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【車のロゴとエンブレムの裏話】デザインの重要性と影響力とは?

【車のロゴとエンブレムの裏話】デザインの重要性と影響力とは?
【車のロゴとエンブレムの裏話】デザインの重要性と影響力とは?

2022年7月に、このカルモマガジンを運営するナイル株式会社のロゴデザインが新しくなりました。それを記念して(?)カルモマガジン編集部より筆者へ「車のロゴ、エンブレムについて執筆してほしい」と依頼がありましたので、宇野の頭の中にあるすべての情報、知見を皆様に共有します!

ナイル株式会社の新しいロゴ

ナイル株式会社の新しいロゴ

ナイル株式会社の新しいロゴ。コンセプトは「TRASFORMATION-ARROWS」とのこと。

ナイル株式会社は、2007年に設立、「幸せを、後世に。」のミッションを掲げて、マーケティングDX事業、自動車産業DX事業を展開してきた会社です。設立後15年目に、コーポレートロゴが新しくなりました。

このロゴの刷新についてナイルは「マーケティング、テクノロジー、デザインを一層強化し、大きな社会課題でもあるさまざまな産業でのデジタル改革をより推進していく企業を目指していく」とプレスリリース の中で伝えていました。

車の「ロゴ」「エンブレム」その違いは?

さて、本題の車のロゴについてお話します。
日本では、自動車メーカー、ブランドのロゴを「エンブレム」と呼ぶことのほうが多いでしょう。工業製品の中でロゴをエンブレムと呼ぶのは、自動車だけでしょう。iPhoneのりんごマークをエンブレムと呼んでいる人を見たことがありません。

いっぽう、オリンピックのロゴは「エンブレム」と呼ばれています。記憶に新しいところでは、2015年に起きた「東京オリンピックエンブレム問題」。デザインの盗用疑惑で世間を騒がせました。

「ロゴ」と「エンブレム」の違い

「ロゴ」とは、英語の“Logotype(ロゴタイプ)”の略称で、英語でも「Logo」の略称が使われています。定義は、会社名・ブランド名・製品名などの文字や図柄を図案化、装飾化、抽象化したデザインのこととなります。日本語に直訳するなら「意匠文字」「意匠図柄」あたりが適切でしょう。車では「マーク」と呼ばれることが多くあります。

「エンブレム」は、英語の“Emblem”そのままで、日本語では「紋章」「記章」「標章」「家紋」などとなります。紋章などの日本語表記では、代々受け継がれているものや、組織の象徴といった歴史を感じさせる印象がありますね。

「ロゴ」も「エンブレム」も、プロダクト・サービス・ブランド・組織などを象徴したデザインであることに変わりはありませんが、エンブレムのほうがブランドの色が濃く、歴史を感じさせる印象があります。

また、ロゴは紙や製品などの表面に印刷、刻印される平面的なものに使われることが多く、エンブレムは、立体的なもの(車のエンブレムがまさしくそれ。制服に付けるワッペンも)が多い感じですね。

車のエンブレムは2種類

混同を避けるためにも、2種類ある車のエンブレムについてお話しします。

1.ブランドロゴ

1.ブランドロゴ

トヨタ自動車は「トヨタマーク」という名称を用いている。現在のデザインは1989年に制定されたもの。2つの楕円の中心点は、車のユーザーとユーザーの心と、車のメーカー、トヨタの心を示し、楕円の輪郭がその2つの心をつなぐ世界を表現している。

1つ目は、自動車メーカーおよびブランドのロゴ。そのエンブレムはひと目でどのメーカー・ブランドの車かがわかります。

2.モデル固有のエンブレム

2.モデル固有のエンブレム

2022年7月15日にワールドプレミアされた新型クラウンとそのエンブレム。(画像はトヨタ プレスリリース)

2つ目に、モデルごとに制定されたエンブレムがあります。トヨタ車に多く採用され、その代表では、センチュリー、クラウン、カローラなどがあります。日産車では、GT-Rは伝統的にモデル名のエンブレムが採用されています。

なぜロゴデザインを変えるのか?

