各ボディタイプの人気車種を、内外装デザイン、使い勝手、燃費、走り、安全装備などの気になるポイントごとにプロが徹底評価をする企画。
今回は圧倒的な販売台数を誇るトヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア、単独車名ではミニバンNo.1を標榜する日産セレナ、そしてミニバンの元祖・ホンダステップワゴンの3台を「2Lミニバンクラス」として、8月の販売台数No.1となり業界を震撼させたトヨタシエンタとマイナーチェンジ目前のホンダフリードを「コンパクトミニバン」として、それぞれ比較します。
シエンタがまさかの販売台数ナンバー1、売れ筋モデルがそろったミニバン
馬弓(以下馬):ファミリーカーとして定着したミニバンのおすすめランキング、今回は身近なエンジン排気量2L以下のモデルに限定します。
萩原(以下萩):排気量2L以下の車種でも、大きく分けると2種類あります。「5ナンバー2Lクラス」と呼ばれる売れ筋のトヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア、日産セレナ、ホンダステップワゴンの3車種。そして「コンパクトミニバン」と呼ばれるトヨタシエンタ、ホンダフリードの2つに分けて説明したいと思います。
馬:確かにそのほうがいいですね、原稿料は1本分ですが(笑)。2019年8月の新車販売台数を見ると、な、なんと1位がシエンタです。販売活動が低調な8月とはいえこれは事件です。ミニバンは他にも3位がセレナ、7位がフリード、8位がヴォクシーとベスト10に4モデルもランクイン。さらに、15位にノア、18位にステップワゴン、22位にエクスクァイアと今回ピックアップした車種がすべて30位以内にランクインしていますね。
萩:このクラスはまさに売れ筋です。シエンタの1位は驚きましたが、マイナーチェンジが予告されているフリードも7位とコンパクトミニバンの安定した人気がうかがえます。
2018年ミニバンの新車販売台数No.1は日産セレナですが、販売チャネルが異なる兄弟車のヴォクシー/ノア/エスクァイアの合計台数は、セレナどころかトップの日産ノートを超える圧倒的なセールスを誇っています。ただ、売れているから良いクルマとは限らないですけど。
馬:すでに内容の予告が始まっていますね。想像がつきますが。
各車とも登場から3年以上が経過し、「後期型」に
萩:まず各モデルがいつ登場したのかを紹介しましょう。登場したタイミングによって安全装備などに大きな差が出るからです。2Lクラスミニバンの中でトヨタヴォクシー/ノアは2014年1月、そしてエスクァイアは同年10月に登場しています。そろそろモデルチェンジが行われるというウワサも出ています。
日産セレナは同一車線半自動運転のプロパイロットを搭載して2016年8月に登場。このクラスでは最後発モデルで、ユーティリティの高さそして、2018年に追加されたe-POWERが人気となっています。
ホンダステップワゴンは2015年4月に登場。当初はガソリンエンジンだけでしたが、待望のハイブリッド車を追加し、ライバルとの差を縮めています。
一方のコンパクトミニバンは2015年6月登場したトヨタシエンタと2016年9月に登場したホンダフリードの二者択一です。ホンダフリードがフリード+という5人乗車モデルを設定すると、シエンタは2018年に行ったマイナーチェンジでファンベースという5人乗りモデルを追加しました。さらにフリードは今度行うマイナーチェンジでSUVテイストを取り入れたモデルを導入するなどしのぎを削っています。
馬:セレナに続きフリードもマイナーチェンジが予告されたことで、今回の登場車種はすべてマイナーチェンジを受けた「後期型」になりますね。熟成具合が見どころです。それでは外観、内装・使い勝手、燃費・走り、安全装備の各項目1人5点満点、合計10点満点で採点しランキング化しましょう。
【外観】使いやすさのセレナ、個性が光るシエンタ
(2Lクラス部門)
1位:日産セレナ 9.5点
2位:ホンダステップワゴン 8.5点
3位:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア 8点
外観 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア | 4 | 4 | 8 | |
日産セレナ | 5 | 4.5 | 9.5 | |
ホンダステップワゴン | 4 | 4.5 | 8.5 |
(コンパクトミニバン部門)
1位:トヨタシエンタ 9.5点
1位:ホンダフリード 9.5点
外観 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタシエンタ | 4.5 | 5 | 9.5 | |
