その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第11回はN360をモチーフとしたレトロモダンな外観で人気となったホンダN-ONE、その2代目モデルのデザインがまったく変わっていない件を中心に、チーフエンジニア(LPL)の宮本 渉さん(写真)とデザイナー(PL)の江田 敏行さんに話を伺いました。
大きく変えないどころか全然変わっていない?
島崎:宮本さんにはN-BOXに続き、2度目のインタビューをさせていただきます。よろしくお願いします。
宮本LPL:こちらこそ、よろしくお願いします。
島崎:N-BOXの時は、新型でルーフの繋ぎ目を隠すモールがなくなったことに気付かずたいへん失礼いたしました。
宮本LPL:あはは、ルーフブレーズ(注:金属ロウを用い合わせ目を目立たなくする工法)ですね。まあ長身の方でないとなかなか覗き込めませんからね。
島崎:今回もあのように、何かコチラが気付いていないことがありましたらご指摘ください。
宮本LPL:わかりました。
島崎:早速ですが、今度のN-ONEは“デザインを大きく変えない”というお話ですが、変えないどころか、全然変わっていないように見えるのですが、そのココロはどこにあったのでしょう?
このカタチが好きという声が本当に多い
宮本LPL:考え方でいうと、お客様に聞くと“N-ONEイコールこのカタチ”だというんですね。このカタチが好きという声が本当に多い。丸い目であったり、アイコニックな表情のフロントまわり、横から見た台形シルエット、フロントピラーやテールゲートの傾き、後ろから見た低重心感など、すべてN-ONEだと言われる所以のカタチであると。しかもそれが物凄く愛着を持って受け入れられているんです。
島崎:ほほう。
宮本LPL:それに対してフルモデルチェンジで“変えなきゃいけないから変える”とやれば、ある意味で違った感も出せたかもしれませんが、大きな変化にならなかったり、何かイジくったね…といったカタチになってしまう可能性もある。なのでお客さまの声とN-ONEらしさをしっかり守るということで、変えるところは変える、変えないところは変えないとメリハリをつけたのが今回の開発でした。
島崎:なるほど。
宮本LPL:もちろん見えないところでエンジン、プラットフォームは進化させましたし、安心・安全機能のHonda SENSINGは全車標準装備(=CVT車)にする。それがタイムレスデザインという訳です。
島崎:外見はほぼ変わっていないですよね?
宮本:アウターパネルの基本の造形、グラフィックは変えてないです。バンパー以外の、ボンネット、フェンダー、ドアを含めたサイドパネル、ルーフなど変えていないですね。
島崎:N-BOXの時に続いてまたルーフの話ですが(笑)、従来モデルは確か車高違いでルーフが2種類ありましたよね?
宮本LPL:はい。今回はそれをロールーフに統一しました。立体駐車場対応とスポーティさの表現を考えました。
乗員の寛ぎ感を第一に考えてインテリアは一新
島崎:一方でインテリアはガラッと変わりましたね。
宮本LPL:シフトを含めたインパネまわり、シート形状や、ドアライニングも全体バランスの中で変えました。
島崎:あの、個人的にはインパネなど内装は変えなくてもよかったのでは?とも思いましたが…。
宮本LPL:ドライバーを含めた乗員の寛ぎ感を第一に考えて、MM思想もより進化させようとした時に、ゆったりとした空間を提供するミニマルインテリアとしました。
江田PL:よりシンプルに大事な機能を残して表現していくと、ドライバーは楽しく、助手席の人は寛ぎ、全体には安心した空間になっている。それによって走って楽しく道具として使っても楽しい、新しい価値観を考えて今回インテリアは一新しました。
島崎:先代はそうではなかった?
江田PL:先代はN360譲りのシルエットを生かして、モチーフも近いものでした。今回はモチーフよりパッケージ的に本質追求しました。実は開発時に茂木のホンダコレクションからN360を持ってきて皆んなで「あんなに小さいのに意外と広々しているね」と改めて感銘を受けた。そこで今のN-ONEでももっとやれることがあるのでは?と、空間をしっかりと追求することにし、今回はインパネの足元側を削るなどして空間を広げました。ただし生活の中で載せたい物、置きたい物は変わらないので、それらのスペースは従来のN-ONEと同様にしっかりと確保してあります。
宮本LPL:助手席側の棚をとって見た目スッキリさせただけでなく、足が当たらないような空間をとった。でも今回はセンターコンソールを収納に活用するなどして容量的には減らしていません。
セパレートシートは運転する楽しさを表現するため
江田PL:プラットフォームを一新して、走りもよくなり安全性も高まり、生まれ変われることがわかりました。そこでインテリアではシートをセパレートにして、運転する楽しさを表現しました。
宮本LPL:ベンチシートは使い勝手の万能性がありますが、走りというクルマの本質でいえばセパレートシートにして人の形により沿った形にしたいと考えたんです。
島崎:その昔、栃木のテストコースでデビュー前のS-MXに初めて乗せていただいた時、ハンドリング路でベンチシートが、サテン調の表皮もあって、ツルツル横に滑ったのを思い出しました。
宮本LPL/江田PL:あははは。
島崎:シート構造は新規ですか?
