縁あって3年落ちの初期型マツダCX-8に乗り換えたカルモマガジン編集長。クルマ自体は気に入っているものの、年次改良を重ねた最新のCX-8はもっと良いのではないかという疑問が頭から離れません。その疑問の答えを見つけるために1週間にわたって最新モデルをテストしました。
クルマが直ったからクルマを売る?!
今年の1月、故障続きの2003年レンジローバーを売却し2018年マツダCX-8を買いました。きっかけはレンジローバーがついに直ったことです。
「?」と思う方も多いかと思いますが、故障している車は売れても二束三文、せっかくお金をかけて修理してきたので少しは回収したい。直るまでは売れない、売るためにはお金をかけて直さなければならない。でも直ったかと思うと再発して再修理。はっきり言って悪循環です。泥沼と言ってもいいでしょう(笑)。
しかし、ついに「その日」は来ました。悩まされ続けてきたエンジン警告灯が腕利きのメカニックのおかげで消えたのです。うちのレンジローバーは「燃料ガ濃イデスヨ」という状態が続いていたのですが、エンジンのO2センサーや燃料トリムの数値をOBD2経由でモニターし続けること2週間。どうやら本当にこれは直ったと思ったときから、次期愛車選びがスタートしたのです。
見た目が5割、走り味が4割、後の1割は「運命の出会い」
家族4人での旅行やスノーボードのための車なので、少し大きめのSUVで4WDという条件は譲れません。その上でかっこいい見た目と乗り心地の良さ、適切な価格などの条件を加えるとマツダCX-8、トヨタRAV4、シトロエンC5エアクロスSUV(4WDはありませんが)の3車種が残りました。
このうちRAV4はラゲッジの狭さで最初に脱落、CX-8とC5エアクロスSUVで悩んでいると、なんともタイミング良くカーセンサー時代のセンパイから3年落ちのCX-8を手放すけど買わない?という話が舞い込んできました。個人間売買なので魅力的なお値段、そしてクルマ好きなセンパイらしく程度も抜群、しかもフルオプションな上にスタッドレスタイヤも付いているというじゃありませんか。
クルマは見た目が5割、走り味が4割、後の1割は「運命の出会い」というのが自身のクルマ選びのモットー、と自分のプロフィール欄に書いていますが、今回もまさにその通り。最後の決め手は運命の出会いだったのです。
やってきたCX-8は初期型
とはいえ、CX-8は以前から憎からず思っていた車でした。その証拠にカルモマガジンでもコトあるごとにCX-8を推してきました。この記事なんかが特にそうですね。
5点満点で4.9点とか推しすぎだろ、と自分でも思います。その責任を取る意味もあって買ったわけです(後付け)。
そんな経緯でやってきたCX-8は2018年3月登録、つまり2017年12月発売時のものと同じ初期型です。毎年のように改良を行うマツダ車の例に漏れず、CX-8も以下のように何度か改良を受けています(詳しくはこちらの記事を参照ください 「マツダCX-8」3列シートSUVのベストセラー)。
- 2018年6月に7人乗りの本革シート仕様追加
- 2018年10月に2.5Lガソリンと2.5Lガソリンターボ追加、同時に「G-ベクタリングコントロール」が「プラス」に進化、「マツダコネクト」のスマートフォン連携強化、自動ブレーキの夜間歩行者検知機能追加
- 2019年10月に4WD車に「オフロード・トラクション・アシスト」の追加、サンルーフの設定、ルーフ部への雨音を軽減する塗布型制振材の採用、電動2列目シートなどを備えた最上級グレード「Exclusive Mode」の追加
- 2020年12月にはマイナーチェンジに近い大きめの一部改良を実施。上級グレードに新意匠のフロントグリル、2.2Lディーゼルターボが従来の190psから200psへと出力アップ、6速ATの応答性向上、アクセル踏力の最適化、ハンズフリー機能付きパワーリフトゲート追加、センターディスプレイの大型化、ワイヤレス充電追加
「エンジンの出力アップ」「ATの応答性向上」「アクセル踏力の最適化」が気になる!
