各ボディタイプの人気車種を、内外装デザイン、使い勝手、燃費、走り、安全装備など気になるポイントごとにプロが徹底評価し、ランキングするこの企画。
今回は「ハッチバック」部門として、マイナーチェンジが奏功しベストセラーに返り咲いたトヨタプリウス、欧州基準でカローラを再定義したトヨタカローラスポーツ、大胆で美しいスタイルが評判のマツダ3、電気自動車のベストセラーとして2代目に進化した日産リーフ、そして新世代シャシーで切れ味の良い走りを披露するスバルインプレッサスポーツの5台を取り上げます。
VWゴルフを中心に世界は回る。実力車がそろった激戦区
馬弓(以下馬):自動車専門誌だと「欧州Cセグメント」と呼ぶべきこの「ハッチバック」のカテゴリーには、マイナーチェンジしたトヨタプリウスをはじめ、電気自動車(EV)の日産リーフ、最近登場したばかりのマツダ3など実力車がそろっています。
萩原(以下萩):ハイブリッドやEV、そして新技術である「スカイアクティブX」と、多彩なパワートレインも注目のカテゴリーです。欧州市場において、ファミリーカー、いや自動車のベーシックモデルという位置付けのフォルクスワーゲンゴルフが君臨し、各メーカーが威信を懸けたモデルを投入する激戦区です。
馬:今回、ハッチバックのカテゴリーでピックアップするのは、トヨタカローラスポーツ、トヨタプリウス、日産リーフ、マツダ3、そしてスバルインプレッサスポーツの5台です。
ハイブリッド、EV、スカイアクティブX、新技術も盛りだくさん
萩:プリウスはクルマに詳しくない人でも認知されているハイブリッドのパイオニアです。4代目となる現行型はTNGAと呼ばれるクルマの構造改革を採用し2015年12月に登場。前期型は個性的なスタイリングが賛否両論で販売台数が伸び悩みましたが、2018年12月のマイナーチェンジで外観デザインをオーソドックスな顔つきに変更。たちまち販売台数トップに返り咲きました。
カローラスポーツは新世代カローラの幕開けを告げるモデルで、ゴルフと真正面からぶつかる5ドアハッチバックです。
EVを広く認知させたリーフですが、2代目となる現行型は2017年9月に登場。2019年5月にはe+(プラス)と呼ばれるロングレンジモデルが登場。もうEVは走行距離が短いとは言えなくなりました。
2019年5月に登場したマツダ3ファストバックはアクセラスポーツの後継車です。アクセラはこれまで海外ではマツダ3として販売されており、名前が世界統一されたということです。マツダの新しい技術を導入した第1弾モデルで、ガソリン車ながら自然発火という画期的な燃焼方式を採用した「スカイアクティブX」が注目点です。
最後は2016年10月に登場したインプレッサスポーツです。すでにマイナーチェンジを行い、内外装や安全装備を変更すると発表されていますが、こちらもスバルグローバルプラットフォーム(SGP)と呼ばれる新技術を搭載したモデルとなっています。
馬:こうして見てみると、各社最新技術を投入する最初のモデルはこのマーケットだということがわかります。新技術に興味のある人もこのカテゴリーに注目ということですね。それでは外観、内装・使い勝手、燃費・走り、安全装備の各項目1人5点満点、合計10点満点で採点しランキング化しましょう。
【外観】新しさと美しさが同居したマツダ3
1位:マツダ3 10点
2位:トヨタプリウス 8点
2位:トヨタカローラスポーツ 8点
2位:日産リーフ 8点
2位:スバルインプレッサスポーツ 8点
外観 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタプリウス | 4.5 | 3.5 | 8 | |
トヨタカローラスポーツ | 4 | 4 | 8 | |
日産リーフ | 4.5 | 3.5 | 8 | |
マツダ3 | 5 | 5 | 10 | |
スバルインプレッサスポーツ | 4 | 4 | 8 |
馬:まずは外観デザインのランキングから。なるべく客観的な評価を心掛けますが、個人の主観が投影されてしまうことはお察しください。
萩:個性的なトヨタ、機能性重視の日産、スタイリッシュなマツダ、主張が少ない控えめなデザインのスバル、各社のイメージ分けはこのような感じではないでしょうか。
外観デザインが秀逸なのはマツダ3ファストバックです。特にリアスタイルの美しさはかつてのイタリア車のように官能的とも言えるので、5点満点。
先代と比べると個性が薄れてしまいましたが、逆に好き嫌いのないデザインとなったリーフが4.5点。
そしてマイナーチェンジして個性が薄れたプリウスも人気が回復したということで4.5点。カローラスポーツのキーンルック、そしてスバルインプレッサスポーツの無難なデザインは好みが分かれると思うので4点としました。
馬:マツダ3ファストバックは実用性を担保した上で新しさと美しさが同居しています。5点です。価格が上がって販売が苦戦していると当初聞きましたが、ここにきて尻上がりに販売台数を伸ばしています。ゴルフ対抗で同じようなところを狙ったカローラスポーツは4点、マツダには及ばないと感じます。
