その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第81回は2024年10月17日に先行予約を開始したスバル「クロストレック・ストロングハイブリッド」です。定評あるトヨタ製フルハイブリッドシステムをスバルご自慢の水平対向エンジンに組み合わせた期待のモデルについて、開発責任者である株式会社SUBARU 商品事業本部 プロジェクトマネージャー(PM) 藤居拓也さんに話を伺いました。
一番早くできたのがクロストレック
島崎:僕のインタビューは堅苦しくない“作風”を心がけていますので、よろしくお願いします。
藤居さん:ふふふ、はい。
島崎:今のクロストレックが登場した時には毛塚さんにお話を伺ったり、今のレヴォーグの時には五島さんにクルマの走りの“キャラ変”のお話を伺ったりしました。
藤居さん:ふふふふ(笑)。
島崎:15分の貴重な時間なので早速伺いますと、ストロングハイブリッドは、今のクロストレックが出た時に、そもそも最初から企画にあったのですか?
藤居さん:クロストレックの本当に当初の企画からあったのか?というと、そこまではまだなかったです。クロストレックの開発が走り出して、少しした頃に、このストロングハイブリッドを導入しようとトヨタさんとの会話が始まりまして……。
島崎:そうだったんですか。
藤居さん:ええ。で、その開発がどういう日程で組めるか、どのクルマから入れるかと考えた時に、このクロストレックが一番早いタイミングだったということです。
島崎:なるほど、クロストレックにストロングハイブリッドも入れるというより、ストロングハイブリッドを入れる車種としてクロストレックが抜擢された?
藤居さん:そうですね。
次は新型フォレスターに搭載予定
島崎:とすると、マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドの両方をラインアップすることに。
藤居さん:マイルドハイブリッドはひとつ前のXVの世代から持っていたパワーユニットですので、それを継続して改善してクロストレックに織り込んでいくというのが大きな流れでした。XVの時代はガソリン車もありましたが、クロストレックではパワーユニットはマイルドハイブリッド1本になっていました。そこに、さらにストロングハイブリッドを加えたということです。
島崎:確か1年半前にクロストレックのお話を伺った時には、毛塚さんはそういうことはひと言も仰っていませんでしたが、あの時点ではもうストロングハイブリッドの開発は進んでいたということですね。
藤居さん:そうです。
島崎:ストロングハイブリッドの仕向け地は?
藤居さん:日本以外の市場も考えて開発してきていて、去年、北米で新しいフォレスターを発表した時に社長の大崎から「ハイブリッドも用意しています」と発表があったとおり、北米市場にも検討はしていて、ほかの市場も順次検討をしています。日本市場は……というより、ストロングハイブリッドの国内展開がスバル全体の先頭バッターで、フォレスターの計画も進めている状況です。
雪に弱いスバルを誰が買ってくれるのか
島崎:水平対向のエンジンが排気量2.5Lで、後輪へはドライブシャフトで駆動力を伝える仕組みでモーターなどではない。ともすればコンサバティブな構成にも思えますが、そこにはスバルならではの考え、思いがあるということですか?
