ホンダN-ONEは軽自動車でありながら上質な乗り物を望む人に向けて開発されたクルマだ。現在主流のスーパーハイトワゴンとは異なり、よりパーソナルなユースに最適化されたスタイルや室内空間には独特の魅力が漂う。今回は2017年末に2度目のマイナーチェンジを受けた最新モデルの試乗記も合わせてお届けしよう。
目指したのは愛着の湧く軽自動車
軽自動車のホンダN-ONEは2011 年より販売を開始したホンダの新世代軽自動車「Nシリーズ」の第3弾として2012年11月に登場しました。N-ONEは長く愛着のわくデザイン、大人4人がくつろげる室内。そして快適な高速クルーズも実現できる走行性能を高次元でバランスさせた軽自動車のベーシックカーとして開発されたモデルです。
N-ONEのどこか懐かしさを感じるデザインは、1967年3月に発売された軽自動車ホンダN360のデザインをルーツとしているからです。N360はそれまで憧れだったマイカーを、多くの人に普及させ、マイカーブームの主役を演じたクルマでした。このN360直系のN-ONEの外観デザインは、フロントビューでクルマらしさと親しみやすさを表現。タイヤがボディの四隅でしっかりと踏ん張るように見える台形フォルムを採用したサイドビューでは安心感と上質さを追求しています。
リアフェンダーを張り出させた台形フォルムで安定感を強調したリアビューは、高速クルーズも楽にこなせる走行性能を感じさせます。
インテリアには上質感も漂う
長く使っても飽きのこない居心地の良さを追求したインテリアは、シンプルな構成としながらも細部の処理や素材感にこだわり、丁寧な造り込みを施しています。
インストルメントパネルはセンターの張り出しをなくした横一文字の造形を採用することで、爽快で上質感を表現。さらにインストルメントパネルの上部を室内側に傾斜させることで、包まれ感を創出し、安心感を高めています。スイッチ類は運転席、助手席からも操作しやすいようにセンタパネルに集中配置。エアコンはパネル上部、オーディオのスイッチはパネル下部に集中させることで正確な操作を可能としています。
搭載されているエンジンは最高出力47kW(64ps)を発生する660cc直列3気筒DOHCターボと最高出力47kW(58ps)を発生する660cc直列3気筒DOHCの2種類。組み合わされるミッションは全車CVTで、ターボ車にはハンドルから手を離すことなくシフトチェンジが可能なパドルシフトが装備されています。JC08モード燃費は直列3気筒DOHC搭載車が25.8〜28.4km/L。ターボ車は23.0〜25.8km/Lを好数値。
先進安全装置はやや不満の残る内容
安全装備は走行安定性を向上させるVSAをはじめ、走行中急ブレーキを感知した場合、ブレーキランプの点灯に加えハザードランプが自動で高速点灯し、後続車に注意を促すエマージェンシーストップシグナルも装備しています。そして約30km/h以下という低速走行中に前方車両との衝突の回避・軽減は自動ブレーキで支援、前方に障害物がある状況でアクセルを踏み込んだ場合に急発進を防止する「シティブレーキアクティブシステム」はオプションで設定しています。「シティブレーキアクティブシステム」が用意されるものの、N-BOXが標準装備とした最新の「ホンダセンシング」が搭載されていないことはやや不満が残ります。
2度目のマイナーチェンジでオシャレ路線に方向転換
2012年11月に登場したN-ONEは2014年5月に燃費性能の向上、プラズマークラスター技術搭載フルオートエアコンを標準装備するなど商品性の向上を目指したマイナーチェンジを実施。2015年7月には新デザインのルーフ、スポイラー、ローダウンサスペンションによっての採用によって、全高を65mm下げ多くの立体駐車場に対応した1545mmとしたローダウンを追加するなどバリエーションが複雑となりました。そして2017年12月の2度目のマイナーチェンジでは、軽自動車初となる「遮音機能付きフロントウインドウガラス」の採用や遮音材、吸音材の最適配置によって静粛性を向上させることに加えて、モデル体系の大幅な変更が行われました。
