ベストセラーの軽自動車、ホンダ「N-BOX」がフルモデルチェンジを行い3代目となる新型が登場しました。外観、内装、パワーユニット、燃費、安全性能、試乗インプレッション、開発者インタビューなど、新型N-BOXの進化ポイントをまとめて紹介します。
【概要】ベストセラーの3代目はキープコンセプトながら全方位に進化
2023年8月3日に発表、10月6日に発売された新型N-BOX。今モデルで3代目となりますが、人気の高い軽自動車スーパーハイトワゴンの中でもその売れ行きは別格です。8年連続の軽自動車販売台数No.1、乗用車全体でも最近の2年間はNo. 1に輝いており、2023年には累計販売台数350万台を達成するなど、まさに日本を代表する正真正銘のベストセラーです。
初代は2011年、2代目は2017年に登場。いずれもベストセラーに輝いた
N-BOXの初代モデルは2011年に登場、スタイリッシュで実用的な内外装とホンダらしいキビキビした走りで、それまで正直パッとしなかったホンダの軽自動車のイメージを一新しました。2017年に登場した2代目も、外観はキープコンセプトながら新しいシャシーやエンジンを投入、さらに先進運転支援装備も充実させるなど魅力を大幅アップしたことでNo. 1の座を揺るぎないものとしました。
標準車とカスタムの2本立ては変わらず、ターボはカスタムのみに
3代目となる新型はN-BOXらしさを受け継ぎつつ、さらに洗練を重ねたモデルです。丸目ライトと小さな丸いドット模様が印象的な標準車と、横一文字のデイライトが精悍な「カスタム」が設定されているのは従来通り。
旧型には2020年のマイナーチェンジの際、内外装を上質な仕立てにした「コーディネートスタイル」が追加されましたが、新型もこの流れを受け継ぎ、標準車には外装のミラーやドアノブ、ホイールカバーに白色パーツをあしらった「ファッションスタイル」、カスタムにはシート、ステアリングの素材がアップグレードされ、さらに内外装にダーククロームパーツが追加された「コーディネートスタイル」という別仕様がそれぞれ設定されています。パワフルなターボエンジンはカスタムのみの搭載に変更されました。
ひと目でN-BOXとわかるルックス
外観は今回もキープコンセプト、そのシルエットはひと目でN-BOXとわかります。基本的なシャシーやエンジンは2代目のものをキャリーオーバーしていますが、CVTの制御やサスペンションのセッティングを見直すなどして「雑味を無くした」とする走りはさらにレベルアップしています。先進運転支援やコネクテッド機能も充実させるなど、全方位に進化した新型N-BOXについて詳しく解説していきましょう。
【外観】N-BOXらしさは受け継ぎつつクリーンでシンプルな印象に
新型N-BOXの見た目は初代、2代目と大きく変わってはいません。サイズも全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,790mm(FF)・1,815mm(4WD)、ホイールベース2,520mmと2代目モデルと同じ。車両重量はエントリーグレードが廃止されたため最軽量モデルが910kgとなりましたが最重量モデルは1,030kgとこちらも2代目と同じ数値です。
「変わらなくていい」というユーザーの声
N-BOXは横から見た時の上下に長いドアとルーフの厚み、窓や後部ピラーの形に「N-BOXらしさ」の黄金比があり、それが安定感や安心感を与えているとホンダは説明しています。当初は大きく変える案もあったそうですが、N-BOXユーザーからは「変わらなくていい」という声が多く、3代目もこれまでのN-BOXらしさを受け継ぐスタイルを採用しています。
とはいえ2代目と比べると全体的にクリーンでシンプルになった印象を受けます。特にサイドウインドウ後端部がキックアップしていることやリアコンビネーションランプがスッキリしたデザインになったことがその印象を後押ししています。この辺りは初代のデザインに戻った感じです。
丸目が強調された標準車、カスタムは横一文字のライトが新鮮
