昨年2月に相次いで新型が発売されたトヨタヤリスとホンダフィット。さらに半年遅れて日産ノートもフルモデルチェンジを受け、ハッチバック系コンパクトカーの主役たちはすべてニューモデルに切り替わりました。そして今やその人気の中心はハイブリッドモデルです。実力派揃いのこの3台の人気ハイブリッドコンパクトカーのベストバイを岡崎五朗さんが決定します!
国産コンパクトカーを選ぶならハイブリッドは外せない
2035年にオール電動車(ハイブリッドはOK)という方針を打ち出した政府。しかし僕はこの政策には反対だ。クルマぐらい自由に選ばせろよと思う。犯罪行為を除けば行動の自由を保障されているのが民主主義の基本。お上がエンジン車禁止などと一方的に決めるのは、成人でも飲酒禁止とか、夏でも短パンTシャツ禁止という法律を作るのと同じことである。ユーザーはもっと怒るべきだ。
とはいえ、強制は違うだろと思うだけで、いざ自分がクルマ、今回の場合は国産コンパクトカーを買うことになったらハイブリッドを選ぶと思う。最近はガソリン車との価格差が縮まってきたし、性能面でもエンジン車よりむしろ速かったり気持ちよく走ってくれたりするようになったからだ。そこで、新型に切り替わったばかりのフィット、ヤリス、ノートのハイブリッドモデルを紹介しつつ、岡崎五朗的ベストバイを選んでいこうというのがこの原稿の趣旨だ。
ハイブリッド比率はノート100%、フィット70%弱、ヤリス40%弱
現在圧倒的な強さを誇っているのがヤリス。5月で車名別国内販売台数11ヶ月連続首位を達成した。おそらく6月も首位を守るだろう。数字にはSUVのヤリスクロスとスポーツモデルのGRヤリスが含まれるが、それを除いても軽く1万台オーバーなのだから大したものだ。ハイブリッド比率は40%弱。ヤリスの場合、レンタカーや営業車も多いのでガソリン車にも一定の人気がある。
それに対し、ノートにガソリン車の設定はなく、全車ハイブリッドのe-POWERとなる。これによってエントリー価格は高くなったが、先代ノートでもe-POWER比率がかなり高かったこと、また営業車向けの廉価グレードを設定するとそれに引きずられ内外装にコストが掛けられなくなる=安っぽくなることを嫌い、全車e-POWERという割り切った設定としたという。つい最近オーラという上級モデルを追加してきたことからも日産のプレミアム志向は明確だ。半導体不足の影響で思うように生産ができないなか、3月4位、4月7位、5月6位と健闘しているのはプレミアム戦略が一定の成功を収めていることの証明である。
一方、苦戦を強いられているのがフィットだ。スペックよりもユーザーが感じる「心地よさ」を重視するという素晴らしいコンセプトを掲げてきたにもかかわらず、3月10位、4月17位、5月23位と、発売2年目とは思えない大失速状態に陥ってしまった。だが、不調の原因はクルマそのものにはないはず、というのが僕の考え。詳しい理由は後述しよう。なお、ハイブリッドの販売比率はヤリスより高く70%弱に達する。
ヤリスの圧倒的な好燃費、スポーティーな外観、乗れば気付く別モノ感
ここからは各車の魅力ポイントを見ていく。ヤリスの魅力は36 km/Lというライバルを圧倒する燃費性能と、欧州車的な香りを感じさせるスポーティーなエクステリアデザインだ。まずは139.5万円〜(ハイブリッドは199.8万円〜)というお手頃感と36 km/Lという驚異的な燃費でコンパクトカーの基本である経済性の高さをきっちりアピールし、次にヴィッツ時代より格段にスタイリッシュになったルックスで財布の紐を緩ませるという戦略だ。
さらに試乗まで持ち込めばセールスマンの勝率はグンと跳ね上がる。とくにヴィッツユーザーであれば、乗り心地や静粛性だけでなく、ハンドリングの軽快感やアクセルのレスポンス、直進安定性など、すべての面で別モノに仕上がっていることに気付くだろう。これはもう買うしかないね、となるのは自然な流れだ。唯一気になる点があるとすればスペースユーティリティだが、ヤリスで満足できなければヤリスクロスもありますよと。この隙のなさがトヨタである。
デザインも走りもヤリスに負けてない、インテリアに至っては圧倒!なのに、なぜフィットは売れない?
