筆者がEVに試乗した総走行距離は軽く1万kmを超えました。昨年、四国遍路を1国1車種ずつ計4回にわけて結願、その走行だけでも約1万kmでした。EVや再エネについての取材も積極的に行っています。
そんな筆者に、編集部から「EVについていろいろと伺いたい」とのことで本記事を執筆することになりました。編集部からは以下のような質問がありました。
BEV・FCV・PHEV・ハイブリッド…それぞれ何が違うのか?乗り心地や燃費、使い勝手や将来性はどうなのか?
車の電動化は本当にユーザー目線で「節約」になるのか?
車の電動化は本当に「環境を守ること」になるのか?
本記事ではこれらの質問にお答えしつつ、クルマの未来がどうなるか、現状の問題は何なのかについて迫ります。
BEV・FCV・PHEV・ハイブリッド…それぞれ何が違うのか?
最近のクルマの種類はアルファベットだらけですね。ここではクルマのパワートレイン(エンジンやモーターのこと)の全種類を解説します。
BEV・EV・電気自動車
BEVは「Battery Electric Vehicle」の略で、バッテリーの電気で走る自動車のことをいいます。バッテリーのBが省略された「EV」で呼ばれることのほうが多いでしょう。より正確にいうと「バッテリー式電気自動車」となります。
FCEV・FCV・燃料電池自動車 ≠ 水素自動車
FCEVは「Fuel Cell Electric Vehicle」の略で、燃料電池(Fuel Cell)自動車のことをいいます。単に「FCV」と呼ばれることのほうが多いでしょう。
燃料電池とは、燃料と酸素を化学反応させて発電し、その電気をバッテリーに蓄えるしくみのことをいいます。FCVでは、クルマの中に小さな発電所があって、そこから得た電気をいったんバッテリーに蓄えて、モーターを駆動して走っています。
燃料電池に使用される燃料は、クルマでは水素です。一般家庭でも多く使われている給湯器(エコキュートなど)にも燃料電池が採用されていて、この場合はガスが燃料に使われています。
FCV = 水素自動車と認識されていることが多いようですが、これはノットイコールです。2021年に、トヨタが開発した水素エンジンを搭載したヤリスは、ガソリンエンジンと同じように水素を燃やして走っています。
現在、水素自動車は、燃料電池式と内燃機関式(エンジンのこと)の2種類があります。
ZEV
最近、「ZEV」という言葉もよく聞かれるようになりました。ZEVは「Zero Emission Vehicle」の略です。ゼロ・エミッションとは、二酸化炭素をはじめとする排出物を限りなくゼロにする取組みのことをいいます。
ZEVには、EV・FCVが含まれています。この先の未来に、内燃機関式水素自動車やバイオ燃料を使うエンジン車が登場すれば、これらもZEVとなります。
PHEV・PHV・プラグインハイブリッド
PHEVは、「Plug-in Hybrid Electric Vehicle」の略で、メーカーにより「PHV」と表記されています。プラグインハイブリッドとは、エンジンとモーターの両方がパワートレインに採用され、外部から充電可能なバッテリーを搭載した車のことをいいます。
ハイブリッドカーとEVの中間に位置付けられますが、外部充電が可能で、一定の距離をバッテリーの電気だけで走行できることが特徴となります。
ハイブリッド・HEV
ハイブリッドとは、複数の方式を組み合わせた工業製品や、異なる品種を組み合わせた植物・動物を意味する英語(Hybrid)のことですが、もはやハイブリッドといえば、いの一番がクルマのことになってしまいました。
HEVは「Hybrid Electric Vehicle」の略で、自動車メディアや自動車メーカーなどがよく用いる言葉となっています。
ICEとは
「Internal Combustion Engine」の頭文字をとったもので、内燃(Internal Combustion)機関(Engine)のことをいいます。おもに自動車業界で使われています。内燃機関とは、燃料を機関の内側で燃やす原動機 = エンジンのことです。
PHEV・HEVは電動車に分類されることが多いですが、ICEにも属するパワートレイン方式となります。
乗り心地の違い
現在のクルマをパワートレイン別に分類すると、BEV・FCV・PHEV・HEV・ICEの5種類になります。この5種類のうち、最も乗り心地が良いのは、BEV・FCVとなるでしょう。もちろん、モデルによってサスペンションのセッティングやシートなど乗り心地に大きな影響を与える構造物の違いにより、絶対的とは言えませんが。
