その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第93回は2026年2月に発売予定(2025年12月12日から先行予約開始)のホンダ「CR-V」です。昨年のプラグイン燃料電池車に続いて、1995年の初代発売から30年目の記念すべき年に、待望のハイブリッドモデルの日本導入が発表された6代目CR-V。そのデザインとパッケージングについて、株式会社ホンダ技術研究所デザインセンターのオートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフエンジニア デザイナーの佐藤 淳之介(さとう・じゅんのすけ)さんと、e-モビリティデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ ヴィークルアーキテクチャプランニング チーフエンジニア VAPデザイナーの岡 亜希子(おか・あきこ)さんのお二人に、編集長の馬弓も交えて話を伺いました。
カッコいいスタイリングだけではCR-Vじゃない

島﨑:改めてこの新型CR-Vのデザインで1番の売りというとどこになるのでしょう?
佐藤さん:本当は1番の売りはここです!と言いたいところですが、スポーティなシルエットだけを追求して「カッコいいでしょ!」というクルマを作っただけではCR-Vじゃないという思いがありました。カッコいいスタイリングだけでなく日常でガンガン使えないとCR-Vじゃない。最初の頃はカッコいいクーペシルエットの画や、すごくラギッドなタイヤを背負ったクロカンみたいな画も描いたりしました。でもそれだと日常生活でスーツを着た時に似合わない。やはり世界中のいろんな人のいろんなシーンにミートしないとCR-Vじゃない。すべてを両立するバランスの良さがCR-Vであるべきだ……そういう考えからデザインしました。
中央がデザイナーの佐藤さん、左がVAPデザイナーの岡さん
島﨑:ここがカッコいいでしょ!イカしているでしょ!ではない、むしろデザイン的には抑えを効かせたのがCR-Vである、と。
佐藤さん:バランスを取るところが1番苦労したポイントであり……。
島﨑:トガった方向ではなく、オーソドックス、プレーンな方向だと思いますが、そうなるとサジ加減は難しかったのでは?
佐藤さん:そうなんです。中庸なクルマになってしまったらホンダらしいキャラクターじゃなくなってしまいます。そこで随所にこだわりは入れていまして。
島﨑:どういうところですか?
佐藤さん:たとえば顔まわりは無難な顔になるべきではないと思っており、SUVらしい力強さを表現したり、切れ長の目も、ヘッドランプの中をミステリアスな造形がなるべく見えないようにあえてしています。グリルも華美なメッキを施して豪華にする価値観、手法ではなく、ラギッドなものにしてキラキラ光る感じは残しながら、開口を大きく逞しいものにしています。

岡さん:もうひとつのテーマが、CR-Vだからこそどこへでも行けるような雰囲気で、ホテルに乗りつけても恥ずかしくない上品さにもかなりこだわりました。SUVらしく荒野を走る!だけだと、やはりCR-Vじゃないんじゃないかと。
島﨑:思い出したのですが、初代CR-Vのカタログの表紙は、確か都会の高層ビル群を背景にカーボーイハットを被った人物がCR-Vの横に立っている写真でしたね。



爆発的なヒット作となった初代CR-Vのカタログ(写真:島崎七生人)
佐藤さん:初代CR-Vが持っていたエポックメイキング的なキャラクターには憧れもあったしリスペクトしています。ファンクショナルさだとか守っていくべきだと思いました。それ以上に6代も続いてきて世界中で愛されてきた、その王道である部分をかなり意識していますね。デニムだったりコンバースのスニーカーだったり、定番、王道を突き詰めた時にあるべき姿、その上で使いやすい、その上でカッコいいみたいなものをご提供したいと思っています。
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定番、王道をワールドワイドに売る
島﨑:今更ですが、市場は全世界ですよね。
岡さん:出しているとことは、ほぼほぼ全部です。
佐藤さん:アメリカ、中国、オーストラリア、ヨーロッパなど、そして満を持して日本。
島﨑:どこかをメインにした開発、ではないのですね。
佐藤さん:基本的には開発初期段階からすべての国で売られることを想定しています。ここの国向けに作ったクルマをほかの国にも……といったことはもはやなくなりましたね。定番、王道をワールドワイドに売る。ただ開発の最初はアメリカだったので、現地に1カ月住み込んで向こうでクレイモデルを作ったりということは北米が1番多かったです。最初のユーザーサーベイでは中国へ行ったりもしました。