ならばライバル2台はどうか?まずはフィットから解説すると、デザインの仕上がりも走りの実力もヤリスに負けていない。もちろんデザインに関しては個人の好みの問題もあるが、ボディサイドを走る斜めのラインやゴチャゴチャした顔つきに代表される煩雑さをきれいさっぱり排除した美しくシンプルな造形はとても好感がもてる。インテリアの質感や室内開放感の高さはヤリスを凌ぐし、後席や荷室の広さ、シートアレンジメントの多彩さに至ってはヤリスを圧倒する。この出来映えでなぜ売れないの?と不思議に思うほどだ。
これは僕の想像だが、フィットの販売が不振なのは軽自動車であるNシリーズの好調の裏返しだと思う。たしかにNシリーズはよくできている。N-BOXの広さはフィットを軽く凌ぐし、N-WGNやN-ONEはデザイン的にもお洒落だ。それでいて税制上の優遇もある。要するにわかりやすい。しかし、本当なら長距離ドライブ時の疲れにくさや、室内幅の余裕が生みだすゆったりしたドライビングポジション、余裕の動力性能など、フィットならではの魅力をユーザーにアピールしてNシリーズと売り分けをすべきなのだ。
その手間を惜しみ、Nシリーズのほうが広いですよ、税金も安いですよと、フィットを買ってくれるかもしれないユーザーにまでNシリーズを勧めてしまっている結果、フィットの販売が伸びていないのではないか。すべての販売店がそうだとは言わないが、少なくとも僕の知人がホンダのディーラーに行ったときはそういう空気感がかなり強かったという。フィットの優秀な出来映えを考えれば、そうとでも考えなければ販売の伸び悩みを説明できない。このあたりは、軽自動車は「おまけ」扱いのトヨタディーラーと、コンパクトカーと軽自動車を同じように売るホンダディーラーの差だろう。
軽自動車はもちろん、ヤリスやフィットよりも明らかに格上感のあるノート
では、同じく軽自動車も販売している日産はどうか。新型ノートは上級シフトをしてきたと上で書いたが、まさにそれがデイズやルークスといった軽自動車とノートを上手に売り分けるための日産の戦略である。実際、ノートの内外装は国産コンパクトカーとしては異例なほど質感が高い。そして走りだせば優れた静粛性や発進加速の力強さ、滑らかさ、乗り心地のよさに驚かされる。ヤリスやフィットより明らかに格上感があるのだ。
こうした従来のコンパクトカーの常識を超えたクルマづくりをすることによって、「軽自動車とは完全に別モノですよ」ということを明確にアピールすることに成功したからこそ、決して安くない価格であるにもかかわらず好調な販売成績を残しているのだ。
輸入車もうかうかしていられない出来のノートがベストバイだ
さて、そろそろ結論だ。今回紹介した3台の国産ハイブリッドコンパクトのなかから僕が1台を選ぶとしたらノートにする。
FFモデルでも十分に魅力的だが、僕なら後輪側にも大出力モーターを組み込むことで走りの質感をさらに高めた4WDモデルを選ぶ。プロパイロットやナビなどのオプションを加えていくと300万円を超える価格になってしまう(セットオプションが多く合理的な選択ができないのは課題)が、上級車種から乗り換える人や、コンパクトカーにも高い質感を求める人にとっては、上級モデルのオーラを含め大いに魅力的な存在である。
逆にセカンドカーとして気軽に使いたいならヤリスかフィットということになるが、両者の実力は拮抗している。ユーティリティを重視するならフィット、スポーティーなデザインや身のこなしを求めるならヤリスという僕の意見を参考にしつつ、最終的には自分の好みで決めればいいだろう。いずれにしても最近の国産コンパクトの実力向上には目を見張るものがあり、ポロに代表される海外のコンパクト勢もうかうかしていられない状況になっているのは確かだ。
※記事の内容は2021年7月時点の情報で制作しています。