デビューから7年、フルモデルチェンジではなく2回目のビッグマイナーチェンジを受けたレクサスISに岡崎五朗さんが試乗しました。新設された下山テストコースで磨き込んだ最初のモデルであるISに、目指す走りの方向性を変えた新しいレクサスの姿が見えたようです。
ボディパネルはほぼ100%刷新
え、マイナーチェンジなの? でもぜんぜん違うクルマに見えるんだけど? 今回紹介するレクサスISはボディパネルのほぼ100%を刷新し、そうとうカッコよくなった。写真ではわかりにくいかもしれないが、実車を見れば精悍さを増した顔つきやグンと踏ん張ったリアフェンダー、洗練度を増した面の張りなどが、まるで別モノになったかのような効果を生みだしていることに気付くだろう。
これだけ変われば普通はフルモデルチェンジである。実際、デビューからもう7年も経っているわけで、タイミング的にもフルモデルチェンの時期だ。にもかかわらずレクサスが「マイナーチェンジです」と主張するのにはある理由がある。
インテリアは化粧直し程度
ボディの基本骨格であるプラットフォームやエンジンに変更がないから? いやいや、基本骨格は2〜3世代にわたって使うのが普通だし、エンジンの更新サイクルはもっと長い。ならば何が理由かといえばインテリアだ。樹脂部品の質感を引き上げたりスピーカーの数を増やしたりナビ画面のサイズを大きくしたりしているものの、ダッシュボード本体をはじめとする大物パーツに変更はない。つまり、インテリアに関しては「化粧直し」程度にとどまっているのだ。これをフルモデルチェンジとアピールしたら間違いなく手抜きといわれただろう。
レクサスは目指す走りの方向性を変えた
実際、ドアを開け車内に乗り込むと、ああやっぱりマイナーチェンジだなと感じる。しかし、である。話しが二転三転して申し訳ないのだが、走り出すとその進化ぶりに驚かされた。まさにフルモデルチェンジ級のたいへん化だ。まず、乗り心地が大幅によくなった。といっても足回りを緩めてフワフワの乗り心地にしたわけじゃない。後述するがスポーティーに走らせたときの実力も大幅に高まっている。
これはほぼ同時にマイナーチェンジしたフラッグシップのLSにも共通して言えることだが、レクサスは目指す走りの方向性を変えた。一時はスポーティーさを強く指向していたが、自分たちの原点は初代LS(日本名初代セルシオ)が打ち立てた「当時世界最高の静粛性と乗り心地」にあると考え、そこを基本中の基本の価値観に設定。その上で、レクサスらしいスポーティーさを付け加えていくという考え方だ。
ありとあらゆる細かい改良の積み重ね
とはいえ、口で言うのは簡単だが実際にやるとなると非常に難しいテーマである。そこで開発陣がまず取りかかったのがボディだった。スポット溶接の数を増やすとともに構造用接着剤を多用することで剛性を向上。サイドフレームの構造変更や補強材の追加を実施してさらなる剛性アップを図りつつ、サスペンションアームは軽くて剛性の高い鍛造製に変更した。タイヤ&ホイールの固定を従来のハブナットタイプからハブボルトタイプへと変更したのも、高剛性化と軽量化による走行性能の向上を狙ってのものだ。その他、バネ、ダンパー、バンプストップラバーの特性変更など、ありとあらゆる細かい改良の積み重ねを施している。
正直驚いた、これは正真正銘のスポーツセダンだ
その結果が、上述した「優れた乗り心地」と「ハンドリング性能向上」の高レベルでの両立だ。主に試乗したのはハイブリッドを搭載するIS300hだったが、動力性能はとても頼もしかったし、なによりワインディングロードでの身のこなしが最高だった。
遊びがほとんどないステアリングを切り込むと、遅れなくノーズがスッと向きを変え、と同時にリアがグンと踏ん張り安定してコーナーを回っていく。この一連の様子はもう正真正銘のスポーツセダンである。S字切り返し時の鮮やかな身のこなしや、路面がうねったコーナーでのボディコントロールも見事だ。クルマが思い通りに動き、かつ予想外の動きをしないため、ペースを上げて走ってもまったく不安感がない。正直驚いた。そしてフットワークの実力は、このクラスのベンチマークであるBMW3シリーズを上回ったなと感じた。
たとえフルモデルチェンジでなくても、またプラットフォームを刷新しなくても、細かい技術の積み重ねと徹底的な走り込み(ISは下山テストコースで本格的に作り込んだ初のモデル)によってクルマはいくらでもよくなるということをISは教えてくれた。まさに開発陣の魂がこもったモデルである。
※記事の内容は2021年1月時点の情報で制作しています。