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開発者インタビュー 次世代のホンダ車との架け橋「ホンダヴェゼル」デザイン編

開発者インタビュー 次世代のホンダ車との架け橋「ホンダヴェゼル」デザイン編
開発者インタビュー 次世代のホンダ車との架け橋「ホンダヴェゼル」デザイン編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第17回はホンダのコンパクトSUV、新型ヴェゼルのデザイン編です。これまでのホンダ車のデザインとは大きく方向性が変わった印象の新型ヴェゼル、その背景に迫ります。エクステリアデザインについては新型のデザインをとりまとめ、現在は株式会社本田技術研究所 デザインセンター アドバンスデザイン室 ビジュアライゼーションスタジオでアシスタントチーフエンジニア・デザイナーを務める阿子島大輔さん(写真)に、インテリアデザインについては同じくアシスタントチーフデザイナーの廣田貴士さんに話を伺いました。

存在感は欲しいが、取り回しのよさも維持したい

存在感は欲しいが、取り回しのよさも維持したい

島崎:広報ご担当の方に「ぜひ実車を見ながら」とお勧めいただいたので、ホンダウエルカムプラザ青山(現在は臨時休館中)で、ヴェゼルを拝見しながらお話を伺います。よろしくお願いします。

阿子島さん:よろしくお願いします。

島崎:先代の最終型と較べると、全高は15mmから25mm低いですが、全長、ホイールベースが同じだったりと、意外にもボディサイズがほぼ一緒なんですね。
阿子島さん:はい。全幅は後期型のRSと同じ1790mmにとどめました。海外のお客様を含めてコンパクトなサイズに評価をいただいていたので。ただ最近の競合車はフットプリント(ホイールベース×トレッド)がかなり大型化してきています。もともとヴェゼルはB、Cカテゴリーの中間ぐらいにいましたが、競合車と並んでプレゼンスが弱い、塊が小さく見えるといった声もいただいていたので、存在感のあるサイズとコンパクトな取り回しのよさをどう両立させるかが、開発スタート時のチャレンジのひとつでした。

島崎:確かに実車の印象は伸びやかで、先代のほうがずっとコンパクトだったように思えます。

阿子島さん:そう言っていただけるとありがたいです。我々が狙ったところでもあり、実寸はコンパクトさをキープしつつ存在感を増しながら、さらにヴェゼルでは後席のボリュームも売りだったので、それをさらに快適な空間にどう進化させるかを考えました。そこで長手方向の寸法をギリギリまで使って、水平基調をベースに、先代のようなスラントノーズ、モノボリュームではなく、ボディを前後に一気に通してサイドウィンドウも後ろまでしっかりと引っ張って、外から見ても快適そうに感じていただける空間にまとめました。

昔のプレリュードのようなクルマらしさ

昔のプレリュードのようなクルマらしさ

島崎:先代のようなコロッとした感じから一転ですね。

阿子島さん:そうですね。ホンダの最近のデザインはボディ中心線のシルエットがまず感じられるような塊になっていましたが、このヴェゼルは、昔のプレリュードのようなボディの上にキャビンが載っている、そんなクルマらしい構成に仕立てを変更しています。

島崎:プレリュード、懐かしい。それにしても実車は、ボディ側面、ドア断面など、シンプルなようで、かなり微妙な形にしてありますね。

阿子島さん:新型フィット以降、シンプルなデザインを打ち出しています。パッと見て主張の強すぎない、心地よい日々の生活のパートナーとして、人により近いデザインを心がけています。エッジを立てない、触りたくなるような面質などはフィットの流れ。ただヴェゼルはもう少しエキサイトメントが求められますので、静的でシンプルだけれど、クルマが動いてターンした時に微妙な連続した面の変化でいろいろな表情に見えるように心がけました。

島崎:まるでマツダ車のデザインのようなお話ですね。ホンダだったら、もっと違ったアプローチでおやりになってもよかったのでは?

