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「人の運転する車がアトラクション化する未来はすぐそこに」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【後編】

「人の運転する車がアトラクション化する未来はすぐそこに」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【後編】
「人の運転する車がアトラクション化する未来はすぐそこに」人工知能研究センター 野田五十樹×高橋飛翔対談【後編】

産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹博士(工学)で株式会社未来シェア取締役の野田五十樹さんと、自動配車システム「Smart Access Vehicle System(SAVS)」が作るオンデマンド交通の未来をテーマにした対談の後編です。SAVSの誕生秘話や実用の様子についてお話を伺った前回に引き続き、今回はSAVSの課題や、SAVSによって広がるオンデマンド交通の未来図についてです。

AIがはじき出す最適は、人の満足度を満たすことができるのか?

高橋飛翔(以下、高橋):前回、オンデマンド交通の自動配車システム「Smart Access Vehicle System(SAVS)」が、地方を中心とした交通問題の解決につながるというお話を伺いました。
一方で、SAVSのような自動配車システムの利用が広がれば広がるほど、待ち時間やルートなど、AIの考える最適化と利用者の満足度に温度差が出てきたりしないのかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

AIがはじき出す最適は、人の満足度を満たすことができるのか?1

野田五十樹さん(以下、野田):利用者が増えるほどに、いろいろな要望が出てくるでしょうね。現状は、待ち時間やトータルの移動時間を最適化する計算のみをしていますが、「女性専用車両を作りたい」「急いでいる人の経路を優先したい」「雪国では待ち時間を短くしたい」など、評価基準はいくらでも調整できます。ただ、数値化しなければ比較ができないので、どういう数値化をすれば人間の思う最適に近くなるのかという点においては、現在研究している要素です。

高橋:いろいろなパターンがあるでしょうし、ターゲットによってもまったく違ってきますもんね。

野田:そうなんです。福祉施設の送迎向けならこの組み合わせでこの数字を足し算すればいいけれど、学校など教育機関の送迎では時間厳守だからこの組み合わせではダメ、みたいなものが、この先いろいろ出てくると思います。そのあたりはノウハウのような形で調整していくことになるかもしれません。

オンデマンド交通の未来実現に立ちはだかる法律の壁

高橋:さまざまなニーズに対応できれば、利用できる範囲も広がりそうですね。SAVSを広げていくにあたり、現段階で課題に感じていることなどはありますか?

野田:やはり法律の問題は、我々にはどうしようもないと思いつつも、課題に感じます。料金システムひとつとっても、現行ではガチガチに固められた範囲内で決めるしかありません。また、地域公共交通会議の合意が必要という制約もあるので、従来型から抜け出せないという問題もあります。
例えば急ぎの場合は100円プラスする一方で、寄り道して時間がかかっても構わないという人は100円引きにするといったプライオリティ料金体系にしたり、時間帯によって料金を変えたり、海外のライドシェアのように事前に料金を確定するなど、もっと柔軟な料金体系にできれば、利用も広がると思うのですが……。

高橋:コインパーキングなどではダイナミックプライシングを導入していますよね。オンデマンド交通でも取り入れたほうがいいと、私も思います。

AIがはじき出す最適は、人の満足度を満たすことができるのか?2

野田:実はシミュレーションの結果で、規模や利用者が広がるほどSAVSの効率もアップするということが示されているんです。料金体系が柔軟になることで利用者が増えれば、それにより効率が良くなって、さらにニーズに応えられるようになります。そうして利用が広がっていけば、いずれはSAVSや類するものですべてをまかなえるようになるので、自家用車が減って、渋滞などの現在抱える交通問題も解消されていくでしょう。我々は、そのような未来を予想しているんです。だからこそ、法律の問題は大きな課題と感じています。

遠くない未来に、自動運転のオンデマンド交通が主流になる

高橋:満足度や料金など課題はまだあるものの、SAVSの認知が広がれば、交通の便が良くない地方ほどニーズが高まりそうですね。

野田:岡山県久米南町が正にそうです。ここは町から完全に公共交通がなくなってしまったところなんです。山の中にある過疎地で高齢化が進み、公共交通もないということで、危機感を覚えた町長が隣町のタクシー会社に掛け合い、SAVSで要望のマッチングを行って車を回してもらっています。おそらく、こういった事例は今後すごく増えていくと思います。

高橋:そうですね。とはいえ、久米南町のように高齢化が進んでいる地域だと、免許返納も含めて、ドライバー不足も考えられるのではないでしょうか。SAVSを導入しても、肝心な車を動かせる人がいなくなってしまったら、元も子もない話ですよね。

野田:現在はSAVSで運転効率を上げることで、少ない台数でなんとかサービスが提供できていますが、高齢化が進む中では時間稼ぎにすぎないでしょう。なので、それこそ思い切って自動運転を導入するなどの形で補っていくほうがいいように思います。幸い、SAVSは自動運転との相性もいいので、より安全に目的地へ着けるようになるのではないかと。

遠くない未来に、自動運転のオンデマンド交通が主流になる1

高橋:最終的に日本の過疎地は、自動運転や無人タクシーが一定の交通サービスを提供していく未来があるかもしれないんですね。ちなみにその時間軸はどうとらえていますか?