標準車は瞳をイメージしたとするはっきりとした丸目のヘッドライトに小さな丸穴が特徴的なフロントマスクで親しみやすさを演出し、カスタムは左右のポジションランプと中央のアクセサリーランプをつなげた横一文字のライトと「ダイレクトプロジェクション式フルLEDヘッドライト」の採用などによって精悍な印象としています。
売れ線のカスタムは引き続き押し出し感控えめで大人テイスト
軽スーパーハイトワゴンの販売はN-BOXやタントはカスタム系の方が多く、スペーシアは標準車が多いと聞きます。新型N-BOXカスタムのデザインは旧型同様に過度な押し出し感はありません。ライバルのダイハツ「タントカスタム」やスズキ「スペーシアカスタム」のような大きなフロントグリルやメッキモールを組み合わせる方向とは大きく異なっています。ちなみに11月9日に正式発表された新型スペーシアカスタムもN-BOXカスタムと同じく押し出し感控えめな方向に舵を切っています。
外装色は標準車が白、銀、黒系の7色、標準車ファッションスタイルはアースカラー系の3色となり、カスタムは白とダーク系の6色、カスタムコーディネートスタイルは白、グレー、赤系の三色で、さらにルーフをブラックとしたツートーンも設定されています。
【内装】一新された和めるインテリア。新しいアイディアも多数盛り込まれている
インテリアの印象はかなり変わりました。液晶を採用したメーターはステアリングを通して見ることができるインホイールタイプになり、ダッシュボードがフラット化されたことと合わせて前方視界を改善。フロントウインドウ上部のハーフシェイド廃止と合わせて後席の人が酔いにくくする効果もあるとしています。
また、古民家の囲炉裏にヒントを得たという室内空間の四隅をラウンドさせたデザインを採用することで、リビングのような和める雰囲気を作り出しています。
助手席ロングスライドは廃止されたがリアシートの多彩なアレンジは健在
室内の使い勝手の部分では旧型のセールスポイントの一つだった助手席の570mmロングスライド機構はニーズが少なかったこととグローブボックスの容量アップのために廃止されたものの、ホンダお得意のリアシートの多彩なアレンジは健在。
さらに後席ショルダースペースの55mm拡大、スライドドアの予約ロック機能、スライドドア開口部を子供やお年寄りが掴みやすい乗り降りらくらくグリップ、中央部に配置した上で70mm下げたテールゲートハンドルなどの新機能を追加しています。
白基調で明るい標準車、黒でスポーティなカスタム
標準車とカスタムではインテリアカラーが異なり、白基調で明るい標準車、黒基調でスポーティなカスタムと、ユーザーニーズに合わせた組み合わせとなっています。
標準車と標準車のファッションスタイルは同一の内装ですが、カスタムのコーディネートスタイルは後席スライドドアが両側電動になる上にシートがフルプライムスムースシート(ブラック×カーボン調)にアップグレードされ、本革巻ステアリングホイール(グレーステッチ)、プライムスムースドアライニングアームレスト(グレーステッチ)、ダークヘマタイト塗装ドアオーナメントパネルなどの専用装備も追加されます。
【パワーユニット&足回り】スペックには表れない改良で雑味を無くした走り
新型N-BOXのエンジンは自然吸気(NA)とターボの2種類で、ターボはカスタムのみの設定です。トランスミッションは全車CVT、駆動方式は全グレードでFFと4WDを選ぶことができます。
エンジンはアイドリングストップ領域の拡大などの制御変更
エンジン自体はVTECやターボへの電動ウェイストゲートの採用で話題となった2代目からの流用ですので最高出力やトルク(NAが58ps/65Nm、ターボが64ps/104Nm)は変わっていません。ただしアイドリングストップ領域の拡大などスペックには表れない制御の改良が行われています。
CVTや足回りにも細かな改良が加えられている
CVTも同様にメカニズムは継承しつつ変速制御は隅々まで見直し、加減速時にドライバーが意図しないトルク変動が出ないよう配慮することで「雑味を無くした」とホンダはアナウンスしています。
