最もベーシックな軽自動車として愛されてきたスズキアルトが2021年12月にフルモデルチェンジを行い、9代目へと進化しました。価格は抑えつつマイルドハイブリッドを採用し、先進安全装備などの充実も図られています。そんな新型アルトに自動車評論家の萩原文博さんが試乗しました。
登場以来、42年間で500万台を販売
「アルト、47万円」というキャッチフレーズでデビューした初代モデルから数えて9代目となる新型スズキアルトが2021年12月に登場。12月22日より販売が開始されました。ワゴンRやムーヴといったハイトワゴンをはじめ、N-BOXやスペーシアといったスーパーハイトワゴン、ハスラーやタフトといったSUVと様々なボディタイプが用意される軽自動車の中で、セダンと言われるアルトは軽自動車のベーシックモデルとして安定した人気を誇り、42年間で国内の累計販売台数は500万台を突破しています。
今回、軽自動車のベーシックモデルである新型アルトに試乗することができました。国内のシェアの約40%を占める軽自動車ですが、ベーシックモデルと言われるアルトはフルモデルチェンジによってどのように進化しているのでしょうか。
相変わらず100万円以下のグレードも用意される
新型アルトの車両本体価格はA 2WD車の94万3,800円からハイブリッドX 4WD車の137万9,400円となります。今回試乗したのは、最上級グレードのハイブリッドXの2WD車で車両本体価格は125万9,500円です。アルトのグレード構成は全グレードCVT車でエントリーグレードのAとLは直列3気筒エンジンを搭載。ハイブリッドSとハイブリッドXは直列3気筒エンジン+マイルドハイブリッドを採用しています。燃費性能はWLTCモードで23.5~27.7km/Lを実現。ハイブリッドSとXの2WD車はエコカー減税で重量税が免税、4WD車は50%軽減となります。
長く愛車として使えるデザイン
新型アルトは、「気軽に乗れる、すごく使える、安心・安全な軽セダン」をコンセプトに開発されました。まずデザインでは、先代モデルに比べて、運転席前のAピラーを立てて、ルーフラインを真っ直ぐ伸ばし、リアハッチの傾斜も緩めています。この結果、全高は1,525mmと先代モデルから+50mm高くなり、室内の頭上空間に余裕が生まれました。さらにAピラーを立てたり、リアハッチの傾斜を緩めたりすることでガラス面積が拡大し、優れた視界を確保。これにより運転しやすさを実現しています。
外観デザインは、親しみやすく愛着が持てることを目指して、丸みを帯びた柔らかなフォルムの中に楕円形のモチーフを取り入れています。また、小さな車体でも安心感のある立体的な断面にこだわるなど長く愛車として使えるデザインを採用しています。
質感の高さを演出するインテリア
インテリアは、厚みと立体感を感じさせる造形によって質感の高さを演出。外観と同様に楕円形のモチーフを使ってデザインし統一感を出しています。メーターパネルにはスッキリしていて、見やすい単眼メーターを採用。常時照明式で昼夜を問わず明るく見やすいメーターとなっています。
シート表皮にはあらゆる世代で親しまれているデニムを連想させる表皮を開発。シート背面はブラウンとして表面とカラーを変えることにより、シート全体で親しみやすさを表現しています。
ボディ剛性アップで乗り心地も向上
走行性能に関係する部分では、ボディの骨格にあたるプラットフォームに、軽量・高剛性の「ハーテクト」を採用。さらに、バックドア、センターピラー、サイドドアそれぞれに環状構造を形成することで、ボディ全体の剛性を向上させる「環状骨格構造」を採用。そして、優れた操縦性、乗り心地を発揮する専用チューンを施したサスペンションを採用しています。この結果、先代アルトに比べて、段差通過時の前席のフラット感が13%向上、後席の突き上げ感は11%低減し、乗り心地の良さが向上しています。
それでは、新型アルトハイブリッドXのインプレッションを紹介しましょう。
ちょっと大きくなって、もてなし感もアップした内外装
新型アルトは、ルーフラインが先代より直線的で長くなっているので、大きく見えるのが特徴です。大きく見えるボディの効果は室内空間の拡大に影響していて、運転席はもちろんリアシートのヘッドクリアランスも余裕タップリの空間を確保。先代からのデザインの変化で室内空間は拡大しています。
インテリアの質感もビジネスモデルのようにプラスチック感の強かった先代から一変。プラスチックのパーツながらもネイビーブルーのパーツを採用することで、上質さを高めています。メーターパネルもアルトの主要ターゲットであるシルバー世代が見やすい工夫が施されており、高いホスピタリティを感じます。
アクセルをジワリと踏むとスムーズに加速する理由
最高出力49ps、最大トルク58Nmを発生する660cc直列3気筒DOHCエンジン+マイルドハイブリッドシステムは、アクセルペダルをガバッと踏んで一定の回転数を超えるとノイズが大きく発生します。しかしアクセルペダルをジワッと踏むとエンジン+モーターのパワーによってスムーズかつ静かに加速し法定速度まで達します。
なぜ、このようなペダルの設定になっているのかと開発者の方に聞くと、アルトの主要購入層の高齢者はペダルをジワッとしか踏めず、それでも周りにストレスを与えることなくスムーズに加速できるようにチューニングしているとのこと。まさに、ターゲットとする高齢者が運転しやすい仕様に仕立てるという開発者のホスピタリティを感じました。
ベーシックモデルなのに乗り心地がいい
剛性の上がったボディにより、加速する時やカーブを曲がる際のねじれもほとんど感じず、石畳のような路面を走行しても、コツコツとした路面からの入力をいなしてくれます。軽自動車のベーシックモデルでここまでの乗り心地を実現しているのであれば納得できるでしょう。
高齢者が外出する自由を少しでも長く楽しめるクルマ
安全装備も踏み間違い防止機能など充実しており、軽自動車のベーシックモデルであるアルトの進化によって、軽自動車の安全性能の底上げがさらに進みそうです。予算的にはLグレードのアップグレードパッケージ装着車が最も売れると思いますが、こちらでも運転支援システムは充実。このLグレードを高齢車向けのサポートカーとして認定し、古い軽自動車に乗っているユーザーに補助金を出して買替えを進めれば、次の車検まで運転する期間が延長できる期待をユーザーに与えられらるでしょう。ユーザーの外出する自由を少しでも長く楽しめる貴重なクルマが新型アルトの存在価値だと言えるでしょう。
※記事の内容は2021年12月時点の情報で制作しています。