宮本LPL:フレームはこれまでといっしょですがパッドは専用に作り変えて、腿やオシリやサイドの部分の硬度はチューニングしました。
ここだけの話ですが「プリンちゃん」と名付けています
島崎:前席左右間の少し後ろにポケットがありますが、これは何ですか?しかも触ったら異様に頑強に付いていますが…。
宮本:それは後席からも使えるようにした小物収納です。実はベースには従来型のベンチシートのフレームを使っていて、この部分は万一の衝突の際に横からの荷重を受け止める強度部材だったんです。それを活用しました。
江田PL:ちなみに中の仕切りは外せて、そこがカップホルダーにもなります。
島崎:見つけて撮影もしてあります。その外した仕切りの裏側に“N”のロゴとクルマの形がありました。
江田PL:ほかにも内外にちりばめてあります。
島崎:タコメーターのスケールのところに小さなN-ONEが“居る”のは見つけました。
江田PL:お客様が見つけて、うれしくなっていただけたらいいなと。開発者がみんなこのクルマに愛着があるものですから「そういうの付けたいねえ」と自然に湧いたアイデアでした。
島崎:僕も家で飼っている柴犬のリードとか餌入れの端っこに、100円ショップで見つけた小さな柴犬の顔のシールを貼ったりしていますから、お気持ちはよくわかります。そういえば、宮本さんもご自宅でN-ONEをお使いになっていて、ニックネームを付けられているとか?
宮本LPL:ここだけの話ですけど、従来型のアイボリーと茶色いルーフの仕様に乗っています。カタログで見て奥さんも気に入って、ディーラーへ「このままください」と行きました。で、まさにカラメルの乗っかった美味しそうなプリンに見えたので我が家では“ウチのプリンちゃん”と呼んでいます。
島崎:承知しました。編集部に小見出しにしておいてくださいと頼んでおきます。
宮本LPL:ま、ここだけの話ですけど(笑)。
1分の1モデルまで作った別デザインが存在した
島崎:ところで今回のモデルチェンジは、ハードウェアは一新という理解でよろしいのでしょうか?
宮本LPL:エンジン、サスペンションなど基本になるコンポーネントは、第1世代のNシリーズに対して刷新して、第2世代に入れ替えました。
島崎:形が変わらないのに本当に刷新なの?と思う人もいるかも知れませんが?
江田PL:実はデザイン開発も別のアプローチで1分の1モデルまで作りました。でも言葉にしづらいN-ONEらしさが足りないな、と。指名買いされているクルマでもあり、デザインが高く評価されている。だったらお客さまの気持ちに寄り添おうと。
島崎:個人的な意見ですが、リヤビューについて、パースで見てあと少し上と後ろが絞られたら、ヒョロッとした後ろ姿が、よりキュッと小気味よく見えそうだなぁと、軽自動車の規格があるのを承知で前々から思っていたのですが…。
江田PL:わかりますが、そのへんが微妙で、仮にルーフを絞って比率が変わると、今度は尖って見えて、安定感を求めたつもりが逆に不安定に見える。やってみないとかわらないので難しいですが、その意味でも今のN-ONEはひとつのベストバランスではあるかな、と。
島崎:ベストバランス。そう仰るのならこれ以上は言いません。
宮本LPL:安全性も高まっていますし、クルマとして安定して見えて、お客様が安心して選べるようにしたい。テールランプをきっちりと大きく光らせて、リフレクターも中から下に移して土台が安定してみえるようにしたりとか。安心して乗れる、しっかり走りそうに見える、そういったところを表現しています。
グレードごとの世界観に沿った味付けの違い
島崎:試乗した印象で、ピッチングの少ないフラットな乗り心地のRSが僕は気に入りました。その仕様を“全適”ではいけませんか?
宮本LPL:オリジナルに対して、グレードごとの世界観があって、RSはMT車を含めて“RSのバッジ”を付ける意味を考えています。サスペンションの減衰、スタビライザーの違いでヨーレートを調整したりとか、タイヤも専用の15インチにしたりとか。味付けの違いは出しています。
島崎:RSは街乗りでも非常に気持ちのいいクルマですね。ステアリングの操舵感も気に入りました。
宮本LPL:今回ステアリングは、舵角に対するアシスト量も制御を見直して、タイヤがどこにいるかによるアシストをより的確に行うようにしました。しっとりとしたフィーリングに仕上げたつもりです。第2世代のプラットフォームではバネの動きもよくして、だいぶ進化していると思います。
島崎:エンジンもそうですか?
宮本LPL:NAエンジンはロングストローク化して低回転でのトルクが出るようにしました。
ボディを変えなくてもお値段が安くなるわけでは……
島崎:ところで今回のような変えないモデルチェンジでは、コストが抑えられて、車両価格もお安くしていただけたりと、そういうことはないのですか?
宮本LPL:キャリーオーバーとしては確かにそうで、ある部分で投資が抑えられているのは事実です。ただホワイトボディで、外板で占めるクルマ1台分の原価の割合は、実はそれほどでもなくて。それでお値段が半分とか3分の1にできるということではなくて……。
広報部:あの〜、そろそろお時間になりましたので……。
島崎:わかりました。いろいろお話をお聞かせいただきありがとうございました。
(写真:島崎七生人)
※記事の内容は2020年12月時点の情報で制作しています。