ヴィッツの後継として2月にデビューしたトヨタヤリス。直後から販売台数ランキング首位争いの常連となるほどのヒットモデルになりました。そのヤリスにクロスオーバーモデルの「ヤリスクロス」が追加されます。一足先にプロトタイプに試乗した岡崎さんのレポートをお届けしましょう。
もはやトヨタは信頼性や安心感だけで選ぶブランドではなくなった
ハリアーの大ヒットに続き、またもやヒットの予感がムンムン漂うモデルがトヨタから登場した。ヤリスと多くのメカニズムを共有しつつ、スタイリッシュなSUVルックに身を纏ったヤリスクロスだ。ヴィッツからヤリスへと改名したのを機に、新型ヤリスが走行性能面で大きな進化を果たしたのはご存じの通り。その進化幅は同じトヨタのコンパクトカーとは思えないほどで、乗り心地、直進安定性、コーナリング時の安心感、ドライビングの楽しさなど、すべての部分で別モノになった。
10年前に就任した豊田章男社長がことあるごとに言い続けてきた「もっといいクルマをつくろう」という掛け声の成果だ。カローラといいRAV4/ハリアーといい、最近のトヨタ車の実力は本当に高い。もはやトヨタは信頼性や安心感だけで選ばれるブランドではなく、中身の実力で選ぶべき対象になった、というのが僕の見立てである。
タイヤのひと転がり目で「おっ!」と思わせる
となれば当然、ヤリスクロスの仕上がりぶりにも期待できるわけだが、やはりと言うべきか、ヤリスクロスは期待通りの実力に仕上がっていた。まず、走りだしの感触がいい。タイヤがひと転がりすると同時に足が路面のわずかな凹凸に合わせてスムースに動く。これはヤリスでも感じたもので、乗り味の質感がグンと増す。突っ張った感触だったヴィッツとはまるで違う。足がきれいに動いたところで燃費や耐久性には関係がないため、従来のトヨタの開発はそこでストップしていた。壊れずにちゃんと走ればそれでいいと。その壁を破ったのが、上述した「もっといいクルマをつくろう」という社長の掛け声だ。
気持ちのいい走りとはどんなものなんだろうとか、ドライバーが感じる楽しさ、安心感とは?という項目が開発の重要項目に入ってきた結果、タイヤのひと転がり目から「おっ!」と思わせるクルマになったのである。そしてこの「おっ!」は高速直進安定性や速いペースでのコーナリング時にも感じることができる。
キビキビしたヤリス、1クラス上の落ち着き感のあるヤリスクロス
となると気になるのはヤリスとの違いだ。軽快感は重心が低く110㎏軽いヤリスに軍配があがる。キビキビした走り味が好きな人にはヤリスがオススメだ。とはいえヤリスクロスが鈍重かといえば決してそんなことはない。ドッシリした重量感は1クラス上の落ち着き感すら伝えてくる。どちらがいいとか悪いではなく好みで選ぶのが正解だ。つまり、ヤリスかヤリスクロスかで迷ったら迷わず両方に試乗するのが解決の早道だということ。きっと答えはすぐに見つかる。
ヤリスより良好な後席の開放感と使い勝手
とはいえ、走り味の違い以上に違うのがユーティリティだ。ホイールベースは共通なので室内長に差はないが、余裕の全高を活かし後席をヤリス比で20㎜高い位置にセット。その結果後席の開放感は明らかにヤリスクロスがリードする。「積む」能力も同様。後席を活かしたままゴルフバッグ2セットor大型スーツケース2個or A型ベビーカーを楽に積み込んでみせる。高さ調節のできる60:40分割式デッキボードや、後席シートバックの40:20:40分割機能を活用すれば、あらゆる利用シーンでの正解が見つかるに違いない。
ハイブリッドでなくても元気に走る
パワートレーンは1.5Lの自然吸気とハイブリッド。30km/L付近を叩きだすであろうハイブリッドの驚くべき燃費とモーターアシストによる余裕の動力性能も魅力だが、自然吸気もなかなか元気に走る。なにより200万円を切る価格が魅力的だ。
いくつかの改善点はあるもののライズよりもおすすめ
エッジの効いたデザインを含め、ほぼ死角のない仕上がりぶりを見せるヤリスクロス。ときおり顔を覗かせるアクセルオン/オフ時のパワートレーンの揺れや、CVT特有のエンジン回転数と車速が乖離する違和感、電動パワーシートスイッチの洗練さに欠ける操作感、ボディカラーが剥き出しの(ブラック塗装していない)ホイールハウス内側の仕上げなど、進化、改善を期待したい部分もいくつかあるが、トータルとしてかなり魅力的な商品に仕上がっている。
ガレージの都合上5ナンバーサイズじゃなければダメといった特別な理由があれば別だが、僕なら20万円程度予算を上積みしてライズではなくヤリスクロスを選ぶ。
※記事の内容は2020年9月時点の情報で制作しています。