トヨタが国内で販売する初の量産EV(電気自動車)となったレクサスUX300e。注目度の高さとは裏腹に、たった135台という控えめすぎる販売目標も話題を集めました。果たして、その実力はいかに。岡崎五朗さんのレポートをお届けしましょう。
2020年度分の販売はたった135台
トヨタが国内で販売する初の量産電気自動車はレクサスから登場した。といっても2020年度分の販売はたったの135台(2021年分は未定)。グローバルで年間1000万台、国内だけでも160万台を販売するトヨタの規模からしたらゼロに等しい。レクサスに限定しても6万台分の135台だ。レクサスディーラーは国内に200店弱あるので、135台では各ディーラーに行き渡らない計算になる。
プリウス73台分のバッテリー
この極端に少ない台数についてレクサスは「バッテリー調達の問題等を考慮して」とコメントしている。実際、EVにはとんでもない容量のバッテリーが必要だ。UX300eが搭載するのは54.4kWhのリチウムイオンバッテリー。最近は60kWhだの80kWhだのといった数字が一人歩きしているため「そんなものか」と済ませてしまいがちだが、54.4kWhといえば2人世帯が5日かかって消費する電力に等しい。これだけの大電力を使って367kmの航続距離を確保しているのである。ちなみにプリウス・ハイブリッドが積むリチウムイオンバッテリー(ニッケル水素搭載グレードもあり)の容量は0.75kWh。つまりレクサスUX300eのバッテリーはプリウス73台分にも達する。
トヨタもEVをやっていますよ
世界のトヨタがバッテリーを調達できないとは何事か!と思うかもしれない。テスラをはじめフォルクスワーゲンやGMやヒュンダイがEVシフトを着々と進めているなか、トヨタはやる気がないのでは?と。たしかにその指摘は当たっている。現段階でそれほど急いでEVを大量に売る必要はないというのがトヨタの考え方だ。もちろん、今後もやる必要はないと考えているわけではなく、より安価で性能が高く、発火リスクの低いバッテリー開発の目処が立った時点で勝負をかけてくるだろう。そんななか、EVに注目が集まっている昨今の世論を受け、ガス抜きというか、われわれもやっていますよというポーズを示すために発売したのがUX300eである。
バッテリー保証はなんと100万キロ!
とはいえ販売するからにはハンパなものは出さないのがトヨタ。ユーザーが最も不安を覚えるバッテリーには10年または100万kmという破格の保証が与えられ、価格も上級グレードのバージョンLで635万円と、同グレードのハイブリッド仕様に対して127万円高に抑えた。さまざまな条件はあるが最大80万円でる補助金を活用すれば、高くて話にならないという値付けではないだろう。
力強くスムーズな加速
乗ると、当然ながら静かさとスムースさが印象的だ。UXはこのクラスとしてはかなり静かなクルマだが、300eの静かさは群を抜いている。とくに急加速してもエンジン音がまったく聞こえてこないのがハイブリッド車との大きな違いだ。203ps/300Nmというスペックのモーターが生みだす動力性能も力強い。200㎏強増したウェイトをまったく感じさせない力強くてスムースな加速フィールはEVならではの魅力だ。
ブレーキ以外のフットワークは初モノとは思えない仕上がり
フットワークはUXの持ち味であるしっとりした軽快感に高級車らしい重厚感を付け加えた感じ。とはいえ軽快感がなくなったわけではない。普通に走っているときの重厚感は増したが、コーナーでは低重心を活かし持ち前の優れた旋回性能を発揮してくれる。このあたりの仕上がりぶりは初モノとは思えないレベルにある。ただし、カックンと効くブレーキタッチは要改善。スムースに止まるにはかなり繊細な操作が必要で、ゴー&ストップの多い街中では正直うんざりした。
実用面ではまだまだハイブリッドに及ばないが
航続距離、充電場所、充電時間、価格といった実用面ではまだまだハイブリッドに及ばないが、EVならではの走り味はやはり大きな魅力だ。UXに興味があり、新しいもの好きで、なおかつ自宅に充電器を設置できる人にとってはかなり気になる存在になるだろう。
※記事の内容は2021年5月時点の情報で制作しています。