阿子島さん:はい。確かにフィット以前は、パッと見てのダイナミックさとか、線でスポーティさを強調したりとかしていた。でも今は、第一印象はおとなしいかなぁと感じられるかもしれませんが、シンプルでありながら、走り出すと“ああ、こんな表情もあったのか”と驚きを感じていただけるようなデザインとしました。

島崎:試乗中は運転している自分のクルマの姿は見られませんが、街中でもし走っているところに遭遇したら、ジックリ観賞してみます。

阿子島さん:ぜひ体感してほしいです。

ノイズのないデザインを心がけた

ノイズのないデザインを心がけた1

島崎:先ほどプレリュードの頃のお話がありましたが、Aピラーがかなり手前に引いてありますね。個人的には大賛成ですけれど。

阿子島さん:ユーティリティ性は先代も高かったのですが、視界のよさという観点ではピラーが前方に出ていてミラーの位置関係で視界が遮られたり、フードもややラウンドの強い見え方でした。それらを検証してみると、長時間乗っていてノイズに感じるきらいがあった。そこで今回はなるべく気持ちよく、“このクルマでもっと出かけたいなぁ”と感じていただけるノイズのないデザインにしました。

島崎:そういったお話は、ホンダ車の設計上の基準が新しくなったということですか?

阿子島さん:はい、それまではたとえばAピラーの太さはドライバーから見て何mmと決めていましたが、今回はドアミラー形状を道路のガードレールや白線とアラインにして運転しやすくしたり、フードもフラット面や稜線がキレイで、適切に見える長さや消える位置も検証を重ねて作り上げました。

島崎:意地悪い伺い方ですが、そういうことは本来、クルマのデザインの基本では?

阿子島さん:ええ。一時期ホンダは空間効率を重視して、キャブフォワードでAピラーをかなり前まで出しフードが短いデザインをやっていました。それらは数字上の効率性を重視していたのですが、それよりもっと感性的に運転しやすいクルマであることを詰めていこう……と。フィットも視界のよさを気にしていますが、さらに進めて、ホンダらしくシンプルで“乗りたいなぁ”と思っていただけるようなデザインを今度のヴェゼルでは心がけました。

島崎:新しいけれど懐かしくて安心感がある雰囲気が醸し出されているのは、そういうことなんですね。サイドウィンドウのグラフィックで無理にクーペっぽく見せようともしていませんね。

ノイズのないデザインを心がけた2

左上が初代HR-V、右上は初代ヴェゼル、そして中央が新型。海外では今もヴェゼルではなくHR-Vの名で販売されている

阿子島さん:サイドウィンドウは個性を出すとともに、後席の乗員の方にとって気持ちよく外が見える視界と、後方は心地よい包まれ感があるように考えました。グローバルでは3代目HR-Vでもあるので、初代の水平基調で長いキャビンのイメージ、エッセンスも今回入れて、コンパクトサイズでも後席が快適で長く乗って出かけられそう……と感じていただけるところを“売り”にしています。

島崎:CMもそういう訴求ですね。なるほど初代HR-Vの生まれ変わりということかぁ。

こだわりはリアドアのハンドル、2トーンの塗り分け、繋ぎ目なしのバックドア

こだわりはリアドアのハンドル、2トーンの塗り分け、繋ぎ目なしのバックドア1

阿子島さん:乗車姿勢も今回はシートを低くしながら後ろに引いて、SUVですが乗用車感覚で乗っていただけるようにしました。

島崎:リアドアのハンドルがカモフラージュしてあるのは、今どきのクルマとして必須の要素ですか?

阿子島さん:グローバルでサーベイしてみるとHR-Vのアイコンだという声をいただいています。ただ位置はお子様のことも考えてなるべく低くしたり、傷のつきにくさ、手の掛けやすい形状やハンドルを操作した時の反力など、微妙な調整もしています。

島崎:サイドビューは水平基調ですが、プランビューはかなり絞っていますね。リアドアのガラスは3次曲面ですか?

