その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第4回はデビュー以来、軽自動車の販売台数首位に君臨し続ける2代目ホンダN-BOXです。ニューモデルではないものの、改めてホンダN-BOXの成功の理由について開発責任者(LPL) 宮本 渉さんに話を伺いました。
初代から続く販売台数5年連続ナンバー1
登録車を含めて3年連続、軽自動車では5年連続で新車販売台数首位の記録には、改めて驚かされる。2016年3月以降、軽の月販台数で首位を譲ったのは2度だけで、近年これほどの例はほかにない。そこで今回は、今、絶大な人気を誇るホンダN-BOXの開発者にお話を伺うことにした。
基本の考え方は初代も2代目も同じ
島崎:「いいクルマ」だからこそ売れ続けているのだと思いますが、開発者のお立場から、ズバリ、N-BOXのどこが、何が、いいクルマだとお考えでしょうか?
宮本LPL:初代N-BOXの時の基本の考え方(MM思想)に基づくクルマ作りを多くのお客様に理解頂き、実感頂き、そして満足して頂いた結果が、一種のブランドというか安心につながっているのだと考えています。
私は初代N-BOXの開発にも携わっていましたが、「MM思想による広々とした室内」の実現と「センタータンクレイアウトの低床フロア」の実現、そして普段使いも出来る車椅子仕様車の「スロープフロアーのN-BOX+」と多くの課題がありましたが目指す所は明確で、それが市場の共感を得られたのだと思います。
基本の考え方を現行型でも踏襲し、さらに新たに安心デバイスである「Honda SENSING」の搭載と、パワートレインの刷新で走りに磨きをかけた。その結果、しっかりとしたブランド力と機能・商品性やデザイン/感性軸を含めた総合力が高く評価されたのかな、と。「軽らしからぬ軽で新しい日本のスタンダード」を創るという志で開発をしてきました。
安全性能の高さ、走りの良さが評価されている
島崎:現行N-BOXで、ユーザーからの評価が高いポイントは、具体的にどんなところでしょうか?
宮本LPL:一番はやはりHonda SENSING搭載による最高レベルの安全性能です。N-BOXは一番お求めやすいグレードにもHonda SENSINGを標準装備しており、安全性を分け隔てしない姿勢も評価いただいております。また運転席に座った際に感じる空間としての居心地の良さ、質感の高さも好評をいただいております。これはインパネのデザインはもちろんのこと、視界の良さ、座り心地など細部にまでこだわり抜いた結果だと思います。
それと、走行性能の高さです。軽自動車である以上、パワートレインのレギュレーションは決まっている。その中できめ細かいセッティングや足回りへのこだわり、車体含めた総合力で街中から高速まで満足いただける走りを実現し、特にNAでお褒めの言葉を頂いております。
本当は屋根にも注目して欲しい
島崎:反対にここはあまり評価されなかった、反響が少なかった、といったことはありますか?
宮本LPL:作り手の立場でいうと、ルーフ溶接にゴムモールのない「ルーフブレーズ」という最新のレーザー溶接を用いた点はとても苦労をした点なのですが、あまり気付いてもらえていないと感じております。背が高いN-BOXなので目に留まりにくいところですが、外観品質の高さに寄与しているのは間違いないです。
島崎:デビュー時に横浜で行われた試乗会の印象で「乗り味がなめらかだ」と感じましたが、そういったドライバビリティに関して、実際のユーザーからの声はありましたか?
宮本LPL:はい。N-BOXを購入されるお客様には実は普通車からのダウンサイザーで目の肥えたお客様も多く、ドライバビリティへのこだわりもお持ちです。そうした方にインタビューすると「日常的に運転しているけど走りの良さがいいよね」とお答えいただいています。
日本の暮らしになじませた外観スタイル
島崎:あくまで個人的な印象ですが、外観スタイルについて、初代のほうが他車との姿形の違い(たたずまい)が明確で、クッキリとコンセプチュアルだったと思います。現行型はディテールも含め、ライバル車(具体的にはダイハツタント)に“寄せた”のでは?とも感じました。より広くユーザーの嗜好になじませるというような、そういう狙いはあったのでしょうか?
宮本LPL:繰り返しになりますが、初代N-BOXはMM思想によるロングホイールベースと“BOX“である箱型感をベースとした基本骨格に、ニユートラルな顔立ちのノーマルグレードと、強い個性と存在感のあるカスタムで外観スタイルを構成しておりました。基本の骨格は変化ありませんが、ディテールは現在の日本の暮らしになじませるということを考えで進化させています。実際に、開発チームで金沢や京都の街や田園風景でのたたずまいの良さは何度も確認を行いました。
島崎:N-BOXご担当のお立場から、今、気になるライバル車(車種、具体的な項目など何でも)はおありでしょうか?
宮本LPL:軽自動車という同じレギュレーションの中で競い合っているので、当然、競合車のスーパーハイトワゴンは気になります。各社とも個性的なデザインや各種機能が用意されており、これらの市場受容性は気になるところ。それと1ℓのハイトワゴンも目が離せません。我々の軽の枠を超えてどれだけ勝負できるか、と注視しながら、これからもお客様の期待を超える商品をお届けすべく開発をすすめてまいります。
品質へのこだわりがロングヒットの理由か。次の一手が楽しみ
ルーフ両サイドの溶接部に樹脂モール不要で見栄えのいい“レーザーブレーズ”を採用するも、ユーザーにはあまり気付いてもらえない? なるほど、それくらい品質にこだわって作られたN-BOXだからこそ、長いこと高人気をキープしているのだろう。
とはいえデビューが2017年8月だったから、ほどなく3年が経つ。そろそろ何か動きがあっても……とも話を向けてみたが、直近で何か……といった感触ではなさそうで、だとすると手堅く打ってくるであろう次の一手が何なのか、今から楽しみである。
※記事の内容は2020年6月時点の情報で制作しています。