その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第45回は軽ハイトワゴンの電気自動車(EV)、三菱eKクロスEVです。日産サクラとともに「2022 – 2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー」のイヤーカーに輝いたeKクロスEVについて、三菱自動車株式会社 国内営業本部 国内商品販促部 車種マーケティング第二グループ 担当マネージャーの吉川 省吾(よしかわ・しょうご)さんと商品戦略本部 CPSチーム(Domestic Vehicle)商品企画 主任の森 智行(もり・ともゆき)さんにお話を伺いました。
アウトランダーを買うとeKクロスEVが欲しくなる?
島崎:月並みですが運転しやすいクルマですね。軽自動車ということで値段の話はありますが、現実問題として軽自動車のEVは1番身近であり、日常使いの最適解のひとつかな、と思います。販売の現場での受け止め、反応はいかがですか?
吉川さん:i-MiEVを2009年から販売しています。軽EVの販売は今回で2台目ですので初めてではありません。ようやくi-MiEVの次のクルマが出てくれたと、現場からはポジティブな声が届いています。実際にサーキットなどを使い営業スタッフにも試乗をしてもらい、アウトランダーが出て半年後のクルマということもあり、同様の進化が感じられるとてもいいクルマだと、ネガティブな声は全然なくて、商品としてもよくできていると士気が高まりました。
島崎:ほほう、そうするとアウトランダーともう1台、eKクロスEVも貰っていこう……そんな方も増えたりして?
吉川さん:実はその話を結構いただいていまして……。
島崎:えっ、そうなんですか!?
吉川さん:アウトランダーを買っていただいたお客様の中には、納車待ちの方もいらっしゃいますが、eKクロスEVもぜひ乗ってみてください、とお勧めすると、このクルマもいいよね、もう1台、軽自動車も持っているけどそちらも替えようかな……そんな話がちょくちょくあるという報告は聞いています。
島崎:半分以上ジョークのつもりで伺ったのですが、本当にそういう引き合いがあるのですか。
吉川さん:ご自宅に充電設備もセットされているでしょうし、PHEVの“併有車”として、EVを買う障壁はほとんどない。あとは使い方ですが、アウトランダーを1台お持ちだったら、平日は奥様の足として“軽EV”を使っていただいて、休日の遠出はPHEVを使っていただいてと、使い方が分けられるので、お客様にはかなり最適な選択かなと思っています。
島崎:充電設備が1基あれば……。
吉川さん:ええ、多くのお客様はそうですが、中には電力マネージメントにこだわりをお持ちで1台に1基の充電設備が欲しいという方から追加で工事ができませんか?といったお問い合わせをいただくこともあります。
島崎:笑っていただくところのつもりでお聞きしたのですが、2台買われる方が実際におられるとは!
吉川さん/森さん:あははは……。
一度電動車両に乗るとガソリンにはもう戻れない
吉川さん:営業スタッフも気持ちとしては新車を買っていただいたお客様にスグ次のクルマをお勧めする訳ですから、ちょっと尻込みするところもある、と。でもお客様のほうから「今度出た軽EVどうなの?」とお声がけをいただいて商談に発展するケースがあるようです。
島崎:そういう話は今までもあったのですか?
吉川さん:なくはなかったとは思いますが、ここまでお客様にご興味をいただいてお声がけいただくケースは私の記憶ではないですね。
島崎:2台買いは1例や2例ではない。そのあたりはEVならではの商品特性があるのでしょうか?
吉川さん:そうですね。やはりすでに電動車両にお乗りの方は、次に何を買いますか?といったときにほぼ電動車両、PHEVという方が非常に多くて、一度電動車両に乗るとガソリンにはもう戻れない。電気の走りをご体感されると、もう1台持っているガソリンのクルマも電動車にしたいな、という感覚があるようです。
島崎:なるほどね、EVに乗って走っていると、確かに異次元であり、風景の見え方や自分自身の面持ちも変わってきますからね。ところで日産サクラとはクルマとして中身は同じという理解でよろしいのでしょうか?
森さん:はい。
島崎:サクラは日産のEV車のラインアップのひとつとしてあり、コチラはeKクロスのバリエーションとして設定されている位置付けの違いということでしょうか。
森さん:我々はeKシリーズの1バリエーションとして、軽自動車をお探しのお客様に、使い方をお伺いしてどれがいいですか?というところですね。
島崎:サクラのように、eKシリーズとは外観からまったく独立したモデルにするご検討はなさらなかったのですか?
森さん:初期検討はいたしました。ですが会社の方針として、皆様に安心してエコやカーボンニュートラルに取り組んでいただきたいと考えたときに、大きなクルマは長距離を乗られるお客様が多いのでPHEV、一方で小さいクルマの軽自動車は、我々の調査で日常使いが8割ほどで1回の走行距離も50km程度。軽自動車のEVであれば電池も20kWhで済み、やはり値段と航続距離がEVの永遠の課題だと思っていますが、かなりバランスがとれるのかなと。三菱はSUVを得意としておりますので、軽のeKシリーズの中でeKクロスをベースとしてご提供しましょうと設定しました。
軽の選択肢の1つにEVを
島崎:顔つきはほぼeKクロスですね。
森さん:グリルのパターンとフォグランプの形状、あとはガーニッシュがガソリン車はシルバーでSUV感を出しているのに対して、eKクロスEVはボディ同色にして少し上品にしたり、細かなモディファイをしています。
島崎:営業や販売の現場でもっと違っていたほうがいいんじゃないか、といった声は?