阿子島さん:もともとオーバルなので実はガラスはあまり寝かせてはいないのですが、今回は後席乗員の頭に近づかないようなパッケージを両立させながら後ろでギュッと絞っています。競合のC-HRさん、MX-30さんなどありますが、違うキャビンまわりの形状でパーソナル性を出しています。

こだわりはリアドアのハンドル、2トーンの塗り分け、繋ぎ目なしのバックドア2

島崎:2トーンのボディ色はあったほうがいい設定なのですか?

阿子島さん:そうですねぇ。通常なら“V溝”やガーニッシュを境に塗り分けますが、単色で丸塗りした場合も線とか入れたくなかった。そこで工場にも協力してもらい、段差なしでも塗れるようにしたのがこの2トーンなんです。

島崎:資料に“バックドアに繋ぎ目がない”とありましたが。

阿子島さん:はい、通常は外板は鉄板と樹脂を組み合わせるなどして繋ぎ目が入る作り方が多い。ですが、今回は1枚でクリーンに仕上げてノイズを排除して造形を見せることにこだわりました。バックドアを開けた時の開口部まわりもできるだけキレイに仕立てたつもりです。

ホンダの新しい「顔」は攻撃的ではなく親しみのあるデザインに

ホンダの新しい「顔」は攻撃的ではなく親しみのあるデザインに

島崎:それとフロントマスクの話は伺わずに帰るわけにはいきません。機会あるごとに“ここ最近のホンダ車はどうしてこういうメッキパーツだらけの顔なんですか?”とお伝えし続けてきたのですが、やっと島崎の意見をきいていただけた……と喜んでいるところなのですが(笑)。

阿子島:さて、どこまでお話ししていいのでしょうか(笑)。4月に中国で発表した“SUV e:prototype”が見てのとおりほぼ同じ形ですが、この先を見据えて、今までとは系統の違う新しい顔の展開をしていきたい、これまでの攻撃的なデザインから離れていきたい……というのが開発当初からありました。文法は違いますが今のフィットもそうで、よりパートナー性、親和性を感じていただけるような佇まいも狙いにあります。

島崎:キャラクター性ですか。

阿子島さん:ええ。あまりかわいすぎるわけではなく、フィットより精悍な表情を検討していった結果行き着いたのがこの形でした。

島崎:グリルもドーンと構えた感じにはしないと?

阿子島さん:ボディとの一体感を増して、パワートレインに限らず外気を取り込む必要性から開口もとりながら、「グリルの存在感が欲しい」との声もあったので、それらを両立させたのがあの形でした。

島崎:三部新社長から「2040年にEVとFCVの販売比率を100%に」のメッセージもありましたね。

阿子島:ええ。これから出てくる次世代のホンダ車との架け橋になるデザインであり、先行したデザインとご理解いただければと。

島崎:ルーバー状のこのグリルが今後のすべてのホンダ車の顔になるのですか?

阿子島:親和性のある顔という考え方で展開していくことになると思いますが、まったく同じデザインか?と言われれば、ホンダの顔は表現の幅を持たせていますので、すべてこれでというわけではないと思います。顔もそうですし、クルマ全体も線を多用したデザインではなくなっていくと思います。

島崎:シンプルであっても、今後はインサイトとシビックとアコードが一瞬で見分けがつくデザインになっていくのですね。

阿子島:あ、はい。同じ雰囲気を纏いながら、個性を出したデザイン展開になると思います。

インテリアのテーマは信頼、美しさ、気軽な楽しさ

インテリアのテーマは信頼、美しさ、気軽な楽しさ1

島崎:ヴェゼルのインテリアといいますと、先代でインパネ、ドアアームレスト、センターコンソールなどにブラウンの表皮を使った大人っぽい雰囲気が印象的でしたが、今回はどういうテーマがあったのですか?