個人的な見解ですが、これら初期型以降の改良の中で、雪道スタック時に心強い「オフロード・トラクション・アシスト」は家族ができてから「すごい雪山」には行かなくなったので、まあいいかと。「サンルーフ」はパノラマタイプなら欲しいのですが、CX-8のものは幸い(?)通常サイズなので、こちらもまあいいかと。しかし直近の改良ポイント「エンジンの出力アップ」「ATの応答性向上」「アクセル踏力の最適化」といったあたりは猛烈に気になります。
果たして、CX-8はどの程度の進化を遂げているのか。気になって気になって仕方ない筆者は、さっそく最新型のCX-8を1週間ほど借りてみました。
借り出したのは2.2Lディーゼルエンジンを積むXD Lパッケージの4WDモデル。筆者の愛車と同じグレードです。登場時はLパッケージが最上級グレードだったのですが、その後「Exclusive Mode」が追加されたので、現在は上から2番目のグレードになりました。革シートはナッパレザーから普通の本革になり、2列目もセンターコンソール付きではなくウォークスルータイプになるなど、少しグレードダウンが気になりますが、追加された赤色の内装色はなかなか魅力的です。
アルファードのように巧みになったグレード戦略
CX-8のグレード戦略を見ると、マツダも商売が上手くなったなぁと感じます。特に後になって出てきた電動シートやシートベンチレーターなど高級ミニバン顔負けの豪華仕様な「Exclusive Mode」、一方でブラックアウトされた外装パーツや赤いステッチのシートがスポーティな「Black Tone Edition」など、単なる価格だけではない、ユーザーの多様なニーズを反映したグレード構成だと書いたらほめすぎでしょうか。
これまでCX-8はグレードの差異をホイールサイズなどでしか判別できなかったのですが、2020年12月の改良でLパッケージとExclusive Modeはフロントグリルが専用のものに変更となりました。個人的にはオリジナルの水平基調のほうが好みですが、差別化を図りたい上級志向のオーナーの声に応えたのでしょう。
このあたりのグレード展開やそれに伴う外観意匠の微妙な違いなどは、商売上手なトヨタ、特にアルファードのやり方に似ているなと思います。興味のない人は絶対に気が付かない外観デザインの微妙な違い、しかしオーナー同士だと妙に気になるものです。これまで販売台数の少ないクルマを選んできた筆者はCX-8に乗るようになって、すれ違うCX-5やCX-8の多さに驚きました。特にスキー場での増殖ぶりはなかなかのもの。そこで差別化を図るために前オーナーが入れた個性的でレーシーなストライプをそのまま残すことにしました。
他人と差別化したいという意味では高額グレードのグリルを変えたのはなんとなく理解できます。ちなみに模様が複雑化したグリルは垂直方向のデザインなので水が溜まらず、洗車時の拭き取りが意外と楽だったことは付け加えておきましょう。
確かに進化を感じる「ATの応答性向上」と「アクセル踏力の最適化」
さて、気になる肝心の走りの進化はどうでしょう。「ATの応答性向上」については、確かに制御が変わっていました。かなり速く大きく踏み込まないと実感できませんが、スパッと切り替わる点は確実に進化を感じます。旧型は時にキックダウンとトルクの盛り上がりのタイミングが合わないことがあって、比べると多少スムーズさに欠けます。でも、比べなければ初期型でも十分スムーズです。筆者の普段の運転シーンで、このようなアクセルの踏み方をすることがほぼないこともあって、(旧型オーナーとしては)まあ、いいかと思い安心しました。
「エンジンの出力アップ」については法定速度の世界でそれを実感することは(旧型オーナーとしては幸いにも)困難でした。サーキットやテストコースに持ち込めばきっと違いがわかるかもしれませんが、そもそもこの2.2Lディーゼルは元々トルクがあり余るほど豊かです。ちなみに新型で改良されたポイントではないのですが、クリーンディーゼルが苦手な1200〜1500回転あたりの低回転域でのこのエンジンのマナーの良さは特筆すべき点でしょう。ターボの過給や排ガス対策のEGRなどの兼ね合いで技術的に難しい回転域にもかかわらず、ダイレクト感のあるATのおかげもあって2代目CX-5以降のマツダのディーゼルは他社のものに比べるとよくしつけられていると感じます。
以前、乗り比べたときにCX-8のベストエンジンはパワーとトルク、そしてレスポンスのバランスが良い2.5Lガソリンターボだと思いました。しかし実際にオーナーになってみるとディーゼルも良いなと思います。その理由が街中での低回転域のマナーの良さです。比べるとガソリンには負けますが、クリーンディーゼルのなかではレスポンスが良くて扱いやすいと感じます。何より4人乗っても都内で12km/L前後、高速で14〜15km/Lという燃費の良さは感動です。なにしろレンジローバーは6km/L前後、しかもハイオクだったので(笑)。
ここまで新型に対して負け惜しみに似たコメントが続きましたが、初期型オーナーとして最も変化を感じて、かつうらやましいと思ったのはアクセルペダルです。旧型が決して軽すぎるわけではないのですが、特に加減速の頻繁な街中でアクセルを戻すときは新型のほうが明らかに楽でした。
旧型にもアップグレードプログラムが提供される、のか?
