませんが、これに準ずるようなサービスが普及するということは十分考えられます。

crewhttps://crewcrew.jp/

ベンチャー企業が展開するサービスでも「Crew(クルー)」という、車に乗っている個人が、車でどこかに行きたい人をピックアップして送ってくれるサービスがすでに展開されています。ライドシェアの規制をかいくぐる形でサービスを成立させている同社ですが、この形態がしっかりと根付くのであれば地方部において(もちろん都市部でも)サービスが定着していく可能性はあります。

定額カルモくん

また、私が社長を務めるナイル社の「おトクにマイカー 定額カルモくん」というサービスも地方における自動車のあり方にスポットライトを当てているサービスです。マイカーを使い倒したい個人向けに、月額定額制で長期にわたり車を賃貸できるというサービスを提供し、顧客数を増やしています。車が所有するものから利用するものに変わっていく中で、「賃貸でも良い」という意識変容が起きているのを明確に感じています。

一方、都市部においては、地方部からの継続的な人口流入により生活コストが上昇します。結果として都市の外縁部が拡大することが予想され、移動手段が多様化することが考えられます。結果として、自動車を利用したもの以外にも、多種多様なモビリティサービスが乱立するようになると考えられます。

IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスの類型出典:経済産業省「IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理(平成30年10月17日)

経済産業省がまとめた「IoTやAIが可能とする 新しいモビリティサービスに関する研究会  中間整理」という資料において、上記の画像のようにさまざまなモビリティサービスが提示されていますが、ここに掲出されているよりも遥かに多くのサービスが企画されローンチされていくことでしょう。

その中には事業として成立せずにクローズしてしまうものも多々あると思いますが、いくつかのサービスが大きな反響を呼び、社会に定着していく可能性は大いにあると思います。

日本は日本なりのMaaS革命を目指していこう

MaaSという流行ワードにばかり目がいき、一般論としての「こういうサービスが流行る」という言説を信じてしまうとモビリティ革命の本質を見失ってしまいます。もちろん世界基準で取り入れていくべきサービスは多々あり、これを日本に導入しないのは本末転倒ですが、日本という国が抱える特有の事情を考慮し、その上でどのようなMaaSビジネスが構築されていくべきかと考えるほうが、より本質的な方向に向かっていけると私は考えます。

この記事がMaaS、ひいてはモビリティ革命に身を投じたい方々に向けての一助となれば幸いです。

※この記事は2019年8月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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