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【新型スバルフォレスター】「ただカッコいいだけのスバル車では、お客様は喜ばない」〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

forester_6th_2025
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その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第88回は20254月にフルモデルチェンジを行ったスバル「フォレスター」(4048,000円〜4598000円)です。北米で大人気のスバルのタフギアSUV、その6代目のデザインについて、株式会社SUBARU 経営企画本部 デザイン部 車種開発プロジェクトチーム主査の高木曽太(たかぎ・そうた)さんに話を伺いました。

ワンちゃんの目線に立ってデザインを考えたい

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写真:SUBARU

島﨑:先だって1度、デザイナーの皆さんにインタビューさせていただいた時にの話が出てきたのが実は興味深かったです。

高木さん:ああ、後ろの犬がシートの間から顔を出して前を見て……という話ですか?

島﨑:ええ、そうです。これはもう、実際に新型フォレスターの広報車が用意されたら借り出して、実際に我が家の犬でそういうカットを撮影しなければ、と。実は普段からそういうシーンは本当にあるものですから。

島崎さんの愛車の後席から顔を出す“モータージャーナリスト犬”のシュンくん

高木さん:(フロントシートの肩口が)ちょっとだけど削れているので、犬にとっても、小さなお子様にとっても前方視界に配慮して、開放感に繋がるといいなと思いまして。そもそも最初にスケッチを描いたときの起点は、チャイルドシートに乗っている子供から見える風景と、後ろに乗せている犬とか、ペットから見える風景がよりよくなったらいいなというのがありました。ただそれが訴求ポイントになるかというと、そういうシチュエーションになる方では一部ですし……。

島﨑:いやいや、ものすごく重要な訴求ポイントになっています!

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後席からの見晴らしも考慮されたフロントシートの肩口(写真:SUBARU)

高木さん:それより振り向きの動作のほうがわかりやすいので、説明するときはそちらですけど、あの時の本にも載っているように、最初のスケッチは犬と子供がスタートでした。本当はセンターアームレストも後ろのワンちゃんが手をかけやすいようにしたいとも思っているんですよ。

島﨑:いいですね。ウチの犬が聞いたら吠えて喜びます。

高木さん:スバルの内装デザインのチームがペットに対して思うのは、よくある飼い主目線ではなく、犬の目線に立って、ワンちゃんがこうだったら嬉しいんじゃないかというのを考えてデザインしたいと思っているんですよね。だから内装に傷がつくのが嫌というのじゃなくて、犬はそこに手をかけたくてよりグリップをしたいから爪を立てている。その気持ちを考えたら傷つきにくいとか、毛がつきにくいツルツルした素材にしたりするのは犬にとっては落ち着かない。本当は毛がついてもいいから引っかかる素材にしたほうが、ワンちゃんはちゃんと手をかけて窓の外が見られる。

島﨑:犬への深い愛情を感じます。

高木さん:乗り降りの時も、犬が一歩目が置きやすいように肉球の大きさに合った柄の配置ができたらいいよね……そんな会話はしているんです。

島﨑:素晴らしいことですね。

高木さん:なのでそんな要望がアメリカのスバルからバーン!と入ってくれれば、一気にひと仕様作っちゃうんですけど、なかなかそこまではいかなくて。でも我々の目線としては、言葉にできないワンちゃんがこうだったら喜ぶんじゃないかというのを考えてデザインしたいとは常日ごろ思っています。

島﨑:このインタビューの連載で、これだけペットのお話を伺ったのは初めてだと思います。

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飼い主目線のほうが売りやすい、しかし……

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高木さん:それともっと言うと“毛”もなくてキレイなほうが本当に嬉しいのか? 何となく自分のニオイがついてその子たちが自分で育てた空間というのを感じられたほうが落ち着くんじゃないかなあと。