マツダはマツダ3のスカイアクティブX改良時に旧モデルのアップデートプログラムを発表して話題となりました。今回のCX-5とCX-8のエンジンやATの制御変更、アクセルペダルの踏力変更にも同じようなアップデートプログラムを考えているのかどうか尋ねたところ「既存顧客へのソフトウエアのアップデートに関しては、実施有無も含め検討しており、適切な時期に公表させていただきます」との返答をもらいました。それってつまり実施するということではないのかと思ったのですが、あくまで個人の感想です。
エンジン周り以外の走りでは最初は足回りの固さが気になりました。ただダンパーは初期型から変更なしとのことなので、これは走行距離1000kmの新車ゆえのことなのでしょう。確かに距離を重ねるにつれだんだんなじんできました。CX-8の足回りはスポーティさとコンフォートさのバランスが絶妙なのですが、唯一、100km/h前後で揺れの収まりの悪さを感じます。このあたりは次期型での改良に期待です。
Lパッケージ同士だと旧型有利か
本革に変更されたシートはナッパレザーの艶やかな滑らかさはありません。でも比べなければこれ自体は上質なシートです。座り心地にほとんど差はなく、新旧ともに疲れにくい良いシートです。
リアシートも前述のようにLパッケージはセンターウォークスルータイプになりました。個人的にはドリンクを取るのにいちいちかがむのは面倒だし、リクライニング時にアームレストを調整するのもイマイチなので、旧型Lパッケージのセンターコンソール付きのほうがいいかなと思います。やはりキャプテンシートの醍醐味はセンターコンソールではないでしょうか。アルファードの2列目シートに魅力は感じながらもミニバンは敬遠したい向きにCX-8の2列目センターコンソール付きキャプテンシートは「刺さる」装備です。
ちなみにナッパレザーとリアセンターコンソールを求めるのであれば現在の最上級グレードのExclusive Modeを選べば解決します。初期型Lパッケージよりもさらに豪華なキルティング柄や電動になっています。電動シートは動きが少し遅くてイライラする、と筆者は思うのですが、もしかしたらそれも負け惜しみかもしれません(笑)。
大きくなったセンターディスプレイは大きくなったことよりも、動きがヌメっと滑らかになったのがうらやましいポイントです。ただ、ETC機器がサンシェード裏からグローブBOX内になったことはそこだけ見れば改悪でしょう。細かいところをあげつらえばヘッドライトを走行中スモールにできないのは、夜道で対向車に譲ってもらったときに挨拶できなくて不便です(法規の改正によるものなのでCX-8に限ったことではありません)。ハンズフリー機能付きパワーリフトゲートは片足立ちで意外と大きくモーションしなくてはならず、すぐに逃げなくてはならないような狭いところだと危ないじゃないかと思いましたが、これも多分に負け惜しみです。
派手なものは少ないが着実な積み重ねの成果は明らか
年次改良を重ねた最新のCX-8は確かに進化していました。特にアクセルペダルとAT制御の改良、ナビの動きあたりはわかりやすいポイントです。今回はLパッケージ同士の比較でしたが、最上級グレード同士という観点で最新のExclusive Modeと比べるのであれば、明らかにインテリアも進化をしています。初期モデルから乗り換える人が多い、という話も納得です。
マツダの年次改良は50%増しというような派手なものは少ないのですが、コツコツと着実に改良を積み重ねることの成果を最新のCX-8は教えてくれました。とはいえCX-8の魅力の高さは初期型でも概ね味わうことができます。概ねという微妙な表現に筆者の複雑な心境を察していただけると幸いです(笑)。
※記事の内容は2021年5月時点の情報で制作しています。