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【改良新型・三菱アウトランダーPHEV】「欧州で180km/hで走っても豪州の悪路でも、大丈夫!」〜開発者インタビュー

【改良新型・三菱アウトランダーPHEV】「欧州で180km/hで走っても豪州の悪路でも、大丈夫!」〜開発者インタビュー
【改良新型・三菱アウトランダーPHEV】「欧州で180km/hで走っても豪州の悪路でも、大丈夫!」〜開発者インタビュー

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第86回はマイナーチェンジを受けた三菱「アウトランダーPHEV」(526万3500円〜640万5300円)です。プラグイン・ハイブリッドが特徴のミドルサイズSUV、アウトランダーの改良ポイントについて、三菱自動車株式会社 製品開発本部 セグメント・チーフ・ビークル・エンジニア(C/D-seg2) チーフ・ビークル・エンジニア(Frame)の本多 謙太郎(ほんだ・けんたろう)さんに話を伺いました。

いろいろ言わずにとにかく乗ってくれ?!

いろいろ言わずにとにかく乗ってくれ?!

島崎:本多さんにアウトランダーのお話を伺うのはこれで2度目です。よろしくお願いします。

本多さん:ぜひぜひ、よろしくお願いします。

島崎:で、何はともあれ、TV-CMのことを伺おうと思っていたのですが……。

本多さん:はい。

島崎:最初見た時に「ン?」と思ったんですね。

本多さん:あのフレーズが(笑)。

島崎:はい。よくよく見るとなかなかシュールな作風で、アウトランダーが喋ってるんですね。で、“あの人”と短いやりとりがあって、「ごちゃごちゃうるせえ、いいクルマ。」のフレーズ。あのCMの真意というか、あそこからいったい何を読み取るべきなのか……。

本多さん:基本は担当部署が考えているんですが、私なりの感覚でいうと、物作り側から見てもいろいろなお伝えしたい部分があって、たとえば、走りの部分や、内装の部分でも7人乗りがありますし……と、たくさんお客様にお伝えしたいものがあります。それを営業的には、いろいろ言わずにとにかく乗ってくれ……そんなイメージで作ったんじゃないかなと私なりには思っています。

いろいろ言わずにとにかく乗ってくれ?!

島崎:ははあ、なるほど。僕は日産の「やっちゃえ……」を連想したんですね。ラフな言葉遣いや勢いに通じるものがあって、意識したのかな、などと。

本多さん:ちょっとわかりかねますが、流れ的にはあるかもしれないですね、言われてみれば確かに。

島崎:アウトランダーPHEVはどちらかといえばクールなイメージなので、もっとストレートに気取ったくらいの表現手法が順当なところじゃないかなとも思ったのですが。

本多さん:我々も質感と洗練みたいな話をさせていただいているので、その意味でいうとちょっと不良っぽい感じ……笑……とは思いますね。

島崎:急にアウトローぶってどうした!?と。そもそもこの話を持ち出したのは、実は僕は森高千里さんのCDは全部もっていましたから、どうしてもあの方は斜めに見てしまうところが未だにあって……。

本多さん:クククッ、ハハハハ、なるほど。まあ、江口洋介さんは立ち上がりのアウトランダーの時にもCMに出ていただいていたので。

島崎:あ、そうでしたっけ??

本多さん:それもあって今回もお願いした訳ですけれど。

島崎:三菱車のCMというと、ここ最近ではデリ丸はとても好感を抱いて見ていました。

本多さん:成功しましたよね。

島崎:当時の広報にいらしたHさんが気を遣ってデリ丸のヌイグルミを2体もくださったので、今でも家とクルマの中にラッピングのまま飾ってあります。いずれにしても、アウトランダーのCMについて、記事上では“あのCMの真意は、よさを15秒では伝え切れないからとにかく乗ってみてほしい”というメッセージなのだそうだ……とまとめておけばよろしいでしょうか?

