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【ホンダプレリュード】「軽やミニバンだけのイメージでは元気がない」〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

ホンダプレリュード_6th_202509
ホンダプレリュード_6th_202509

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第90回は20259月に発売された新型ホンダ「プレリュード」(6179800円)です。先代の販売終了から24年の時を経て復活した6代目プレリュードの開発背景について、ホンダ技研工業株式会社 四輪開発本部 完成車開発統括部 車両開発二部 開発推進課 チーフエンジニアの齋藤 智史(さいとう・さとし)さん、四輪開発本部 PU・エネルギーシステム開発統括部 PU・エネルギー性能開発部 PU性能開発課 チーフエンジニアの齋藤 吉晴(さいとう・よしはる)さんのお二方に話を伺いました。*以下、齋藤 智史さんを齋藤さん、齋藤 吉晴さんを齋藤(吉)さんと表記しています。

最初はプレリュードの開発ではなかった

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:よろしくお願いします。おや、お名刺のデザインが縦型に変わったんですね?

齋藤さん:なんでもスマートフォンなどで撮影して画像として残しやすくした……と聞きました。

島﨑:おお、今や名刺も時代に合わせて一新ということなんですね。ところで今回の6代目プレリュードは、何年ぶりの登場になりますか?

齋藤さん5代目の最後の生産が2000年、販売が2001年でしたから、ざっと24年、四半世紀近いですね。

島﨑:そんなに経つんですね。今度の新型の企画・開発についてゴーサインはすんなりと出たのですか?

齋藤さん:実は企画の本当の最初は、プレリュードの開発ではなかったんですよ。

島﨑:えっ、そうだったんですか。

ホンダプレリュード_6th_202509

齋藤さん:やはりブランド力の低下もあり、NSXS660も生産が終了してしまい、ホンダとして、面白い、操る喜びを体現できるモデルをちゃんと作っていかなければ……と企画が始まりました。まあ、軽とミニバンだけのイメージだけでは……

島﨑:軽自動車やSUV、ミニバンも多くのユーザーにとって大事でしょうけれど……

齋藤さん:やはり軽やミニバンだけの会社のイメージですと元気のある会社に思われにくいというか。本田宗一郎の時代から、ないものを作れ、いろんなチャレンジをしろと言われてきましたが、そのイメージがお客様に届いていないのが課題。アンケートなどでもチャレンジングな会社の割合がどんどん減ってきている。こうありたいという会社の思いとお客様のイメージが合っていない。

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:オデッセイ、ステップワゴンが出た頃は……。

齋藤さん:クリエイティブムーバーの頃は市場にないクルマを作って、チャレンジングとかスポーティだとか、お客様にいろいろなイメージを持っていただいていました。そういうところがなくなってきたというのが、企画のひとつのきっかけでした。

島﨑:とはいえ、今どき、よくプレリュードのようなクルマにゴーサインが出たなぁと思うわけです。

齋藤さん:やはり紆余曲折はありましたねえ。

島﨑:想像に難くありません。

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競合がなかなかない

ホンダプレリュード_6th_202509

齋藤さん:やはりプレリュードのようなクルマは、市場としては数が少なくなっています。その中で本当に売れるのか? 予定台数が少ないとどうしても償却コストが高くなり、売価も上がってしまうので、そこに見合う価値が提供できるのか? 弊社に限らず他社さんも、こういうモデルは数を束ねるのが難しくなっています。

島﨑:プレゼンの中で他銘柄の2ドアクーペというお話がありましたね。

齋藤さん:なかなか難しいのですが、実はハイブリッドクーペは今は競合がほぼないんですね。かろうじてファイナルエディションが出たレクサスさんのRCはバリエーションの中でハイブリッドは持っていますが、それ以外に探してもポルシェ911GTSのようなモンスターマシンじゃないとなかなかない。

島﨑:そうですね。

ホンダプレリュード_6th_202509

齋藤さん:開発中も競合って何だっけ?と評価部門から聞かれたんですが、なかなかなかった。

島﨑:昔ならシルビア、セリカとありましたけれど。

齋藤さん:今でいうとGR86とかありますけど売価帯が少し違っていたり、売価帯が近いクルマでいうとフェアレディZ、ファイナルエディションが出たスープラなどあるにはあります。が、ピュアICEでハイパワーで燃費はよくないけれど速いクルマの居場所がだんだんなくなってきた。そういう中なので、よく聞かれるのですが、ライバル車がなかなかなくて……

大排気量とかハイパワーモデルではない、新しい価値観のクルマ

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:齋藤さんご自身は、世代的にも、プレリュードはやはり復活させるべきだというお気持ちは強かったのではないですか?

