その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第92回は2026年1月16日に発売となるスズキ初のBEV(バッテリーEV)の「eビターラ」(399万3000円〜492万8000円)*です。SUVらしいボリューム感とEVらしい先進的な内外装を両立させたeビターラのデザインについて、スズキ株式会社 商品企画本部 四輪デザイン部 デザインビジョン課 主幹の結城 康和(ゆうき・やすかず)さんに話を伺いました。
*令和6年度補正予算「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」の対象で、補助交付金額は全機種87万円
スズキのクルマの分岐点のひとつになる
(写真:編集部)
島﨑:結城さんのご担当を伺ってもよろしいでしょうか。
結城さん:eビターラでは先行デザイン、パッケージングを決める段階からチームに関わり、量産に移行してからはエクステリアを担当しました。
島﨑:国内のスズキ車のラインアップでいうと、このeビターラのデザインは突然変異に思えるのですが……。
結城さん:そうですか。皆さん感想がいろいろで、スズキっぽいねと言われる方もおられるし、スズキっぽくないねと言われる方もおられるんです。
写真:編集部
島﨑:去年出たフロンクスも商品性としてステキなデザインでしたが、このeビターラはポン!とフェーズが違って、新しさがプンプンと感じられる。触れ幅の大きいデザインというか。個人的には1993年に初代ワゴンRが登場した時のインパクトを感じています。発露というか、どういうところから生まれたデザインなのですか?
結城さん:どう説明すればいいか……。言えるのはこのeビターラが、スズキのクルマの分岐点のひとつにはなるなと思っているんです。初のEVでもあり、やはり今までのスズキとは違う何かをやらないと次の階段を昇れないなという思いはありました。
島﨑:なるほど。
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初代スイフトとeビターラは難産だった
結城さん:ここはガン!と行くべきだ、という。実は2004年のスイフトを僕はやったのですが……。
島﨑:そうでしたか。全国の駐在所によく配備されていたKeiの拡幅版だったあのスイフトはなく、今のスイフトに繋がる最初のモデルですね。
結城さん:ええ。世界戦略車で入れた、広報的には初代と言っているクルマです。あの時も同じように、スズキっぽいねという人とスズキっぽくないねと言う人がおられました。でも脱皮する瞬間をちゃんと作りたいという思いがありました。

スズキデザインを新たな地平へと進めた初代スイフト
島﨑:ああ、やはり。初代スイフトはクッキリとしてカタマリ感のある、とてもチャーミングなコンパクトカーでしたよね。本当はこの録音を止めてお話したいのですけど、2代目、3代目はだんだんとクッキリしたところがだんだんと薄味になってきて……。
結城さん:初代はもう20年前ですけど、あのクルマも凄い難産でした。
島﨑:あのクルマ“も”と仰るということは、eビターラも?
結城さん:今回もけっこう難産だったのですけど……でも初代スイフトのほうが難産だったかな。何しろあの時は、スズキで何でこういうクルマを作らなければいけないのかというところから話が始まっていましたから。
島﨑:そうだったんですね。
スズキのクルマに好きなものはなかった
写真:編集部
結城さん:僕が入社したのは93年なんですけど、入社試験でスズキのクルマでどれが好きか?と訊かれて「あ、好きなのありません」と答えたんです。で、「こんなクルマを作りたいんです」とアピールして、これは落ちたなと思ったんですが、採用になって、何年かしたら、面接のことを覚えていてくれた部長がいて「お前、面接の時に、ヨーロッパで通用するBセグのハッチバックを作りたい」って言ってたよな? だったら、やれ! となって。
島﨑:いい流れでしたね。
結城さん:そこから始めたのが97年くらいで、出たのが2004年だったので、7年くらいかかっているんですけど。
島﨑:初代スイフトは、欧州コンパクトカーと並べてもヒケをとらない……そんな記事をいろいろなところで書いた覚えがあります。