BEV・FCVの乗り心地が、ICEより良くなる理由は、車両重量の大部分を占めるバッテリーがフロア下など車の低い位置に搭載され、重心が低くなることが挙げられます。
走行性能を無視して乗り心地だけを追求するなら、重たい車は有利です。ロールス・ロイスの車両重量は余裕の2トン超え、どのモデルも2トン台後半です。国産車最高峰に位置するトヨタ センチュリーも2トン超え、2,370kgです。
重たい車が乗り心地に有利に働くのは、慣性の法則があるからです。動いているモノには、継続してその動きを維持しようとする力が働きます。車の場合、路面の凹凸を乗り越えたとき、車体は凹凸を乗り越える前の水平移動を維持しようとする慣性の法則が働きます。慣性の法則では、重量が軽いほど外部からの力に対して弱くなります。ボウリングの球とピンポン球、同じ力で転がしたとき、スピードを長く維持するのはボウリングの球です。
ICEでは、車両重量の大部分を占めるエンジン、トランスミッションが車の前方に集中するのが普通です。このため、前輪にかかる荷重は大きく、後輪にかかる荷重は小さくなり、コーナリング時の車両姿勢の安定性や運動性能を悪化させる要因となります。このため、スポーツカーでは、エンジンを車両の中心にレイアウトする「ミッドシップ」などが採用されているのです。
BEVのパワートレインは、モーターとバッテリーのみで、ICEが必要とするトランスミッションはありません(ポルシェ タイカンのように一部のハイパフォーマンスモデルでは、2速変速を用いているケースがあります)。
また、静粛性に関しても、BEV・FCVが群を抜きます。BEV・FCVの走行中に発生するのは、わずかなモーター音(実質的にはインバーターの音)と、ロードノイズ、風切り音で、うるさいエンジンがない分、静粛性に優れます。
さらに、エンジンより緻密に駆動力を制御できるモーターのおかげで、安定性の向上や、加減速時の揺れを抑えることも可能です。この機能はすべてのEV・FCVに搭載されていませんが、ICEより性能の高いシステムを組めるのがEV・FCVの特徴です。
燃費・電費の違い
燃料代、電気代が最も安くなるのは、BEVです。ただ、車のスペックや利用状況によって差が大きくなるので、概念的な参考値としてとらえてください。ここでは参考として、標準的なHEVとBEV、FCVのスペックで、1km走行するのに必要な費用で試算してみます。
HEVの燃費を20km/L、レギュラーガソリン単価を165円としたとき:8.25円
BEVの電費を6km/kWh、電気代を20~30円/kWhとしたとき:3.3〜5円
FCVの電費を116km/kg、燃料代を1,100円/kgとしたとき:9.5円
使い勝手の違い
移動手段としてのクルマとして考え、室内空間や装備面での使い勝手を除いた場合、燃料補給・充電が最も使い勝手の良さを左右する要素となります。この点で比較すると以下のように二分されます。
使い勝手が良い:HEV・PHEV、状況によりBEV
使い勝手が悪い:BEV・FCV
ガソリンスタンドでの給油時間は、概ね数分です。給油の前後の店員とのやりとりや会計、セルフスタンドでの機械操作時間などを考慮しても、ガソリンスタンドの滞在時間は、待ち時間がなければだいたい10分以内で収まるでしょう。
EVの充電時間は、自宅充電ではとても長く10〜30時間ほどかかります。バッテリー容量が大きい90kWhのEVで、200V・3kW出力でバッテリー残量0から満充電にかかる時間は30時間です。 日産 サクラのような軽EVなら、一晩で満充電が可能です。
FCVでは、水素スタンドでの燃料補給時間はガソリンスタンドと同等になりますが、いかんせん水素スタンドが数えるほどしかない現在では、遠方へ行くときの不便さ、日常生活での燃料補給の大変さは否めません。
BEVの使い勝手が最強となるケース
最近、地方で問題となっているのは、ガソリンスタンドの減少です。ガソリンスタンドが減っていく理由は2つあります。
1つ目は、HEVの普及で全体的なガソリン消費量が減り、ガソリンスタンドの経営が難しくなってきたこと。
2つ目は、2011年の消防法改正によって、ガソリンスタンドにある地下タンクが設置から40年以上経ったら更新しないといけなくなったこと。
1つ目だけの理由なら、関連事業を展開するなど売上を確保するすべがあったのですが、2つ目の理由は、小さなガソリンスタンドではタンク更新の費用が出せずに廃業に追い込むものとなりました。タンク更新には、少なくとも数千万円、億を超えるケースも少なくないようです。