岡さん:どこかの国だけに特化してどこかの国が半端になる、そうならないように。かといってデザインにしてもあまり平均値を狙いすぎても面白みのないクルマになってしまうので、そこは気をつけました。
島﨑:今はどこの国のユーザーもニーズは平均化、共通化していますか?
佐藤さん:やはりアメリカは価格帯、使われ方でユーザーが違ってジーパンみたいな存在。中国やアジア諸国だと高級車になる。なので両方作り分けられるように、ここは分割して作っておこう……と予め手を打ったりしています。アメリカでいうと、グリルやバンパーのロアの部分は専用デザイン。ボディ色の部分はそのまま使いながら、少しキャラクターを変えるといったことも初期段階から想定しておくことで、各国に併せたキャラクターにしています。
岡さん:カラーのラインアップも違ったり、同一ボディで3列仕様の用意もあります。
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骨格とスタイリングを一緒にやるのがホンダ流

島﨑:フロントのサイドマーカーは、もともとは北米仕様のものですよね。
佐藤さん:デザイン上のポイントになっていて、ヘッドランプの中に入れる手もあるのですが、ヘッドランプの中を黒く塗り切れ長に見せたかったので、あえてオレンジを外に出しました。アメリカは光るランプが法規化されていますが、たとえば日本などは完全に必要な訳ではないのですが、リフレクターはデザイン上のポイントだし、お客様の安全を守る機能もあるので、わざわざ外すこともないだろうと残してあります。
島﨑:そういえば実車のリアゲートを開けてみると、開口部の上下方向が大きいクルマだなあと思ったのですが、何か意図はあるのですか?

岡さん:競合他車もありますし、とくに北米ではカーゴボリュームは、ショッピングリストに上がったときにけっこう重要になります。それと縦長ということでいうと、よくアメリカでテールゲートを開けて座って、野球観戦をしながらバーベキューをしたりする。あるいは女性が重い荷物を載せるときにも大変じゃない高さとか。あとは3列仕様もあるので、それを見込んだルーフの高さだったりしています。
島﨑:ルーフの高さも関係しているのですね。
岡さん:はい、最初から2列も3列もグローバルに見ています。


佐藤さん:テールゲートのデザインも、エクステリアデザイン的には上に上げていきたいんですよ。でもそれをやり過ぎると岡さんに怒られちゃう(笑)。毎日、言い争いをしながらやっていました。
岡さん:パッケージデザインっていう領域の仕事がデザイン室にあるので……。デザイナーがやりたい形、やりたいことって、だいたい他社さんは骨格が決められてそこからスタイリングがスタートするのですが、私たちは骨格とスタイリングは一緒にやるんです。で、設計にお願いする時はちゃんと根拠も言いながらデザインの中から発信していくのが私たちの強みでもあると思っています。


島﨑:ちょうどWR-Vのインタビューの時にも、あの……頭がモジャモジャのパッケージングご担当の方から、ドア開口部やシートのお話を伺いましたけれど、パッケージングとデザインは密接で大事な関係ということですよね。
*WR-Vのパッケージングのインタビュー記事はこちらから
https://autonavi.car-mo.jp/mag/category/catalog/developers/wr-v_2/
ドアミラー越しのリアフェンダーにこだわった理由