野田:遅くても2030年くらいには、主要道路や高速道路で自動運転の車が普通に走っているようになると思うので、自動運転化されたオンデマンド交通が一般化するのも、2040年か2050年くらいのスパンかな、とは思っています。過疎地などは特区的に広げていくことで、結構早い時期にどんどん実現できるんじゃないかという気はしていますね。

高橋:SAVSによるモビリティ社会の近未来像の実現に向けて、弊社のようなベンチャー企業にどのようなことを望みますか?

野田:それぞれの得意とする分野でタッグを組むことかと思います。昨今はカーシェアリングが広がりを見せるなどモビリティ社会も変化していますが、モビリティサービス単体では立ちいかない面も大きいのが現実です。
そこで、交通事業者や鉄道会社、通勤でSAVSを取り入れたい企業など、ほかのサービスと連携して、交通サービスを成立させる必要があると思うんです。とはいえ、私たちの技術力だけでカバーできる範囲は限られているので、料金徴収のノウハウを持つベンチャー企業と組むなど、SAVSを使う側の利便性も考慮したセットで提供できれば、利用が広がり、新しいモビリティ社会に近づけるのではないかと思います。

高橋:ほかのサービスとの連携とは、具体的にどのようなイメージですか?

遠くない未来に、自動運転のオンデマンド交通が主流になる2

野田:例えば、カーシェアリングとショッピングモールが提携して、ドライバーがショッピングモールへ向かうときに、SAVSのマッチングでそこへ行きたい人を巡回してピックアップするなど、あらゆるサービスに交通サービスが必ずついている形を確立する感じです。今は客の移動に予算をかける企業は少ないのですが、連携することで集客が上がり、結果的に売上げアップにつながるので、そういった面にコストを割ける柔軟な考えを持つ企業が増えてくれたらと思います。

高橋:確かに。宣伝広告費は使っても、人のディストリビューションを作るためにお金を払うという発想はないところが多いですよね。でも、そこが変われば、ユーザーのニーズに応えながら企業の収益アップにもつながるなど、双方にメリットのある形がとれるし、デマンドのボリュームが増えることでより最適なマッチングもできるようになって、SAVSの利便性もさらに高まっていきますね。

野田:そのとおりです。現状は法制度の問題でなかなか進めづらく、コスト負担など調整しなければならない課題もありますが、いずれは学校や塾の送り迎えなども盛り込んで、協業を軸にさまざまな会社が連帯していく未来があればいいなと思っています。そのためには、いろいろなケースで成功事例を積み重ねて、安心して導入を検討できる体制を整えておくことが大切だと感じます。

高橋:オンデマンド交通と各社の連携で個々に運転する必要がなくなり、地方の交通課題や高齢化などの問題もクリアできる。さらに自動運転で、ドライバー自体が不要になる未来。なんだかワクワクします!

野田:そろそろ人間が車を運転する必要性はほとんどないかな、という気がしています。人の移動手段が馬から人力車になり、車へと移行していったように、車も人が運転する車から自動運転になっていくのかな、と。
そして、人が運転する車は、馬や人力車を趣味や観光のために乗っているのと同じような感じで、ちょっと珍しいアトラクションとして乗るような、そういう時代になるんじゃないかな、なんて思っています。

対談を終えて

野田さんの持っていらっしゃる未来像がすごく納得感ありました。私も最終的に自動運転×配車アプリケーションが世の中の交通の主流になっていくと思っていて、そこを完全に見据えていらっしゃるのですごく面白いなと。
また、日本の過疎地のどこに住んでいる方であってもきちんと乗り物に乗って適切な生活サービスを受けられる環境を作っていくのは大事なことであって、それはぜひ未来シェアさんがやっているSAVSをはじめとして、我々を含めたいろいろな事業者が協業して作っていきたいというのは強い思いとして残りました。

※本対談は、緊急事態宣言発令前に行われたものです。

野田五十樹氏プロフィール

※この記事は2020年6月の「高橋飛翔のMaaSミライ研究所」の内容を転載しています。

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