会社にとって、ロゴデザインを変えるのは一大事です。デザイナーに新しいロゴを作ってもらうだけではありません。まずは、新しいロゴデザインに込める思いやコンセプト、ブランドイメージなど、今後の会社の方向性をどうしていくかというフィロソフィーの再確認、再定義も必要です。

デザインの決定は、慎重に慎重を重ねて進められます。ロゴデザインはころころ変えることができません。

ロゴデザインが変わると、名刺や封筒、看板、ホームページなどいろいろなものを変える必要があります。

会社としては、通常の経営、営業活動に加えて、ロゴデザイン変更プロジェクトの推進のために、多くの人、時間、お金を費やす必要があります。

なぜ、そこまでしてロゴデザインを変えるのか?

ロゴデザインを変更する理由、背景は会社によってさまざまですが、共通していえるのは、ロゴデザインを変えることによる効果、影響への期待となるでしょう。

まず、ロゴデザインが変わると、従業員の気分をリフレッシュすることができます。それまで、会社のロゴには興味がなかった人も、少なくとも新しいロゴがどんなデザインなのかは気にするでしょう。また、どうしてロゴデザインを変更したのか、その理由と背景に興味関心を持つ従業員も少なくないでしょう。

経営層は、従業員に会社のフィロソフィーを改めて確認してもらう、会社全体を向上させる好機としてとらえていることでしょう。

営業担当など、社外の人と接することが多いセクションに就く従業員では、名刺や会社概要をはじめとする営業ツールが新しくなります。取引先や顧客との会話の糸口にするのにも有効です。

製品やサービスを使うオーナーやユーザーも、新しいロゴデザインに少なくとも一度は注目するはずです。製品にロゴが入っている場合、新しいロゴに変わると、たとえ基本デザインや仕様といった中身が変わっていなくても、新型になったように見せることができます。

ブランドイメージの向上効果も、ロゴを新しくする大きな理由のひとつです。

ロゴデザインを変更するため多くの時間、労力、お金がかけられますが、ステークホルダーすべてに良い効果と影響を与えることを考えれば、費用対効果が高いものになるのが通例です。

車のロゴデザインが変更される理由、背景も、自動車メーカー以外の企業がロゴデザインを変更する理由とほぼ同じとなるでしょう。

車のエンブレムは人気・販売台数へ影響を及ぼすのか?

本記事執筆前の編集部との打ち合わせで、「エンブレムが変わることで、車の人気や販売台数への影響があるのかを知りたい」と言われました。確かに気になるところです。
※この項は「ブランドロゴ」についてのお話です。

「エンブレムが変わってから販売台数が伸びた」という話は、少なくとも筆者は聞いたことがありません。車の人気や販売台数は、エンブレムよりデザインや性能、価格のほうがより大きな影響力があります。

各自動車メーカー・各ブランドの全体的な販売台数と、エンブレムの変更の関係性も数値的に明示するのは難しいものです。エンブレムが変わっていなくても、新型がたくさんデビューすると、販売台数は底上げされるのが普通です。
逆に、エンブレムが変わっても、新型デビューが少ないと、販売台数は伸び悩みます。新型車の販売台数は、デビューから1年以内が最も多くなり、以降、販売台数は減っていくのが普通です。

ちょうど本記事執筆前に、日産のディーラーにお世話になった際、店長にこのことを聞いてみたところ、「エンブレムが新しくなってセールスが好調になる、ということはないと思います」とのことでした。

車のエンブレムは人気・販売台数へ直接的な影響はない、という結論で問題ないでしょう。

エンブレムを気にするユーザー、実は多かった説

前項で「車のエンブレムは人気・販売台数へ直接的な影響はない」とお伝えしたばかりですが、その逆、エンブレムを気にするユーザーは少なくないこと、ひょっとすると実は多いのでは?というお話です。

トヨタ車に多いモデル別のエンブレムは、ユーザーの車選びのポイントになっていた例をいくつか聞いています。トヨタの販売ディーラー網は1つに統一されましたが、統一前のネッツ店で販売されるモデルには「N」のエンブレムが与えられていました。ユーザーの中には「やっぱりトヨタマークがいい」とトヨタマークが付いた車種を選ぶことがあるいっぽう、「N」のデザインが気に入って選ぶこともあるようです。