齋藤さん:プレリュードを復活させようというのが先ではなかったんですけど、電動化時代に出すモデルなので、旧来とは違った価値観……ハイパワーモデルと先ほども言いましたけれど、法規対応が難しくなってきて、GT-Rも終売、スープラもなくなり。電動化時代がそこまで来ている中でピュアEVでスポーツモデルというと、それもまた少ない。テスラのロードスターも次はまだ出てきませんし。

島﨑:話はありましたけどね。そういえば最初のモデルはロータス・エリーゼをベースにしたクルマでした。 

齋藤さん:ピュアEVもなくて、これからの会社のサステナビリティを考えてもハイブリッドで出そうと考えた時に、次の時代の先駆けとして出すスポーツモデルは、やはり役割的にはプレリュードなんじゃないかと、かなり議論がありました。そこからは皆んな、そうだね、そうだねということになったんです。そこからプレリュードとしての開発が始まりました。

ホンダプレリュード_6th_202509

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島﨑:まさに次世代の前奏曲、プレリュードが作れるぞ!と?

齋藤さん:ピュアICEの大排気量とかハイパワーモデルではない、新しい価値観のクルマを作っていきたい。その気持ちが先駆けという表現になり、ワードがあると皆んなひとつの方向を向く。なので始まりはプレリュードではなかったのですが、役割を考えるとこのクルマはプレリュードだと、気持ちがひとつになった気がします。

島﨑:そうでしたか。

齋藤さん:思い返せば昔のプレリュードもハイパワー車ではなくて、ハンドリングのよさ、レスポンスのよさでハイパワー車を追いかけ回していたクルマだった。

島﨑3代目の2.0L DOHCエンジンが載ったSiなんて気持ちよくて、試乗会で、富士五湖周辺のワインディングを山本コータローの歌を口ずさみながら気分よく走った記憶があります、“岬”ではなく“湖”でしたけど……

齋藤さん:あのクルマもハイパワーというより気持ちよくエンジンが回ってというクルマでした。それとスタイリングのよさでお客様に受け入れられていた。デートカーなどとも言われていましたけれど。

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タイプRの足回りをストリート用に

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:プレリュードのことを“プレリュ”と呼んだり、自分で白とグレーメタ2トーンのXXに乗っていたりした女子の友人が身近なところで何人かいました……と遠い目になっている場合ではありませんが(笑)、一世を風靡しましたね。ところで齋藤さんどういう分野のご専門だったんですか?

齋藤さん:ボディ設計から始まって、今はそのとりまとめをしています。

島﨑:今回のクローズドの試乗コースは、橋の繋ぎ目以外は路面がスムースですが、それにしても走らせていて目線が揺れない、頭が揺さぶられない点が印象的でした。今回、リアゲートのあれだけの開口部がありながら、ボディ剛性への影響も感じないですね。

齋藤さん:ボディの剛性バランスもそうですし、今回はタイプRの足回りを使っています。タイプRは外乱に対するポテンシャルが高くサーキットにフォーカスしていますが、プレリュードではその足を使ってストリートをメインにクルマを作ってきて棲み分けています。

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:歴代モデルでは4WSとか、ミッドシップのフェラーリより低いボンネットを実現したダブルウイッシュボーンとか、そういう話もありましたが、足まわり関係の話は、今回もこだわりがありそうですね。

齋藤さん:シビック・タイプRと同じステージを目指した訳ではないので、ポテンシャルの高い素材を使って、プレリュードとしての仕立て、熟成を重ねたということです。

島﨑:この仕立ては、開発時に最初から決まったものだったのですか?

齋藤さん:タイプRの足を使うかどうかの議論はかなりありました。車体サイズを拡幅したいモチベーションと、広げ過ぎると使い勝手に影響する。そのバランスポイントをどこにもっていくか議論していた時期はありました。

島﨑:タイプRに対しての違いといいますと?

