2台合わせるとプリウス並みに売れているトヨタアルファードとヴェルファイア。マイナーチェンジで3.5Lエンジンが新型となりATも8速に進化したが、相変わらずハイブリッドの人気も高い。果たしてどちらがおすすめか。同時に乗り比べたカルモマガジン編集長のインプレッションをお届けしよう。
プリウス ≒ アルファード+ヴェルファイア
トヨタアルファードとヴェルファイアは最高級ミニバンとして国内マーケットに君臨を続けています。昨年2018年の年間販売ランキング(軽自動車を除く)でもアルファードが約58,000台で15位、ヴェルファイアが約43,000台で25位にランクイン。驚くことに売れ筋の2Lクラスミニバンのホンダステップワゴンやトヨタノアよりもアルファードは売れています。2台足すとプリウスにも肉薄する恐るべき販売台数です。
ハイパワーな3.5Lか、パワーと燃費両立のハイブリッドか?
最も安いグレードでも300万円オーバー、最上級グレードでは輸入車もびっくりの700万円超え!そんなクルマが売れまくっている日本、意外と景気がいいのかもしれません。今やクラウンを差し置いて、憧れの国産高級車ナンバーワンとなった感もあるアルファード&ヴェルファイア。この2台を買う上での迷いどころはハイブリッド車と3.5Lエンジン車の、どちらをチョイスしたら良いかということではないでしょうか、そうですよね(?)。
今回はそんなアルファードとヴェルファイアのハイブリッド車と3.5Lエンジンの2台を比較試乗する機会に恵まれました。気を利かせてハイブリッドはアルファード、3.5Lはヴェルファイアを借り出しましたので、この点で迷っている方もぜひ参考にしてみてください。
ヴェルファイアはさらに力強く、アルファードはより豪華に
今回試乗した2台は2015年1月に登場し、2017年12月にマイナーチェンジを受けたモデルです。3代目となる現行型は「大きなミニバン」ではなく「大きな高級車」として開発したとトヨタは主張しています。
毎度新型が出るたびに、どこまで派手、いや立派になっていくのだろうと驚くこの2台の外観。今回のマイナーチェンジでもさらに磨きをかけました。多くの日本車、特に軽自動車の「なんとかカスタム」系に多大なる影響を与えてきたヴェルファイアの外観はクロームメッキの面積も増え、デザインもさらに力強さを増しています。
一方のアルファードは力強さより豪華さを重視した顔付きが伝統です。こちらはクラウンから脈々と続くトヨタの高級車らしさが表現されています。個人的にはヴェルファイアのほうが「相対的」に好感をもっています。アルファードはいろいろな意味で「すごい」デザインだと思います。こんなに大きなグリルに本来の目的である空気取り入れ口が実はほとんどないことにも呆れ、いや驚きます。
マイナーチェンジで変わった風向き
ところが、ところがですね。実は1年前のマイナーチェンジ以降、アルファードがヴェルファイアの販売台数を逆転してしまいました。中身はほとんどいっしょですから、原因は外観しか考えられません。マイナーチェンジ前後の顔の変化でいえば大きかったのはヴェルファイアです。ついに越えてはいけない派手さの一線を越えてしまったのでしょうか。そうなるとヴェルファイアの幻影を追った新型デリカD:5の運命やいかに。
もはやリビングを超越した2列目シート
立派な外観と並んで、この2台の人気の秘密は広くて豪華なインテリアにあります。今回借り出したアルファードはマイナーチェンジで追加されたExecutive Lounge Sという最上級グレードです。元々豪華だった2列目シートはさらに幅が広がり、オットマンもより伸びるようになりました。
以前から「まるでリビングのソファーのような」という決まり文句で表現をされてきたこのクルマの2列目シートですが、筆者の知り合いであちこち電動で動くこんなに立派なソファーがある家はありません。ただ座り心地は硬めで着座位置も高く、クルマのシートとして真っ当だったことは意外でした。
3列目シートにもアームレストや収納式の日よけが用意されています。広さもあるので長時間の乗車も余裕でこなせるのはさすがです。
運転席の高さは譲れない