ホンダフリード | 5 | 4.5 | 9.5 |
馬:まずは外観デザインのランキングから。なるべく客観的な評価を心掛けますが、個人の主観が投影されてしまうことはお察しください。
萩:2Lクラスでは最もベーシックなデザインがトヨタヴォクシー/ノア/エスクァイアです。大きなフロントグリルによって押し出し感、そして存在感は高めていますが、飛び道具的なものはありません。
日産セレナは2019年7月にマイナーチェンジを行い、ヴォクシーのような大きなフロントグリルを採用した外装デザインを設定しました。セレナの外観で特徴といえば、リアゲートです。狭い場所での荷物の出し入れがしやすいようにリアのガラスだけが開閉できる「デュアルバックドア」を採用しているのがポイントです。
ホンダステップワゴンはワンモーションフォルムと呼ぶ、ボンネットが目立たない特徴的なデザインを採用しています。リアゲートは縦開きに加えて横方向にも開閉が可能な「わくわくゲート」が自慢。荷物の出し入れだけでなく、3列目シートへの乗り降りとしても使えます。
ベーシックなスタイルのヴォクシー/ノア/エスクァイアを4点とするとセレナが5点満点。スタイルが特徴的なステップワゴンも4点としました。
馬:2Lクラスミニバンはどれも同じに見えますが、セレナは少し大きく見えるデザインです。リアゲートのガラスが上がるのも評価して4.5点です。ステップワゴンはわくわくゲートが意欲的な取り組みで便利です。5点と言いたいところですが、ゲートを目立たせた左右非対称のデザイン処理がホンダの思惑と違って不評ですね。4.5点かな。ヴォクシー/ノア/エスクァイアはリアゲートの工夫がないので3.5点にしようかと思ったのですが、実は3車種の中で一番嫌みのないデザインなので4点にします。
萩:コンパクトミニバンは個性的な顔付きのシエンタとプレーンなデザインのフリードとハッキリとデザインテイストが分かれます。購入する層はあまりこだわらないようですが、5点満点はフリードで、シエンタは4.5点としました。
馬:コンパクトミニバンの2台は方向性が思いっきり異なりますね。シエンタの冒険的なデザインは予想以上に市場から評価されました。当初、このデザインは飽きるのが早いのではないかと懐疑的でしたが、3年経っても新鮮さが残っています。実用性を損ねているわけではないので立派です。個人的には好みではないのですが客観的に認めざるを得ません。5点です。フリードも室内空間を最大にしつつ箱でないデザインに見せる努力を感じます。フロントグリルやライトデザインはMC前後問わず好みではないのですが4.5点です。
【内装・使い勝手】ミニバンへの愛を感じるステップワゴン、使い勝手の良いシエンタ
(2Lクラス部門)
1位:ホンダステップワゴン 10点
2位:日産セレナ 9点
3位:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア 8点
内装 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア | 4.5 | 3.5 | 8 | |
日産セレナ | 4.5 | 4.5 | 9 | |
ホンダステップワゴン | 5 | 5 | 10 |
(コンパクトミニバン部門)
1位:トヨタシエンタ 10点
2位:ホンダフリード 9.5点
内装 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタシエンタ | 5 | 5 | 10 | |
ホンダフリード | 4.5 | 5 | 9.5 |
萩:外観のデザインと同様に基本に忠実なのが、ヴォクシー/ノア/エスクアァイアです。多様化したニーズに応えるとなると、最大公約数で応えるということになり、あまり突飛なことはできないということにつながるのでしょう。これはセレナも同様で、多彩なシートバリエーションなどミニバンに求められることはクリアしていますが、独自性はやや薄いです。
その中でステップワゴンの個性は際立っています。サードシートはコストのかかる床下収納を採用し、薄型のインパネデザインで開放感を演出しています。
ランキングとしてはヴォクシー/ノア/エスクァイア、そしてセレナを4.5点とするとステップワゴンを5点満点としました。
馬:セレナとステップワゴンはどちらも開発チームのミニバンへの思い入れを感じます。特に収納が、ただ多いだけでなく非常に使いやすい点を評価しています。3列目の使い勝手がステップワゴンの方がいいのは確かなので5点、とはいえセレナもよく考えているなと思うので4.5点。
ヴォクシー/ノア/エスクァイアは顧客の声を聞いたからとか、コストがとか言い訳が聞こえてきそうなインテリアなので3.5点ときびしい点をつけます。愛が足りません。
