その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第60回は今や貴重となった国産ステーションワゴンのクロスモデルとして誕生した「スバルレヴォーグ レイバック」です。都市型SUVを標榜するレイバック誕生の背景や開発の注力ポイントについて、株式会社SUBARU 商品企画本部 プロジェクトジェネラルマネージャー(PGM)の小林正明(こばやし・まさあき)さんにお話を伺いました。
現行レヴォーグが出た後に企画されたレイバック
島﨑:小林さんのプロフィールのご紹介で三重県ご出身ということで、僕も父方の実家が三重だったのですが、やはり小林さんも“赤福”はお好きですか?
小林さん:赤福を見るとちょっとドキドキしますね(笑)。
島﨑:でも三重県方面へ日帰りでご出張だと、関東方面に持ち帰るには賞味期限もありますし、帰宅が真夜中になるでしょうし、どうされてますか?
小林さん:確かに買いたいんだけど、どうしようかなと躊躇うところがあります。
島﨑:随分前ですが、昔はなかった赤福餅が2列で入った細長のコンパクトな箱もできましたよね。あれはビジネスマンのバッグの底に水平に入れて持ち帰りたいというニーズに応えたものだと思うのですが……。
小林さん:あ、そうなんですか。私も最近は買えてなかったので、今度見ておきます。
島﨑:それと食べる時にヘラを垂直に入れて、ひとつずつ綺麗にとらないと気持ち悪いのですが、それはどうですか?
小林さん:くっつくんですよね。私も苦労してやっています。
島﨑:そうですよね……あ、すみません。赤福の話ばかりしていたら、広報の方に、今すぐ帰れ!と言われそうなので本題ですが、赤福の小さいほうの箱と同じように市場ニーズに応えたクルマだと思うのですが、レイバックは国内専用車なのですか?
小林さん:そうです。
島﨑:先代のレヴォーグの時から企画自体はあったというお話ですが、そうだったんですか?
小林さん:はい。ただ今回のレイバックに関しては、現行レヴォーグが出た後での企画でした。
レヴォーグをベースにしたのは、早く都会的なイメージのSUVを提供したかったから
島﨑:やはり市場動向に照らして必要なクルマだったと?
小林さん:はい。経緯からいうと10年くらい前から世界的にも日本でもSUVのシェアがすごく増えてきた。最近では6、7割のお客様がSUVとおっしゃる。その中で我々SUBARUとしてもSUVには力を入れたい。その一方で今までアウトバック、フォレスターとアウトドア系でイメージの定着が出来ていたものの、都会的なイメージを求めておられるお客様もたくさんおられることがわかった。
島﨑:なるほど。
小林さん:そこで我々としてはそこにチャレンジするということで今回、設定させていただきました。レヴォーグを生かしたのは、いかに早くお客様にこういう商品をご提供できるかということで決まった企画ということでした。
島﨑:お話の中の都会的なイメージとは、具体的にどういうことでしょう?
小林さん:あの、SUVの他銘柄で(注:ハリアー、ヴェゼル、CX-5などのことらしい)、お客様に聞くと、都会的なイメージを持たれているクルマがあり、マスも凄く大きい。我々としてはそこにチャレンジできていなかった。なのでそういうところを意識して開発を進めました。
島﨑:確かに都会的なSUVが台数も伸ばしていますしね。で、改めて、都会的と見られるポイントは何なのでしょうね。
今までのSUBARUにはなかった上質さを加えた
小林さん:あくまでもお客様が抱かれるイメージではありますが、分析していくと、外観であるとか、内装の質感であるとかに意識が向いているんですね。
島﨑:外観や内装の質感、ですね。
小林さん:はい。そこでレヴォーグをSUV化したのですが、そこに今までのSUBARUにはなかった上質さを加えたところが、今回の新たな取り組みでした。
島﨑:ルーフレールは付けていないですよね?
小林さん:ええ、ルーフレールを付けると一気にアウトドア系のイメージがウオッ!となってしまうので、アウトドアのイメージを少し離したいなという思いもあったのでルーフレールは設定しませんでした。用品でルーフキャリアは付けられるように用意はしています。
島﨑:標準の全高はいくつですか?
小林さん:1570mmです。
島﨑:もしルーフレールを付けたら、全高はもう少し高くなるということですね。今は立体駐車場の要件はいわれなくなったんですか?