インプレッサの前型のデザインはスッキリしていて良かったのですが、今回のモデルはあまり言うことはありません。4点です。新しさが常に要求されるプリウスは多少顔つきが変わってマシになりましたが3.5点。リーフも苦しい台所事情のなかでがんばったと思いますが3.5点。プリウスもそうですが、特にリーフはデザインで冒険してほしいという期待値があるのできびしい評価になりました。
【内装・使い勝手】内装も高評価のマツダ3、リーフには未来感が不足
1位:マツダ3 10点
2位:トヨタプリウス 8点
2位:トヨタカローラスポーツ 8点
2位:スバルインプレッサスポーツ 8点
5位:日産リーフ 6.5点
内装 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタプリウス | 4.5 | 3.5 | 8 | |
トヨタカローラスポーツ | 4 | 4 | 8 | |
日産リーフ | 3.5 | 3 | 6.5 | |
マツダ3 | 5 | 5 | 10 | |
スバルインプレッサスポーツ | 4 | 4 | 8 |
萩:内装のデザインも外観デザインと同じですね。機能性と質感を両立させているインテリアはマツダ3です。いろいろと評価の分かれたマツダコネクトもこのマツダ3から変更され使いやすさが向上していますので5点満点。
先進性というアピールが強いのがプリウスとリーフです。ただし、リーフは初代の液晶を多用した未来的なメーターから、現行型は海外生産を目指してアナログ式のメーターに変更されました。これは大きなマイナス。プリウスが4.5点。リーフは3.5点です。
カローラスポーツとインプレッサスポーツはオーソドックスなレイアウトながら、ドライバーの操作性を重視しているのは高ポイントなので、両車とも4点としました。
馬:マツダ3のインテリアデザインはプレミアム感すら漂いますね。実用性を損ねないのはマツダの良いところです。シートなどのこだわりも高評価、5点満点です。インプレッサはオーソドックスですが走りへの配慮を感じるので4点。
カローラスポーツはデザイン重視で収納などはいまひとつですが、操作性は良好なので4点。プリウスは無駄なデザインが少々目立つのと、このクラスにしては後席の居住性が劣るので3.5点。リーフは実用性重視なのかコスト制約がきびしいのか、電気自動車に期待されるワクワク感がまったくありません。質感も正直良くないので3点です。
【燃費・走り】乗り心地が改善されたプリウス、インプレッサの燃費は課題
1位:トヨタプリウス 9.5点
2位:マツダ3 9点
3位:トヨタカローラスポーツ 8.5点
3位:日産リーフ 8.5点
5位:スバルインプレッサスポーツ 7点
燃費・走り | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタプリウス | 5 | 4.5 | 9.5 | |
トヨタカローラスポーツ | 4 | 4.5 | 8.5 | |
日産リーフ | 4.5 | 4 | 8.5 | |
マツダ3 | 4.5 | 4.5 | 9 | |
スバルインプレッサスポーツ | 3.5 | 3.5 | 7 |
萩:搭載されているパワートレインが多彩なのがこのカテゴリーの特徴です。カローラスポーツは1.2Lターボと1.8Lガソリンエンジンのハイブリッドシステム。リーフはモーター。マツダ3は1.5Lガソリンエンジン、1.8Lディーゼルターボ、2Lマイルドハイブリッド。そして、インプレッサスポーツは1.6Lと2L水平対向4気筒エンジンと各社の個性が強調されています。
馬:ゴルフをベンチマークとしているカテゴリーだけに、走行性能と燃費性能で最新技術が投入されています。多彩で迷ってしまいますね。
萩:燃費性能はJC08モードと新方式のWLTCモードが混在していますので、直接比較はできませんが、やはりハイブリッド専用車のプリウスがトップ。続いてカローラスポーツ、マツダ3、インプレッサスポーツ。リーフはWLTCモードで322km〜458kmという航続走行距離を実現しています。
先ほどの走行性能と燃費性能のバランスが最も良く5点満点はプリウスです。マイナーチェンジでサスペンションの設定が変更され、しなやかさが加わったのは高く評価したいです。
続いてはマツダ3。燃費性能はハイブリッドに一歩譲りますが、運転する楽しさを味わえる点、そしてユーザーの乗り方によってパワートレインを選べる点も良いと思うので4.5点。
そしてバッテリー容量を拡大し、航続走行距離を延長したリーフも4.5点です。EV特有のスムーズな加速はほかのモデルでは味わえません。4点はカローラスポーツで、ハイブリッド車は良いのですが、1.2Lターボ車はいかにもパワー不足な印象です。そして搭載するエンジンが古く燃費性能が見劣りそして非力感が否めないインプレッサスポーツは3.5点としました。