萩:コンパクトミニバンですが、シエンタは床面の低さそしてサードシートがセカンドシート下に収納できるなど優れたパッケージングで5点満点。一方のフリードはベーシックな左右跳ね上げ式なので4.5点です。
馬:シエンタは非常に使いやすいインテリアですし、ヴォクシー/ノア/エスクァイアと同じメーカーとは思えないほど、こだわりを感じるので5点。
でもフリードもセンタータンクレイアウトの恩恵で室内空間の広さや使い勝手の良さは見事です。こちらも5点です。
【燃費・走り】走れるステップワゴン、バランスの良いセレナ、しっかりとしたフリード
(2Lクラス部門)
1位:日産セレナ 9.5点
1位:ホンダステップワゴン 9.5点
3位:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア 7.5点
燃費・走り | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア | 4 | 3.5 | 7.5 | |
日産セレナ | 5 | 4.5 | 9.5 | |
ホンダステップワゴン | 4.5 | 5 | 9.5 |
(コンパクトミニバン部門)
1位:ホンダフリード 9.5点
2位:トヨタシエンタ 8.5点
燃費・走り | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタシエンタ | 4.5 | 4 | 8.5 | |
ホンダフリード | 5 | 4.5 | 9.5 |
萩:2Lクラスミニバンではヴォクシー/ノア/エスクァイアは2Lガソリンエンジンと1.8Lエンジンのハイブリッドの2種類。セレナは2Lガソリンエンジンと小型モーターを組み合わせた主力のマイルドハイブリッド(ガソリンエンジンのみグレードもあり)と、1.2Lガソリンエンジンを発電機として使用し、その発電した電力でモーターを駆動させ走行する「e-POWER」という個性的なパワートレインを設定。そしてステップワゴンは1.5Lターボエンジンと2Lガソリンのハイブリッドの2種類となっています。
燃費性能はトヨタが14.8〜23.8km/L、セレナが15.0〜26.2km/Lそしてステップワゴンは15.0〜25.0km/L。
これらを考慮しランキングをつけると5点満点はセレナです。重量の重いミニバンながら、低回転からパワーを発揮するモーターを活かしスムーズな走りを実現したe-POWERの実力は高評価です。続いて4.5点はステップワゴン。i-MMDというモーターでの走行を積極的に行うハイブリッドシステムはスムーズかつ高い静粛性が特徴です。そして4点はヴォクシーをはじめとしたトヨタ勢。販売の中心はガソリン車ですし、ハイブリッド車の走りや燃費性能も、今では他の2台と比べると見劣る点が多いからです。
馬:ハイブリッドモデルだとステップワゴンとセレナが甲乙つけがたいのですが、絶対的なパワーではステップワゴンがやや上ですね。トヨタ勢は最新ユニットではないので苦しいところ。ノーマルエンジンだとダウンサイジングターボのステップワゴンが一枚上手。
乗り心地はセレナがしなやか、ステップワゴンが適度な固さで、方向性は異なりますがどちらも良いです。特にステップワゴンは山道でも安定しているのでこのクラスでは一番おすすめです。ヴォクシー/ノア/エスクァイアは乗り心地、操縦性とも凡庸です。特筆すべき点はありません。
結論としてステップワゴンが5点満点、セレナが4.5点、ヴォクシー/ノア/エスクァイアは3.5点です。
萩:コンパクトミニバンはシエンタが1.5Lガソリンエンジンと1.5ガソリンエンジンのハイブリッド車。そしてフリードも同様のラインナップですが、こちらはハイブリッド車でも4WDが選べるのが特徴です。
燃費性能はシエンタが15.4〜28.8km/L、フリードは16.4〜27.2km/Lとほぼ互角です。走りのランキングをつけるとどちらも4.5点に近い出来なのですが、フリードの方が走りにダイレクト感がある点とフットワークの良さ、ハイブリッド車でも4WDを選べるということで5点にしておきます。
馬:走りはフリードの方がしっかりしているよね。もろもろ考慮してフリード4.5点、シエンタ4点です。
【安全装備】さらに充実したセレナ、望まれるトヨタ勢のアップデート
(2Lクラス部門)
1位:日産セレナ 10点
2位:ホンダステップワゴン 9点
3位:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア 7点
安全装備 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア | 3.5 | 3.5 | 7 | |