廣田さん:グランドコンセプトに基づいて“信頼”“美しさ”“気軽な楽しさ”の3つのキーワードを掲げました。信頼ではSUVらしい力強さや安心感、美しさではHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)に基づいて使いやすくすることでお客様の姿を美しく引き立てる、気軽な楽しさは、五感に響く楽しさということで光と風をテーマにアプローチしました。

インテリアのテーマは信頼、美しさ、気軽な楽しさ2

島崎:インパネ左右の逆L字型の“そよ風アウトレット”と、頭上の大きなパノラマルーフは実車で体感しました。“美しさ”は具体的にどんなところに工夫があるのですか?

廣田さん:視界のよさを突き詰めまして、とくにドアショルダーからインパネ前端、フードまで連続した前後方向に抜けるような視界、これで車両感覚の掴みやすさを考えており、初期段階からエクステリアデザインと協力しながら作り込みました。その手前にメーター、センターディスプレイを配置し、運転のしやすさも考えています。

インテリアのテーマは信頼、美しさ、気軽な楽しさ3

島崎:なるほど。水平基調で余計なデザインのないシンプルなインパネは個人的にもとても好感を持ちます。

廣田さん:ありがとうございます。それと、そよ風アウトレットに合わせて、風が室内全体に横方向に広がるようなモチーフを考えながら、パッドの部分に微妙なキャラクターラインを入れたり、ドアライニングなどに抉り形状を作って風や空間の広がりを感じていただけるようにしました。

ダイヤルに戻った空調スイッチは感触にもこだわる

ダイヤルに戻った空調スイッチは感触にもこだわる

島崎:そうそう、スイッチ類の触った感触とかクリック感が非常にしっとりと上質ですね。先代ではタッチパネルだった空調スイッチが物理ダイヤルに戻されたんですね。とにかく使いやすく、個人的には大賛成ですが……。

廣田さん:静電タッチの操作性のよさ、先進性はもちろんありますが、ダイヤルのほうが直感操作でき階層も深くなくていいという声がありました。そこで今回はダイヤルに統一しました。操作感については設計部署とも知覚品質にこだわりまして、操作時の音やセレーション(指が触る部分のパターン)を統一させました。

島崎:トリム表皮の仕上げや質感には何かこだわりはあるのですか?

廣田さん:アームレストやニーパッドに相当する部分は表皮裏側にソフトパッドを追加しました。インパネのセンターパッドとドアのインナーハンドルを囲む部分のパッドは、それよりもテンションを高めて貼り込んでいます。

何か悩みがあっても解消してくれるパートナーのような存在

何か悩みがあっても解消してくれるパートナーのような存在1

何か悩みがあっても解消してくれるパートナーのような存在2

島崎:シート表皮はどういう考え方ですか?

廣田さん:ベーシックな“X”と“Z”はシンプルでありながらも上質なファブリック、“PLaY”はそれに遊び心を加えた表皮素材を提案させていただきました。臙脂色(えんじいろ)のステッチの差し色もあまり面積を大きくせず、上質感にこだわり、クルマ1台分の全体コーディネイトで表現しています。クルマとしては、ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを活かしたミニバン的な使い勝手のよさやMM思想*は継承、一気通貫しており、移動の中で自然のそよ風のようなものが体感できたり、光から新しい何かのインスピレーションが生まれたりとか、何か悩みがあってもヴェゼルがそれを解消してくれる存在になってくれたら嬉しいなと思います。
*MM思想:「人のためのスペースは最大に、メカニズムは最小に(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)」というホンダが掲げるクルマづくりの基本思想。

島崎:メンタルにもいい……僕もぜひ乗りたいと思いました。ありがとうございました。

新型ヴェゼルのターゲットユーザーは、特定の層、年齢、性別ではなく、シンプルで自由な生き方で、自分のスタイルを持ち、日々楽しさや刺激を求めている人。リサーチにより、どの国にも共通してそういう人がいたのだという。世界中がコロナ禍に翻弄されている今こそ、まさにパートナーにしたくなる1台なのかも知れない。

(写真:島崎七生人)

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※記事の内容は2021年6月時点の情報で制作しています。

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