PHEV(プラグインハイブリッド車)の先駆けとなった三菱アウトランダーの3代目モデルが登場しました。斬新な内外装が印象的な新型は全車PHEVとなり、待望の7人乗り仕様も設定されるなど、商品力が大幅に向上しています。そんな新型アウトランダーの走りを、岡崎五朗さんがいち早くサーキットで試しました。
ガソリン車廃止で全車PHEVに、待望の7人乗りも設定
新型アウトランダーが登場した。3代目となる新型はガソリン車の設定がなく、全車PHEV(プラグインハイブリッド車)となったのが大きなニュース。価格の安いガソリン車を廃止して大丈夫なの?と思う人もいるだろう。僕も同じ疑問を持ったが、実のところ先代モデルのPHEV販売比率は70%に達していたという。しかも先代PHEVは5人乗りのみで7人乗り仕様がなかった。本当はPHEVが欲しいけど仕方なく7人乗りが選べるガソリンモデルを選んだ人も少なくなかった。新型アウトランダーが全車PHEVでありながら7人乗り仕様を用意していることを考えれば、今回のPHEV専用モデル化はきわめて妥当な戦略と言っていい。
重厚すぎず、軽快すぎない絶妙なバランスの外観デザイン
新型アウトランダーの開発コンセプトは「威風堂堂」。これだけだとフワッとしていて少々わかりにくいが、三菱自動車のフラッグシップモデルに相応しいデザインや質感、装備、技術を惜しみなく投入したモデルということだ。スタイリングでまず目に付くのが大きな口と薄い目のコンビネーションが生みだす力強い顔。まさに威風堂堂である。
一方、サイドに回ると20インチの大径タイヤと水平基調のライン、飛行機の垂直尾翼をイメージしたリアピラー、フローティングルーフがスポーティーなイメージを伝えてくる。背面式スペアタイヤをモチーフとした造形を取り入れたリアもいい感じだ。全体的に重厚すぎず、さりとて軽快すぎない絶妙なバランス感覚の持ち主だと思う。
デザイナーの美意識が反映された上質なインテリアは広さも獲得
インテリアの上質感も印象的だ。手に触れる部分にはソフトパッドを贅沢に奢り、かつスイッチ類や液晶パネルにもデザイナーの美意識がきちんと反映されている。とくにブラック&サドルタン、ライトグレーのインテリアはとても素敵だ。
スリーサイズは全長4,710㎜(+15㎜)×全幅1,860㎜(+60㎜)×全高1,745㎜(+35㎜)*カッコ内は先代比 室内スペースは横方向、縦方向ともに拡がり、燃料タンク容量は45Lから56Lに、バッテリー容量も13.8kWhから20kWhへと拡大した。
詰め込むものがこれほど増えたにもかかわらず、室内を広くし、かつPHEVと7人乗りの両立までしてきた背景には、各ユニットの小型化と、新しいプラットフォーム(ボディの基本骨格)の採用がある。
三菱らしいPHEVとS-AWC、日産から獲得したMI-PILOT
新型アウトランダーのプラットフォームは日産が中心になって開発したもので、次期エクストレイルにも使われる。日産と三菱の軽自動車は細かい部分を除いてほぼ共通化してしまっているが、アウトランダーとエクストレイルはきちんと作りわけしているとのこと。次期エクストレイルはおそらくe-POWERを搭載してくるだろうし、サスペンションや駆動系にも各社独自の味付けが施される。同じ素材を使ってもシェフが違えば違う料理になるということだ。
自社開発の2.4Lエンジンに前後2個のモーターを組み合わせるという基本的な仕組みに変化はないものの、エンジンはより高効率化を進め、モーター出力もフロントが60kW→85kWに、リアが70kW→100kWへと大幅に強化された。
また、三菱が得意とする車両運動統合制御システム「S-AWC」は、従来の前後駆動力配分、前輪左右のトルク配分に加え、新たに後輪左右のトルク配分機能が追加され、より高度な制御が可能になった。前車追従型クルーズコントロールに操舵支援機能を組み合わせたMI-PILOT(日産ProPILOTの三菱版)が採用されたのも朗報だ。
予想をはるかに超えた走りの仕上がり
このように全方位で進化したアウトランダーだが、今冬を予定する発売に先駆け、サーキットでプロトタイプに試乗する機会を得た。サーキットは乗り心地の評価には不向きだが、その代わり公道では試せない限界領域での試乗ができる。
結論からいうと、新型アウトランダーの走行性能は予想をはるかに超える仕上がりだった。PHEVは基本的にはバッテリーに充電した電力で走行(フル加速時や高速巡航時にはエンジンも併用)し、バッテリーが空になるとエンジンで走行する仕組みだが、バッテリー容量の増加とモーター出力の向上によってEV走行時の動力性能は格段に上がり、また加速時にエンジンがかかる頻度も減った。
アクセルペダルを床まで踏み込めばエンジンがかかるが、一般公道で走っているかぎりそこまでの急加速が必要なシーンはまずない。バッテリーを使い切るまではほぼEVとして運転することが可能であり、静かで滑らかで遅れのないゴキゲンなドライブフィールを満喫できる。なお、0-100km/h加速は先代の10.5秒から8.2秒へと短縮。フル充電状態からのEV走行距離も57kmから87kmへと大幅に増加している。
ペースを上げると体感するS-AWCの進化
コーナリング性能も素晴らしかった。大容量バッテリーを積んでいるため車両重量は2トンを超えるが、動きは軽快かつ滑らか。ステアリングのレスポンスは素直だし、コーナーでグラリとクルマが傾くこともない。さらにペースを上げていくと、進化したS-AWCの効果をより強く体感できる。システムが4輪の駆動力を巧みにコントロールすることによって、クルマが外側に膨らんだり内側に切れ込んだりする動きを抑え込み、ドライバーの狙い通りのラインを正確にトレースしてくれるのだ。
もちろん、高度な制御技術をもってしてもタイヤのグリップ限界を超えればクルマの姿勢は乱れる。しかし、そんな状況まで追い込んでも、アクセルを戻せば狙ったライン上に素直に戻ってくれる。このあたりは開発陣がこだわり抜いて仕上げていったところだという。今回はサーキットでの試乗だったが、雪道のような滑りやすい路面でも絶大な安心感を生みだしてくれるはずだ。
災害時にも心強い一般家庭12日分の電力供給
充電は3kW普通充電器で7.5時間、急速充電器を使えば38分で80%とアナウンスされている。加えて、エンジンで発電すれば94分で80%充電が可能(停車中)。この電力は走行のほか、最大1,500Wまでの電気機器や、クルマと家との電力の受け渡しをするV2H機器を使えば、満タン、満充電状態だと一般家庭12日分の電力を供給できる。家庭用太陽光パネルと組み合わせれば電気料金を大幅に節約できるし、停電を伴う災害時には大型発電機として生活を支えてくれるだろう。
日常ではEV、遠出をするときはハイブリッド
日常的にはEVとして使え、ガソリンさえ入れればハイブリッド車として長距離走行にも対応してくれるのがPHEVの魅力だ。ただし充電しないで乗ると「重くて値段の高いハイブリッド車」になってしまうのも事実。PHEVの魅力を最大限引き出せるのは、家庭もしくは職場に充電環境がある人に限定される。逆に言えば、そういった環境を持っている人にとってアウトランダーPHEVは理想的な1台になる可能性が高いということだ。
※記事の内容は2021年10月時点の情報で制作しています。