その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第44回は前回に続いて軽ハイトワゴンの電気自動車(EV)として話題を集めた日産サクラです。姉妹車の三菱eKクロスEVとともに「2022 – 2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー」のイヤーカーに輝いたサクラについて、株式会社日産オートモーティブテクノロジー車両実験部 第三車両実験グループ 主担の中村 雄二(なかむら・ゆうじ)さんと、今井 達也(いまい・たつや)さんに話を伺いました。
ドライブモードは変えない方が8割以上
島崎:サクラのブレーキのタッチはやや独特ですね。
中村さん:理由は2つありまして、ひとつは回生を取ろうと。もうひとつe-Pedal Stepでは最後はクリープに移り変わるのでブレーキを踏まなければならない。普通のブレーキであれば徐々に自分で力を入れて踏んでいって止まります。が、今度のe-Pedal Stepでは最後のクリープのところでブレーキが掴みに行くので、慣れないと少し強めに踏んでしまうことになります。今回は電費のこともあり回生を優先したところがあり、安全サイドに振って、フィーリングよりも若干ブレーキの利きを取ったところがある。今後はそこのバランスをとっていくことは必要かなと思っています。
島崎:ドライブモードの切り換えによるブレーキのフィーリングの差ではなく、そもそも回生ありきの状態になっているということですね。
中村さん:ですので、ECOモードのe-Pedal Stepなしであれば、より普通の感覚でブレーキが踏めると思います。
島崎:そのモードで使うのがよさそうですね。ドライブモードの切り換えスイッチも、インパネの下の方で少し操作しにくいですしね。
中村さん:そこはパドルにするといった話もあったのですが、実はリーフの市場調査をしまして、ドライブモードは変えない方が8割以上でした。なので同様にSPORTは別としてECOかSTANDARDを最初に選べば、8割以上の方はほとんど変えないのではないかと思います。坂道を登るのにもドライブモードを変える必要はまったくなくて、モーターですので、アクセルペダルを8分の4、つまり半分以上踏んでしまえば基本的に同じですから。
島崎:なるほど。
中村さん:どちらかというと下りで回生を取りたい、ペダルを離してブレーキを効かせたいというのであればSPORTにしたり、Bモードを選んでいただければいいのかなと。登るほうに関してはモードを選ばなくても大丈夫なんです。
島崎:EV車を走らせるコツですね。
中村さん:ECOはコースト、STANDARDはコンマ05G、SPORTはコンマ08Gの減速度がかかります。e-Pedal Stepを入れると全部いっしょなんですけど、コンマ2Gに達するまでの時間が違います。SPORTならすぐに、ECOならゆっくりコンマ2Gに達する設計にしてあります。ECOのe-Pedal Stepであれば、リーフの時にあったように前後に揺すられることもほとんどありません。反対にSPORTのe-Pedal Stepでは加速Gの立ち上がりが早いので頭が揺すられますが、それはお客様が選んでいるので、Gを感じたい、加速しているなぁ、という走りができます。
島崎:理屈がよくわかりました。
中村さん:普通にお子様を乗せているときはECO でe-Pedal Stepを選んでいただければ、ゆっくり加速して回生もブレーキもちゃんと効きます。
やはりNC(ノーマルチャージ=普通充電)をしていただきたい
島崎:軽自動車ということももちろん大きいですが、何というか、サクラは肩の力を抜いて、リラックスして乗っていられるクルマですよね。
中村さん:ありがとうございます。180kmという距離はやはり躊躇されるかもしれませんが、どちらかというとセカンドカーとして乗っていただけると合うのかなと思います。
島崎:上級車に乗り慣れているユーザーであっても、走りの味もクルマの仕上げも満足いくでしょうしね。
中村さん:とにかく携帯電話と一緒で、繋いでしまえば夜、寝ている間に100%充電できますから。深夜電力を使えばメリットもありますので。それとQC(クイックチャージ=急速充電)に関しては、サクラはそれもできますよ、というスタンスです。直距離ドライブもできるように電池温度を上げないよう冷媒を使って冷やしています。QCをかけて20%ぐらいから80%ぐらいに30分で挽回できるようなものは使っています。ですがやはりNC(ノーマルチャージ=普通充電)をしていただきたいと。そうすればバッテリーの劣化も防げ、大きなクルマではないのでNCでもゼロから100%に8時間あればできます。そういう使い勝手はいいですし、電気代的にも負担をかけないのかなと考えています。
マンションに充電設備がなくても買ってくれるお客様がずいぶんいる
島崎:自動車メーカーとして、今後EVが普及していく中で、電力全体の使用量のうちでEVが占める割合がどんな風になっていくかの試算、見通しは出していらっしゃるのですか?
中村さん:日本自体、EVがまだ1%ぐらいなので、そこまではまだ出していないです、純粋なEVというとリーフぐらいなので……。テスラなどありますが、そこまでインパクトを与えるような普及台数にはなっていないですし。アリアもまだ2,000台、3,000台の登録台数ですし。
島崎:初代リーフが出た11年前と比べると台数もインフラも世の中の様子もずいぶん変わっていると思いますが。
中村さん:サクラに関しては、ご自宅で普通の200Vを引いていただければ、EVSE(ケーブル)を購入していただいてすぐにできます。工事は自治体によっては補助していただけたり、日産のディーラーによっては補助するキャンペーンなどもやっているところもあります。ご自宅の環境ということでは、今の戸建はエアコンの200Vが入っていますので、工事も10万円以下でできると思います。ただマンションの方で電気が引けないという場合もあろうかと思いますが、そういう方は週に1回、30分の急速充電をしていただけば翌週も走れるのかなと。定額でQC充電が使えるプランなどもご用意しています。ディーラーの試乗会で聞いたのですが、マンションに充電設備がなくても近くにディーラーがあるお客様にずいぶん買っていただいているとの話もありました。
島崎:そうなんですね。
中村さん:東京などでは近所にガソリンスタンドがない、高いといった状況でEVに乗り換えられるお客様もいます。やはりEVのメリットは感じていらっしゃるようです。近距離でショッピングカーとしてしか使わない、そんなお客様もいらっしゃいます。
島崎:そうですか。いや、いろいろなお話をどうもありがとうございました。また試乗できる機会がありましたら、いろいろ試してみます。
中村さん:いろいろと、ジックリいじってください。
島崎:はい、走行モードを切り替えてパドルで試したり。
中村さん:あ、パドルは付いてないですから。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2022年12月時点の情報で制作しています。