ホンダプレリュード_6th_202509

齋藤さん1番わかりやすいのはフロントサスペンションで、トレッドを拡幅するには普通ホイールのインセットだけでやっていくとキングピンから離れたところでホイールを受け持たなければなりません。そうすると、タイヤからの入力でステアリングが取られたりする。そこでセンターオフセットを小さくするために、デュアルアクシスを使い、通常のストラットサスペンションでいうと、ダンパーの取り付け点とロアアームのポイントを決め、そこから先がナックルになっていますが、プレリュードではそこにもうひと部品挟んであり、より外側にナックルがいるので、キングピンの軸を外に出す仕掛けとしました。そうすることでタイヤは外に出しながら、センターオフセットはむしろ小さくできた。なのでスッキリしたステアリングフィールが実現できました。

レジェンドクーペを彷彿とさせる“COMFORTS+

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:ステアリングへのキックバックなどもほとんどない印象ですよね。それと走行モードの切り換えですが、各モードごとの差が極端ではない気がしましたが……。

齋藤さん:今回のコースは比較的凹凸が少なく、途中の橋のギャップくらいなので、路面的には感じづらいかもしれませんが、スポーツ走行での旋回などでは差が感じられると思います。

島﨑:モード切り換えで何が切り替わるのですか?

齋藤さん:ダンパーの減衰、ステアリングのアシスト力、それとサウンドも、足している音が変わります。乗り味に関しては内部のオリフィスを電気的に制御して径を動かして、ダンパーの減衰を変えています。

ホンダプレリュード_6th_202509

ホンダプレリュード_6th_202509

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島﨑:サウンドは種類があるのですか?

齋藤(吉)さんSPORT1番聞かせて、GTはそれより小さく、COMFORTでは音は出さないくらいです。

島﨑:あのアクティブサウンドコントロールは生のエンジン音ではない訳ですね。

齋藤(吉)さん:生の音をベースにしながら音を足しています。もともとのエンジンが静かにできていますので、絶対量を大きくしてしまうと認定値を超えてしまうとか、ご近所の人に聞こえてしまう。車内の人にだけ聞こえるようにフロントのドアスピーカーからメインに音を出しています。

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑:とにかく気持ちよく走れるクルマですね。

齋藤さん:ありがとうございます。先ほどのモードの話ですが、荒れた路面だとSPORTではさすがに収れん性が高くなくバタつきますが、COMFORTであれば、いなしながら走れます。

島﨑:齋藤さんご自身ではどのモードがお気に入りですか?

齋藤さんGTですかね。いわゆるノーマルですがすごくバランスがよくて、自分で好きに運転していいよと言われたら、67割はGT、疲れて帰るときや奥さんが乗っている時はコンフォート。SPORTはもちろんスポーツ走行したい時のおすすめですが、皆さんに記事にしていただく時はスポーツの“S+”1番わかりやすいと思います。

ホンダプレリュード_6th_202509

ホンダプレリュード_6th_202509

島﨑S+は各走行モードで切り換えられるんですね。

齋藤さん:ええ。センターコンソールのボタンで切り替えていただくと、メーターのパワーメーターがタコメーターに切り替わります。操る喜びが1番楽しめるのがSPORTS+、それとGTCOMFORTS+でもそれぞれで特性を変えていて、たとえばCOMFORTS+はエンジン回転を抑えるような制御にしてあり、開発担当者は「レジェンドクーペみたい」と言っていました。昔の大排気量のNAみたいに下のトルクがあって、回転を上げなくてもちゃんと加速していく。ベースのCOMFORTでもステップシフトは使いますが、COMFORTS+では逆にエンジン回転はある程度抑えながらちゃんと加速していくような制御にしてあり、ベースはステップシフトでエンジン回転が上がるところを、エンジンノイズが高まらないように低回転で上がっていく設定にしてあり、実はおすすめなんです。

島﨑:奥様が隣に乗っていても大丈夫ということですね。我が家の家内もエンジン回転がちょっとでも高まると「速いッ!」とクレームを出してくるので、非常によくわかります。広報車がお借りできたら試したいと思います。いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(写真:ホンダ)

※記事の内容は2025年9月時点の情報で制作しています。

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