N-ONEのタイムレスなデザインを異なる4つの世界観で表現し、個性をより際立たせたとする今回のモデル体験の変更は、N-ONEがかわいい路線からオシャレ路線へと舵を切った印象を与えます。シンプルながら機能的な「スタンダード」。ブラウンのルーフとクロームメッキで仕上げた外観とブラウンで統一したインテリアが特徴の「セレクト」。黒に統一されたインテリアで上質さと重厚感を表現した「プレミアム」。そしてアクセントカラーとして赤を採用したスポーティなインテリアが特徴の「RS」という4つのモデルが用意されています。
ターボ車は全モデルに用意され、立体駐車場に対応したローダウン仕様はスタンダード、プレミアム、RSで設定。駆動方式はローダウン仕様とスタンダードのターボ車であるツアラーはFFのみ、その他はFFと4WDを用意しています。
静かな室内、高い走りの実力
今回試乗したのは、2度目のマイナーチェンジで新設定されN-ONEの中で最もスポーティなモデルのRSです。名車シビックRSに採用されたボディカラーであるサンセットオレンジとブラックルーフ。そしてブラック塗装されたアルミホイールがスポーティさ強調しています。インテリアは握り心地を追求した本革巻きハンドルをはじめ、シートのステッチ。そしてエアコンやメーターの回りにアクセントカラーの赤を採用し、スポーツマインドを掻き立てる演出が施されています。
N-ONE RSで走り出すと、スポーティな印象とは裏腹にエンジン音や車外の騒音などが車内への進入が抑えられ、高い静粛性を実現していることに気づきます。これは今回のマイナーチェンジで採用した遮音機能付きフロントウインドウガラスや遮音材、吸音材の採用の効果によるもの。車内での会話も聞き取りやすいですし、音楽もよりクリアに聞くことが出来ます。
N-ONEはワンメイクレースが行われるほど軽自動車の中では高い走行性能を実現したモデル。そのなかでも最もスポーティなN-ONE RS(ロードセイリング)は街中をスムーズに駆け抜けていきます。速度を上げていくと、クルマが路面に吸い付くような感覚すらあります。タイヤをできる限り四隅に配置しているので、直進安定性だけでなくカーブを曲がるときのクルマの傾きも少なく、安心感が高いのが特徴です。安全装備が低速の衝突軽減ブレーキだけというのは不満がありますが、クルマの基本性能である「走る・曲がる・止まる」に関してはコンパクトカーに匹敵するパフォーマンスを実現していると言えるでしょう。
■ホンダN-ONE価格表(2018年2月現在)
グレード | 駆動方式 | JC08モード燃費(km/L) | 車両本体価格(東京) |
---|---|---|---|
スタンダード | FF | 28.4 | 120万960円 |
4WD | 25.8 | 133万1640円 | |
スタンダード ローダウン | FF | 28.4 | 123万5520円 |
スタンダード・L | FF | 28.4 | 133万560円 |
4WD | 25.8 | 146万1240円 | |
スタンダード ローダウン・L | FF | 28.4 | 136万5120円 |
スタンダード ツアラー | FF | 25.8 | 143万1000円 |
セレクト | FF | 28.4 | 142万200円 |
4WD | 25.8 | 155万880円 | |
セレクト ツアラー | FF | 25.8 | 152万640円 |
4WD | 24 | 165万1320円 | |
プレミアム | FF | 28.4 | 153万360円 |
4WD | 25.8 | 166万1040円 | |
プレミアム ツアラー | FF | 23.8 | 164万1600円 |
4WD | 23 | 177万2280円 | |
RS | FF | 23.6 | 174万960円 |
上質な軽自動車という他にはない選択
新世代に切り替わったN-BOXと比べると、一世代前のシャシーを使うため安全性能や燃費性能はトップレベルではないことは気になりますが、マイナーチェンジしたN-ONE独特の、上質な室内空間や走りはなかなか他にはないものです。人も荷物もそんなに載せないという女性、特にインテリアにこだわる方には良い選択肢ではないでしょうか。
※記事の内容は2018年3月時点の情報で執筆しています。