本多さん:あははは、はい。

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

島崎:ところで従来のアウトランダーは、そもそも完成度の高いクルマだと思っていたのですが、今回の改良は何か改良しなければいけないことがあったのかな?くらいに受け止めていたのですが、やはり必要なことがあったのですか?

本多さん:ひとつには欧州に出すということがありました。会社の方針で一度は欧州向けの開発は止めにしたものの、再び欧州に出すことになった。全長が延びているのも、スタイリングの話もありますが、欧州の歩行者保護を満足させるために調整が必要だったり。

島崎:バンパー回りのモノが新しくなったのはその目的もあったのですね。

本多さん:はい。それとバッテリーも高速で180km/hとかでガンガン追い越ししても熱が出て動力性能に影響が出ないよう新しくする必要があって冷却性能をよくしたりといったところもトリガーになっていました。それも上質感ももう少し上げたいね、と。出してみて乗り心地とか、いろいろ気づくことがあったので、走りの質感を上げながら欧州でも耐えうるクルマにしよう、と。

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

島崎:登場時に、インテリアのお話で、プレミアム系のライバル車を点数づけして評価する手法を初めて採ったと仰っていました。確かに質感においての仕上げレベルが高いよなぁと肌で感じていましたが、まだ十分ではなかった? 

本多さん:そうですね、まだよくしたいなと。売価も上がっていますし、お客様が横で見るクルマもだいぶいいクルマになってきているので、もう少しよくしなければいけないという判断です。

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

欧州の走りにも耐えうるクルマにした

島崎:昔は国産車初の500万円台の日産シーマ!とニュースになったくらいでしたけどね。

本多さん:三菱自動車が600万円のクルマを売るというのは、つい最近までなかったことでしたから。

島崎:目の肥えたユーザーの方を相手にする訳ですからね。でもこれまでのアウトランダーも、輸入車に対して大きく見取りしないと思っていましたけれど。

本多さん:そうですか、ありがとうございます。

島崎:ダイヤゴナルパターンの革シートなどベントレーじゃないかと思えたりして。

本多さん:うっ。今回はモニターサイズを12.3インチに大型化したり、ペダルだったり、室内の電球をLEDにしたり……。電球だと他車と並んでやはり黄色いんですよ。そこでLEDを10個ぐらい並べて較べて、黄色は昭和になってしまうので、少し黄色がかった白がいいねと検討しながらやりました。

島崎:真っ白だと、まるで夜中にスピードをとがめられて警察車両の後席に乗せられている姿が外から見ると浮かび上がって見える寒々しい感じ……ですかね。

本多さん:クククッ。LEDなので色作りもできるので、今回はそうしました。

ゆくゆくはOTAもやれるように電子プラットフォームを刷新

ゆくゆくはOTAもやれるように電子プラットフォームを刷新

島崎:ほかにヨソでまだお話されていないようなことはありますか?

本多さん:そうですね、私はルームミラーのフレームレスなど気に入っているのですが……。

島崎:あ、デジタルミラーの描写が繊細で、僕のようなオジサンでも目のピントが合わせやすくてよかったです。

本多さん:それから、今回“Eアーキ”を全部変えているんです。

島崎:Eアーキ?

本多さん:Eアーキテクチャー、電子プラットフォームを新しいものに全部変えて、サイバーセキュリティの強度をかなり上げて。

島崎:欧州の法規への対応ですね。その新しいEアーキは、ほかに何かいいことはありますか?

本多さん:残念ながらお客様にわかる部分はあまりないので、プレゼンにも出てきませんでしたが、実際には物凄い変更をしていて、ECUなど全部入れ直しています。

島崎:おれはお金がかかっていますね。

本多さん:ゆくゆくはOTAもやれるようにしているんですけど、まだオペレーションする仕組みが出来ていないので、これからになります。最初は細かい修正が要るナビとかメーターとか、スマホのアップデートのようなレベルを皮切りに始めていき、テスラなどはADASなども変えちゃっていますが、認証には関係のないマイナーなところの修正からやっていく仕組みになると思います。

島崎:いつごろからの話でしょう?