エンブレムを気にするユーザー、実は多かった説

トヨタ ヴェルファイアのエンブレム

先代ノア・ヴォクシー、エスクァイアは、エンブレムデザインを気にするユーザーが多かったとも聞いています。また、クラウンでは、モデルチェンジする度に、王冠のエンブレムの大きさを気にする人が多かったとも聞いています。

ただ、エンブレムを気にするユーザーは、ブランドロゴではなくモデル固有のエンブレムが気になる傾向といえるでしょう。

BMWは2020年4月に新しいエンブレムを発表し、伝統的な基本デザインは変えていませんが、ふち取りのブラックが背景色を透過するクリアとなり、ライトな印象なものに変わりました。BMWファンの中から、次から出る新型車のエンブレムがそれに変わるのかと、嘆きの声が聞こえてきましたが、実はCI(コーポレート・アイデンティティ)のエンブレム変更のみで、車のエンブレムは変更されないままでした。

エンブレム変更の発表と同時に発表されたコンセプトカー「i4」は、新しいロゴが採用されていたこともあり、SNSでは一時騒然となりました。BMWも、そのあたりのユーザー心理はわかっていたようですね。

エンブレムの大きさを気にする人も少なくない

エンブレムの大きさを気にする人も少なくない

メルセデス・ベンツ Cクラス W204には、2つの顔があった。メルセデス・ベンツはモデル別でエンブレムがグリル中央にあるタイプと、そうではないタイプに分かれている。

プレミアムなブランド・車を選ぶ人の中では、エンブレムの大きさを気にする人が少なくないようです。エンブレムは、ブランドの象徴であり、ブランドマークはオーナーの所有欲を満たしてくれる大きな要素となります。逆に、これ見よがしな大きなブランドロゴを敬遠する人も少なくありません。

エンブレムのデザインが車選びのポイントのひとつになっていることは間違いなく、メーカー側もそれを意識してデザインしています。しかし、エンブレムのデザインが気に入らないからといって、その車を買わないという人はマイノリティーになるでしょう。

最近、エンブレムを変更することが多発している理由

ここ数年、エンブレムデザインを新しく変更した自動車メーカーがたくさんあります。エンブレム変更の発表時の理由の中で多かったのは、現代のデザイン風潮に合わせた、すなわちフラットデザイン化でした(この次の項で最近変更されたエンブレムについて紹介します)。

フラットデザインが現代のデザインのメインストリームになった背景には、世の中全体のデジタル化があります。

インターネットが普及する以前、車を見るのは外かテレビ、新聞や雑誌、本などの紙媒体、屋外広告、映画の中での映像に限られていました。2次元で車を見る機会は、インターネットの普及により飛躍的に多くなりました。

インターネット普及以前のエンブレムは、立体的なデザインが主流でした。立体的なデザインは、リアルに目で見るときに特に効果的ですが、画面の中になるとその効果は薄れます。エンブレムがフラットデザイン化されるのは、画面で見たときの印象をより効果的にするという理由もあります。

スマートフォン・アプリのアイコンも、現在ではフラットデザイン化されたものが主流になりました。スマートフォン黎明期では、立体的なデザインのアイコンが主流でしたが、見やすさやデザイン性の高さが優れるフラットデザインのものに置き換えられてしまいました。

先進予防安全技術もエンブレム変更の背景にあり

車のエンブレムは、フロントグリルのセンターに位置することが基本です。フロントグリルの1丁目1番地、特等席がそこです。ブランドの象徴を掲げる最適な場所は、その位置以外にありません。

しかし、先進予防安全技術に必要なセンサー、カメラもフロントグリルの特等席を必要としています。センサーやカメラをエンブレムの後ろ側に配置したとき、立体的なデザインでは邪魔になり正確なセンシングができなくなります。