ブランドイメージを一新させたプジョー205はピニンファリーナとプジョーの共同開発による名作(写真:ステランティス)
結城さん:あの頃のリッターカーというとスターレットとかマーチとか……だったじゃないですか。でもトヨタさんから初代ヴィッツが出て、流れが変わるころだった。あの頃ちょうど僕はプジョー205 GTIに自分で乗っていて……その前は86に乗っていて横を向いて走らないと気が済まなかったんですけど(笑)、205は剛性が高かったし、立ち居振る舞いがすごくよかった。そういうのをやりたいなぁ、と。
島﨑:立ち居振る舞いのよさ、わかります。
結城さん:初代スイフトの時に、スズキのデザインの変化点になるだろうなあと思ってやっていました。今回のeビターラでもそういう意図がありまして。
島﨑:それはスズキとしての方針だったんですか?
結城さん:いえ、身内で酒を飲みながら、これ行けるんじゃね?みたいな(笑)。
“新しい”と“古い”をいろいろ混ぜている
島﨑:初代スイフトにしてもeビターラにしても、新しいデザインですがスッとしていてむしろさり気なく、決してほーら凄いだろ、斬新だろといった、こちらに伝わってくる“圧”とか、やり過ぎ感はない。
結城さん:eビターラはシルエットが古典的なSUVの文法なんですよ。Aピラーがフロントタイヤを掴みに行く、リアタイヤとCピラーの収まりも数字の“6”を書いて収まっているとか。いわゆる何十年も前からある基本的な文法の中で実は教科書どおりにやっている。シュッシュッと線を引いてタイヤの位置は関係ないや……というのではなくて。
島﨑:ああ、そういうことですね。わかります。
結城さん:ただし今のEVのパッケージングで置いた時に、普通のクルマにならないように、Aピラーにしても曲線で巻いてフロントタイヤを掴みに行くようにし、フロントガラスも“球”のように丸い。フェラーリ・ローマとかもそうなんですが、カプセルキャビンっぽくしているけれども文法は実は古典的で、“新しい”と“古い”をいろいろ混ぜている。テーマで“ハイテック&アドベンチャー”と言っているのは、新しさと、アドベンチャーには、古典的、普遍的な部分もあり、単に新しいだけじゃない安心感も込めているんです。
島﨑:僕はeビターラのデザインは見た時から“地に足のついたところ”に着目していたんですが、自分がどう気になっているかの解説を今聞かせていただいて、腹落ちしました。

写真:編集部
結城さん:小さいクルマは室内空間も欲しいので、Aピラーはいたずらに寝かせたくない。運転席でペットボトルを飲み干そうとするとペットボトルの底がサンバイザーに当たって首を傾けなければいけないような。どのクルマかは言いませんけど……。
島﨑:あ、心当たりあります。
結城さん:スタイリング優先で乗ってる人が我慢をしろというのは嫌なので。スイフトもAピラーの付け根は自分のほうに引いているのですが、ピラーそのものは立っているほうで。実はeビターラと歴代のスイフトとはフロントガラスの角度がほとんど同じ。だから空間がちゃんとあり見晴らしもよく、そこでスズキっぽいところは押さえよう、と。
島﨑:運転席に自然体で座っていられて、収まり感、居心地がいいのはそこですね。
結城さん:EVだからもっとワンシェイプにして、シュッシュッとしたデザインにしたほうがいいんじゃない?という声もあったのですが、いや、そうじゃない、と。
島﨑:デザインの“作風”が、決して押しつけがましい新しさではないのは、そういう秘訣があるからなんですね。
結城さん:隠し味で骨格を古典的にしているんです。
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フロントはC-HRではなくネクサの文法
写真:編集部
島﨑:なるほどね、だから心地いい形なんですね。ところでそもそもこのeビターラのデザインの元は、どちらで生まれたのですか?
結城さん:画(え)を描いたのは、スズキの中で今はトリノのスタジオでボスをやっている佐藤で……。
島﨑:佐藤さんはスズキのサイトの中にある動画で、デザインのお話をされていますね。
結城さん:ええ、その佐藤と当時エクステリアを一緒にやっておりまして、このクルマはお店でいえば、敷地をどうするかというところからやっており、いい敷地を確保した上でタイヤの位置や大きさを決め、そこから室内ラゲッジスペースがこうで、ガラスの位置がこうで……としっかりと決められた。いい敷地が確保できれば店は繁盛するように、そこがまず効いたのかなと。いろいろな線を使ってはいますが、離れて見るとシンプルにはしたくて、そのへんの加減をやっています。
写真:編集部
島﨑:そのあたり、フロンクスとの作風の違いはよくわかります。インテリアも同様で、eビターラはより新世代のクルマに乗り込んだ感がありますよね。
結城さん:フロンクスはもともとバレーノのクロスオーバーバージョンで、いわゆる派生車種であり、足し算のデザインで、成り立ちも違います。
島﨑:あのぉ、あえて伺うのですが、フロントマスクのデザインは、微妙に世の中の流れとも合致しているようにも感じますが、それは意識してのことだったのですか?