インターネットの発達・普及もガソリンスタンド廃業への追い打ちをかけているかもしれません。スマートフォンで簡単に最寄りやドライブ途中のガソリンスタンドが検索でき、さらに安いガソリンスタンドを簡単に選ぶこともできます。
特に人口密度が低い地域では、ガソリンスタンド空白地帯が増加してきており、給油のために往復1時間以上かけて走るという人も目立ってきました。
そんなガソリンスタンド空白地帯では、BEVが最も使い勝手が良くなります。バッテリー容量が小さい(40kWh以下の)ので、自宅に帰ってきたらすぐ充電プラグを車に挿せば、だいたい次の日の朝までには満充電になっていることでしょう。
新型軽EV、日産 サクラは、バッテリー容量が20kWh、航続距離180km(カタログスペック。推定実航続距離100〜120km)というスペックですが、まさにガソリンスタンド空白地帯に最適な1台となりました。
日本の脆弱な充電インフラが課題
BEVの最大の難点が、充電。出先でバッテリー残量がなくなってしまうと、その先はめんどうな充電祭りが開催されます。
日本の公共の急速充電器では、充電時間が最長30分に制限されています。充電終了後、繰り返し充電することは可能ですが、充電待ちの人がいたらできません。SNSでは「おかわり充電」と呼ばれ、それがマナー違反だと主張する人もいます。
また、日本の急速充電器の出力は欧米に比べて小さいものばかりです。最近では、ようやく90kW出力器が出てきましたが、東名高速の海老名SA、首都高速の大黒PAぐらいにしかありません、高速道路のSA・PAでは、40〜50kW器が設置されていますが、道の駅やコンビニなどに設置されている古い急速充電器では、20〜30kW台の低速器が目立ちます。
仮に、40kW器で30分充電した場合、理論上では20kWhが充電できます(実際は少し落ちるし、状況によっては半分以下になることもあり)。たとえ20kWh充電できたとしても、航続距離にすると、120km分(電費6.0km/kWh計算)にしかなりません。
BEVは特性上、高速道路での電費は悪くなります。モーターは高回転になればなるほどパワーが落ちて電気を食います(モーターは理論的には0回転のときに最もトルクが太い)。また、空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるため、高速走行ではさらに電費を悪化させる要因となります。
筆者の経験上、日産 リーフクラスのBEVでは、高速道路での実電費は5〜6km/kWhでした。また、急速充電器の充電効率は、理論値の8〜9割くらいでした。実際、バッテリー残量がなくなってからの急速充電では、1充電ごとに約80〜100kmとなり、だいたいSA2つごとに充電していました。
いっぽう、テスラでは専用の「スーパーチャージャー」が各地に設置され、最も多いタイプが120kW、最新のものでは250kW器が出てきています。小さなタイプでも72kWの出力となっており、充電時間も無制限というオーナーに優しいインフラが整備されています。
また、アウディやポルシェは、ディーラーに高速タイプの急速充電器の拡充を進める計画が発表されています。
しかしながら、一部の人しか恩恵が受けられないインフラです。国としてインフラ整備に力を入れないといけないところですが、欧米に比べて高出力が出せない充電規格、CHAdeMO方式からの脱却が難しくなってきたこと、電力不足問題など、八方塞がりな状況ではあります。
BEVで「節約」は限定的
編集部からの質問で「車の電動化は本当にユーザー目線で「節約」になるのか?」についての解説をします。
EVの車両価格は、ICEに比べると2〜3割以上高くなります。国や自治体の補助金で実質的にICE並み、あるいはそれ以下の金額で買えるモデルも出てきました(日産 サクラ、三菱 eKクロス EVなど)。
ただ、補助金は全員に等しく分配されるわけではなく、予算が尽きたら終わりです。自治体のEV購入補助金は、すでにいくつかの地域で予算が尽きたことが報告されています。
実質購入価格がICE並みの金額でBEVが買えて、遠出は滅多にしないで自宅充電を基本とするなら、ICEの維持費に比べると節約することが可能です。
ただ、条件として、ガソリン価格と電気代の差が現在以上に広がらないことが条件です。ガソリン価格、電気代ともに高騰している現在です。ガソリン価格に比べて、電気代の価格高騰が大きくなると、BEVで節約することはできなくなってしまいます。
東日本大震災以降、日本全体の電力不足問題に加えて、原油高、円安というトリプルパンチは、今後のカーライフに大きな影響を与えることはいうまでもありません。
電動化は本当に「環境を守ること」になるのか?