このクルマの場合、2列目の豪華さと同じくらい大事なのはほかのミニバンに比べて高い位置にある運転席でしょう。ドアの開口部が狭いこともあって、せっかく低床フロアを持ちながらステップに足をかけないとスムーズに乗り込めません。
しかしランクルなどの巨大なSUVが隣に並んでも見下されることのない、このポジションもこの2台の人気の理由のひとつ。ダッシュボードも最近の流行である低めのものとは方向性の異なるデザインです。よくいえば囲まれ感がありますが、テカテカ光ったセンターコンソールも含めて、少々古いセンスでまとめられた印象を受けます。
素晴らしいV6エンジン、素晴らしくない8AT
そろそろ本題に移りましょう。今回のマイナーチェンジでは3.5Lエンジンが新しいものに換装され、オートマも6速から8速に進化しました。以前のV6エンジンもトヨタとは思えないほど気持ちよく回るものでしたが、新しいエンジンはさらに力強くスムーズに回ります。300馬力を超えるパワーがもたらす加速感は、たとえ燃費が7〜8km/Lほどだとしても、クルマが好きな人にはその価値を十分感じさせてくれるでしょう。
しかし新開発の8AT、これはイマイチです。変速が今日の標準よりルーズな上に、アクセルを踏み込んだとき、戻したときの反応が悪くて、妙な引っかかりがあったからです。トヨタのトルコン式ATにはこういったセッティングのものが多いのですが、これでいいと思っているのでしょうか。素晴らしいエンジンがもったいないです。
驚くほど洗練されたハイブリッド
一方のハイブリッドモデルのほうはいい意味で驚きました。アクセルを少し踏み足したときのトルクの出し方がとても良く、また戻したときの回生ブレーキの効き方も自然で、つまり街中であればアクセルだけでコントロールできる範囲がとても広かったからです。ルーズなフィーリングのハイブリッド、という固定観念が吹き飛ぶほど、ダイレクトでそのうえ洗練されています。
明らかにハイブリッドがおすすめ
V6エンジン+8AT車よりもハイブリッド車のほうがいわゆる「乗り味」が良かったのは意外でした。燃費計を見る限り、街中であっても燃費は10km/Lを下回ることはなさそうです。この2台でしたら明らかにハイブリッドのほうがおすすめです。今回のテーマに対しての結論はあっさり出ましたので、乗り心地とハンドリングについて駆け足で報告しましょう。
日々の暮らしの中では不満のない乗り心地とハンドリング
3代目になったときに「大きなミニバン」から「大きな高級車」になった、とトヨタが宣言するにあたって、最も改良した部分がサスペンションです。確かに滑らかな路面を走っているときは、静粛性の高さもあいまって驚くほど滑らかな乗り心地です。ただ荒れた路面だと音や振動を抑え込みきれていない点と、大きな段差を乗り越えたときに床が震えるのが惜しいところ。このあたりはミニバン作りに長けたホンダのほうが一枚上手です(エリシオンで惨敗したホンダは当面このマーケットに入ってこないでしょうが)。
ハンドリングも日常のスピードの範囲なら素晴らしく滑らかでしっかりとした挙動を示します。しかし少しだけ日常の範囲から外れるとステアリングの正確性が怪しくなってきます。以前のモデルに比べれば怪しくなってくるスピード域は上がりましたし、怪しさ度合いも減っているのは確かなのですが、マツダが作ればもう少し違うだろうなと思います(マツダは3列シートミニバンからの撤退を表明していますが)。
いい気分になれるのは間違いない
少々きびしいことも書きましたが、アルファードとヴェルファイアが改良を重ねる中で、見た目の豪華さや押し出しだけではなく、走りの部分のレベルアップを図っていることも、また事実です。そして安全装備がこのクルマから新世代の「トヨタセーフティセンス」に切り替わったことも「いいね!」を押してもいいかなと思うポイントです。
日常の交通の流れに乗って走る分には運転席も2列目も快適な上に、かなりいい気分にさせてくれる演出がたくさんあります。ハイブリッドのほうがいろいろおすすめですが、V6エンジンであってもプライスタグに見合う満足をオーナーに与えてくれるのは間違いないでしょう。
※記事の内容は2019年3月時点の情報で執筆しています。