足回りも型式は同じですが、乗り心地・直進安定性・ステアリングフィールの改善のためにサスペンション組み付け方法の変更やステアリング制御の改良などを行なっています。
またフロアカーペットには遮音フィルムを追加、ルーフライニングは厚くした上にカスタムには吸音シートを採用することで体感的な乗り心地に影響する遮音性の向上も図られています。
【燃費】改良の主眼は運転のしやすさ。燃費には大きな進歩なし
旧型N-BOXの数少ない弱点の一つが燃費でした。今回もマイルドハイブリッドなど燃費向上に効果的なシステムの投入はなく、FFのNAが21.6km/L(カスタムは21.5km/L)、カスタムターボが20.3km/L、4WDのNAが19.4km/L、カスタムターボが18.4km/Lと、旧型に比べて僅かに向上したもののクラス標準に留まっています。
カタログ燃費よりも実燃費
現行型フィット発売の頃から、ホンダはカタログ燃費の向上にとらわれず、誰が運転しても同じような燃費を出せるようにしたとしています。今回の新型N-BOXも燃費に関連するエンジンやCVTの改良ポイントは少なく、それよりも運転しやすさに改良の主眼を置いた印象です。
【安全性能・先進運転支援】アクセル踏み間違い防止系が強化され、運転支援の制御もスムーズさを増した
新型N-BOXは車体構造の一部を見直し、側面衝突時の安全性を高めています。さらに先進運転支援(ADAS)の「Honda SENSING」も広角カメラと高速画像処理チップを用いた新しいシステムにアップデート。旧型モデルに比べると「近距離衝突軽減ブレーキ」や「急アクセル抑制機能」などのアクセル踏み間違い防止系の機能が特に強化されています。
上手なドライバーが運転しているようなスムーズさ
また高速道路で便利なアダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線維持支援システム(LKAS)の制御も見直して、上手なドライバーが運転しているようなスムーズさを実現したとしています。ホンダの軽自動車としてはマルチビューカメラシステムを初採用したこともニュース。駐車などでの後退時や、見通しの悪い交差点での心強い味方がようやくN-BOXにも導入されました。
コネクティッドサービスで様々なサービスが利用可
そして話題のコネクテッドサービスもついに搭載。車載通信器とそれに対応するナビを装着し、「Honda Total Care」に加入すれば、緊急時のオペレーター連絡はもちろん、スマホと連動した様々なリモート操作や車内Wi-Fiサービスなどが利用できます。
【試乗レポート】走らせてみるとやはり進化を感じる
細かな改良が加えられたとはいえ、あまり大きなトピックがない印象もある新型N-BOX。しかし実際に走らせてみるとやはり進化を感じました。旧型も軽のスーパーハイトワゴン随一の走りの良さを誇っていましたが、新型はさらに洗練されています。
主要メカニズムに大きな変化はないが、乗ると大きな変化が生じている
美点だったゆったりとした乗り心地、ダイレクト感のあるCVTはそのままに、新型は特に静粛性と操縦安定性が向上しています。カルモマガジンでいつも試乗記をお願いしている岡崎五朗さんも同様な印象を持ったようです。
「主要メカニズムに大きな変化なはないが、乗ると大きな変化が生じていることに気付くのは面白い点だ。具体的には、より静かに、より直進性が高まり、より乗り心地がよくなっている。まずは静粛性だが、これはもう誰が乗っても気付くレベル。とくに先代オーナーが乗ったら軽く嫉妬を覚えるのではないだろうか。遮音材と吸音材の材質や配置、量を見直したのが効いている。」
と新型N-BOXの走りの出来栄えを高く評価していました。
【開発秘話】新型N-BOX開発者インタビューで聞き出した舞台裏アレコレ