排気ガスを出さないBEV・FCVは、確かに環境を守ってくれます。しかし、バッテリーを生産する工場からは大量の二酸化炭素をはじめとするガスが吐き出され、工場周辺地域への環境負荷は高くなります。
BEV・FCVの生産から廃棄までのクルマの環境性能を図る、ウェル・トゥ・ホイール(Well to Wheel = 油井から車輪まで)や、ライフ・サイクル・アセスメント(Life Cycle Assessment =資源採取からリサイクルまで)を考えなければなりません。
マツダ初のBEVとなるMX-30は、デビュー当初からしばらくはLCAの観点からBEVモデルは欧州のみで販売し、国内ではマイルドハイブリッドモデルのみの販売となっていました。この背景には、日本の発電は火力の割合が大きいことが挙げられています。
トヨタもBEVは欧米や中国から導入し、国内市場では超小型EVのC+podからの販売となっていました。
BEVの環境性能は、走行中だけでなく、生産に必要な材料の採取から、廃車後の処理までを考えると、ICEと変わらない、あるいはBEVのほうが環境に良くないという意見もありますが、廃車後のバッテリー再利用が考慮されていないなど、計算方法も確立されていないのが現状です。
FCVに必要な水素は石油から作られ、生産過程でCo2を排出しているのが現状です。海水などサステナブルな資源から水素を取り出す研究が進められていますが、現時点では実用化はできていません。
クルマの電動化は環境のためではない、という考え方
筆者としては、クルマの電動化はもはや環境のためだけではない、と考えています。
そもそも、クルマの電動化のきっかけになった地球温暖化問題も本当かどうかの議論が残っています。本当に今、地球は温暖化していると決まったわけではありません。現在、地球は寒冷化に向かっているという研究結果もあります。
また、Co2が温暖化ガスではないという研究結果も出ています。そもそも、地球が温暖化しているのか、二酸化炭素が悪なのかさえあやふやなままなのです。なんとなく世界の論調が、「今は地球温暖化に向かっている、Co2の排出をゼロにしなければヤバい」となっているだけなのです。
しかし、研究が進んで本当にCo2のせいで地球温暖化となっていることが明らかとなったのであれば、それこそ本当にヤバい事態ですね。今から手を打ってもすでに遅いかもしれません。
ただ、いずれにせよ、人類が資源・エネルギーの使い方を見直さないといけない時期に来ていることは明白です。少なくとも、今までのような石油の使い方をしていいのかどうか、明らかになっていないです。
その側面では、BEVもFCVもPHEVもHEVもすべて選択肢に入れて研究開発、普及を進める意義があります。
豊田社長が「トヨタは、EVも本気、PHEVも本気、ハイブリッドも本気、水素も本気」と熱く語っている理由、筆者にはとてもよくわかります。
(文・撮影:宇野 智)
※記事の内容は2022年7月時点の情報で制作しています。