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開発者インタビュー 電気自動車こそ人馬一体への近道「マツダMX-30EVモデル」編

開発者インタビュー 電気自動車こそ人馬一体への近道「マツダMX-30EVモデル」編
開発者インタビュー 電気自動車こそ人馬一体への近道「マツダMX-30EVモデル」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第16回はマツダ初の量産EV(電気自動車)として投入されたMX-30EVモデルです。車両全体については主査の竹内都美子さん、EVモデルのメカニズム面での詳細については車両開発本部・操安性能開発部上席エンジニア(PE)の梅津大輔さんにそれぞれ話を伺いました。

第3の電動化モデル・ロータリー搭載車は22年前半に発表予定

第3の電動化モデル・ロータリー搭載車は22年前半に発表予定

島崎:EVモデルのほかにすでに発売済みのMHEV(マイルドハイブリッド)、これからロータリーエンジンを発電機とする電動化技術を搭載したクルマの3タイプありますが、開発は同時だったのですか?

竹内主査:開発はロータリーも含めて3車同時並行でした。ただし出す順番は最後に決め、EVから出そうと決めました(注:MHEVの日本市場導入よりも前、2020年9月、欧州にEVが投入されている)。

島崎:ロータリーエンジンを発電機とする電動化技術を搭載したクルマはいつごろの登場でしょうか?

竹内主査:2022年前半には発表、発売の予定です。

島崎:海外市場では今のところEV専用車のようですが、MHEVは日本市場のためだけに作られたのですか?

竹内主査:MX-30は電動化技術のみ、つまりバッテリーを積んだモデルのみを用意しようと考えていました。純粋なガソリン車、ディーゼル車は用意しない商品にするつもりです。MHEV、EV、ロータリーと3タイプのラインアップをそろえて、国、地域、お客様の使われ方に応じて選んでいただくことを目標にしました。

セカンドカーを想定したバッテリーの大きさ

セカンドカーを想定したバッテリーの大きさ

島崎:その場合、航続距離が256km(=WLTCモード・1充電走行距離)ですが、バッテリーはもっと大きなものを積む案はなかったのですか?

竹内主査:大きなバッテリーを積めば、当然タイヤもブレーキも大きくなることもあります。が、今現在で考えて、セカンドカー、サードカーとしてお選びいただくお客様の使われ方で、今回は35.5kWhと決めました。またMX-30EVモデルはマツダ初の量産EVでもあります。そこで開発は約4年かけましたが、ほぼ2年経ったころにはバッテリーのサイズ、レイアウトなどは決め、そこからはパフォーマンス、信頼性、安全性をパーフェクトに仕上げてお客様にお届けするために時間をかけてきました。バッテリーに冷媒方式を採用したのも、室内の空調と、ひとつで制御するため。今回はファーストステップですが、今後、バッテリーの技術の進化、マツダのノウハウの蓄積によってどんどん進化させていきたいと思っています。

島崎:日本とヨーロッパでは車両価格の差があるようですが。

竹内主査:それはインセンティブの違いによるものです。

島崎:EVシステム自体のスペックは、仕向け地によって違いはあるのでしょうか?

竹内主査:ヨーロッパ仕様と日本仕様のスペックの違いはほとんどありません。あるとすればCDチャージャーの部分で、日本はCHAdeMO、ヨーロッパはComboタイプに対応を変えています。

ステアリングヒーターはすぐに温まる

島崎:冬場のヒーターの性能はいかがですか?

竹内主査:電費と快適性を両立させたいと考えヒートポンプを使っています。欧州市場からも非常にいいコメントが届いています。

島崎:ステアリングヒーター、シートヒーターを装備していますが、ステアリングはどの部分が温まるのですか?

竹内主査:暖房より直接身体が温まるほうがいいのでつけた装備で、シートは3段階あります。ステアリングヒーターは家から出てすぐそばの信号で温かくなるような即効性を持たせ、“9時15分”あたりを中心に温まる設計です。

無音にするという考えはなかった

無音にするという考えはなかった

島崎:竹内さん、ありがとうございました。続いて梅津さん、よろしくお願いいたします。まずお伺いしたかったのがEVサウンドの狙いはどこですか?ということです。

梅津PE:EVサウンドは、モーターのトルクを認知していただくためにやっています。EVは基本的に無音といわれますが、ロードノイズ、モーターノイズ、ギヤノイズ、風切り音……以上4つの悪い音が聞こえます。決して質の高くない音が、音圧は低くボリュームは小さいけれど聞こえていている。そこで、心地いい音を作ったほうがいいとの思いから、決してエンジンサウンドを模擬したのではなく、モーターのトルクをイメージさせる音をオーディオから出すようにし、この音でモーターの負荷がよくわかるようにしました。この音がノイズとのハーモニーで、ギミックではなくプレーンに、全体として心地よく感じる音作りをしました。

島崎:“無音”にするという考え方ではないということですか?