今回の新型N-BOXは自動車メディア向けの事前説明会、サーキットでの試乗会、公道での試乗会と、広報活動がいつもにも増して念入りに行われ、ベストセラーを死守したいホンダの意気込みが伝わってきました。カルモマガジンで開発者インタビューを担当している島崎七生人さんも、それらの取材の際に十分すぎるほど関係者から開発舞台裏の興味深い話を聞き出しました。
最初は飛び道具を考えたが……
新型N-BOXのコンセプトとデザインについて話を聞いた「開発者インタビュー『飛び道具はいらない〜コンセプト&デザイン編』」では、島崎さんの「もっと変えてしまえ!といったお気持ちはなかったのですか?」という問いに対してチーフエンジニアの諫山博之さんが以下のように答えています。
「正直、最初は何か飛び道具、たとえば以前のステップワゴンのワクワクゲートのような、お客様が使う上で何かできないの?と考えようかという話もありましたが、N-BOXにそういうのを求められている感じは正直なくて。」
前任者と同じことをやりたがらないホンダにして、3代続けてN-BOXをキープコンセプトとせざるを得なかった(?)背景がよくわかります。
“お洒落ラクラクフォン”みたいな感じで、メッチャ見やすい
新型N-BOXのインテリアは液晶メーターが低い場所に配置されダッシュボードがフラットになりました。その点について島崎さんがデザイナーの藤原名美さんに詳しく聞いています。
「TFTの中の表示はスッキリさせました。自車表示も大きくユーザーの方によりわかりやすくしてあります。“お洒落ラクラクフォン”みたいな感じで、メッチャ見やすい、みたいな。」
新型N-BOX の液晶メーターは必要最小限の情報に絞り込んだ基本の「シンプル表示」を、必要な情報を選択して表示できる「インフォメーション表示」にステアリングスイッチで簡単に切り替えできます。シンプル表示のことを「お洒落ラクラクフォン」とは言い得て妙です。
iPhoneのように王道はキチンと仕上げておきたい
今回はエンジンやプラットフォームは2代目からの流用ですが、随所に改良が入っています。それらをまとめ上げたパワーユニット開発責任者の秋山佳寛さんからは、新型N-BOXを「iPhone」のようにキチンと仕上げたかったという話が聞けました。
「たとえばiPhoneはベースがしっかりしているからこそ皆さんからの信頼を得られていて、日本では半数以上のシェアをとっている。もちろん年次でアップもしている。基本のプラットフォーム、使い勝手で大丈夫だよねと信頼を勝ち取っている。N-BOXもこれだけお客様に受け入れられて、日本の軽自動車が4割という中でトップであるからには王道はキチンと仕上げておきたいという思いはあります。」
派手なトピックのない新型N-BOXですが、試乗記の高い評価でもわかる通り、開発者の思い通りの車に仕上がっているのではないでしょうか。
【発売時期、価格、納期】実質数万円程度の価格アップ、納期が異例に短いのは嬉しい
新型N-BOXは2023年8月3日に発表され、10月6日から発売されました。最も安いモデルは標準車の1,648,900円、最も高いのがカスタムターボコーディネートスタイルのツートン&4WDの2,362,800円です。
下位グレードが廃止され最低価格は上昇したが
旧型で設定されていた下位グレードが廃止されたため最低価格が大幅に上がっていますが、同じような装備内容だった旧型のLと比較すると、大雑把に3~5万円ほどの値上げとなります。その進化内容を考えると妥当な価格設定だと感じます。
標準車:1,648,900円〜
標準車 ファッションスタイル:1,747,900円〜
カスタム:1,849,000円〜
カスタム コーディネートスタイル:2,059,000円〜
カスタムターボ:2,049,000円〜
カスタムターボ コーディネートスタイル:2,169,000円〜
(いずれも2WD車)
納期は2ヵ月前後と驚異的に早い
なお新型N-BOXの納期については2023年11月初旬現在で2カ月前後(一部タイプ・カラーは1カ月程度)と公式ホームページで案内されています。昨今の納車期間長期化の流れの中で、驚異的に早い納車見込みです。ベストセラーの信頼を守りたいホンダの意気込みが良い方向に作用しているようです。