現在日本国内で販売されている新車の約4割を軽自動車が占め、ほぼ全てが国産メーカーのクルマです。しかし、最近になって中国の自動車メーカーのBYDが、2026年後半に日本専用の軽規格BEV(電気自動車)を投入することを発表し話題となりました。果たして国産軽自動車は時代の荒波と黒船の来襲を乗り越えることができるのか!軽自動車の中でも一番安いスズキアルトとダイハツミライースを全方位で比較することで、国産軽自動車の実力を再確認してみましょう。
軽の人気はスーパーハイトワゴンだが、ベーシックモデルも意外と売れている
ボディサイズや搭載するエンジン排気量、そして最高出力などに制約がある日本独自の規格が軽自動車です。軽自動車は様々な制約がある反面、低価格で手に入る上に、燃費が良く税金・高速道路通行代などの優遇でランニングコストも優れていることから老若男女問わず人気を集めています。
約46年前に登場した初代スズキアルトは「アルト47万円」というキャッチフレーズどおりの低価格戦略が成功し大ヒットモデルとなりました。しかし、最近の軽自動車の売れ筋はホンダN-BOXをはじめとした、広い室内空間と電動開閉式のリアスライドドアを採用したスーパーハイトワゴンと呼ばれるクルマです。車両本体価格も上級グレードでは諸費用を含めた乗り出し価格は200万円オーバーと軽自動車も高額となっています。
2025年3月の軽自動車新車販売台数でも、ベスト3はホンダN-BOX、スズキスペーシア、ダイハツタントといったスーパーハイトワゴン勢が占めています。しかし、一方で5,877台の第8位にダイハツミライース、5,027台で12位にスズキアルトといった軽自動車の特徴である低価格が魅力のベーシックモデルもランクインしています。今回はそんな軽自動車、いや、国産車の中でもっとも低価格で購入できる軽ベーシックモデルのスズキアルトとダイハツミライースを全方位比較してみたいと思います。
100万円以下のグレードは消滅【アルト】
9代目となる現行型スズキアルトは2021年12月に登場し、2023年11月に法規対応を伴う一部改良を実施。現在の車両本体価格は、A 2WDの106万4800円~ハイブリッドX 4WDの150万400円と、当初は存在した100万円以下のグレードはなくなっています。
現行型アルトは、「気軽に乗れる、スゴく使える、安心・安全な軽セダン」をコンセプトに開発されました。スタイリングは先代モデルに比べて、運転席前のAピラーを立てて、ルーフラインを真っ直ぐ伸ばし、リアハッチの傾斜も緩めました。これにより、全高は1,525mmと先代モデルから+50mm高くなり、室内の頭上空間に余裕が生まれています。またAピラーを立てたことやリアハッチの傾斜を緩めたことによりガラス面積が拡大し、優れた視界を確保したことで、運転しやすさを実現しています。
現行型アルトはボディの骨格にあたるプラットフォームに、軽量・高剛性の「ハーテクト」を採用。さらに、バックドア、センターピラー、サイドドア、それぞれに環状構造を形成することで、ボディ全体の剛性を向上させる「環状骨格構造」を採用。そして、優れた操縦性、乗り心地を発揮する専用チューンを施したサスペンションを採用しています。
安心感のあるオーソドックスなデザイン【アルト】
前衛的だった前モデルから一転、外観デザインはオーソドックスなものとなりました。丸みを帯びた柔らかなフォルムの中に楕円形のモチーフを取り入れて、小さな車体でも安心感のある立体的な断面にこだわるなど、長く愛車として使えるデザインを採用しています。
一方インテリアは、厚みと立体感を感じさせる造形によって質感の高さを演出。外観と同様に楕円形のモチーフを使ってデザインし統一感を出しています。メーターパネルにはスッキリしていて、見やすい単眼メーターを採用。常時照明式で昼夜を問わず明るく見やすいメーターとなっています。
マイルドハイブリッドも用意し軽自動車トップレベルの好燃費【アルト】
搭載しているパワートレインは、最高出力46ps、最大トルク55Nmを発生する660cc直3エンジンと最高出力49ps、最大トルク58Nmを発生する660cc直3エンジンにマイルドハイブリッドを組み合わせた2種類を用意。組み合わされるトランスミッションは全車CVTのみです。駆動方式は全グレードで2WD(FF)と4WDを設定。燃費性能はWLTCモードで23.5~27.7km/Lと軽自動車トップレベルの実力を発揮します。
運転支援機能は、夜間の歩行者を検知するステレオカメラ方式の衝突被害軽減ブレーキ「デュアルカメラブレーキサポート」をはじめ、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能など8つの機能をパッケージ化した「スズキセーフティサポート」を全車に標準装備しています。さらに上級ブレードには運転時に必要な情報をフルカラーで表示するヘッドアップディスプレイを採用しているのが特徴です。
100万円以下のグレードも健在【ミライース】