岡さん:エクステリアデザインに強いたこともたくさんあったんですけど、本当に上手くデザインしてくれたと思っています。たとえばリアフェンダーにあえてフラットな面を作ってもらったのですが、駐車の時に今はバックカメラを見る方が多いと思いますが、男性でドアミラー越しに無意識にリヤフェンダーのあたりを見て白線に合わせようとする方がいます。実はBMWさんなどもやっているのですが、リアフェンダーあたりのデザインシェイプだけで自分の身体の感覚に合ってくることなどもずいぶん実証実験しました。
島﨑:そのお話、大変よくわかります。サイドウインドゥ下端のラインを水平にといったお話もありましたが、自分の身体の感覚に合って、白線に対して並行にクルマを止められるというのは大事ですよね。昔、自分で乗っていたいすゞ・ピアッツァで、気を抜くとクルマを斜めに停めてしまう経験をよくしていましたから、わかります。
佐藤さん:やっぱりファンクショナルな部分はファンダメンタルにあるべきだと思っているので、もしカメラなしのお客様がいても使いやすいようにしておきたいと考えています。
馬弓:ここ数年、ホンダさんはフロントフェンダーとサイドラインの話とか、フロントガラスの三角マークも含めて視界の与え方にこだわってきましたが、今回のCR-Vでリアフェンダーの見え方の定義を作られたのですか?
岡さん:定義というほどではないのですが、リアフェンダーまでやったのはCR-Vが初めてかなと思います。“動感視界骨格”をやろうと決めまして、走りもしっかり楽しめるし、そこに安全、安心もカッコよさも外せない。前をしっかりやっているから後ろもしっかりとやろうよ、と。要件ではないですが、全方位でどこをとっても大丈夫だよねというやりかたをしています。
馬弓:確かに撮影用に借り出したポルシェ911、特にターボなんかはリアフェンダーの巨大な張り出しをドアミラー越しに見た瞬間、狭い道を走るのは止めようと思ってしまう(笑)。
佐藤さん:でもああいうカッコいいことが使命のクルマもありますよね。弊社で言えば新型プレリュードがそうです。タイプRのシビックのリアフェンダーの力強さ、走りのよさもそうです。我々のCR-Vは運転しやすくて日常使いがいいということが使命なので、その上でカッコよさを追求すべきだと考えているんです。
馬弓:あ、そういえばタイプRも狭い道を避けました(笑)。
何かわからないけど運転しやすい、何かわからないけどカッコいい

岡さん:試乗してぜひお試しいただきたいのですが、パッとみると大きい印象があるかも知れませんが、実際に乗るとそれを感じさせず、無意識レベルで“自分は運転が上手くなったのかな”とお感じになると思います。ちなみにフェンダーのこだわりで言いますと、白線の消失点とフロントフェンダーの見えるところを合わせていて、かつタイヤの内側の前側に相当する部分がフェンダーの見えなくなる部分になっているんです。
馬弓:前にそのお話は伺ったことがありましたね。
島﨑:今のシビックやアコードで、フロントフェンダーからAピラーの付け根、ベルトラインのお話は伺いましたね。
岡さん:走り始めると、ドアミラーの傾きもガードレールにピタッと合うんですよ。なので、自分が向かっている方向が乗っているだけでわかる。だから爽快に走れると思います。
島﨑:先ほどの佐藤さんの表現をお借りすれば、ファンクショナルさがファンダメンタルであるCR-Vには、そうした隠された設計、配慮で、ユーザーに寄りそうクルマに仕上げられているという訳ですね。
佐藤さん:わざわざお客様に1つ1つ説明する必要はないかなと思っていまして、何かわからないけど運転しやすい、何かわからないけどカッコいい……そういう手品のトリックみたいなものがいろいろなところにちりばめられているので、そういうのをバレないようにしているのもこだわりかな、と。
岡さん:大きいけれど大きく感じない、室内に入ると1クラス上の室内空間。そんな不思議な感じになっています。
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日本ではCR-Vにギラギラなプレミアムは期待されていない
島﨑:わかりました。そのあたりも試乗の際にじっくりと試させていただきます。きょうはいろいろなお話をどうもありがとうござ……。
馬弓:あの〜、ホンダのSUVのなかでこのCR-Vとヴェゼルは、サイドラインの入れ方やフロントウインドゥの天地の狭さが同じ系統に感じるのですが、そういう統一感みたいな話はされているのですか?
佐藤さん:うーん、エクステリアデザインについて言うと、別にこういう風に作れ、ここに陰を入れて、角度は何度にしてと、ルール化されている訳ではないんです、マツダさんのように。クルマの性格、使われ方でキャラクターが変わってくるところが弊社のフレキシブルで統一感のないところかもしれません(笑)。