吉川さん:もちろん特別なEVのほうが説明しやすいといった現場の声は確かにありました。ただi-MiEVの時に、当時の時代背景もありましたがちょっと先進的過ぎて、アーリーアダプターの方には、いいクルマだよね、高くても買うよと言っていただいたのですがそこまでで、裾野が広がらなかった。そのあたりを我々は反省ポイントだと思っています。誰もが気軽に選べる身近なEVにしたい。ガソリン車にするかEVにするか、モア・スペースの方ならeKクロス・スペースのスライドドア付きはどうですか?と、単純に軽の選択肢の1つにEVを入れていただきたい、そうやってアーリーマジョリティの方にも広げたい……そういう思いです。
島崎:なるほど。
吉川さん:展示車もeKクロスEVも置いているけれどもeKクロス・スペースならびにeKクロスも一緒に置いてもらって、試乗もガソリンとEVと2つ乗り較べてください、スライドドアがいるのかヒンジドアでも十分なのか、そういったことを考えていただきながら、そのひとつにeKクロスEVを選んでいただけるような、そんな販売手法をとるようにしています。
島崎:とはいえ……。
吉川さん:とはいえね……とは営業スタッフの話にもありましたが、実際に来店されたお客様からは“軽EV”として見に来られていて……。
島崎:いわゆる指名買い的な。
吉川さん:ええ、eKクロスとeKクロスEVが似ているという否定的な声は全然なくて、むしろ嬉しい誤算で軽EV同士ということでサクラに試乗して来られて比較しているという方がほとんどです。
島崎:eKクロスEVはどこかにいかにもといったブルーのバッジがついている訳ではないですし、通な人が給電口と給油口のフタの形状と左右の違いを見抜けるくらい。きわめて控え目ではありますね。
吉川さん:とはいえeKシリーズでもっとも高額ですし、EVに乗ってるぞという満足感は持っていただきたいので、例えばピアノブラックの台座を使った立派なエンブレムを軽自動車の限られた全幅の中でフロントフェンダーの凹みを上手く使って装着しました。ボディカラーもガソリン車と共通なのは10色中3色しかなく、あとの7色は新しい色、新しい組み合わせにするなど差別化はしてあります。ミストブルーパールとカッパーメタリックの2トーンは、エコで爽やかなブルーとEV感のカッパーを組み合わせたものです。
バッテリーの持ちがいいので、残価設定もガソリン車と同じ
島崎:ところでバッテリーの性能、寿命といったことは、もはや心配しなくてもいいのですか?
森さん:問題ないと考えております。普通のクルマの部品と同じように8年/16万km、かつバッテリーの容量が66%を下回った場合に修理保証しますということになっています。
島崎:実際に乗っていてそこまでの経験はまずしないだろうと?
森さん:i-MiEVは70%でしたが、事例は聞いていませんので、使い方によるとは思いますが、ほとんどのお客様にとって十分な耐久性はあると考えています。
島崎:懸念材料にしなくてもいいと?
森さん:そうですね。eKクロスEVではバッテリーマネージメントにも力を入れています。エアコンの冷媒で冷やしていたり、急速充電の容量も、大きいと発熱して耐久性の問題も出てきますのであえて容量を抑えて長持ちさせるようにしています。シティコミューターとして使っていただきたく、急速充電は補助的に考えて、バッテリーが20kWhですので、30kWhのチャージャーであれば約30分で75%入るようにして、効率のいいところを使えるように考えて設定しています。
吉川さん:バッテリーの持ちがいいということで、残価設定もi-MiEVのときは実は5年で10%だったのですが、今回はガソリン車と同じくらいの35%に引き上げています。
島崎:使い続けている自分のiPhone Xのバッテリーが最近、さすがにスタミナ不足かなと感じるようになったこともあり気になるのですが、それはかなり心強いですね。そういえば冬のヒーターはどういう仕組みですか?
森さん:PTCヒーターとヒートポンプを使っており、シートヒーターとステアリングヒーターは上級のPグレードに標準装備、Gグレードも寒冷地パッケージをお選びいただけばつけられます。
島崎:いいですね。我が家のクルマにも社外品のシートヒーターを後付けしているのですが、どうやら最近、配線かスイッチの接触不良なのか効かないことがあり、横に乗る家内からクレームが出ています。贅沢装備ではなくもはや必需品ですから、用意があるのは非常に嬉しいですね。それにしてもeKクロスEVはクルマの楽しみ方が変わってきたことも教えてくれますね。EVだからといって決してクルマを諦めないというか、やはり力強い加速などは興味を持つ人は多いでしょうね。
森さん:軽自動車はいろいろ規格が決まっています。出力のカットもあり、660ccエンジンが唯一、小型車に追いつけないところです。eKクロスEVはアウトランダーPHEVのリアモーターと同じものを使って、出力は抑えていますがトルクは195N-mと2ℓガソリン車並みにしてあります。軽の場合、セカンドカーでNAにお乗りになる方が多いと思いますが、バイパスの合流などではエンジンが唸ってしまうのが怖い……といった女性ユーザーのお声もありました。その点でもeKクロスEVは静かでパワフルなので、今までの軽自動車とは違うのかなと考えています。
島崎:いろいろなお話をどうもありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2023年1月時点の情報で制作しています。