対して2代目となる現行型ダイハツミライースは2017年に登場し、2020年、2024年に一部改良を行なっています。現在の車両本体価格はB“SAIII”2WD車の99万2200円~G“SAIII”4WD車の144万6500円と、国産車唯一となる車両本体価格100万円以下のグレードが健在です。
現行型ミライースは、軽自動車の本質である「低燃費・低価格」に加えて、多くのユーザーが要望する「安全・安心」を追求して開発されたモデルです。現行型ミライースの骨格には、ダイハツの新しいクルマ作りの改革であるDNGAを採用。新開発のプラットフォーム、Dモノコックの採用などにより約80kgの軽量化を達成することで、走行性能と燃費性能を向上させています。
空力性能に優れたシャープなデザイン【ミライース】
外観デザインは、燃費性能に磨きを掛けるために空力性能にこだわっています。フロントからサイドに回り込むエアロスカート風のワイドなバンパーやノーズを長くみせるデザインを採用。さらにドライバーの視界の良さと空力性能を両立させたピラーの傾きやサイドウインドウを採用するなど細部にわたってこだわり従来型より約3%空気抵抗を低減させています。
インテリアは優れたパッケージング技術により、先代モデルより圧迫感の少ない頭上空間や広い上方視界を確保しています。さらにアクセルペダルやステアリング位置を調整することで、最適なドライビングポジションを実現しました。 さらに、座り心地やホールド性に優れた軽量骨格シート構造を採用。レール配置を最適化することにより、座り心地も向上しています。
既存技術を磨き上げたエンジン【ミライース】
搭載しているエンジンは、低フリクション化など既存技術を磨き上げた、最高出力49ps、最大トルク57Nmを発生する660cc直3エンジンの1種類。組み合わされるトランスミッションも全モデルCVTのみです。駆動方式は全グレードで2WD( FF)と4WDを用意し、燃費性能はWLTCモードで23.3~25.0km/Lとなっています。
運転支援機能は、高性能なステレオカメラを採用した「スマートアシストIII」を搭載。車両だけでなく、歩行者も検知する衝突回避支援ブレーキをはじめ、アクセルとブレーキを踏み間違えた際に威力を発揮する後方誤発進抑制制御機能も採用しています。
車両価格6万円の差は燃費で埋められる?【価格&燃費比較】
試乗したモデルは、アルトは車両本体価格138万500円のハイブリッドX 2WD車。対してミライースは車両本体価格132万円のG“SAIII”2WD車です。両車ともに最上級グレードの2WD車で、6万5000円ほどアルトのほうが高額となっています。これはマイルドハイブリッドシステム分と言えるかもしれません。
燃費性能ではアルトハイブリッドX 2WD車が27.7km/L。対してミライースG“SAIII”2WD車25.0km/Lとマイルドハイブリッドを採用しているアルトが2.7km/L上回っています。
数値以上にアルトが優勢【走り比較】
エンジン出力の数値上の差はアルトがわずかにトルクで上回りますが、実際にドライブしてみると、しかしその違いは大きいと感じました。設計年次の差もあるとは思いますが、エンジンの不得意な発進時の加速など、モーターを搭載しているアルトの方がスムーズで、エンジン音の大きさも抑えられています。
とはいえ、ベーシックモデルながら軽量ボディを活かした両モデルの走りは、毎日の生活のアシとして十分なだけでなく、期待以上に軽快なフットワークを披露します。
アルトの方にホスピタリティの高さを感じる【装備比較】

アルトご自慢のカラー表示のヘッドアップディスプレイ
装備面でみるとアルトハイブリッドX 2WD車には運転席、助手席シートヒーターが標準装備されるなど、ホスピタリティの高さでリード。これだけの装備差を考えると価格差の6万5000円は埋まるどころか、アルトのほうがむしろリーズナブルに感じます。
気になる運転支援機能はほぼ互角ですが、アルトハイブリッドX 2WD車には軽自動車としては珍しいカラー表示のヘッドアップディスプレイが標準装備されています。この装備はフロントガラスに速度など必要な情報を表示してくれるので、視線移動が少なく済むというメリットがあります。

見やすいミライースのメーター
一方でミライースの数字を大きく表示するメーターパネルなどは、ターゲットユーザーのことを第一に考えた装備だと思います。
アルト優位は揺るがないが、ミライースも意外と色褪せていない【総評】
この2台をシビアに比較するとミライースが2017年、アルトが2021年登場という設計年次の差は隠しようがなく、ひと世代分アルトのほうが、走り、燃費、装備などでリードしているのは間違いありません。
とはいえ、ミライースの実力も決して色褪せていません。例の事件の影響でミライースの広報車両には久しぶりに乗りましたが、改めて基本性能の高さを認識しました。“かけうどん”のような軽自動車のベーシックモデルながら、いや、だからこそ、この2台は日本の軽自動車の実力の高さを示していると言えるでしょう。
※記事の内容は2025年4月時点の情報で制作しています。