こちらはヴェゼルのMCモデル
視界を考慮したAピラーの角度・位置が近似、ということ以外にもフロントマスクの印象、サイドのキャラクターラインなどにも共通点があるCR-V。弟分と同じくヒットモデルとなるか?
馬弓:このCR-Vは“Cセグ”なんですね、一回り小さなZR-VもCセグですよね。印象としてCR-Vが意外と小さいなと思ったのですが……。
佐藤さん:弊社の主戦場のアメリカ市場でいうと、CR-Vの上にパイロット、パスポートがおりまして、もし3列をということになれば中国のアヴァンシアがあります。その中でCR-Vは市場の中で成長できる程があって、インドネシアの立体駐車場にも入るようにといったことでサイズが決まっていった。
岡さん:グローバルでどこでも売っているクルマなので、制限が多いといえばそうですが、襟がなければスーツと言えないように、そういうところをしっかり押さえるのが課せられた任務というか……。
馬弓:説明の中にチャイルドシートの絵がありましたが、アメリカでは若夫婦向けなんですか? 日本は50代をメインユーザーとしていましたが。
岡さん:まだ申し上げられないのですが価格帯においても……。
佐藤さん:日本においてはSUV・4兄弟の長男に当たりますので、それなりの価格にもなりますが、装備も考えて、タイ市場のRSをもってきて、さらにブラックエディションで、Honda SENSING 360を追加していますので。
馬弓:RSはスポーティなラインになると思いますが、価格がそれなりであるならラグジュアリー方向は考えなかったのですか?

撮影会場に置かれていたRSブラックエディション+Tough Premiumの実車

RSブラックエディションにおすすめとする「Tough Premium」コーディネートはフロントやサイドにメタリックパーツがあしらわれ重厚感が増す(写真:ホンダ)

「Urban Premium」はRSに推奨され、ブラックアクセントとボディカラーのコンビで都会向けなスポーティさを強調(写真:ホンダ)
佐藤さん:タイにおいては性能が高いものが上級という考え方なんですね。日本においては走りがいいものとプレミアムは必ずしも一致しない。ではCR-Vではギラギラなプレミアムがお客様に期待されているのかなぁと考えた時に、そうじゃないんじゃないかと。あまりラグジュアリーなメッキギラギラなものは最初から考えていませんでした。アメリカにおいてはスキッドガードをデザインとして採用しています。
島﨑:何やらショッピングリストに載せてくれそうな人がここに1人いますが(笑)、具体的なコンペティターと言いますと?
佐藤さん:えー、あまり具体的に申し上げるべきかどうか、RAV4さん、CX-5さん、ティグアンさん、フォレスターさんなどでしょうか。
岡さん:市場によって戦う相手が変わってしまうので、満遍なくCカテゴリーでそれぞれの国で売れているSUVはだいたい見ています。とはいってもCUVというかSUVの中で自分たちが1番最初に打って出て、その誇りをもって戦っていくためには何を外してはいけないのか?を軸にしていればそんなにブレないかなと思っています。
島﨑:心強いです。今度こそ、どうもありがとうございました。
(特記以外の写真:編集部)
※記事の内容は2025年12月時点の情報で制作しています。
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