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半導体不足による新車納期の長期化に揺れた2022年の自動車業界、しかし今年発売された国産ニューモデルはどれも実力派ぞろい。「豊作」といわれた2021年に続いて「大当たり」の年でした。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)には日産サクラ/三菱eKクロスEVが軽自動車、そして電気自動車(EV)として初めてのイヤーカーに輝きましたが、ほかにも見どころのあるニューモデルがたくさん生まれました。COTY選考委員でもある岡崎五朗さんが選ぶ2022年の国産車ベスト5をお届けします。
日本車は世界に肩を並べるどころか、世界の頂点に立ち始めている
昨年のこの時期に同じテーマで書いた原稿の書き出しは「2021年は日本車の当たり年だった」だ。そして嬉しいことに、今回も同じことを伝えることができる。2022年も日本車の当たり年だった。しかもますますパワーアップしているな、というのが僕の実感だ。デザイン、乗り味、走り味、燃費、コンセプト、コストパフォーマンスなど、様々な点で日本車は世界に肩を並べるどころか、世界の頂点に立ち始めている。もちろん、プレミアム領域では欧州車に及ばない部分も多いが、普通の人が買える価格帯のクルマに限定すれば、圧倒的なアドバンテージを身につけたと言っていい。
そんななかから、僕が選んだベスト5が以下のクルマたちだ。
第5位「日産エクストレイル」最新ハイブリッド車の走りに目から鱗が落ちる
一見するとキープコンセプト。内外装の質感は高まったが、正直なところひと目で心奪われるような存在ではない。ところが走り出すと印象は一変。なんだこのクルマ?EVじゃない=エンジン積んでるのにエンジンの存在感がほとんどないぞ??いったいぜんたいどうなっちゃってるんだ???
そんな驚きを生みだしたのが日産独自のハイブリッドシステムe-POWERとVCターボエンジンだ。e-POWERは100%モーター駆動だが、発電を担当するVCターボのハイテクぶりがスゴい。コネクティングロッドにリンク機構を組み込むことにより、長年にわたってエンジン技術者の夢だった「可変圧縮比」を実現。燃費重視からパワー重視を自由自在に切り換えることで十分な発電能力と低燃費を両立した。
十分なパワーがあるから必要とするエンジン回転数が下がり静粛性が高まった。また、リンク機構には振動を打ち消す効果もあるため3気筒とは思えない上質で力強いフィーリングも実現した。百聞は一見にしかず。少しでも興味をもったらぜひ試乗してみて欲しい。最新ハイブリッド車の走りに目から鱗が落ちるはずだ。
第4位「マツダCX-60」驚異的な燃費、スムースな回転フィール、最高にイカしたインテリア
CX-60は大ヒットしているCX-5よりひと回り大きいサイズの2列シートSUVだ。しかし中身はまったくの別モノで、基本骨格となるプラットフォームは完全新設計のエンジン縦置きFRプラットフォーム。それに組み合わせる3.3L直6ディーゼルもATも完全新設計となる。そう、CX-60はマツダのもつ最新技術を総動員し、何から何までゼロから新たにつくりあげた完全ブランニューモデルなのだ。
直6エンジンにFRプラットフォームと聞けば、クルマ好きが思い浮かべるのはBMWやメルセデス・ベンツだろう。そんなプレミアムブランドと同じ贅沢な構成がもたらすのは、CX-5では得られないラグジュアリー感だ。低速域では足の固さが少し気になるが、速度を上げていくに従いしっとり感が増していく。高速道路での直進安定性と横揺れの少ないフラットな乗り心地はもう最高だ。
加えて3.3Lという大排気量ながら高速道路では25km/Lに迫る驚異的な燃費、直6ならではのスムースな回転フィール、最高にイカしたインテリアなど、CX-60には素敵なトピックがたくさん詰まっている。
第3位「シビックe:HEV/タイプR」戻ってきたエンジンのホンダ、タイプRが500万円以下で買えるのは奇跡
昨年、ゴルフと互角以上のクルマになったという理由で5位にランクインさせたシビック。当時は1.5Lターボのみだったが、2022年にe:HEVとタイプRが追加され、さらに魅力を増した。
e:HEVはホンダ独自のハイブリッドシステムで、通常は日産のe-POWERのようにエンジンで発電した電力でモーターを駆動し、高速走行のようなエンジンが得意な領域ではエンジンの力を直接駆動に使う。感心したのはe:HEV 用の2Lエンジンのフィーリング。1.5Lターボはちょっとザラついた印象があったが、新開発の2Lは極めてスムースに回る。一昔前のホンダの4気筒は他社の6気筒並のスムースさをもっていたが、それがようやく戻ってきてくれた感じだ。フットワークも1.5Lよりシッカリ感が強まっている。