梅津PE:そうです。そのためにもうドイツの同僚と10年以上やっているのですが、サウンド生成システムを使って、モーターではインバーターの音の周波数をベースに、最大トルクはこれくらい、減速ではこれくらいと決めてそれらをリニアにつないだんです。音色をつけず、音の“次数”の変化で作ったものです。

年配の方は無音を好むが……

年配の方は無音を好むが……

島崎:せっかくのEVですから無音でもいいのではないですか?

梅津PE:実はいろいろな人にヒアリングしましたが、年配の方は“EVは無音であるべきだ”と言われる方が多く、反対に若い方は音が欲しいし未来的な音でもいいと言われる。

島崎:当方ももう年配なもので……。

梅津PE:世界的にも本当にそういう感じで、クッキリと分かれるんですよ。

島崎:そうですかぁ。とはいえMX-30にはEVが合いますね。

EVのほうがコントロールできる幅が広い

EVのほうがコントロールできる幅が広い

梅津PE:実は我々も、EVは最初に目指したパッケージでした。というのもEVは制御技術次第でいろいろな味付けができる。コモディティ化するといわれている一方で、電気モーターはさまざまに活用できるので、我々がやりたいGVC*とか狙っていることがフルに出来ます。エンジンがエミッション、燃費があるためにトルクコントロールできる幅も狭いのに対し、EVのほうが達成度が高い。またエンジンはエンジンブレーキより強いブレーキはできない、といったことはその一例です。
GVC(G-ベクタリング コントロール)は高い操縦安定性を実現するためのマツダ独自の制御技術

島崎:現状では左パドルで回生ブレーキは2段階ですね。

梅津PE:はい、アクセルオフの回生が強くできます。右パドルはコースティングです。MX-30 EVはフル電動のブレーキ・バイ・ワイヤーを採用しており、アクセルの戻しだけではなくブレーキペダルでもかなり回生がとれます。FRで後ろで回生させるとスピンしてしまいますが、FFなのでフロントに荷重がかかり前輪でいっぱい回生がとれる。電動ブレーキなので、モーター回生と摩擦ブレーキの切り替えができるから実現できることです。ただし駐車のしやすさ、上り坂の発進を考えてクリープトルクをつけているので、完全停止はブレーキペダルで行うようにしました。

ワンペダルはつらい、だからパドルで操作

島崎:いわゆるワンペダルではない?

梅津PE:右足を戻してクルマを止めるというのは、エルゴノミクス的につらいかなと我々は考えています。0.2G以上のブレーキなら、慣性で足がもっていかれることで、ペダルを踏みながら姿勢を安定させられる。そのほうが安心・安全だと思います。

島崎:左足でブレーキを踏まない姿勢のワンペダルだと、身体が前に持っていかれますし、慣れないとアクセルオフで何となく右足首が疲れるように感じるのは、そういうことですね。

梅津PE:状況により高速道路の巡航や箱根ターンパイクのように上り坂が続く時はアクセルオフの回生が強いと邪魔なので、車速の落ちが少ない右パドルでコースティングを使うと楽ですし、反対に下り坂では左パドルを使い、ある一定の走行抵抗がかかる状態で使っていただくと安心です。そうした負荷のかかった状態を“音”で認知してもらうのがEVサウンドで、定常走行では音圧が一気に下がります。

島崎:改めてジックリと試させていただこうと思います。

「人馬一体」に近づくEVとGVC

「人馬一体」に近づくEVとGVC

梅津PE:それと私も犬を飼っていまして、以前、島崎さんに「GVCはペットも安心して乗っていられる」と記事に書いていただき、我々の狙いでもあったのでうれしく思いました。EVモデルでもぜひワンちゃんにご試乗いただきたいです。

島崎:犬は走行中のクルマの中では、前後Gはもちろん、横Gに対しては、完全になすがままですからね。

梅津PE:ええ。MX-30EVは車体がeGVC Plusありきで、ソフトウエアとハードウエア一体の開発をしてきました。なのでマッチングがよくFFのクルマとしては極められたかな、と。常時100%ボディコントロールしている状況で姿勢もさらに安定させられます。シャシーの担当ですが、モーターのトルク制御、サウンドまで全部見ているのは、トータルのダイナミクスデザイン、開発ということだからです。10年前のデミオEVをベースに技術開発は続けてきて、GVCを軸に、我々が理想とする「人馬一体」の動きに近づける。だから早く出したいと思っていました。ただしEVはゼロトルク付近の制御は“ガタ”を出さないように相当に緻密にやる必要がある。そのへんはエンジンのほうが寛容なよさがあります。EVでは、ちょっと踏めばピックアップし、戻せば回生する……「ワォ!」と言われるような、いわゆるEVの価値とは違う、なめらかさ、扱いやすさ、自然さを狙っています。

島崎:わかりました。近く我が愛犬にも試乗させて、「ワォ!」ではなく「ワン!」と感動するかどうか試してみます。いろいろとお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2021年5月時点の情報で制作しています。

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