フラットなデザインであれば、エンブレムの素材を工夫することでその後ろにセンサーを配置することができます。

最近変更された新しい車のエンブレム

この項では、数年以内に変更された新しいブランドロゴ・エンブレムを紹介します。
※各画像、左が新エンブレム、右が先代エンブレム。

【2018年3月】MINI

【2018年3月】MINI

2018年3月に行われたMINIのロゴデザイン変更のテーマは「Reduced Design(縮小デザイン)。MINIのフォントをホイールのように見える真円で囲い、その円に翼をもたせた伝統的デザインを、より記号化したものになりました。

MINIが2001年にローバーからBMWへ生産会社が変わりましたが、MINIのエンブレムは英国時代からその基本を変えていません。

【2019年9月】フォルクスワーゲン

【2019年9月】フォルクスワーゲン

2019年開催のフランクフルトモーターショーで、新型EV「ID.3」の発表にあわせて、ロゴデザインの変更が発表されました。

フォルクスワーゲンは、電動化、コネクテッド技術、カーボンゼロなどにはじまる未来に向けて、デジタルデバイスと相性の良いフラットな2次元デザインを採用しました。

新ロゴデザインのポイントは、Wの文字の下が輪郭から浮いているところ。これは、フォルクスワーゲンはさまざまな事柄に柔軟に対応する意味をもたせているとのことです。

フォルクスワーゲンの初代エンブレムは、1937年に登場。この最新デザインへの変更で12世代目となります。

【2020年3月】BMW

【2020年3月】BMW

2020年3月に実施されたロゴ変更で、SNSなどで一時騒然となったものがこれ。BMWのエンブレム初代は1917年、最新のエンブレムで6世代目となりますが、基本的なデザインは変わっていません。

デザインの由来については、創業当初に力を入れていた航空機用エンジンから、プロペラをモチーフにした説と、BMWの本拠地があるバイエルンの州旗がモチーフ(BMWの正式社名は、「Bayerische Motoren Werke AG、バイエルン発動機製造株式会社)」という2つの説があります。

【2021年2月】プジョー

【2021年2月】プジョー

プジョーのエンブレムは、2021年2月の刷新で11世代目となりました。プジョーの創業は1850年、元々は1810年に創業したプジョー兄弟による家族経営の製鉄所で、生産される鉄を材料した工具、傘、コーヒーミル、自転車などに最高品質を示すライオンのマークをつけたことが始まりです。

現在でもプジョーは車以外の工業製品を生産。統一して新しいブランドロゴが採用されます。

今回のロゴデザイン変更は、四肢あるライオンから顔だけへと随分省略された印象がありますが、実はこれ、1960〜68年のブランドロゴの基本デザインを受け継いでいました。

【2021年2月】プジョー

1960〜68年のプジョーのエンブレム

【2020年7月】日産

【2020年7月】日産

2020年7月15日、新型EV「アリア」の発表と同時に新ロゴデザインも発表されました。日産は「豊かな歴史とイノベーションの伝統とともに、未来へと舵を切る日産の姿を表現」したと伝えています。

このエンブレム変更は約20年ぶりで、1959年に始まった初代エンブレム以降、4回目の刷新となりました。

おもしろいのは、新ロゴデザインはフラットですが、デザインは立体的なエンブレムを基本にされたということ。アリア以降の新型車、ノートシリーズ、フェアレディZ、エクストレイルの新エンブレムは立体的で、日産の共通デザイン、Vモーショングリルととてもマッチしています。

【2020年7月】日産

日産 アリア。熊野古道中辺路にて筆者撮影。

【2021年10月】ルノー

【2021年10月】ルノー

2021年1月にルノーのロゴも流行りのフラットデザインに変わりました。1898年の創業当時のエンブレムは丸形に文様が付けられたもので始まり、それ以降、車、戦車、ラジエーターグリルを模したデザインが採用され、現在のひし形デザインの原型となったのは、1925年でした。

ひし形はフランス語で「losange(ロサンジェ)」となることから、ルノーでは「ロサンジェ」と呼んでいます。

以上、車のロゴとエンブレムの裏話、デザインの重要性と影響力についてお伝えしました。

※記事の内容は2022年7月時点の情報で制作しています。

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