本多さん:多分ここ1、2年のうちに段階的にやっていけると思います。Eアーキテクチャーは電池とともに、今回の大きな開発でした。

ちょっとした旅行だったらEVで

ちょっとした旅行だったらEVで

島崎:最初のほうで欧州の話はありましたが、PHEVとしてはEVで走れる距離以上に動力性能の高さは外せないということですね。

本多さん:日本向けはとりあえず3桁に乗せようと106km(註:または102km)にしました。個人的な気持ちですが、先代のように45km、50kmだとEVでどこかに行こうという気にあまりならない。あくまでガソリンで走って、そのうちの45kmはEVで走れて得だなぁ、というくらい。けれど今は昔のPHEVと違ってちゃんと100km走れて、1回充電すれば200kmになり、だったらちょっとした旅行だったら「EVで走ったろうかな」という気持ちになる。そういう風に変わってきたなぁと思っています。

ちょっとした旅行だったらEVで

島崎:BEVの話ですが、最近のクルマはどれもかなり気持ちの余裕を持って「走ったろかな」の気持ちになれますからね。

本多さん:EV走行距離を伸ばすには値段も上がり、バッテリーも一回り大きくなり重たくなり、負の要素がどんどん増えてきます。まずは100kmの3桁に乗せるミニマムの体積、コストにして、それと欧州で走る冷却も考えてそのバランスということですね。

島崎:欧州ということで、足回りにも手が入っているんですね。

オースラリアからの厳しい指摘

オースラリアからの厳しい指摘

本多さん:はい。実は2つモチベーションがあって、ひとつはオーストラリアから「真面目にもっと乗り心地を良くしてくれ」と。

島崎:ずいぶんな上から目線、いや、強い口調の要望だったんですね。

本多さん:現地のジャーナリストからも「乗り心地が悪い」と。日本とかアメリカの評判からは想像できなかったので、現地に飛び、何でそう言うのか訊きました。すると道がものすごく悪くて、ずっとボコボコ、ウネウネしているところがあって、なるほどなと。

島崎:30年ほど前だったか、某社の軽ワンボックスでオーストラリアを南北に横断しませんか?とお誘いをいただいたことがありましたが、命も免許証もひとつしか持っていないので丁重にご遠慮申し上げたことがありました。

本多さん:豪州の指摘を受けて、タイヤを今までのマッド&スノーから、今回サマータイヤにしました。日本もそうですが、BSさんのスペック上でALENZAのサマーに替え、タイヤを基点に操安と乗り心地に振りました。

島崎:オーストラリアの評判はどうですか?

本多さん:何度か乗り合わせをして「よくなったね」と評価をいただいています。これまで豪州のためのチューニングはしていなくて、クルマにより欧州かアメリカのどちらかで決めてそのまま持っていっていた。

島崎:豪州から持ってきたマグナとかディアマンテのワゴンなどはありましたね。

本多さん:今回、豪州向けにやってというのは初めてかもしれません。“ジャーナリスト”の厳しい声があったからこそ(笑)。

島崎:同業者としてどうリアクションすればいいかわかりませんけど。そしてその豪州向けを欧州向けに?

本多さん:そのままではなく、少しハンドリング、操安寄りにサスペンションをチューニングしています。 

三菱はなんでそんなことにこだわっているんだ?と日産に言われた

三菱はなんでそんなことにこだわっているんだ?と日産に言われた

島崎:あの、僕は日本でもマイルドなほうのジャーナリストなのでお訊きしますが、従来のアウトランダーでユーザーの方の評判が高かったポイントは何ですか?