島﨑:お話が出たので自慢する訳ではないのですが、ウチの犬はTUMIのこんなボアマットをずっと使っていまして(とiPhoneに保存してある写真をお見せして)。

高木さん:ほぉ、すごい! 何かモノを運ぶバッグじゃなくて、このマットをスタイリッシュに持ち運ぶために折り畳むとバッグの形になるんですね。

島﨑:我が家の犬の場合、どのクルマに乗る時もこのボアのマットを使っているので、いちおう自分のニオイがして本人にとっては安心かな、と。

高木さん:そうそう。ただモノを売るということでは飼い主目線のほうが売りやすい。結局お金を出してくださるのは飼い主さんなので、勢い、クルマをキレイに保ちたいという欲求を満たすための開発が多い。ただそこでスバルらしさということで言えば、実用に寄った感じ、使う人の気持ちということで言うと、ペット用品の場合は使う人の気持ち=ペットの気持ちだろう……とは思ってはいるんです。犬が喜ぶ内装……みたいな。義理の父がホワイトシェパードを飼っていて、ミニバンに乗せているのですが、室内の掃除はそんなにしていない。なんでなのか訊くと、犬は適度に汚れている自分の空間が嬉しいんだろうし、毎回乗るスペースとして決めてあげたほうがいいんじゃないかという話なんです。確かに汚れない、汚れてもすぐに取れる内装と普通は考えて開発するのですけど。

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写真:SUBARU

島﨑:我が家のクルマも、半分はもう掃除が追いつかないからですが、革シートの縫い目やフロアマットはよく見ると犬の毛だらけですけど、もう気にしないですからね。

高木さん:毛がからまったらフカッ!とするとか、サビたものが味わいがあっていいとか、長く使ったらペットとの思い出が刻み込まれるみたいなのも面白いだろうな、スバルっぽいかななどと思ったりもします。

島﨑:我が家は今の犬で同じ柴犬の3代目なんですが、全員、リビングの木の椅子の足をかじりました。キミたちは彫刻家か!?

高木さん:犬がかみつきやすいやすい部分がシートの背面にあるとか(笑)。ユーチューブなどを見ていると、クルマに乗り込もうとしている犬が結構足を滑らせている動画をよく見かける。だからステップ状にできるだけ平面を取るようにすればいいとか、小さなお子さんが乗るときにどこを掴むか……そんなトリムの研究をしていたこともありました。

島﨑:何か必要なことがありましたら、ウチの犬をいつでも参上させますのでお申し付けください。ところでクルマの話も(笑)伺いたいのですが、この新型フォレスターのほかに北米仕様の新型アウトバックも発表されましたが、これらのクルマから、スバル車のデザインがまた新しいフェーズに入ったということなんでしょうか

フォレスター、アウトバックはアメリカに振り切ったデザイン

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写真:SUBARU

高木さん:新型フォレスターからヘキサゴングリルと“コの字”のヘッドランプの使い方が変わって、今までのように六角形+コの字ではなくてもっと融合した形にしています。新型アウトバックも同じです。今までのデザインする上での決まり事を外す考え方。顔つき、ワイド感で堂々とした乗員を守ってくれそうな形を車格、スタイルにあわせて提案するデザインで揃えていく。線ではなく、考え方を表現するところで厚みのある顔でこれからは進めていくのかなあと思います。

島﨑:ボディサイドの面の表情なども違ってきましたね。

高木さん:シンプルにキャラクター線は少なめで。前の世代はVIZIVラインと呼んでいた、ドアの最後に1回下がってグーっと後ろに向かっていく線をデザインモチーフとして使っていた。今は、ドアの断面のボリュームでしっかり剛性感を表現する、そういう見せ方に変えていっているところです。

島﨑:VIZIVコンセプトのパーンと張ったシャープな面質はいいなと思っていました。

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2017年の東京モーターショーで発表されたVIZIVパフォーマンスコンセプト(写真:編集部)

高木さん:当時の“ダイナミックソリッド”の考えはベースにずっと流れてはいます。それと今はレヴォーグ、レイバックと日本専用のモデルがありますので、日本に則した大きさとデザインとしています。日本のお客様はクルマにスタイリッシュさを求める方が多い。対してアメリカでは実用感のあるデザインが求められる。なので、フォレスター、アウトバックはアメリカに振り切ったデザインになっていて、またそうやって差をつけることで、どちらの市場にもマッチして、お客様に喜んでもらえるデザインになるのかなあと思っています。

島﨑:そういう作り分けでこれからのスバル車のデザインは行くのだ、と?

高木さん:ただカッコいいだけのスバル車は多分、お客様は喜ばない。パッと見たときにクルマのもっている性能を伝えるのがスバルのデザインの仕事。性能が意匠に表れているということでしょうね。

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そんなことまで確認してデザインしているの?