馬:このカテゴリーは走り自慢のクルマ、燃費自慢のクルマが多いですよね。誤解を恐れず言うとゴルフのおかげです。そんななかですがマツダ3が4.5点、カローラスポーツも4.5点、インプレッサの燃費はイマイチですが2.0Lなら足が良いので文句なく4点、しかしアンダーパワーな1.6も含めると3.5点です。この3台はゴルフを5点とした走り系の評価に少し寄っています。
プリウス4.5点、リーフも4点、この2台はエコカー系として評価しています。どちらも乗り心地やクルマの操縦性がずいぶん良くなりました。特にプリウスの乗り心地の改善ぶりはなかなかのものです。
【安全装備】プロパイロットのリーフ、最新版のマツダ3とインプレッサが高評価
1位:日産リーフ 9.5点
1位:マツダ3 9.5点
1位:スバルインプレッサスポーツ 9.5点
4位:トヨタプリウス 9点
4位:トヨタカローラスポーツ 9点
安全装備 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタプリウス | 4.5 | 4.5 | 9 | |
トヨタカローラスポーツ | 4.5 | 4.5 | 9 | |
日産リーフ | 5 | 4.5 | 9.5 | |
マツダ3 | 4.5 | 5 | 9.5 | |
スバルインプレッサスポーツ | 4.5 | 5 | 9.5 |
萩:プリウス、カローラスポーツはトヨタセーフティセンス、リーフはプロパイロット、マツダ3はアイアクティブセンス、インプレッサスポーツはアイサイトと、このクラスになると先進の運転支援システムはほとんど差がありません。
同一車線自動走行運転プロパイロットを搭載しているリーフを5点満点とするとそのほかのクルマはすべて4.5点です。最も古いプリウスでも2015年12月とフレッシュなモデルばかりなので、安全装備については実力伯仲といえるでしょう。
なかでもインプレッサスポーツは車両本体価格200万円付近のエントリーモデルでも信頼性抜群のアイサイトver.3が標準装備となっています。割安な価格のクルマでも高い安全性を実現していることは高評価です。
馬:確かに十分なレベルですが、なかでもマツダ3、カローラスポーツ、インプレッサのものは最新版ですね。マツダ3とインプレッサは5点、カローラスポーツは誤発進抑制のインテリジェントクリアランスソナーが全車セットオプションで10万円オーバーとお高いのが引っかかるので4.5点。リーフはプロパイロットがあるとはいえ装置自体は単眼カメラなので4.5点とします。プリウスはカローラスポーツと比べるとひと世代前なので4.5点、誤発進抑制はオプションとなるグレードでも+3万円弱とカローラスポーツよりはお安いので減点なしです。
【総合】力作のマツダ3、燃費だけではなくなったプリウス
1位:マツダ3 9.7点
2位:トヨタプリウス 8.6点
3位:トヨタカローラスポーツ 8.4点
4位:日産リーフ 8.1点
4位:スバルインプレッサスポーツ 8.1点
総合 | 萩原 | 馬弓 | 合計 | |
トヨタプリウス | 4.6 | 4.0 | 8.6 | |
トヨタカローラスポーツ | 4.1 | 4.3 | 8.4 | |
日産リーフ | 4.4 | 3.8 | 8.1 | |
マツダ3 | 4.8 | 4.9 | 9.7 | |
スバルインプレッサスポーツ | 4.0 | 4.1 | 8.1 |
*各項目の合計を平均(小数点以下第2位四捨五入)
馬:ハッチバックの総合ランキングでは、内外装でポイントを稼いだマツダ3が1位に輝きました。続いて燃費・走りの評価が高かったトヨタプリウスが2位、むらなくポイントしたトヨタカローラスポーツが3位。内装の得点が低かった日産リーフ、同じく燃費・走りの得点が低かったスバルインプレッサは同点で4位という結果になりました。
萩:このクラスはスタイル、パワートレインが多彩で評価が分かれます。優れた燃費性能を望むならばハイブリッド車のプリウス、先進性を求めるならリーフ。操る楽しさと美しいスタイリングを求めるならマツダ3ですね。低価格で高い安全性を手に入れたいならばインプレッサスポーツ。MT車でスポーティに走りたい!ならばカローラスポーツですね。ただカローラスポーツの価格で本家ゴルフも手が届きますから、積極的におすすめはしません。
馬:マツダ3は意欲作なので我々のような立場だと高めの評価をつけたくなります。価格が少々高いことが唯一のネックです。プリウスはマイナーチェンジで燃費以外の走りもずいぶん進化し、息を吹き返しましたね。カローラスポーツはバランスの良さが魅力です。ただしマツダ3の前では少し影が薄いかな。リーフは戦略的な価格で十分な性能を持った「EV」としてはすばらしいのですが、「クルマ」としての魅力に欠けます。インプレッサスポーツはパワートレインの刷新をそろそろ望みたいです。
日本ではプリウス以外、あまり売れていないハッチバックですが、実力車揃いなのは間違いないですね。
※記事の内容は2019年10月時点の情報で執筆しています。