タイプRは330ps!を誇る2Lターボを搭載するスモーツモデル。MTのみの設定だが、高出力エンジンとは思えない低回転域の粘りによって街中でも運転しやすさは抜群。電子制御式サスペンションをコンフォートモードにセットしておけば、荒れた路面でも内臓が揺すられるような揺れは起きない。それでいて、一度サーキットに持ち込めば素晴らしい刺激とスピードでドライバーを歓喜の渦に巻き込んでくれる。こんなクルマが500万円以下で買えるなんて奇跡である。
第2位「クラウン・クロスオーバー」閉塞感漂う日本社会へのカンフル剤
クラウンと言えば、日本を代表する高級セダンである。しかしあまりに長い間その座に就いていたことにより、次第にコンセプトとユーザーの固定化が進んでしまっていた。変えるとオーナーの機嫌を損ねてしまう。かといって既存オーナー好みのクルマにすると若いユーザーに買ってもらえない。実際、クラウンの平均ユーザー年齢は1年ごとに1歳ずつ上がるような状況だったという。
そんな状況に果敢に挑んだのが16代目となる新型クラウンだ。まずはクロスオーバーを発売し、セダン、スポーツ、エステートを加えた4モデルでクラウンシリーズを構成することになる。第1弾となるクロスオーバーは、ご覧のようにセダンとSUVをクロスオーバーさせたデザインが特徴。これがクラウン?!と誰もが思う強いインパクトをもっている。賛否は分かれるだろうが、誰からも嫌われないデザインを目指していたら、「生まれ変わったクラウン」を演出することはできなかっただろう。
エンジンは横置きながら全車4WD。低燃費自慢の25Lハイブリッドでも必要にして十分以上の動力性能をもっているし、高性能仕様の2.4Lターボハイブリッドを選べば、胸のすくような加速を楽しめる。そうそう、街中でこれほど視線を集めるクルマも久しぶりだ。変わらなくちゃと思っているのになかなか変われない日本。クラウンの見事な変わりっぷりは、閉塞感漂う日本社会へのカンフル剤になるかもしれない。
第1位「サクラ/eKクロスEV」軽自動車とEVの相性は抜群だ
多くのEVが搭載するバッテリーの大きさと、それによる長い航続距離を商品価値としてアピールするなか、サクラ/ekクロスEVは20kWhという、通常のEVの3分の1〜4分の1という小さなバッテリーを搭載してきた。結果、カタログ航続距離は180km。実用電費を7km/kWhとすると実質140kmという航続距離になる。
そんなんじゃ使い物にならないよ、と思う人もいるだろう。しかし、多くの軽自動車オーナーは長距離走行はしない。通勤、通学、買い物、送迎といった使い方がメインであり、そういう使い方であれば140km走れば十分なのだ。軽自動車とEVの相性は抜群だ、と僕が考える理由はそこにある。もちろん、バッテリーは大きければ大きいにこしたことはないが、大きいバッテリーを積めばその分価格は跳ね上がり、重量も増す。249万円〜というEVとしては安い価格を実現した最大の理由は、バッテリー容量を「必要最小限」にとどめたことにある。リーフの60kWhモデルが100万円の値上げを敢行するなど、EVの値上げが相次ぐなか、EVを広く一般に普及させていくには、サクラ/ekクロスEVの方法しかない。
それでも普通の軽自動車と比べると高いが(東京などは潤沢な補助金によりむしろ安く買える)、乗ってみると多少高くても欲しいな、と思わせる運転フィーリングをもっているのもサクラ/ekクロスEVの魅力だ。当然ながら上り坂でもエンジンが唸ることはないし、2Lガソリン車並みのトルクによって発進は力強くスムース、60km/hまでの全開加速も素晴らしく爽快だ。長距離ドライブにほとんどいかない人、あるいはセカンドカーとして乗る人にとっては理想的なコンパクトカーだと思う。
参考:2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)の結果
2022 – 2023 COTY 得点表 | 合計得票 |
---|---|
日産 サクラ/三菱 eKクロス EV | 399 |
ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR | 320 |
トヨタ クラウン | 236 |
マツダ CX-60 e-SKYACTIV D 3.3 | 141 |
日産 エクストレイル | 84 |
ヒョンデ IONIQ 5 | 75 |
日産 フェアレディZ | 72 |
ルノー アルカナ | 70 |
BMW iX | 45 |
ランドローバー レンジローバー | 30 |
スズキ アルト | 28 |
※記事の内容は2022年12月時点の情報で制作しています。