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島﨑:それはインテリアデザインでも言えることでしょうね。たとえばディスプレイの角度とか難しいのでしょうね。

高木さん:そうなんです。本当はデザインはディスプレイをもっと傾けたほうがカッコいいといったことがあるんです。でもこれもスバル車の大事な性能のひとつで、映り込みで厳しく見て運転しやすくなければスバル車じゃないこともデザイナーは分かっている。たとえばサイドミラーの映り込みなどは、実験部隊と一緒にモノで見ながら、通常クレイモデルでは付けないサイドウインドゥをアクリルを切り出して入れて見るなどしました。よくある助手席側の加飾も反射して映り込む。そこで断面を丸くしたり面をちょっと傾けるといったことも、運転のしやすさに配慮して決めてやっています。

島﨑:そうでしたか。

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高木さん:あとセンターディスプレイの角度は、スバルの場合、運転手の方に角度をつけずに、車内に乗っているみんなが見えるようにしているのも大事にしているところなんです。以前あったサブディスプレイも、後部座席から見て1番下の表示が見切れてしまわないかどうかまで見ていたりしました。

島﨑:ほほお。

高木さん:運転手だけがよければいいのではなく、一緒に乗ったご家族もそのクルマの空間を共有する大事な仲間でもあるので、その人たちも同じように見たい情報が見られるように。スバルはそういうところを結構、気にしています。

島﨑:初代レヴォーグの時のサブディスプレイは、確か平均燃費やターボのブースト表示になっていましたね。

高木さん:とにかく内装は、皆さんが思っている以上に“そんなことまで確認してデザインしているの?”というくらい、やり過ぎにも思いますが、お客様がそれを嬉しく思ってくれるのなら頑張って、機能と両立するデザインにするか……そんな感じです。

他のメーカーよりキラキラしていないけれど

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写真:SUBARU

島﨑:今回の新型フォレスターの内装でいうと、改めて、どんなところがこだわったポイントになりますか?

高木さん:まさにインパネの助手席側のシルバーの加飾がサイドウインドゥにどう映るのか?はしっかり見ました。加飾の幅とか、プラスチックの加飾にしては“張り”をつけているのは、面光りさせずに同時に光るところを細くさせているから。加飾面を立てずにインパネを凹ませてその奥に被せているのも影にしているのも、映り込みづらく光を当たりづらくするためです。

島﨑:最近、助手席前にディスプレイを埋め込ませたクルマも多くなってきましたが……。

高木さん:いやぁ、そもそもここがディスプレイだと一次反射の外光が反射して目に入るということが起きやすくなると思うので、それは、多分、今のスバルの設計基準だと難しいというか。

島﨑:今の内装デザインの世界では当たり前になりつつあるようですけれど……。

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高木さん:スバルのデザインでは絶対やらないというか、スバル車を所有して嬉しいと思ってもらえないんじゃないかなと。私が言うのも何ですが、ちょっとダサいけど使いやすいのがスバル車だと思うんですよ。

島﨑:おや。

高木さん:カッコはいいけど乗ってみたら運転しづらい……じゃなくて、ちょっと他のメーカーよりシルバーの量が少なかったり、キラキラしていないけれど、運転してみたら前に乗っていたメーカーよりスバルのほうが運転しやすいよねえ……と思っていただけるような。ピラーの太さや断面も含めて、左折巻き込みとかAピラーのここが死角になっているんだぁといったこととか、スバル車に乗ってみるとちゃんとやっているんだなぁと嬉しく思っていただけるのがスバル車なんです。

島﨑:機能に裏付けられたデザインということですね。

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写真:SUBARU

高木さん:表面的なカタチを決めるだけではなく、性能の伴った製品に関われているという喜びは僕らも感じますね。ステアリングの加飾にしても、直進では問題なくても90度切ると側面が真上に来てそこが眩しいといったことを、実験部がしっかり見てくれるので対処したりします。ハンドルを切った時こそ何かが起こる可能性が高い訳で「あっ、眩しい」と何かを見落とさないようにと、そういった細かなことの積み重ねが0次安全として入っている。スバルの内装はそういうものなんです。

島﨑:これからは、他社のクルマに試乗した際にはステアリングを回して加飾の反射が眩しくないかどうかもチェックするようにします。どうもありがとうございました。

(特記以外の写真:島崎七生人)

※記事の内容は2025年6月時点の情報で制作しています。

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