日産セレナ | 5 | 5 | 10 | |
ホンダステップワゴン | 4.5 | 4.5 | 9 |
(コンパクトミニバン部門)
1位:ホンダフリード 9点
2位:トヨタシエンタ 7点
安全装備 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタシエンタ | 3.5 | 3.5 | 7 | |
ホンダフリード | 4.5 | 4.5 | 9 |
馬:大切な家族が乗るファミリーカーだけに安全装備は気になるところです。
萩:今回紹介する車種はすべて先進の運転支援システムは装着していますが、その内容はかなり差があります。全モデル3.5点と低くなったのはトヨタのミニバンです。元々「トヨタセーフティセンスC」という簡素なシステムがベースとなっており、踏み間違い防止機能もありませんでした。インテリジェントソナーを装着することでカバーしていますし、被害軽減ブレーキも歩行者対応となりましたが、ライバル車と比べると見劣りします。
続いて4.5点はホンダセンシングを搭載したステップワゴン、フリードです。充実した機能を設定し、高速道路での追従走行を可能としたACCも設定されています。
そして5点はセレナです。先日行ったマイナーチェンジで全方位の検知機能を充実させていますし、プロパイロットを設定しているのもこのクラスでセレナだけです。もちろんプロパイロットを装着すると高額になってしまいますが、リセールバリューも上がりますしロングドライブ時の疲労なども少なく安全性が向上すると思えば必ず装着したい装備です。
馬:セレナはミリ波レーダー+単眼カメラになりプロパイロットなしのモデルでも先進安全装備が充実しました、5点です。日産はほかもミリ波レーダー+単眼カメラにアップデートを進めるようですね、いい話です。ホンダ勢4.5点、トヨタ勢3.5点も同意します。
【総合】マイナーチェンジでセレナが一歩リード、フリードとシエンタの差は安全装備
(2Lクラス部門)
1位:日産セレナ 9.5点
2位:ホンダステップワゴン 9.3点
3位:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア 7.6点
総合 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイア | 4.0 | 3.6 | 7.6 | |
日産セレナ | 4.9 | 4.6 | 9.5 | |
ホンダステップワゴン | 4.5 | 4.8 | 9.3 |
(コンパクトミニバン部門)
1位:ホンダフリード 9.3点
2位:トヨタシエンタ 8.8点
総合 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタシエンタ | 4.4 | 4.4 | 8.8 | |
ホンダフリード | 4.8 | 4.6 | 9.3 |
*各項目の合計を平均(小数点以下第2位四捨五入)
(総括)
馬: 2Lクラスミニバンは日産セレナが僅差でホンダステップワゴンを破りました。マイナーチェンジでセレナは安全性能が充実したのが大きいですね。それ以外はスコア差が少なく実力伯仲です。
萩:売れ筋の2Lクラスはヴォクシー/ノア/エスクァイアはコレといった特徴がないのが特徴です。セレナやステップワゴンと比べるとモデルが古いため新車購入時の値引き額が大きく、それが決め手となることが多いようです。何かと支出の多いファミリー層が購入するクルマなので、支払額を抑えられるのはどんな性能よりも魅力なのでしょう。
クルマの性能としてはセレナとステップワゴンはほぼ互角でちょっとリードされたところにヴォクシー/ノア/エスクァイアといえます。クルマの実力と人気がリンクしない最も良い例ですね。
馬:トヨタヴォクシー/ノア/エスクァイアは地道にアップデートを重ねていますが、先進安全装備はもう一段、階段を上がって欲しいところです。ステップワゴンは本当にいいクルマなのに、セールスが振るいません。スタイルの問題を指摘する人が多いですね。格好が気に入ったのであればおすすめです。セレナは今回のマイナーチェンジで安全装備がアップデートされ商品力もさらに上がったと思います。最近の日産には珍しく開発者の思い入れを感じるいいクルマです。
萩:コンパクトミニバンは二者択一なので、気に入ったモデルを購入すれば良いと思います。ただ、フリードがマイナーチェンジしますので、購入はその詳細がわかってからのほうが後々後悔しないでしょう。
馬:シエンタとフリードはスタイルの方向性が大きく異なるので、あまり迷うことはない気もします。シエンタの安全装備がやや気になりますが、どちらも高い実力がありますね。
※記事の内容は2019年10月時点の情報で執筆しています。