今では法律で着用が義務化されているシートベルトですが、かつてはシートベルト着用の義務どころか車にシートベルトが装備されていない時代もありました。時が流れるにしたがってさまざまな安全への工夫が凝らされるようになり、運転席や助手席のエアバッグは定番化し、衝突安全ボディなどが開発されるようになったという歴史があります。
今や車の安全性能の中心は衝突の回避や被害を軽減する自動ブレーキやアクセルとブレーキの踏み間違い時の急発進・急加速を抑制する誤発進抑制装置などの先進安全機能になりつつあるといえるでしょう。
ここではトヨタ「86」にはどのような安全性能があるのか、ご紹介します。
86の安全性能の特徴
86は数多くのトヨタ車の中でも異彩を放つFRライトウェイトスポーツカーです。スバルと共同開発された水平対向エンジンを搭載し、車をドライバーの意のままに操る楽しさを追求したこの86はニュルブルクリンク24時間レースやスーパーGTでも活躍し、車好きの熱い視線を浴び続けるモデルです。
86は2012年にデビューし、2017年にはステアリングの支持剛性アップ、サスペンションの再チューニングなどの一部改良が施されていますが、そのタイミングでも自動ブレーキや誤発進抑制装置などの先進安全機能は搭載されませんでした。
近年の新型車には先進安全機能を標準装備とする車種も多く、先進安全機能の充実度は車の選ぶ際のポイントにもなる時代です。各自動車メーカーが競い合ってさまざまな機能を開発し、ステアリング制御を伴う車線逸脱抑制装置や夜間の歩行者や自転車の認識も可能な自動ブレーキも登場するなどここ数年で車の先進安全機能は格段に進化してきました。
これから日本でますます進む超高齢社会に伴って高齢のドライバーが増えることから、国土交通省や経済産業省は、自動ブレーキや誤発信抑制機能などの一定の先進安全機能を装備した車をセーフティ・サポートカー、通称サポカーと命名して普及を推進しています。
そうした時代の流れにおいてまったく先進安全機能を搭載しない86は独特の立ち位置にある車といえるでしょう。
サーキットで走ることを前提にされているので自動ブレーキや車線逸脱警報などがあってはサーキット走行が難しい、という面もあるようですが公道走行を行う限り今の時代では先進安全機能をつけるべきだという声もあり86の安全性能については賛否両論あるようです。
ここからは86に搭載されている安全性能についてご紹介しましょう。
フレームレス自動防眩インナーミラー(G以外に標準装備、Gではフレームが付属)
出典:トヨタ「86」安全装備
通常のインナーミラーにある樹脂部分をなくし、フレームレス化することによってより広い視界を確保しました。また後続車のヘッドライトの反射によって目を眩ますことのないよう自動防眩機能を搭載しています。
スポーツ走行を想定した86では特に視界確保にこだわり、このほかにもフロントピラーをスリム化してコーナリング視界の確保やインストルメントパネル上面に低グロスシボを採用してフロントウィンドウへの映り込みを抑えるなどさまざまな視界確保のための工夫が凝らされていますが、その中でもこのフレームレス自動防眩インナーミラーは86のために専用開発され特にこだわった特筆すべきアイテムだということです。
VSC
出典:トヨタ「86」安全装備
滑りやすい路面でのコーナリングや急なステアリング操作などで横滑りが発生した際にエンジン出力とブレーキを自動制御して走行安定性や操縦性を確保するVSCを装備しています。さらにVSCだけではなくタイヤの空転を抑制してアクセル操作を容易にし、加速中の安定性や操縦性確保に貢献するTRC機能と駆動輪の空転を防ぎ左右輪の回転差を抑制するLSD機能もあわせて搭載しました。
VSCは作動タイミングを通常よりも遅らせてエンジン制御は行わずブレーキ制御のみを行うSPORTと通常のNORMALの2つのモードが選択できます。そのほかにもVSC OFFスイッチとTRC機能をキャンセルするTRACKスイッチの組み合わせによって走行環境や好みに応じた5つの制御モードが設定可能です。
ヒルスタートアシストコントロール
坂道発進の際、ブレーキからアクセルに踏み替える瞬間のブレーキ油圧を保持して坂道での車両のずり落ちを防止し、安全な坂道発進をサポートする機能です。
緊急ブレーキシグナル
出典:トヨタ「86」安全装備
急ブレーキをかけると通常のブレーキランプの点灯に加えてハザードランプが自動的に点滅して後続車に急ブレーキを知らせるシステムです。
後続車に注意を促し追突事故の可能性の低減に貢献します。
充実したエアバッグ
出典:トヨタ「86」安全装備
運転席・助手席のエアバッグをはじめ後方からの衝撃で作動する運転席・助手席のサイドエアバッグやリヤシートまでカバーするカーテンエアバッグを全グレードに標準装備しています。
衝突安全性に配慮したボディの構造
出典:トヨタ「86」安全装備
前方からの衝撃はサイドシル側とフロアセンター側へY字型に伝達する構造を採用し、床下フレームを薄型化することで、低床化と衝突安全性確保の両立を図っています。側方の衝撃にはボディの骨格構造の強化とルーフ、サイドレールに超高張力鋼板を採用し、センターピラー結合部の強化によって対応。
後方では後方衝突評価で最もきびしいとされる米国後突オフセット試験に対応し、後部からの衝撃を効率よくフレームに吸収させて衝撃エネルギーを吸収させることでボディ全体の変形を適正に制御し、燃料タンクなどを保護するように考えられています。
先進安全機能の搭載が待たれる86
走る楽しみを提供する86には全グレードで先進安全機能が搭載されておらず、オプション設定もありません。一般的な今の時代の車の安全性能とは異なっているので事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
86の特性から考えると仕方のないことかもしれませんが、やはりこのご時世最低限の先進安全機能は欲しいところではないでしょうか。
今後サーキット走行時と公道走行時で切り替えられる先進安全機能などが開発されるなど、何らかの方法で先進安全機能が搭載されることが期待されます。
※記事の内容は2019年7月時点の情報で執筆しています。