小林さん:いや、まだございます。これからの検討材料でもあります。が、我々としては段差などでクルマの底を擦らない200mmの最低地上高をまず設定したいという思いがありました。
ボンネットの大きなエアスクープは機能的に必要、しかし……
島﨑:都会的というご説明ですが、デザインでいうと、フロントの顔まわりの表情が今までのSUBARU車に較べて、すいぶん柔らかくなりましたね。
小林さん:ああ、ありがとうございます……って答えていいのかな(笑)。他のレヴォーグなどはグリルがもっとしっかり区切ってありますが、このレイバックは区切らず、全体的にやわらかな形にしました。そういったところは変わったところかな、と。
島﨑:小林さん発注のデザインなんですか?
小林さん:いえ、デザイナーの考え方に任せています。もちろん何かあればコメントしますが、私はこれで納得しています。
島﨑:クルマとしては、昔のレガシィのランカスターやグランドワゴンの頃のイメージもあるということでしょうか? ボディサイズとか扱いやすさとか。
小林さん:そうですね。アウトバックがありますが、あのクルマはラグジュアリーでゆったりと乗っていただく、そういう好みの方に選んでいただいています。今回のレイバックはクルマとの一体感があって取り回しがしやすい、そういうところを楽しんでいただくというところです。
島﨑:これは個人的な感覚ですが、ボンネットの大きなエアスクープが残っていますが、今どきというか、あれはどうなのでしょう?
小林さん:はい。機能的なところがあって、あれを他の場所に移すと空気の吸入量が減ってしまい、燃費も悪くなるなど、いろいろ弊害が出てしまいます。今のパワーユニットではあそこがベストです。おっしゃりたいことはわかりますし、我々もいろいろやりたいですが、まずはここをスタートとしまして……。
島﨑:あのエアスクープがあると、等長等爆より前の頃のズバズバズバッと走っていた頃のクルマの懐かしさも漂ってくる気もします。
小林さん:ご家族がいらして、奥様から走り屋っぽいイメージになるね……と言われるという話も確かにあります。まずは今の内容が我々としてはベストな選択と考えています。
ハーマンもぜひ聴いてみてください
島﨑:小林さんからの、レイバックの味わうべきポイントというと、ほかにどんなことがありますか?
小林さん:重複しますが、上質さの部分と、走りと乗り心地を両立させている、この2つです。上質さについてはデザイン性のほかにも静粛性にもかなりこだわりました。ハーマンのオーディオも味わっていただきたいです。乗り心地については収束性をよく設定していますので、味わっていただきたいです。
島﨑:今回は限られた条件の中の事前試乗で、片道3kmの往復2本、終了……と、オーディオを味わう気持ちの余裕までなかったのですが、ハーマンのオーディオは標準装備とは大盤振る舞いですね。
小林さん:ご期待に応えられていたら嬉しいので、機会のある時にぜひご確認ください。
島﨑:かつてレガシィで設定のあったマッキントッシュもいい音していましたね。オーディオだけいただいて帰ってもいいですか?と申し上げて、当時のPGMに怒られたことがありましたが……。
小林さん:はははは。
島﨑:いずれにしても今回のレイバックは、今までのSUBARU車とはまた違うベクトルで作られたクルマだという感じがしますね。
小林さん:ありがとうございます。今回は、あえて今までとは違うところにチャレンジしましたので、そう言っていただけると我々にとっても嬉しいです。
島﨑:ステアリングの切り始めは、割とユルい感じもしました。
小林さん:そうですね。もっとクイックにするとレヴォーグのように敏感になり過ぎるかなあと、操舵力ももう少し重めですし。レイバック専用で、しっかりと応答ができてスッキリしたステアリングにはなっていると思います。
島﨑:乗り味もフラットで、ザラザラ、ザワザワした感じがなくていいですね。片道3kmのコースを走ってきての印象ですが。
小林さん:ああぁ、そうですか。細かい振動も吸収するセッティングにしてきたつもりですので、そう感じていただけたのは嬉しいところです。
島﨑:わかりました。どうもありがとうございました。
小林さん:機会がありましたらハーマンもぜひ聴いてみてください。
(写真:島崎七生人、SUBARU)
※記事の内容は2023年9月時点の情報で制作しています。