本多さん:やはりアンケートをとると外観と内装の質感のポイントが高いですね。今までの三菱車にはなかった評価だと思います。4駆の走りのよさは、そういう場に行かないとなかなかわかりませんが、やはりデザインのよさはわかりやすいので。

島崎:4WDの制御や考え方は、今回は変えていますか?

本多さん:考え方は変えていないです。ただ車重が増えたり、加速性能がよくなった分を入れて適合し直しています。今まではちょっとアクセルレスポンスをよくし過ぎて、カミさんを横に乗せて走ると加速が敏感過ぎると言われたりしたので、もっとなめらかにカドを取るように細かいところで手を入れています。

三菱はなんでそんなことにこだわっているんだ?と日産に言われた

島崎:7つのドライブモードは?

本多さん:ひととおり見直していますが、大きな考え方は変えていません。

島崎:そういえば今回、ホームページのニュースリリースが、AIで声で読み上げてくれるようになっているんですね。試乗会の予習に目を通してみたのですが、*1を「アスタリスク・イチ」とそんなところまで丁寧に読み上げていたり。

広報:そうですね。いろいろな方に情報が届くようにと、音声読み上げ機能を最近追加しました。

島崎:そうなんですね。ただ読み上げのスピードはかなりゆっくりで、風呂に入る前にサクッ聞こうとしたのですが、思いがけず時間が必要だったので、1度中断して、上がってから続きを聞きました。

本多さん:あははは。

島崎:前にエンジンの存在をなくすというお話しをお聞きした覚えがありますが、今もそうですか?

本多さん:相変わらずこだわっていますね。日産の方には、三菱はなんでそんなことにこだわっているんだ?と言われますが、やはりEVらしく走るのが身にしみていて、エンジンをかけない、または、かかってもわかりにくくするというところにはこだわっています。

島崎:PHEVの中でもバッテリーがなくなってしまうと結構盛大にエンジンがガーッと掛かってきたりするクルマもありますが。

本多さん:そうではないのがアウトランダーの特徴のひとつかなと思っています。

島崎:今後の展開とか進化はいかがでしょう? 

本多さん:今はまだ考えていませんが、国を広げていっています。日本、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、あとイスラエルなどありますが、ベトナム、フィリピンとかASEANでも出してほしいと言われています。そういった国々もだんだん電動化に進んでいるのでPHEVを入れてほしいという営業の声が大きく、その対応をしているところです。

1番高いアルティメイトが1番売れているのはヤマハのおかげ?

1番高いアルティメイトが1番売れているのはヤマハのおかげ?

島崎:そういえばヤマハのオーディオが素敵ですね。先ほど試聴させていただき、しばらく冷めているオーディオ熱が復活しそうで、夢に出てきたらどうしようと思っているところですが……。

本多さん:クククッ……。

島崎:あのヤマハはどなたかの発案だったのですか?

本多さん:会社の方針です。ASEANで出している他の車種にもヤマハは載せ始めています。日本もアウトランダーを皮切りに増えていくと思います。

島崎:昔DS-35B(註:ダイヤトーン・ブランドで定評のあったホーム用スピーカー)を買おうとした昭和のオヤジ的な発言ですが、ダイヤトーンではなくヤマハ、なんですね?

本多さん:ヤマハの方と話をしていると、その楽器の音色をそのまま出したい、音を時間的に連続させてリアルな楽器と同じ音にするんだ、空間をコンサートホールみたいに聴かせたいんだ、とこだわりが凄いんです。

島崎:究極の原音再生の考え方ですねえ。最上級のアルティメイトの音はまさしく!という感じで仕上がっていますよねえ。

本多さん:ありがとうございます。1番高いアルティメイトが1番売れているのは、私にもちょっと驚きなんですけれど。その意味では、CMもですがヤマハでお客様の層が広がっているのかなあとも思います。島崎さんもぜひヤマハのオーディオのためにも1台買っていただけると……。

島崎:いやいやいやいや……。規定の40分を1分26秒過ぎてしまいましたが、いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2024年12月時点の情報で制作しています。

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