藤居さん:スバルを買ってくださるのはどういうお客様なのか?と考えた時に、現時点では燃費で買ってくださる方はあまりいなくて、雪が降るような地域などでは「スバルの四駆だったら安心だね」と言ってくださる。私自身もスキーに出かけてホテルに泊まったりすると、駐車場でクルマが雪に埋まって、ホテルの方が“雪退け”をしてくれるのですが、スバル車のまわりはあまり雪退けをしないんですよね。
島崎:なるほど、見て判っているんですね。
藤居さん:ええ、出られるでしょ?と。それぐらい浸透しているんだなぁと思うのですが、それぐらい雪国=スバルということでいうと、ハイブリッドになってもこの性能は落としちゃいけない……といったことがあります。で、他社さんが選んでいる“e四駆”はどうなのか?というと、あれはあれで、燃費をグッと引き上げるには、プロペラシャフトみたいなものがない方が伝達ロスがなくていいです。
島崎:そうですね。
藤居さん:エンジン直4でFFベースの、かなり燃費を伸ばしてきた他社さんに対して、縦置きせざるを得ない水平対向をFF化して、リアをモーターにしたとしたら、直4で燃費を突き詰めてきた他社さんにはたぶん及ばないレベルだと思います。その上でもし四駆性能も劣って……となったら、そういうスバルを誰が買ってくれるのか……と考えると、そういうお客様はたぶんいないよなぁ、と。
島崎:確かに。
藤居さん:やはりスバルが落としちゃいけないところと、その中でどこまで性能面を引き上げられるか。我々にとってもストロングハイブリッドの開発は今回が1発目なので、これで完成形か……というとまだやれる伸び代があると思います。だからここからさらにどこまで引き上げられるかは、引き続き継続して検討していくんだろうなあとは思います。
スバルらしさのための2.5Lエンジン
島崎:エンジンの排気量は、どういう考え方ですか?
藤居さん:スバルの規模感では、あれもこれもと追い切れない部分はあるとは思っていて、じゃあどういうクルマがいいのか?と考えた時に、たとえば燃費を訴求するために2Lにしますとか、FFにしますとか、そういう手段も取れなくはない。でもそれって、今までスバルファンでスバルを買いたいと、スバルを好んでくださっているお客様には、あるいは、そういうモデルが出るのもいいなと思っていただけるのかもしれません。でもそういうモデルを作っても多分トヨタさんとかの燃費には届かない。そうすると、なかなか売りに繋がっていかないし、なので、パワーユニットをいろいろ用意して……といったことは直近では考えていないですね。
島崎:そういうお話、いかにもスバルらしいですね。リアをモーターにして燃費を稼いじゃえ……となさらずに、いい意味で愚直に走りもスバル流のやり方で行くのだ、といった風で。あの、他社のエンジニアの方で、リアをモーター駆動にすると制御がいかようにもできるという話をされているのをお聞きしましたが、今回のクロストレックのご説明では、プロペラシャフトで物理的にリアが繋がっているほうがレスポンスがいいということですよね。
藤居さん:それはどちらもあって、今いわゆるe四駆とされている多くは、リアのモーターは少し小さくしてやはりFFがベースにあります。なのでリアにかけられるトルクが小さい。緻密な制御でいい面もあるのですが、雪道やぬかるみのようなところでリアにトルクをかけなければいけない時にフロントにしか力がけれられなくて、フロントが滑った時点で進んでいけない状況があります。e四駆のよさは確かにあり、緻密な制御がキッチリやり遂げられると強い四駆ができると思います。ですがそれはきっとやり切れないというか、追いつかないというか……。
島崎:追いつかない?
藤居さん:たとえば滑ってしまっている時、どういう制御になるかというと、上手くいかないケースもあるのかなと。BEVのソルテラでは、前後にモーターを積んで後ろは後ろでというのはやっていて、我々は前後同じ出力のモーターにしています。そこで今まで培ってきた四駆の制御をどう落とし込めるかはBEVの開発チームのポイントになってくるのだと思います。
島崎:プロペラシャフトを使うこのストロングハイブリッドの方式は、これからもこれでいく、と? そういうお話も、やはりスバルらしいなあと思うのですが、ところで今回のストロングハイブリッドに、一般名称ではなく何かキャッチーな固有名称を付けて……といったお話はなかったのですか?
藤居さん:そうですね、スバルらしい呼称ということでe-BOXERは引き続き使っていますが、それとは違う呼称としてどうするか。確かにストロングハイブリッドは一般呼称ですが、それを商品に使っているのはあまりなくて。ただマイルドハイブリッドより、ストロングハイブリッドのほうが“強い”ということで一般のお客様にはササるので、逆にそれを使っちゃおう……と(笑)。
島崎:よく効く栄養ドリンクを飲んだみたいな感じ、でしょうか。お話どうもありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2024年10月時点の情報で制作しています。