トヨタの初代C-HR(写真:トヨタ)

こちらeビターラ。言われてみるとフロント以外にもリアドアのノブの隠し具合あたり細かい部分は似ている気も
結城さん:実はインドのネクサ・チャネルのクルマの前後に、六角形の真ん中に横棒が入っているという文法があり、eビターラも実は同じなんです。で、まとめていた時に人によっては旧CH-Rに似ているといった声もありましたが、気にし過ぎても仕方ないので「行てまえ!」と。
島﨑:旧CH-Rとは、今、車名が出て、なるほどとは思いましたが、全体のオリジナリティの高さからしても、まったく気になりませんね。
結城さん:ありがとうございます。
EVの先進的なデザインは一般の人には響きにくい
島﨑:一方でインテリアも、今や常識化しつつある1枚のディスプレイをインパネに置きながらも、即物的ではなく、先進感ももちろんあって、風合いが味わえる仕上がりで心地いいと思います。
結城さん:EVの先進的なデザインは、クルマ好きの人には「新しいね」と見えるのですが、一般の人にはそうではないんです。
島﨑:響きにくい?
結城さん:なのでより自分ごとと感じてほしいと思い、たとえばSUVユーザーがEVに乗りかえた時に、自分のアウトドアの趣味を諦めたいか?といえばそんなことはない。趣味や生活はそのままでEVになった時に、自転車を積んだりスキーキャリアでスキーを載せたりして遊びに行くことは、今までのガソリン車と同じようにできますよ、と。泥んこや雪でもガンガン使ってもらいたい。そういうこともあり、あまり小奇麗にはし過ぎず、そういう意味では生活感があるようにはしておきたいな、と考えています。
島﨑:とはいえ、ラギッドでゴツゴツさせたクルマではないではないですよね。
結城さん:そのあたりはちょっとでもやり過ぎるとわざとらしく、反対に抑え過ぎても物足りないしと、難しいところですね。
お爺ちゃんに似ていると言われるロマン
写真:編集部
島﨑:ルーフが結構長いですね。
結城さん:ルーフを長くして、ホイールベースも長く、キャビンも長くして、前後のカップルディスタンスが長いので、このクラスとしては後ろの足元がゆったりしています。ただしダックスフントのように胴長に見えないよう、Cピラーの処理やAピラーを丸めるなどしながら、キャビンは短く見えるけれど実は長いという不思議な比率に仕上げました。
島﨑:このクルマ、パッケージングも秀逸なんですね。
結城さん:昔、親父がオールド・ミニに乗っていて、小さいクルマでも中に座るとドアの張り出しで逃げていて居住空間を確保していたり……。
島﨑:内張りのない、随分クラシックな時代のミニですね。
結城さん:ああいうのは、人間のサイズ感をみてちゃんと作っていて形がこうなるみたいな、パッケージングの勉強になりました。eビターラもそういうところがあるんです。僕がやっていた初代スイフトの断面を切るとカプチーノと似た断面が出てきたり、キャビンも俯瞰で見ると実はカプチーノとほとんど同じ線が出てきたり。完全にブランニューと言いながらも、血脈が繋がっている、多分、そういうのが好きなんですね。

軽のFRオープンとして今も人気が衰えないカプチーノ
島﨑:ものすごく大事なことだと思います。
結城さん:なんとなくお爺ちゃんに似ていると言われてちょっとロマンを感じたり(笑)。
島﨑:いいですねぇ。これからも腕によりをかけて、ロマンを感じさせてくれるクルマを作り続けてください。どうもありがとうございました。
(特記以外の写真:スズキ)
※記事の内容は2025年11月時点の情報で制作しています。
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